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僕らが好きだった空  作者: 水上橋博士
10/15

10.哲の憂鬱

「いい感じ!」

「ケビン君入ったら大分違うな~」


スタジオ後のファミレスにて、ミーティングという名の雑談会。


「どこ出身だっけ?」

「Seattleだよ!」

「シアトルなら、ジミヘンだろ!バンド名ジョーにすれば良かったかな?」

「もちろんBEATLESも大好きだよ!」


「ここんとここっちばっか来てくれてるけど、掛け持ちのバンドは大丈夫か?」

ユキは申し訳なさそうに問いかけた。

「サークルのバンドは口だけプロ目指してるだけだから、こっちの方が楽しいよ!」

「確かにオリジナルはやってなかったな。無理にオフスプのカバーやってたし」

「おふすぷ?」

「ああ、Off Spring!日本じゃ縮めて呼ぶんだ」

「ところで、SURVIVAL IN THE CITY歌ってた女の子はMemberじゃないの?」


「メンバーじゃないよ。あれね~。俺が歌うとイメージ違うから歌いたくなかったんだけど、ケビンのベースで大分変わったな~」

「あんな曲あるなんて知らなかったからな!」

「もともとバンドでやるつもりなかったし。ケビンが気に入っちゃったから」

「えいがの曲!」

「映画?」

「ああ、宗太のサークルの映画だよ!その主題歌として使ってんだ」

「へ~。見てみたいな」

「今度DVD借りとくよ!」


実のない話し合いで、解散となった。

しかし、バンド自体はかなりいい状態まで仕上がっている。

曲数も増えた。後はライブだ。

決意に満ちた春樹の顔は、一年前のこの場所にはなかった。

自然と串丸からは遠ざかっていた。



「うぃ~す!」

「今日も一人か?」

「つき合い悪い連ればっかでさ~」

「そう腐るなよ!哲!」

何も言わずともビールとたこわさが出てくる。

誰とも乾杯せずにジョッキを口に運んだ。


「バンド、バイト、バンドってさ~、金必要なら引きの強さで稼げっての!宗太は宗太で毎日撮影とか言って遊んでるし!マジつまんねえ!」

「あいつらもやっと変わる時が来たんだろ?哲もスロットばっかやってないで、打ち込める物探せよ!」

「俺だって変わったさ!最近スロの台じゃ稼げないから、パチに移行したもん!文字通り打ち込んでるぜ!」

「まあ、らしいっちゃらしいけどな~」

都会の真夜中、千鳥足の影は一つになっていた。



『ただ今電話に出られません。ピーと音がなりましたら、ご用件を・・・』

最後まで聞かずに電話を切った。春樹も宗太も繋がらない。

せっかく勝ったからおごってやろうと思ったのに。 その瞬間、携帯が光った。


「何?」

こんなにムスっと電話に出るのは、親からの電話以外ない。


「何ってことはないでしょう。電話してもメールしても音沙汰ないし」

「忙しいんだよ!」

「今仕事何してるの?フラフラしてるなら帰って来なさい?お父さんも最近調子悪いんだから…」

「あ~、もうちょっとこっちで頑張るわ~」

一方的に電話を切った。

頑張るって、何を頑張るのか…


「お前は知らないだろうけど、大人は大変なんだぞ。保険や年金も払わなきゃならないし、家賃と生活費以外も色々かかるんだぞ?」

大将の言葉は実の父の小言の様だ。


「知ってるよ。だから今に何かデカいことをさ!…大将。何やればいいかな?」

「それを探しにこっち来てんだろ?」

「前から思ってたけどさ、春樹も宗太も具体的にやりたいことあって。俺だけ…。今はこれでいいかな?って思ってて、もうすぐ三年目になるよ」

「哲…」

「大将?ここ泣くとかな?」

「ドラマとかじゃな!」

二人で目を合わせ笑った。


「いいじゃねえか!人それぞれ歩くペースがあるんだから!」

「だよな!泣くにはまだ早い!大将いてくれてよかったよ!」

「ほら、余りもんだけど食え!」

「東京の親父だな!」

「お前ら三人共可愛いドラ息子だ!」


大将は昔結婚はしていたが、既に別れてしまっていた。

子宝にも恵まれなかった為、彼らを本当の息子の様に思っている。


あまり家で一人では飲まない哲だが、全てを忘れるくらい飲みたかった。

どうせ明日の予定もない。

苦手なウィスキーを割らずに一気に飲み干した。

一人泣きながら飲んだことも、何故泣いていたかも、次の日には忘れていた。

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