見つけた『顔』は、
刺した。
刺して、刺して、刺して、刺して、
また、刺した。
その度に水がはじけた。
変な感触が伝わってきた。
誤って、自分の手を切りもした。
それでも刺した。
なのに、何故か鋏が手からすり抜けた。
ぽちゃん。
そんな音が耳に届き、気付けば鋏が浴槽の中に沈んでいく。
無理やり取る気にもなれなかった。
死体か、それとも『私』のか。
浴槽の中は、赤で滲んでいた。
「……っ」
強く水が飛び散った。
思い切り、手で浴槽の水を叩いたからだ。
おかげで、水が散ったが、そのことはどうでもいい。
死体は変わらず死体のまま、顔まで浸かって、死んでいた。
「……ふ」
そこまで考えて、思わず吹き出した。
――死体が死んでいる?
何を考えているのか。
そんなの、当たり前じゃないか。
「……当たり前じゃない」
現に『私』がそうだった。
目の前の死体と同様に、浴槽の中で溺死した。
それでよかったのに。
それで、死ねたらよかったのに。
なのに、『私』はまだ生きていた。
生きて、溺死した死体の側にいる。
――何故?
何故、『私』は生きているのか。
何故、目の前の死体は死んだままなのか。
何故、何故、何故。
『私』は、死ねないのに。
「あ、そうか……」
『私』は、嫉妬していたんだ。
死んだまま、生き返らない死体に。
「なんだ、そうか……そうなんだ……」
脱力して、その場に座り込む。
「そうなんだ……」
生きていたくない。
死んでいたい。
なのに、それすら叶わない。
叶う死体が、羨ましかった。
***
どれだけそうしていたか。
分からないまま、ふと思い立つ。
死んだままでいられる溺死体。
その顔を、今まで知らないままだった。
死んだままの顔は、どんな顔なのか。
――知りたい。
好奇心に突き動かされ、そうして見た死体の顔は、
「……え?」
『私』の顔をしていた。