見つけたものは、
更新しました。
サブタイトル、変えていきます。
楽しんで頂けたら幸いです。
――身に覚えのある物。
それはすぐに見つかった。
「……あった」
手紙や葉書。
筆記用具に、メモ用紙。
固定電話が置かれた棚の引き出しに仕舞われていた。
「見つかった?」
声をかけてきたのは、『私』だった。
「そっちも?」
「思ったより」
「見つかったのか?」
二人同時に振り返ると、『俺』が立っていた。
「そっちも?」
「比較的」
「どんなの見つけたの?」
「服だな」
「他には?」
「包丁だな」
「……他には?」
「マグカップ。三つな」
「……それだけ?」
「それだけだ」
「統一性ないのね……」
「はっきり言うなよ」
思わず零れた『私』の言葉に、『俺』は言い返した。
「なら、そっちはどんなの見つけたんだよ」
「ガムテープ」
「他は?」
「紐。分厚くて太い紐ね」
「他は?」
「他は鋏だけよ」
「……それだけか?」
「それだけよ」
「物騒だな」
「包丁持ってる人に言われたくないわ」
「確かに……」
「同意するなよ、そこは」
ため息を吐く『俺』が、ちらりと『僕』を見た。
「で、そっちは?」
「筆記用具とメモ用紙。あとは手紙と葉書」
「それだけか?」
「それだけだよ」
「……普通だな」
「当たり障りのない物ね」
「はっきり言わないでよ、そこは……」
がっくりと肩を落とした。
「私達が集めた物って、どれもバラバラね」
「そうだな」
「そうだね……」
三者三様であり、統一性はまるでない。
少なくとも、そう見えていた。
「そもそも、なんでそれ選んだんだよ」
「ああ、これ?」
『身に覚え』があって、『当たり障りのない物』達。
なんで、これを選んだか。
答えはもう、決まっている。
「遺書の偽造に使ったんだ」
「は?」
「偽造?」
「そう、偽造だよ」
怪訝な顔をする二人に、『僕』は頷いた。
「あの三体の死体、覚えてる?」
「覚えてるけど」
「『あれ』の心中を偽造するために、遺書を書いたんだ」
「……は?」
「葉書や手紙の文字を見ながら。もちろん、見様見真似だったけど。」
「それで逃げられるとは思えないけど……」
「分かってるよ。今なら」
手元にある葉書や手紙に視線を落とした。
「だけど、分からなかった。それだけだよ」
「……安易だな」
「そうだね」
「けど、俺も人のこと、言えないな」
「え?」
「自首しようとした。耐え切れなくて」
「自首?」
「そう、自首だ」
『俺』は手元にある『統一性のない』物を見た。
「この包丁で、死体の首を抉った。その感触は今でも覚えてる」
「……」
「で、この服は着替えに使った。血だらけで気持ち悪かったから」
今の『俺』の衣服は血に塗れていない。
綺麗な物だった。
死体が消えたせいだろうか。
「あとは、マグカップがあったからな。適当に選んで、水道水を適当に飲んだ。喉渇いてたから」
「なんで、自首を?」
「決まってるだろ。外に出たかったんだ」
「……」
「後のことなんか、どうでもよかった。それだけだ」
「……比較的、二人共まともね」
「え?」
しみじみと呟いたのは『私』だった。
「これのどこが『まとも』だよ」
「私に比べたら、ずっとまともよ」
「は?」
「私、死体を刺したもの」
鋏を上下に揺れ動いた。
「この鋏で、何回も何回も、死体を刺したわ」
「……」
「ああ、あと髪も切り刻んだわ。憂さ晴らしの一環で」
現実逃避の一環でもあった。
今思えばそう思う。
手の中にある『物騒な』物に視線を移した。
「そしたら、この紐で両手両足縛られて、ガムテープで口を塞がれて――」
淡々と言い切った。
「風呂場で溺死した」
感情を落ち着けるためか、深いため息をついた。
「だから、紐やガムテープを持ってきた。それだけよ」
三人共、誰もが黙り込む。――かと思えば、
「……現状をまとめてもいい?」
『僕』だった。
「つまり、僕らは全員、一度『使ったこと』がある物を持ってきた」
「そうね」
「そうだな」
「そして、僕らは何らかの形で死体に細工をしようとした」
直接的にしろ、――間接的にしろ。
「結果、僕らは命を落とした」
――あの三体の死体と似たような、死に方で。
「死んだと言えるかどうかも、微妙だけど」
「それがどうしたんだよ」
「……見つけない?」
「は?」
「何を?」
「なんでこんな状況になったのか」
何故、こんな状況に、三人が放り込まれたのか。
「見つけない?」
「……見つけて、どうするのよ」
「別にどうもしないよ」
「また、暇つぶしか?」
「それもあるけど……」
「けど?」
「見つけないと、目覚めが悪いから」
シンプルな答えだった。
「ずっといないといけないなら、その理由が欲しいし、見つけたい」
脱出を諦める代わりに、それ相応の理由付けが欲しい。
「これ以上の理由なんて、ないと思う」
「あるだろ、普通に」
『俺』は言い返した。
「『いないといけない』理由付けがあるなら、『いないでいい』理由付けが、俺は欲しい」
「ああ、そう言う考えがあるのか……」
「あるだろ、普通に」
「……そっちは?」
「私?」
話を振られたものの、すぐに思いつかない。
「私は……」
それでも、不意に思いつく。
「私は理由付けとかよりも――」
「よりも?」
「『私』が欲しい」
性格が垣間見えた時の、あの喜び。
噛み締める思い。
あれを、もう一度――
「私は、名前が欲しい」
「……」
「自分の名前が、欲しい」
「……」
「そのためなら、この状況を整理するのでも何でもいい」
一気に言い募った。
「だから――」
そして、他の二人を見た。
「話し合ってもいいと思う。この状況についても」
「……利害が一致したな」
「そうだね」
三人の同意は得られた。
だから、今度こそ――
「話し合おう、この状況について」