『性格』は、
更新です。楽しんで頂けたら幸いです。
「で、だ」
口火を切ったのは、『俺』だった。
「どうするんだよ、これから」
「え? だから、家探し――」
「家探しはいいし、分担するのもいい。問題はそこじゃない」
「じゃあ、どこよ?」
「家探しするにも、どうやって家探しするんだよ?」
意味が分からない。
そう言いたげに首を傾げる『僕』と『私』に、『俺』は言った。
「家中引っくり返して、『物』はどうするんだよ?」
「『物』?」
「ああ、『物』だ。家具はともかく、それ以外の『物』はどうする? ここに持ってくればいいのか?
それとも、あった『物』だけ口頭で伝えればいいのか?」
家探しが暇つぶしの一環であっても、目的があるのなら、行動も一貫していた方がいい。
三人全員、バラバラな行動をしていたら、見落としがあったらいけないからだ。
なのに、何故か『僕』にも『私』にもきょとんとされてしまった。
「……考えてなかった」
「意外に細かい性格ね……」
「意外ってなんだよ、意外って。普通のことだろ、これぐらい」
「この状況で、『普通』の基準なんて役に立たないと思うんだけどな」
「茶化すな」
言いながら、内心首を傾げた。
『僕』の言う通り、今の状況は決して『普通』じゃない。
何せ、どう足掻いても出られない部屋の中にいる。
その上、三人全員、自身の名前すら覚えていない状況下にある。
そんな中、自分の名前は覚えていないのに、自分の性格の欠片が言動によって見え始めていた。
いや、自分の性格が『細かい』内に入るかどうかは分からないが。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
「細かい上に、繊細なの?」
「俺が繊細なら、お前は気が強いよな」
「そう?」
「そうだろ」
「そう……」
言いながら、『私』もまた首を傾げていた。
「気が強い……。そうか、私って気が強いんだ……」
――初めて『性格』を摑めた気がした。
そのことを噛み締めていると、今度は『僕』が手を上げた。
「じゃあ、僕は?」
「……大雑把?」
「普通?」
「褒められてる気がしないんだけど……」
がっくりと肩を落としながら、ちらりと二人を見た。
「ちなみにどんなところが大雑把で、普通なの?」
「……思い付きで行動できるのに、行き当たりばったりなところとか?」
「異常な状況なのに、『普通』に会話を楽しもうとするところとか?」
「やっぱり褒められてないよね、それ……」
言いながら、『私』を見返した。
「しかも、そっちは暗に僕が異常だって言ってるのと変わらないんだけど……」
「別にいいじゃない。 異常でも何でも」
「そうかな?」
「そうだろ、実際」
『俺』は肩をすくめた。
「じゃないと、こんな状況、長く持たないだろ」
「うん、そうかも……」
「それに私達、全員異常よ」
『私』は、はっきりと言い切った。
「こんな状況で、性格分かっただけで喜ぶなんて、普通ないでしょ」
言われてみれば確かにその通りだった。
「……うん、分かった。とりあえず異常でよかったと思うことにする」
納得いかない部分はあるものの、ひとまず置いておく。
今は、家探しの件だ。
「それで家探しだけど、分担制でいい?」
「いいけど」
「問題ない」
「じゃあ、目的だけど……」
頭を動かし、ふと思いつく。
「覚えがなくても、身に覚えがある物を重点的に探せばいいと思う」
「え?」
「どういう意味だよ、それ」
「僕らは家主がいる前提で行動する」
仮に、家主と三人の間に接点があるなら、必ず何かしら手がかりらしき物がある筈だ。
「家中の物をここに持ってきても意味ないし、なら自分にとって『ピン』とくるものだけ集めればいい」
「ピンとって……」
「例えば、睡眠薬みたいな」
「ああ、あれか……」
「なかったら、なかったらで、家主ゆかりの物みたいなものを持ってくればいいと思う」
「それ、結局家中の物を持ってくることにならない?」
「それならそれで」
「おい」
「まぁ、まずは行動。その後はその後で考えればいいし」
言いながら、確かに自分は大雑把なのかもしれないと思った。
「それで、分担どうする? くじ引きで決める?」
「そこは普通に決めればいいだろ……」
『俺』に、げんなりと言われ、分担は話し合いで決められた。
そして、家探しが始まった。
「何故家探ししない!」と思いながら、苦肉の策として会話シーンを入れました。書きながら、作中の『俺』は苦労性なのかもしれないと思いました。