BLOOD STAIN CHILD ~Distant Country~
「ミリアちゃーん! 『一緒に』帰ろう!」
帰りの会が終わるなり、美桜はミリアにそう満面の笑みで呼びかけた。
「うん!」ミリアも元気いっぱいに肯く。
そのやりとりは帰りの支度で騒がしくなっている教室では、ごく当たり前のこととして聞き過ごされた。それがおかしくてならず、美桜とミリアはくすくすと密かに笑い合った。
今日からミリアは美桜の家に帰るのである。リョウは今朝から約一か月に及ぶ全国ツアーに出てしまった。週に一度は帰宅できるとは言うものの、次に帰って来るのは一週間後である。その間、美桜の母親がミリアを家で預かることを申し出てくれたのである。
「本当に申し訳ねえです。」
リョウはいつもの真っ赤な髪を黒くスプレーで染め上げ、スーツを窮屈そうに着込み、美桜の母親の前に深々と頭を下げた。肩にスプレーの黒髪の破片がぱらぱらと落ちているのを、ミリアはその隣で珍し気に眺めていた。
「申し訳ないなんて、そんな大袈裟ですよ。」
美桜の母親は手製のチーズケーキを前に、軽やかに微笑んだ。ミリアはケーキのキラキラと光る表面をうっとりと眺め、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「うちも主人は永らく出張でおりませんし、美桜と二人暮らしというようなものですもの。ミリアちゃんが来てくれれば賑やかになるし、本当に楽しみねって美桜とも話していたんですよ。」
母親はそう言って、隣で行儀よく背を伸ばしてティーカップを呑む美桜を見下ろした。
「お兄ちゃんがいないんなら、ミリアちゃんと一緒にお料理作って、ご飯食べて、お風呂入って、一緒のベッドで寝たいんです。いいでしょう?」
美桜はそう言ってミリアに微笑みかける。
ミリアもそれらを想像してみて、歓喜に身を震わせた。「うん! 美桜ちゃんと一緒にお料理してご飯食べて、お風呂とベッド入るの!」
リョウは深々と溜め息を吐き、「……そうは言っても、赤の他人を一か月も預かってくれなんて、虫が良すぎるっつうか何つうか。」と肩を落とす。
「まあ、いやですこと。赤の他人だなんて。大の仲良し同士じゃないですか。」
「それは十分に、ありがてえって思ってます。ミリアがこっちに来て、友達できるかななんて心配してたのに真っ先に友達ができて、そんでまいんち一緒に学校行って帰って来て、本当に良くして貰って……。」
「美桜も、ミリアちゃんのお蔭で毎日本当に楽しそうにしていますよ。」
「ありがてえことです。……でも、せめて食費か生活費ぐらいは出させて貰わねえと。」尻のポケットから萎びた財布を取り出す。
「もう、厭ですよ。そんなこと辞めてください。ミリアちゃんお一人お預かりするぐらい、幾らもかからないじゃあないですか。そんな豪勢なおもてなしもできませんのに。」
「……でも飯食わしてもらう訳ですし……。」
「美桜と一緒にお手伝いして貰いますから、大丈夫ですよ。」
「お手伝いしようねー?」美桜に微笑みかけられ、ミリアは何度も激しく肯く。「ミリアお手伝いがんばる!」
「ありがとう。ね? 何の心配もいりませんよ。どうぞ頑張ってコンサートツアー、行って来て下さい。いつでもうちにお電話いただければ、ミリアちゃんに取り次ぎますし、何の心配もありませんよ。」
リョウは項垂れるように俯いた。家政婦を雇う金もない自分には、ミリアを一人きりにする以外にはそうする他ないのだ。否、たとえミリアを一人きりにするという決断を下した所で、この気の良い親子は進んでミリアを手助けしてくれるに相違ない。それを思えば、今ここで素直に頭を下げ、ミリアの世話を頼んでおいた方が無難であるに思われた。
「どうか、よろしくお願いします。」
そのようないきさつで、今日からミリアは美桜の家に帰宅をすることとなったのである。それが甚く非日常的なことに思われ、美桜もミリアも今日は朝から興奮しっ放しであった。
二人はいそいそと下駄箱で靴を履き替えながら、「ねえ、みんな、絶対私が『一緒に帰ろう』って言ったこと、途中でバイバイするって思ったよね?」と美桜が笑う。
「うん、絶対そう! おんなじおうちに帰るなんて、誰も思ってない! だってミリア、誰にも言ってないもん! 美桜ちゃんとだけの内緒なんだもん!」ミリアも勢いよく同調した。
「私も誰にも言ってない! ミリアちゃんと、でも今日からは、私の家に一緒に帰るんだもんねー。」
「うん!」
「ママ待ってるよ!」
「うん!」
美桜とミリアは靴のつま先をトントンとリズミカルに床に叩き、靴を履き終えた。美桜は「ねえ、手繋いで帰ろ。」と手を差し伸べる。ミリアも「うん!」と言って美桜の手を握り締めた。二人はそのままのんびり歩くのももどかしく、手をしっかと繋ぎ合ったまま走って帰途を急いだ。時折息を切らせながらも微笑み合って、同じ家に帰るという二人だけの秘密を確認し合う。ミリアはリョウから今夜電話が掛かってきたら、美桜と手を繋いで帰ったことを真っ先に報告しようと決意した。
「ただいまー!」美桜は玄関を開けると同時にそう叫んだ。ミリアも続けて「ただいまー!」と叫ぶ。
中からはおかしそうに美桜の母親が出てきた。
「おかえりなさい。あら、仲良く手なんて繋いで。今からおやつ作るから、二人とも手を洗ってきて、お手伝いしてね。」
「はあい!」二人は声を揃えて言った。
リョウが一か月に及ぶツアーに出ると聞いた時には、ミリアは正直、目の前が真っ暗になった。リョウと会えぬまま30日も経過するなんて、とてもではないが想像さえできなかった。信じられなかった。でもその感情のままに泣けばリョウはきっと困惑する。ツアーを辞める、などとも言いかねない。だからミリアは耐えた。寂しくなんてないと、不安の暗雲に覆われながらもそう言って退けた。それを翌日、一緒に学校に向かう途中美桜に伝えた時から、話は急変し出した。
「そんなにお留守番するの?」美桜は今にも泣きださんばかりに叫んだ。
「しょうがないの。だってリョウはばんどやってんだもん。ばんどはCD出したらツアーやんないといけないんだもん。そういうきまりなんだもん。」
美桜は脚を止め、眉根を寄せて何やら考え込んだ。
「じゃあさ、私んちでお泊りしたらいいよ! お兄ちゃん帰って来るまで、私んちにいたらいいよ!」
「ええ?」ミリアは目を瞬かせる。
「だって、夜一人でいたら悪い人が来ちゃうかもしれない、泥棒とか。」
ミリアは顔を強張らせた。
「だからさ、うちにお泊りしようよ。うちのママと、それからミリアちゃんのお兄ちゃんにお願いしてみよう! ねえ、そうしよう!」
美桜の真剣な眼差しを眩げに見つめながら、ミリアは肯いた。
「まあ、そんなことになっていたの。」
美桜から話を聞いた母親は、真っ先に顔を曇らせた。ただでさえ頼りない所のあるミリアが、一か月間も一人暮らしをするだなんてとてもではないが想像できなかったし、あまりにも危険に過ぎるように思われた。
でも、バンドマンの兄には託児を依頼する伝手であるだとか、家政婦を雇う金銭的余裕もないのであろう。そう思えば、今すぐにでも談判をして、ミリアを預かる旨を言い出さねばならぬと、同齢の子を持つ母としての決意が生じた。
「ミリアちゃん、一か月も一人でご飯作って、一人で寝るなんて、子どもなんだよ? できないよ。」
美桜は真剣に訴える。
「だってミリアちゃん、先生に出すプリントとかもすーぐ、どっかやっちゃうし、計算問題も間違えちゃうし、漢字の書き取り途中から違う字になっちゃったりするし……」そこまで言ってミリアを罵倒する話になってきたのにハタと気付き、美桜は黙った。
「でも、ミリアちゃんいい子なの。ママも知ってるでしょう? 学校でも給食のお片付けとか、ちゃんとするし、遅い子の分も手伝ってあげたりするの! 掃除も一回もサボったことないし、日直の時もきっちーんと黒板綺麗にして、先生に褒められたんだから! だからうちにお泊りして、お兄ちゃん帰ってきたらおうちに帰ればいいと思うの。絶対ママのお手伝いもしてくれるよ。」
母親の胸中には、とにかく年齢以上に幼く見えるあの女の子がたった一人で家にいることが、もうそれだけで耐えがたいように思われた。
「……そうね。わかったわ。お兄さんにお話してみましょう。きっとお兄さんもミリアちゃんのことを心配している筈だから。」
「うん!」美桜はテーブルに飛び上がらんばかりに身を乗り出し、肯いた。
話は早急についた。母親がその場でリョウに電話を入れ手早く用件を伝えると、翌日リョウが美桜の家を訪問する手筈となったのである。
正直なところを言えば、願ったり叶ったりの話である。あまりに虫が良すぎるので、幾らか支払いをしなければと思うものの、豪邸に住まい、海外出張中の主人のいる相手に取って見ればバンドマンからはした金を取るのも忍びなかったのであろう。リョウは是非とも気に入って貰える土産を携えて帰ろうと、感謝の念と共に決意した。
ミリアを養育することに疑問はなかったものの、バンドマンの自分には成せぬことが山ほどある。それをカバーしてくれる人がいるのは、この上なくも有難かった。
後はミリアさえ寂しがらなければ――。リョウはミリアが自分不在であっても笑顔で暮らしていけることを出立以来祈り続けた。
リョウの祈りは叶っていた。
「はい、こっちが美桜。こっちがミリアちゃん。」母親は丸めたクッキー生地を二人の前に置いた。まな板に敷かれた小麦粉がふわりと舞う。
「うわあ。」
「これをよーく捏ねて、平らに伸ばしたら、この棒で綺麗に均すの。そうしたら好きな型で抜いてここに並べてね。」
「はあい!」二人は声を合わせ、よいしょよいしょとクッキー生地を捏ね始める。
「気持ちいい! 粘土みたい!」ミリアは初めての体験に歓喜の声を上げた。
「ねえ、ママ、これで何個ぐらい作れる?」
「そうねえ、このハートぐらいの大きさなら、十個は作れるかな。」
「わあ!」
「そしたらそしたら、色んな型で作ってもいい?」
「もちろんよ。上にチョコチップとかレーズン乗せてもいいわよ。」
二人は一層力を籠めて捏ね始める。母親は微笑みながらそっと場を離れた。
「ねえ、ミリアちゃんはどの形にする?」
「ハートと、星と」テーブルの上には目移りしてしまうようなクッキー型が並んでいるのである。「それから猫!」
「私はねえ、鳥と猫と犬で動物園にする!」
「きゃー!」
こんな素敵なお手伝いはないだろう。ミリアは今度は生地を一生懸命に平らに伸ばしていく。これでどんなクッキーが出来るであろう。リョウに食べさせてあげたい。きっとリョウは、「こりゃあ旨いな。世界一だ。」とかなんとか言って喜んでくれるはずだから。これも今夜リョウから電話があったら伝えなければならない。ミリアは嬉しい決意に頬を綻ばせた。クッキーを作ったら宿題を済ませ、その後クッキーを食べて晩御飯の手伝いをするのだ。ミリアは美桜の家での一分一秒が楽しみでならなかった。
ロールキャベツというものを拵え、たらふく食べると風呂の時間である。美桜とミリアは初めて一緒に風呂に入り、そして部屋に戻った。
「明日の宿題しよう。」
美桜に言われ、ミリアは嬉しく計算ドリルを開いた。美桜は次々に計算を終わらせていく。ミリアはうんうん唸りながら、指を使いつつ計算をしていく。いつもわからない所はリョウに聞くが、あまりにも頭を悩ませていると既に宿題を終えた美桜が教えてくれた。
「こっちの式は、みかんが四つとりんごが五つだから……。」
「美桜ちゃん先生みたい。」
「えー、そんなことないよ。」
「でも美桜ちゃん頭いいし。」
「でもミリアちゃんギターすっごい得意じゃん。」
「リョウが教えてくれるから。」
そう言うと不意に寂しさが襲ってきた。今頃リョウは何をしているであろう。遠くの地で、大好きなギターを弾き、歌を歌い、自分のことなぞ忘れてしまったのではないか。胸が痛くなった。その時である。
「ミリアちゃーん!」階下から美桜の母親の呼ぶ声が聞こえた。「お兄さんからお電話よー!」
ミリアははっとなって立ち上がった。そのまま慌てて階段を駆け下りていく。
「お兄さんから、お電話。」母親は柔和な笑みを浮かべて受話器をミリアに差し出した。ミリアは食らいつくようにそれを受け取った。
「リョウ?」
「おお、ミリアか。いい子にしてるか。」
いい子に決まっているのである。でもそれを母親の前で言うのは、なんだか気恥ずかしかった。
「今日は、今日は……、」言おうと思っていた、今日の楽しかったことが膨れ上がって言葉にならない。「……リョウ、どこにいんの?」
「今日はなあ、Iっつう所だ。ミリアにお土産買ったかんな。」
「お土産?」
「そうだ猫のストラップ。お前猫ちゃん好きだから。」
「猫ちゃん!」
「そう。他に何か欲しいモンはあるか?」
「……ない。」リョウが無事に帰って来てくれさえすれば、何もいらない。それが本心だった。
「そっか。今週末には帰るかんな。それまで美桜ちゃんのお母さんに迷惑かけねえようにして、いい子でいろよ。」
「うん。」ミリアは少し落ち着きを取り戻し、慌てて付け足した。「今日は、今日は、美桜ちゃんと手繋いで一緒のおうちに帰ってきたの。『一緒に帰ろう』って言って、本当におうちまで一緒なの。誰も知んないの。」
「何、お前誰にも言ってねえの?」
「そう。内緒なの。」ミリアは何だか可笑しくなってくすくすと笑った。「そんで、今日ね、美桜ちゃんのママとクッキー作って、ミリアね、猫の形のクッキー作ったの。おめめん所にね、チョコ付けたの。くりくり! リョウ食べたらね、『おいっしー』って言うよ。」
「ああ、そりゃあ食いたかったな。いいなあ。」
「うん。」
「じゃあ、暫くお留守番頑張れるな?」
「うん。」
「俺も頑張るから、ミリアも頑張れるな。」
「うん。」
ミリアは決して強がりではなくそう答えた。リョウも遠く離れた地で頑張っている。だから自分も頑張るのだ。それは一緒にいることよりも強い絆を感じさせてくれるものであった。ミリアはそれに相応しい自分になれたことが誇らしく、嬉しく、「リョウも頑張って。」と強く付言することができた。
「ああ。じゃあ、また美桜ちゃんのママに代わってくれるか?」
「うん。」
それからリョウと美桜の母親何やら話をしていたが、暫くするとチン、と優しい音を立てて受話器が置かれた。
「良かったわねえ。」美桜の母親はミリアに語り掛ける。「明日もこのぐらいの時間に、お電話くださるって。」
「うん。」その時ミリアはふと美桜の母親の目が寂しげなのに気付いた。そう言えば、美桜の母親もお留守番なのではないか、とその時になって気づいたのである。
「美桜ちゃんのママは、……寂しい?」不意にミリアは訊ねた。
「え。」
「……その、……美桜ちゃんのパパ、遠くにいるんでしょう?」
美緒の母親は驚いたように目を丸くして、暫く黙した。
「……そうねえ。今はロンドンっていう所にいるの。遠いのよ。」寂しげな笑みが漏れた。
「ろんどん……。」
「そう。世界地図の端っこ。飛行機でないといけない所なの。」
「飛行機……。」リョウは今日は車で出発したと言っていた。それは車で行ける場所であるから車なのだ。つまり、途中に海もなく、ずっと陸のまま続いているということなのだ。ミリアは自分が恵まれていたことに気づかされ、はっとなった。
「それでね、こっちが昼間の時向こうは夜なの。向こうが昼の時はこっちが夜。」
ミリアはなぜそのようなことが起こるのか全くわからず、ただただ驚いて目を丸くする。
「……で、電話もできないの?」
「できるわよ。……でも時間がズレてしまっているから、ちょっと気を付けないとね。こっちがおやすみ、って言っても向こうは今仕事中、なんてこともあるから。」
「え、宇宙?」
「宇宙じゃあないわよ。ここよ。」そう言って美桜の母親はリビングの壁に貼られた世界地図の前にミリアを促した。
「この真ん中にあるのが、私たちのいる日本。そしてここがね、ロンドン。」
指差したその先には星型のシールが貼ってあった。
「こんな、端っこなんだ……。」
「そう。でもどこにいてもパパのいる所はちゃんとわかってなきゃいけないって、美桜がパパのいる所にシール貼って行って、もう五か所目になったのねえ……。」星のシールはたしかに世界あちこち、五か所にキラキラと輝いていた。
「こっちも、こっちも、美桜ちゃんのパパが行ってたの?」
「そうなの。」
「……寂しい?」
「そうね。正直言って、寂しい時もあるわ。でもね、美桜のパパは、美桜が生まれる前、ううん、結婚する前から、世界中あっちこっち飛び回ってお仕事をする人だったの。それを大変だとか辛いだとかじゃなくて、とっても楽しそうにしてたから、素敵だなあって思って結婚したのよ。ミリアちゃんのお兄ちゃんも、コンサートやってる時の姿、とっても素敵なんじゃない?」悪戯っぽく微笑みかける。
「素敵。」
そう茫然と呟いたミリアの脳裏には、時折リョウがDVDでチェックをしているライブ映像が浮かんだ。ステージの中央でまるで百獣の王の如き存在感を示しながら、観客たちを熱狂の渦に招き入れているその姿は、他の誰人にも代えがたいものであった。
「一緒ね。だから、遠くにいても一番近くでいるのと同じように応援したいなって思うの。帰って来た時にはリラックスして、素敵な時間を過ごして欲しいと思うから、お料理教室にも行ってね。美味しいご飯の作り方を教わったり。」
「学校に行ったの? 大人なのに?」
「うふふふ、そうよ。大人でも学びたい人は学校に行けるの。」
ミリアははっとなった。「ミリアもそうしたい。……リョウが美味しいって言ってくれる料理、作れるようになりたい。」
「うふふふ。じゃあ、明日は夕ご飯一緒に作りましょうか。教えてあげるわ。」
「うん!」
そこになかなかミリアが部屋に戻ってこないことを心配して、美桜が降りて来た。
「電話終わった? 何してんの?」
「明日の夕飯作りの相談よ。」
「何作るの?」
「そうねえ、ミリアちゃんのお兄ちゃんの好きな食べ物、何かしら。」
「えっと、……お肉!」
「わかったわ。考えとくから任せて。」ミリアと母親は親友の如く、にっと微笑み合った。そしてミリアは胸中にエネルギーがみなぎっていくのを感じた。愛しい人が遠くにいる寂しさを共有できたことに。