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Rubber Souls  作者: 佐藤アトム
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第八話「七月の章」

鳥山中卓球部は三年生の松坂と梅沢が部活引退となり、新体制へと代替わりした。年功序列で部長は上原が引き継ぎ、副部長には下山が就いた。顧問は変わらず佐々木のままだ。

先月の総体、団体戦の結果は市大会二回戦負け。翌日の個人戦では松坂と梅沢がベスト8、上原はベスト16、下山は1回戦負けという結果に終わっていた。鳥山中の評価は引き続き「飛翔市の中堅」の域を出ることはなかったが、代替わりして上原と下山の戦績だけが残った形になるので結果として「弱小」になってしまった感は否めない。

今日も今日とて練習は続くが、一年生の習熟度にも差が出て来たことで上原と一ノ瀬がペアで打ち合うことが多くなった。すでに一ノ瀬は下山を追い抜いており、日々着々と力を伸ばしている。

「一ノ瀬、ドライブ入るようになったなぁ」

「当たり前すよ、毎日ドライブばっかやってますから。」

ただ単にドライブの安定感が出てきただけでなく、ロビングのように高い弾道で「浮かせて落とす」ループドライブと、低い弾道でコースを突くスピードドライブを打ち分けるようにまでなっている。

「上原先輩も、最近なかなかバックが抜けなくなって来ました。」

「本当はもっと早く回りこめるようにしたいんだけどな。」

上原は総体での負けの原因を反省し、バックハンドの練習に特化させていた。バック側へのロングボールに対応が鈍いため、回り込んでのフォアハンドとフォアバックの切り返しの二段構えでバック対策を行なっている。

下山は二宮と組んでの練習が増えた。名目上は下山に二宮の指導をさせるためだが、その実は二宮に自信をつけさせるためというのが佐々木の狙いのようだ。現に下山と二宮の実力は拮抗しており、嵌れば二宮が打ち勝つ場面も見えてきた。

「うわっ、また抜かれた!コース厳しいなぁ。」

「ラッキーっす。運です、運。」

他の一年部員も素振りは卒業し、ペアを組んで練習に励んでいる。

三郷と四谷ペアは、まずは基礎体力づくり。放課後2時間の部活動の中で、30分は走り込みをする。

「最近走っててきついのが和らいできてない?」

「うん、分かる。走り込み始めてからに比べてだけど、走れるようになった気がするよね。」

残りの1時間は互いの練習。例えば四谷はサーブの切れに自信がないため、ひたすらサーブを出し続ける。対して三郷はレシーブからの攻撃が苦手なため、ひたすら四谷のサーブをショートドライブで仕留めにいくといった戦術練習がメインだ。そして残りの30分は全部員参加のエレベーターゲームを行う。

エレベーターゲームとは、並べた台に番号を振って一番上と一番下を決めて試合を行ない、勝った者が上の台へ移り、負けた者は下の台へ移ってゆくことで、組み合わせを変えながら連戦していく練習試合のことだ。ちなみに鳥山中では、最終的に一番下の台にいた2人が片付け係という罰ゲーム付き。

五島と六原と七宮の3人は、そこに佐々木を加えて4人組を組んでいた。佐々木が固定で入り、30分ごとに3人が交代して指導を受ける。1人が佐々木と打っている間、残る2人はひたすらサーブ練習だ。

「ゴト、また振りが雑だぞ。手だけで振るな、しっかり腰入れて回さないと今みたいにすぐオーバーだ。」

「はい!」

「ドライブ奥深ぇー」

「毎日やってるのになかなか難しいよなぁ」

そして最後の30分はエレベーターゲームというメニューがお決まりになっていた。


「ほんじゃ、エレベーター始めるよ」

今日の部活も残り30分となり、いつも通り上原が号令をかけた。

一番台が六原対七宮。二番台が四谷対五島。三番台が二宮対三郷。四番台が下山対一ノ瀬。上原は四番台で審判に就き、負けた方と入れ替わる。ちょうど実力の逆順に上から並ぶ形だ。


一番台、前陣速攻・六原とカットマン・七宮の試合は、七宮の下回転サーブで始まった。基礎を済ませて各々のカラーで戦型を決めたとはいえ、まだ習得できたとは言い難い出来である。七宮のサーブはツーバウンド目には回転力を失いナックルじみたサーブになった。好機とばかりに六原はスマッシュ攻撃に移る。見事、七宮のフォアコートへ決まったスマッシュだったが、その先には後退して攻撃に備えた七宮が構えていた。七宮は佐々木の教えの通り、カットは用いずロビングでスマッシュを拾って見せた。「カットして返すにはまだまだ速球に対しての反応が遅いから、とにかく今はロビングで拾いまくって速球を後ろで捌く感覚を身につけろ。切って回転かけてやり合うのはその後でいい。」というのが佐々木の弁だ。毎日毎日、スマッシュを後陣で受け続けた練習の甲斐あって、七宮の拾いはかなり上達していた。

高く上がって舞い落ちたボールを、再び六原のスマッシュが跳ね返す。元々運動神経が良く機敏な六原には、前陣速攻は合っていた。このワンプレイで七宮は3本のスマッシュを拾って見せたが、4本目のスマッシュで打ち破られた。

よく言えば大柄な、悪く言えば太めな体格に対して、七宮の体を動かすためのスタミナは足りていないのが事実だった。逆に、打てば打ちごろの浮いた球が戻ってくる七宮とのラリーは、スタミナ充分で跳ね回るようなスタイルの六原にとっては格好の餌食でしかない。

「ほらほら、ナナちゃんかかってきなよ!」

六原の挑発に、汗だくの七宮が目を向ける。

「うるせえよ」

疲れ切った七宮の口からは、その後の言葉が続かない。あえなく七宮の巨体は小柄な六原に翻弄され続け、ストレートで負けを喫することとなった。


二番台ではペンドライブ型の四谷と、ドライブ主戦型の五島の試合が行われている。

2人ともドライブで攻撃を行う共通したタイプの戦型だが、性格が出るのか防御主体のプレーが多い。同じ戦型の松坂や一ノ瀬のように闘気を剥き出しにして攻め立てるタイプではなく、堅実に防御を固めて攻撃機会を伺うタイプだ。

五島がフォアハンドから横回転サーブを放ち試合が始まった。しかし、左利きの五島が打つフォアハンドは、四谷にとってはバック側へのボールとなる。四谷はすかさず、球の跳ね際にラケットを立ててサーブの勢いを殺そうと試みた。総体の団体戦で、梅沢が千里に対して繰り出した「ストップ」である。引退前に梅沢が、スタイルの似ている可愛い後輩に技を伝授してあげよう、と教えてくれた技術だ。四谷としては開戦直後のストップは奇襲になると踏んでの戦略だったが、まだ技術が追いつかず球の勢いは殺しきれなかった。

ミドルレンジに返ったレシーブに五島はすぐさま反応し、バックハンドで払い返す。五島のバックバンドからのクロスボールは、即ち四谷にとってはフォアクロスである。球足も遅く回転も弱い絶好球が四谷に返った。四谷は五島の体勢を確かめるなり「短いタイミングのバックニ連打は辛いはず」と読みを利かせて、フォアクロス、つまり五島のバック側へスマッシュを打ち込み先制を決めた。


三番台は二宮と三郷の試合。こちらの2人も二番台の2人と同じくドライブ主体の戦型だが、二宮は四谷と真逆で攻撃寄りのスタイルが染み付いてきている。三郷はオールラウンド型で、前陣でも後陣でも球へ手を伸ばしあらゆる場所から攻め込む戦型だ。

「ヨォーウ!!ラッキラッキーィ!」

普段から明るい二宮は試合の中でも声を張り上げて強気なプレーが目立つようになっていた。総体の団体戦での経験は二宮に自信をもたらし、また、ここ最近の練習で2年の下山を打ち負かすことも珍しくなくなってきている点も二宮を大いに勢い付けていた。

「あああ〜、くそっドンマイドンマイ!」

対して日頃おとなしい三郷も、試合となれば火がつくようにその本性を見せた。戦績の有無が二宮と三郷の差を見せていたが、実力的には三郷のプレーは二宮のそれに肉迫しつつあった。

打てば打ち返し、守れば守り返す。その乱打戦の様相は、はたから見ればすでに一人前の卓球部員といってもおかしくない戦いぶりになっている。

「今日は絶対負けないからな」

「今日も絶対負けねえし!」

四つ並んだ台の中で最も時間をかけて雌雄を決したのは、この三番台のひと勝負だった。

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