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Rubber Souls  作者: 佐藤アトム
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第七話「六月の章④」


「3-1で鳥山中の勝ちです。ありがとうございましたっ!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました…」

主審の号令により、鳥山中卓球部の1回戦はめでたく勝ちに終わった。並んで一礼をした後、観客席へ戻る他メンバーから離れて冨樫中主将・千里が松坂に声をかけた。

「強えなぁ、一年ダブルス」

「そうだろ?うちの今年の隠し球だよ。ていうか一番手で来いよ!外しにきただろ!」

「一番手二番手で共倒れは避けたかったんだよ。それだけ松坂のこと評価してるんだ、うちの顧問は」

「物は言いようだけどさぁ」

「個人戦で当たるのが楽しみだな」

「当たればな。でも、個人戦は勝ち上がれよ。」

「言われなくてもそうするわ。そっちも団体戦、頑張れよ」

千里は名残惜しそうに微笑むと、ラケットケースを左手に持ち替え右手を差し出した。特別仲の良い間柄ではなかったが、大会に出るようになってから顔を合わせる機会は多かった。二年生の新人戦からは互いに主将として意識もし合っていた。何となく照れ臭い気もしたが松坂はその手を力強く握り、

「冨樫中の分まで頑張るから」

と、微笑み返した。


一方、松坂を除くレギュラーメンバーを出迎えた観客席は大騒ぎだった。

「イッチー、ニノちゃん、すげええええ!おめでとう!!」

「最後のスマッシュ、マジでカッコ良かったよ!」

「梅沢先輩も、惜しかったっす!!相手の部長マジ強いんすもん!ドンマイでした!」

「上原先輩お疲れっした!早く座って休んでください!」

一年生5人は五者五様に喜び、その光景を見て負けに気落ちしていた梅沢は上原の横でつい目を細めた。

「上原くん」

「はい?」

「今年からは部が明るくなりそうだね。上原くんの代の時は、僕らや先輩も不甲斐なくて卓球部人気なかったから人を集められなかったけど」

「いやいや、そんなの先輩たちのせいじゃないですよ」

「いや、僕も明るいほうじゃないし、松坂もお山の大将系じゃん?ヒト、集まるわけないよ。だからさ、上原くんと下山くんには、人数少ない部活で寂しい思いさせてたなぁって思っちゃって」

「何言ってんですか。僕も下山もウチの卓球部好きですよ。」

「そっか。……次は勝つからね」

「もちろんです、おれまで回さないでくださいよ?」

「大丈夫大丈夫。まだ引退したくないからさ。せっかくいいチームなのに、もう負けたらもったいない。」


そこへ少し遅れて松坂が観客席へ上がってきた。

「あ、そうだ。忘れてたっ」

席に座るなり何かを思い出した松坂は六原と七宮を呼び、

「ロク、ナナちゃん、これ付けてきてくれよ」

手渡したのはトーナメント表のコピーと蛍光ペンだった。

「どの台も1試合目は終わってるはずだから。大会役員席の横にでけえトーナメント表貼ってあるから、それ写して来い。」

六原と七宮が一階へ下りると、松坂に言われた通りトーナメントの速報表は大会役員席の真横にあった。

「知ってる中学の名前はあるけど、どこが強いとかは分かんないね」

「たしかに。とりあえずこれに書いてある通り写してこ!おれ勝ったほう言ってくからロクちゃん線引っ張ってよ」

「オッケー」


2人が持ち帰ってきたトーナメント表を見て佐々木は唸った。

「二回戦、やっぱ尾田中か」

「分かってたことだけど嬉しくねえなぁ」

渋い顔の松坂に二宮が問いかける。

「尾田中って強いんすか?」

「強いっつーか、飛翔市ん中じゃ最強チームだな。ぶっちゃけ一度も団体戦で勝ったことはないし、個人戦でも尾田中の奴とは当たりたくない。」

「そんなに強いんだ…」

「おい、始まる前から弱気じゃ勝てねえぞ!たしかにラクな相手じゃねえけど、勝たなきゃそこで終わりなんだからな!」

佐々木が暗い雰囲気を取り払うように手を叩いた。しかし、実際のところ尾田中には勝てないかも知れないと佐々木も思っていた。松坂は鳥山中の柱としてよく育っているし、梅沢も相手によっては勝ちの目が全くないとは思わない。しかし、上原、下山、そして一ノ瀬・二宮には流石に今度は荷が重いと感じていた。初戦で上原は3年生の小麦相手にいい試合をして見せた。しかし、そうは言ってもあくまで冨樫中のシングルス4の3年生なのだ。腐ってもレギュラー3年と言うこともできるが、尾田中のレギュラーとはまるで役者が違う。ましてや上原よりワンランク差がある下山には、残酷だが更に期待できなかった。一ノ瀬・二宮についても同様で、今度の相手はバタバタと調子を狂わせて自滅してくれるようなダブルスではない。秋の新人戦で尾田中ペアが見せた流れるようなフォーメーションには思わず見入ってしまった。

難しい顔でトーナメント表を見つめる佐々木に聞こえないよう、松坂は小声で呼びかけた。

「部長として最後にこれだけは言っとく。みんな、悔いだけは残すな。」


鳥山中 尾田中

✖️松坂③  ―  虎川③ ◯

✖️梅沢③  ―  熊井③ ◯

✖️一ノ瀬① ―  鷹田③ ◯

 蛇岡③  ―  蛇岡③

 上原②  ―  馬木③

 下山②  ―  影山③


結果は、なす術なしの惨敗だった。松坂も、梅沢も、一ノ瀬・二宮ペアも0-3のストレート負け。去年の新人戦でいい試合をしたと思っていた相手の伸び代は、自分たちがそこから半年間積み重ねてきた伸び代を大きく上回っていた。

尾田中は先の新人戦では市大会を勝ち進み、県南大会を勝ち上がり、最終的に県大会のベスト8まで食い込んだ。そこで見た光景が、この半年間で大きく差を生んだのだ。市大会で終わってしまった鳥山中と、県大会まで行った尾田中の明暗だった。


「よし、じゃあみんな片付け済んだな。一旦集まれ。」

佐々木が部員を注目させる。

「団体戦は終わったが、明日は個人戦が控えてる。今日はおとなしく帰って調整して、明日に備えんぞ」

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