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Rubber Souls  作者: 佐藤アトム
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第六話「六月の章③」

上原のドライブが小麦に襲いかかる。その度、小麦は機械のような精密さでブロックする。試合展開はこの往復の繰り返しとなっていた。上原が押し切る場面もあれば、小麦が耐え切る場面もある。両者とも自分の得意と相手の得意が噛み合って、意表をつく考えなど頭の片隅にもなかった。

「小麦のやつ、去年松坂に押し切られたの悔しがってたからなぁ」

冨樫ベンチで千里が呟いた。

「あぁ、あれまでは粒高にビビってペース狂って自爆する相手がほとんどだったしな」

その隣で信長が頷く。

「悔しかったのは分かるけど、ああいうガンガン来る奴を相手にするには戦術変えないと勝てないだろ」

千里が続ける。

「いつも信長とオールしてて前陣速攻が自分の苦手なタイプなんだって、思わなかったかなぁ〜」

「思わなかったんだろうなぁ。おれと小麦のオールって、いつもいいラリーになっちゃうから苦手意識が生まれなかったんだろ。」


上原と小麦の1セット目は、ドライブを駆使した攻撃が功を奏し11-7で上原の勝利。途中何度かドライブを外す場面も見られたが、その度に微調整を行い対小麦用の武器として試合中にモノにして見せた。

しかし、2セット目は小麦も上原のドライブに順応して見せ8-11で小麦がセットを取った。上原のドライブが形に嵌ってきたおかげで、逆に小麦としても返しやすくなったようだ。

そして3セット目は再び上原が小麦の粒高ブロックを破り切り、11-6で勝ちをもぎ取る。ここまでくると試合は根競べの様相を見せてきた。

現在は4セット目、得点は6-6で拮抗している。サーブ権は上原で、このセット最初のタイムを要求した。


「はぁ…疲れた…こんなに長い試合、久し振りだ」

肩で息をしながらタオルで顔を覆う。普段の部活でも、もちろんスマッシュの多球練習は行なっている。矢継ぎ早に決め球を打ち込み続ける練習を怠ってきたわけではないし、その戦い方こそが前陣速攻型のスタイルだ。

しかし、こんなに何度も決め球を止めてくる相手は今までいなかった。上原は、腕を振るのがきつい、という感覚を初めて味わっていた。


「ふぅー…目が疲れてきた」

一方、冨樫中サイドでも小麦がタオルで顔を覆っていた。何本もドライブでの攻撃を繰り返す上原に比べて、守り耐え忍ぶ側の小麦は体力の消耗は少なかった。しかし、その代わり集中力が試されていた。コースを読み、回転の強さを読み、なるべく返しづらいコースを狙ってブロックをする。ショートマンの基本練習としてブロックの練習は日々行なっていたが、練習のそれと試合のそれでは求められる集中力は比較にならない。


「ウエ、かなり疲れてますね」

「あぁ。そもそもスタミナは無い方だからな、上原は。でも打ち慣れないドライブでよく頑張ってはいるよ。」

「だんだんアゴが上がってきましたよ。」

鳥山中ベンチの懸念通り、上原のフォームが少しずつ崩れだした。膝の溜め込みや、腰の回転もおざなりになり、腕だけで強引にドライブを振っている。

すると、

「先輩っ、ファイトォーッッ!!」

「決めてください!上原先輩!!」

勝ちを収めている一ノ瀬と二宮が声を張り上げた。

「そうだよな、ウエが勝てば終わりなんだ。ウメ、応援すんぞ!」

「そうだね、声出そう!上の一年も声出して!」

梅沢の号令に観客席の一年生も呼応し、声援を送り始める。

「ゴー!上原先輩!!」

「さぁ一本!一本集中ーッ!!」

がなり声に近い鳥山中の声援に、冨樫中サイドも声で押し返す。

「コムさんファイトーッ!」

「取れるよ、取れるよーっ!!」

上原は体力を、小麦は集中力を擦り減らしていたが味方の応援は2人の闘志を奮い立たせた。

試合の再開は、もはやこの試合お馴染みの光景にもなりつつある上原の下回転サーブから。球質を読み切った小麦の粒高が下回転サーブを跳ね返す。上回転を纏い手元に戻ったボールを、上原がドライブで持ち上げてラリーの応酬が始まる。

味方の声援に元気を取り戻した上原のドライブが小麦のバックへ突き刺さる。小麦の粒高はドライブをしっかと受け止め、ボールは上原のバックサイドへリターンされる。下回転で戻ったボールを上原が小麦のフォアサイドへツッツキすれば、今度は小麦がオモテ面の裏ソフトによるフォアハンドドライブで打ち返した。ドライブに対しては、上原も同じくドライブでフォアへ打ち返す。すると今度は小麦もドライブで引き合ってきた。この長丁場で小麦は受けに入ると1つのパターンとしてバックの粒高でブロックを繰り返していた為、意外にもドライブ同士の引き合いは初めての展開だった。

打った小麦も小麦で、おや…?と内心首を傾げた。ブロックで返すつもりだったのに、反射的に手が出てしまったからだ。

そこから先は、先刻までの攻めと守りのせめぎ合いとは打って変わって防御無用の打ち合いに流れが変わった。

「小麦って、あんな攻め方できたんだっけ?」

声援も忘れて信長が呟くと、同じく呆気にとられたように千里が、

「いやあ、初めて見たな…相手に感化されちゃったか…?」

とこぼした。

引き合いの応酬はワンプレイでは収まらず、上原も小麦も渾身の力で攻撃の手を緩めない。

「一年コンビは勝ったんだ!」

「初戦を先輩たちの引退試合なんかにさせない!」

「次はおれたちの代なんだ!」

「ワンマンチームのS4ごときに負けられるか!」

「ショートマンが粋がるんじゃねえ!」

上原は一打一打に強気を込めた。

鳥山中卓球部2年、上原剛はあまり口数の多いタイプではない。闘志をあからさまに曝け出すタイプでもない。一年生の頃はそのせいでよく先輩達に叱られていた。もっと声を出せ、元気が足りねえ。何度も言われずともそんなことは自分で分かっていたが、しかし性分に合わなかった。その代わり、分かりやすく表現しないだけで負けず嫌いは人一倍だった。代替わりしてからは松坂も梅沢も、上原のそんな性格を理解してくれたし、その実力を認めてくれている。期待を裏切りたくない。

7-6。8-6。9-6。気迫が小麦を押し返し、次第にマッチポイントが見えてくる。

そして10-6。恐ろしいほど、今、小麦との相性が嵌っている。サーブ権が上原に戻ってきた。レシーブ側の小麦は、すでにラケットを倒し下回転に備えている。最後まで引き合いの応酬を求めている様子だ。しかし、分かり易い。分かり易すぎて罠に思える。下回転を誘き寄せる構えはただのポーズで、裏を搔こうと他のサーブを入れた所へ手痛いカウンターを食らいそうな気もする。

何秒間思考しただろうか。思っているほど、長くはなかったはずだ。裏を掻ける、と自分に納得させるに十分な答えを見つけ、上原は今日一度も使っていなかった球足の速い横上回転サーブを小麦の粒高めがけて打ち込んだ。上原の手元からカーブを描いて小麦のラケットへボールが飛ぶ。思わぬ急襲に、「あっ」と小さく悲鳴が漏れた。張り詰めていた緊張の糸は途切れ、頭に上っていた血が一気に冷めた。気付いた時にはボールが粒高を捉え、そのまま台の上へと落下していった。

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