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Rubber Souls  作者: 佐藤アトム
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第三話「五月の章」


5月。一年生が卓球部に入りひと月が経った。

各々のラケットは既製品の安物ではなく、それぞれが目指すスタイル、あるいは目指す戦型に合ったラケットに持ち変えられていた。卓球のラケットはただシャモジにゴムが貼ってあるわけではなく、実は意外と奥が深い。

まずグリップからして、大まかにシェークハンドかペンホルダーの二種類に分けられる。さらに細かく分けると、中国式ペンやハンドソウラケットなどという代物もあるが、ここでは割愛。

ラケットに貼るラバーも戦型によって選ぶものが変わってくる。表面が低い粒状になっている「表ソフト」は、打球時に球に接触する表面積が小さいため球の回転の影響を受けにくく、速攻型に向く。

逆に表面が平らになっている「裏ソフト」は、打球時の表面積が大きく球の回転の影響を受けやすいため、スピンをかけ易い。

一見表ソフトに似ているが、表面の粒が高くなっている「粒高」は、粒の側面で球を捉えて回転を逆回転にして返球する特性を持つ。他にも「一枚」、「アンチ」などの種類があるが、こちらもここでは割愛。

それぞれが好みのラケットを作り上げ、六月の総体で一年生に割り振られるレギュラーの二席を狙って切磋琢磨の真っ只中だった。


レギュラー候補の最右翼は、やはりと言うべきか経験者の一ノ瀬裕。荒削りだったスイングの基礎を素振りの反復練習で整えると、いの一番に顧問の佐々木とのマンツー練習に入っていた。

「ドライブもっと丁寧に入れてけ!何本オーバーさせてんだ!」

総体に間に合わせるため、佐々木と一ノ瀬の練習はオール (点数を数えない実践練習。”乱取り”のようなもの。)形式がほとんどだった。

「ハイ!もう一本お願いします!」

下回転サーブを出し、そのまま下回転でリターンされたものをドライブで攻撃するパターン。横回転でサーブを出し、リターンのコースを限定させたものをスマッシュで狙い打つパターン。決められた攻撃パターンをひたすら繰り返すことで、その組み立てを得意な攻めへと昇華させていく。


「一ノ瀬くん、どんどん上手くなってない?」

「ただでさえ元から上手いのにな」

フォア素振り、バック素振りをクリアーし、2人並んでドライブの素振りを行なっているのは二宮と三郷だ。

鳥山中卓球部一年生の練習カリキュラムは伝統的にフォア素振りから始まる。

ひたすらフォアの素振りを続け、合格がもらえると今度はバックの素振りだ。

バックの素振りでも合格をもらえるとドライブの素振りへランクアップし、そこで合格をもらってやっとボールを使った練習に移れる。

「おれらももうじきボール打てるよ、頑張ろう!」

二宮が気合を入れ直し力強く振りを改めると、素振りする一年をフォローしながら練習するための「見張り台」と呼ばれるテーブルから二年の上原が声をかける。

「二宮くん、振りがでかすぎ。もっとコンパクト!」

「ハイ!」

反射的に返事をし、大振りしていた右腕をシャープな動きに切り替えた。

三郷もそれにならって、左右の体重移動と腰の回転、そしてそこにあると仮定したボールを捉える感覚を意識し直した。


その横には四谷、五島のバック素振り組だ。

「なんか、これであってるのかなぁ?おかしくない?僕の振り方。」

「わかんねえよ、四谷はペンだけどおれシェークだもん。」

「上原先輩、僕の振り合ってます?」

後輩に声をかけられ、見張り台でのラリーを中断した上原と下山が素振りを見直す。

「どっちかっていうと五島くんのほうがおかしいかなぁ」

下山が思わず、といった素ぶりで笑いながら口を開く。

「おい、笑うなよ真剣にやってるんだから。」

「いやいや、ごめん。なんだかピョコピョコしてるっていうか…。膝のクッション効かせるのはできてるんだけどな。もっと頭をブレないようにしてごらんよ。頭がブレると球を捉える位置もブレるから。」

「四谷くんはもっとボールを意識してみて。漠然と体の動きだけトレースするから不自然な振りになるんだ。ボールを打ってるつもりでやらないと、素振りができても球は打てないからね。」

上原と下山はそれぞれ同じ型のラケットを使う後輩にアドバイスを与えた。初めて迎える後輩は、やはりかわいいものらしい。


「よっしゃあ200回いったああ!」

「松坂先輩、どうでした!?」

最後は六原、七宮のフォア素振り組だ。

「振りゃいいってもんじゃねえんだよ!回数こなしても振りがまとまんなきゃしゃあねぇだろ!もっとこう、シャープに振ってみろよ!こうだ、こう!」

松坂は先輩風を吹かせながらフォアスイングの手本をやってみせた。それに倣って、六原と七宮も素振りをする。

「だーかーらー!膝はこう!腰はこの動き!腕は腰に合わせてこう!」

見かねた松坂はラケットを置き、六原の手足を操り人形のように動かす。

「こう!こう!分かる⁉︎」

「あはははは、なんかぎこちねえ!」

「七宮も見てねえで同じにやるんだよバカ!」

「ハイっす」

フォア素振り組の合格は、まだ少し先になりそうだ。


5月中旬になり、佐々木は土曜日の午前練習の最後に全員を集めた。

「もう総体が近いのはわかってると思うが、それにあたってレギュラーメンバーを固めなきゃならん。一ノ瀬以外の1年生6人には悪いが、おれは一ノ瀬はレギュラーにするつもりだ。そこで他の6人、今から総当たりで試合してくれ。最も勝ち数が多かった者に、もう1人の一年レギュラーとして一ノ瀬とダブルスを組んでもらう。」

「おぉー…」

全員が、納得とも感嘆とも驚愕とも取れない声をあげた。

「まだみんな素振りはクリアできてないが、この勝ち負けで決めるしかないと思ってる。勝負強さを見せたい奴は頑張れ。5試合続けての連戦になるが、3台使ってフル回転で終わらすぞ。3年と2年と一ノ瀬の主審副審で入れ!」

「オス!」


□ 二 三 四 五 六 七

二 ■ ◯ ◯ ◯ ◉ ◯

三 ◉ ■ ◯ ◉ ◯ ◯

四 ◉ ◉ ■ ◯ ◯ ◯

五 ◉ ◯ ◉ ■ ◉ ◯

六 ◯ ◉ ◉ ◯ ■ ◉

七 ◉ ◉ ◉ ◉ ◯ ■


勝=◯

負=◉


総当たり戦が終わる頃にはすでに夕方になっており、試合の結果は以上の通りとなった。

二宮が4勝1敗で優勝。三郷と四谷が3勝2敗で同率2位。五島と六原が2勝3敗の3位。七宮は唯一の1勝4敗だった。順当といえば、順当だった。

佐々木が部員を座らせ、まとめに入る。

「みんなお疲れさん!というわけで今回のダブルスは一ノ瀬と二宮でいくことにする。2人は明日から総体までダブルスの練習だ。他のメンバーは今日の試合を思い出しながら弱点克服のために練習するように。秋の新人戦では残りの5人から追加で誰かがレギュラー入るんだからな!」

「はい!」

一年たちは声を揃えた。


「やっぱ二宮は強かったなぁ〜」

「でもさ、六原は二宮に勝ってたじゃん!」

帰り道、7人は総当たり戦の勝敗表を片手に歩いていた。

「そうなんだよな、ラッキーだったのかも。」

六原は謙遜したが、二宮は首を横に振る。

「なんていうか、六原とすごいやりづらいんだよ。相性があるのかなぁ。まじ苦手。」

「あれは二宮は雑すぎるんだよ」

一ノ瀬が割って入った。

「六原が打ってこないからって結構調子に乗って攻め込んで外してたじゃん、あれがムダだったんだよ。」

その試合で副審をしていた一ノ瀬が分析を始める。

「六原は意識してないかもしれないけど、二宮のミスを誘うカタチになってたわけ。」

「調子に乗らなかったら全勝かぁ〜」

二宮が大げさに嘆く。

「とはいえ、六原以外には全勝してるわけだし実力は証明されたっしょ。」

「そうそう。まずは二宮に勝たないとなぁ。」

久しぶりに試合を行い、各々の中に課題を見つけ、鳥山中卓球部の五月は過ぎて行く。

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