第十七話「八月の章④」
二番台の試合。高橋中・見上は頭を抱えたい気持ちだった。相手が強い。強すぎると言うほどでないが、一年生を相手にしているとはとても思えなかった。中学に入って4ヶ月の相手とはにわかに信じがたい手練れと認めた。
下回転に対してドライブを打つ。浮いた球に対してスマッシュを打つ。そんな基本動作は後輩の大空や岬もすでにこなしている。しかしその後輩達とは、少なくとも現時点においてだが、根本的に違う何かを一ノ瀬という対戦相手は持っていることは肌で分かった。
何が違う?技術ではない。体力でもない。戦術でもない。その答えが分からずに1セット目は押し切られてしまった。しかしその答えこそが相手の弱点の裏返しであり、その謎を解かないことには例え技術や体力や戦術で上回っていようとも勝てないのではないかと嫌な思考が脳裏によぎる。
「サァーッ!サァッ!サァッ!」
一之瀬のスマッシュが見上のラケットを打ち払い2セット目のスコアは4-6に開いた。失点ではない。あくまでこちらのミスではない。相手の打球、それも目を剥くほどの速さではない打球に押されているのだ。
「イッチ、すごい勢いだ……。上原先輩とやってる時も気迫丸出しだけどそれ以上だ…。」
審判を務めながら六原は固唾を飲んでいた。スコアが競っていて勝負の行方が気にかかるのではない。同級生の成長の加速度、そして「負けなさそう感」にある種の畏怖を覚えていた。
「上原先輩とも最近はいい勝負になってきてる。5回に1回くらいは勝つもんな…てことは例えばこの見上さんが上原先輩と同じくらい強かったとしてもその5回に1回が当たればこの試合勝てちゃっても不思議じゃない…」
見上は懸命に技術と戦術でうわてに回ろうと試みた。左右に揺さぶる。回転を混ぜる。緩急をつける。無意味だった。一之瀬は基本の動きを崩すことなく、必死にではあるが追いつき対応してくる。自分の認識にやはり間違いはない。技術も体力も戦術も自分の方が一歩上を歩いている。しかし出し抜けない。
「なんで崩れない…?押されてる気分じゃないのに押し返せない…」
ズルズルと戦況を引きずったまま局面は移り変わり、3セット目を見上が取り返したものの、結果として試合は一之瀬が勝ち取った。




