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Rubber Souls  作者: 佐藤アトム
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第十一話「八月の章①」

練習続きの7月はあっという間に終わり、夏休みは後半戦の8月へ突入していた。

今日はいよいよ10月の新人戦へ向けて、新レギュラーが発表される。佐々木が部員たちを集めると、取り出した一枚の用紙を片手に部員の顔をじっくりと順繰りに眺めた。

「みんな顔つきが変わってきたな。2年の2人は先輩らしい頼り甲斐のある顔つきになってきた。1年のみんなも、4月に比べて逞しい感じが出てきたよ。今からレギュラーを発表するが、メンバーから漏れた奴もみんなちゃんと成長してるってことには自信を持って欲しい。おれが保証する。」

佐々木は仰々しく前置きをしてから一呼吸置くと、

「では、鳥山中卓球部の基本オーダーを発表する。シングルス1、上原。」

「ハイ!」

上原が返事とともに立ち上がる。

「紛う事なく主将はお前だ。一番手から大事な勝ち星を取りに行って欲しい。」

「分かりました!」

「では、次。シングルス2、一ノ瀬。」

「え、あ、ハイ!」

少し動揺しながら一ノ瀬が立ち上がる。他の部員も、驚きを表しながら一ノ瀬を見上げた。

「一ノ瀬の成長ぶりは凄いな。さすがに一番手から上原は外せないが、上原と互角に渡り合えるようになるのも近いうちだと思ってる。期待してるぞ。」

「ありがとうございます!」

総体ダブルスの前に二宮にこっそりと宣言した「新人戦はおれがシングルス1だ」は叶わなかったものの、2年の下山を差し置いてシングルス2に入った喜びは隠せないようだ。

「ダブルスは二宮、四谷!」

「はい!」

「ハイ!」

これも2人が戸惑いながら立ち上がった。同様に他の部員たちも驚いている。

部員たちの予想としては、シングルス1上原、シングルス2下山、ダブルス三郷・四谷、シングルス3一ノ瀬、シングルス4二宮だったためである。

「二宮、総体ダブルスでは一ノ瀬とよく戦ってくれた。だが今回は相方の一ノ瀬はシングルスだ。だから今度は二宮がダブルスペアの攻撃を担え。そして四谷。攻撃型の二宮のことを、守備型のお前が支えてやってくれ。総体のあと、二宮がドライブマンとしてしっかり成長してくれてからな。攻めのパターンがかち合わず、なおかつ守りに長けた四谷と組ませる。これ以上にいい組み合わせを、おれは思いつかん。鳥山中のゴールデンコンビになってくれ。よろしく頼む。」

「分かりました。」

「ありがとうございます。」

2人が目を合わせ、よろしく!と声を掛け合った。

「じゃあ次だ。シングルス3、三郷。」

「え…ハイっ!」

おおおっ…とどよめきが起こる。今回のレギュラー発表はサプライズ続きだ。

「地道によく頑張ってきた。実は四谷と組ませてダブルスとも思っていたんだが、性格を考えてお前はシングルスにした。引っ込み思案なお前がダブルスだと、相方に気を使って自由にプレーができなさそうだからな。4番手で好きに暴れてくれ。」

「ハイ!」

「うん。では最後、シングルス4。下山だ。」

「はいっ。」

呼ばれるのは今か今かと待ちわびていた下山が腰をあげる。

「シングルス4は最後の砦だ。お前の出番が来るときは、すなわちチームの勝敗が決する時だ。プレッシャーが大きいが、副部長としてその重責を受け持ってくれ。」

「分かりました!」

出番の少ないシングルス4というポジションに少なからず不満は残ったが、「副部長としての重責」という佐々木の言葉に気分を良くして下山は笑顔を見せた。

「レギュラーは以上。但しこの人数が少ないチーム事情だ。呼ばれなかった五島、六原、七宮もベンチメンバーとして鍛錬を怠らないこと。レギュラー6人に何かあった時は出番がすぐに回って来るからな。特に五島と六原には控えダブルスとして練習してもらうから、そのつもりでいてくれ。」

「ハイ!」

座ったままの3人も力強く返事を返した。

「ということで、実はレギュラーユニフォームも今回から一新した。みんな取りに来てくれ。」

今日の練習開始時から卓球室の隅に置いてあった、中身不明の段ボール箱を佐々木が持ち上げ上原へ手渡した。

「おぉ〜!これユニフォームだったんですか!いつの間に頼んでたんすか?」

手渡された段ボール箱を開けながら上原が問いかける。

「松坂たちが引退する時に選んでいったんだ。おれたちが選んだコレを着て、常勝・鳥山中を作ってくれってよ。」

「なんか熱いっすね〜」

一ノ瀬が嬉しそうにビニールに包まれた真新しいユニフォームを受け取る。新生鳥山中のユニフォームは、深い緑色の布地に濃い赤色のラインが斜めに数本入ったデザインのシャツ。胸元にも赤い糸で「鳥山中」と刺繍が入っている。下は黒のショートパンツだ。暗めの色合いが重厚感を醸し出し、いかにも強豪校のそれといった雰囲気を放っている。

「クリスマスカラーですね。かっこいいじゃないですか!」

二宮が笑みをこぼすと佐々木がぷっと吹き出して、

「これなぁ、緑は松の緑で、赤は梅の赤なんだそうだ。」

「あ…松坂先輩と梅沢先輩だから…?」

「なんか意志を受け継いでる感じがいいじゃないっすかぁ!」

部員たちは思わず笑い出してしまったが、しかし3年生からの粋な置き土産を素直に喜んだ。

「で、な。新生鳥山中の腕試しということでもう一つサプライズだ。明日は高橋中と練習試合を行う!」

「あ、明日ですか⁉︎」

ユニフォームを持ったまま上原が目を丸くした。

「なんだ、都合悪いのか?明日。」

「じゃなくて、急じゃないですか!」

「大丈夫だ。こっちに高橋中メンバーが来てくれることになってるから、普段の練習の内容が変わるだけだと思えばいい。集合時間もいつも通りだ。」

さも当たり前のことのように佐々木が言いのけたのは、他校との合同練習に浮き足立った気持ちで臨ませないための言い回しだった。今回の合同練習の狙いは、もちろん鳥山中と高橋中の戦力差を確かめる試金石の意味合いもある。しかしそれ以上に、他校選手との試合という特別な状況に慣れさせることを第一義的と考えていた。平時の部活動で慣れた相手に100%の力を発揮できても、大会に出て他校選手を目の前に緊張で動けないのでは意味がない。戦力的に拮抗している高橋中を相手に選んだのも、こちらへ来てくれるように頼んだのも全てそのためだった。

「ちょうど都合よく、高橋中も部員数は9人で同じってことらしいからな。まぁ、あんまり気負わずにやってみればいいやな、」

佐々木があまりに軽い口調で言うので、最初は身構えた部員達も少しはリラックスし始めた。正に、佐々木の狙い通り。

「ほんじゃま、一丁揉んでやるか!なぁ!」

下山が意気を上げると、まとまりを持った8つの声が

「おう!」

と応えた。


新生鳥山中卓球部の、「強豪」を目指す長い道のりの幕開けだった。

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