私は自由
「いいの?僕と二人きりで会っても?」
エドガーはルリコからの食事の誘いに戸惑っていたが、正直言うと嬉しかった。
「平気よ」
ルリコはにっりと笑っていた。いつもよりスッキリとした彼女の笑顔に、エドガーは惹き付けられる。
今頃、旦那はテレビディナかい?
サンセット大通りのレストランは遅い時間にも関わらず満席だった。
ルリコとエドガーは窓側のテ―ブルに座り、ステ―キやパスタを注文した。落ち着いた彼女の様子とは裏腹に、エドガーは少しそわそわしている。
彼はルリコが好きだ。彼女が独身ならいいのにと思う。ルリコは東洋と西洋の美しさの両方を兼ね備えた美女。職業はバッグデザイナ―だ。
彼女と知り合ったパーティーの夜、エドガーは彼女の左手の薬指に指輪があるかチエックしたのを覚えている。そして、結婚指輪を見つけてガッカリしたのだ。
「ねえ、私離婚したのよ」と、清々ししい態度でルリコは言う。
エドガーは耳を疑った。
「離婚?本当?」
彼女は頷き、運ばれた料理を食べ始めた。
「いつ別れたの?」
「先月の終わり頃よ」
「つい最近だね。…………淋しいかい?」
「ううん。こうやって会ってくれる貴方もいるし、他に友人もいるから平気よ」
ルリコが甘い瞳で自分を見つめている。
俺のこと、好きなのかな。俺で良かったらいくらでも付き合うよ。
「明後日の夜、私の家でパーティーなの。来てくれる?ジェフやイ―サン、キャサリンとリカも来るわ」
「明後日は夜勤明けだから行けそうかな」
その時、エドガーはレストランの入り口に気を取られた。自分と同じく、Fire department station71に所属する消防士達が食事をするためやって来た。山火事の消火活動の応援で、ここから離れた谷まで行っていたのだ。消防士達の顔にはすすがついていて、黒ずんでいる。疲弊した様子で彼らはぐったりと席に座った。
「よぉ、エドガー」
エドガーは仲間に挨拶をした。
ルリコも愛想をふりまく。
俺は明日殉職するかもしれない。年間100人前後の消防士が消火活動中に殉職している。
死と隣り合わせだ。
だから、一日一日が大切なんだ。
炎に体を焼きつくされ、息絶える瞬間に後悔せぬように。
親兄弟、友人を大切に。
そして愛する女性を見つけて愛を捧げる。
愛を捧げたいんだ、ルリコ。
エドガーはルリコを見つめた。
ルリコはエドガーの熱い視線を感じていた。
離婚したルリコの夫は、もしかしたらバイセクシャルだったのかもしれない。
結婚生活三年間の間に、数える程しか夫婦関係を持たなかった。その後、夫がハンサムな男性とイチャイチャしている現場を友人達が何度も目撃したという。
三年間無駄にしたわ。
身も心も満たされていない。
ルリコは体の奥から何かを求めている感覚を覚えた。
それが性欲だとは気づいてはいなかった。
続く