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流星のカケラ  作者: 青空
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遭遇


お弁当を作り終え、私はさっさと寮の玄関に向かった。時間的にはそこまで急ぐ必要はないけれど、なるべく教室に早く着いて今日の予習をしたいのだ。

…それになんだか今日も体がだるいし、このまま部屋に居続けたら学校をサボってしまいそうだから。

「…聖花ちゃんは先に行ったかな」

食堂を出た時、一応聖花ちゃんには先に学校に行っててほしいと頼んだ。

けれど、あの子ならまだ玄関で待っていてもおかしくはない気がするのだ。

私はいつもより急ぎ足で廊下を歩いて行った。

…果たして聖花ちゃんは、寮の玄関を少しにいた。

それはいい。予想内のことだ。

だけれどどうして彼女の前に彼がいるのだろう?

日本人なのに青髪という、染めていないのならば遺伝の法則をバカにしているとしか思えない人物…綿津見龍也はよく見る仏頂面で聖花に話しかけ、聖花ちゃんはにこやかに頷いている。どちらも通常運転だ。

…私の心臓は暴走車のごとくバクバク言ってるがな!

まぁ、そこはどうでもいい。

気にすべきところは、綿津見龍也は生徒会の副会長、つまり『神子』ということだ。そんな奴と『平民』こと一般ピープルが話してみろ。女子の嫉妬に男子の牽制、その他もろもろ良いことなんてひとつもない。

どうしよう、見なかったことにしちゃダメかな?

いや、でもここしか寮の出入り口ないし…。

あ、眩暈がぶり返してきた。

クラクラする…。

目をぎゅっと閉じて眉間をグリグリと押す。こうすれば少しだけ眩暈が和らぐ気がした。その場で立ち止まっていると、

「大丈夫?」

耳に滑り込んできた聞き覚えのあるテノール。

「へ…?」

振り向くとそこには、昨日山道で会ったクラスメイトの姿があった。

「あ、加賀美くん。おはよ。えっと昨日は…」

ごめん。

昨日の非礼を謝るつもりだったのだが。

「あ、そらちゃん!」

こちらに気づいた聖花ちゃんに遮られてしまった。

あ、これってヤバいんじゃ…。

聖花ちゃんの隣にはまだあの副会長がいる。

振り向きたくない。

またクラリと視界が歪んだ。

ぐにゃぐにゃの視界の中で聖花ちゃんが駆け寄ってくるのが見える。その向こうには綿津見副会長もいて…。

あー…、目の前がぼやけて暗くなっていく。なんで昨日からこんなに体調悪いんだろ…?

強制的に世界から切り離されていく気持ち悪さに蹲る寸前。

「そらちゃん!」

腕を強く掴まれて、現実世界に引き戻された。

「あ…」

パチパチと目を瞬かせる。

眩暈が嘘のように晴れ、光が戻ってくる。

顔を上げると、

「そらちゃん、ホンマ大丈夫なん?休んだ方がええんちゃう?」

と問いかけ、形の良い眉を顰めて私の顔を覗き込む加賀美くんと、

「そらちゃん、体調悪いの⁈」

と慌てる聖花ちゃんがいた。

「え、いや…もう大丈夫…」

眩暈は綺麗さっぱりなくなったし、身体のだるさも消えた…気がする。これなら授業も問題なく受けられそうだ。

「本当?」

聖花ちゃんが空いている方の私の手を握る。

触れられた一瞬だけ眩暈が戻ってきて、足元がふらつく。すぐに踏ん張ったけれど、周りにばれてしまったみたいだ。

「大丈夫やないやろ。ほら、部屋に戻り」

加賀美くんに部屋に戻るように勧められてしまった。

「いや、大丈夫だから。授業遅れちゃうし」

遅刻は頂けないぞ。授業は出れるだけ出ておかなければ。

ただでさえ特待生なんて弱い立場、一定の成績を維持しなければいつ奨学金が打ち切られるかわからない。

ふたりを引っ張って行こうとすれば。

玄関にまだ突っ立ったままだった綿津見副会長と目が合う。

が、すぐに副会長の目は私の隣の聖花ちゃんの方に向いた。

「あ、綿津見先輩!先輩もそらちゃん止めてください!」

ぎゃー!聖花ちゃんやめて!

下手に『神子』と知り合いにさせないで!

恐る恐る副会長を見ると、彼は絶対零度の瞳で私をご覧になっているのが目に入った。

あ、はい。知り合いなんておこがましかったですね。すみません。

「…本人が行きたいというなら行かせればいいんじゃないですか?」

私にとってはありがたいお言葉を、副会長は極寒の地にいる気分にさせてくれやがりながらくださった。

お言葉だけは感謝しますよ!言葉だけね。

「うう…綿津見先輩酷い!」

「何がです。それより早く学校に行きますよ」

唇を尖らせる聖花ちゃんに素っ気ない先輩。

先輩のことはこの数分で一気に苦手になったけれど、言ってることにだけは同意できるわ。

「ほら、聖花ちゃん。学校行こう」

再び歩き始めれば、聖花ちゃんはしぶしぶ着いてきた。

「…意外と頑固やな」

加賀美くんもそう言いながら、隣に並ぶ。

そして何故か聖花ちゃんの隣には副会長。

え、なにこの並び。加賀美くんも何気に顔が整ってるし、私だけ場違いじゃない?

でも学校に行こうと言った手前、立ち止まることはできない。

仕方ない、今回だけは連行されよう。

幸いこの時間は人が少ない。目立つことはないだろう。

「そらちゃん、気分悪くなったら言ってね」

心配してくれる聖花ちゃんにもう一度大丈夫だと返し、私は美形集団に紛れこむ…というよりは隠れるようにして学校に向かった。

…あ、そういえば忘れてたけど、副会長はなんでわざわざ私たちの寮の前にいたんだろう?



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