ご飯とお金の事情
チリリン…リリン…チリリーン……。
またこの夢だ。
重なる鈴の音色と、助けを求める声。
誰かが私の方へと手を伸ばす。
助けて、辛い、と。
一介の女子高生に手を伸ばしても、藁さえも掴めないというのに。
…チリン…チリリン…リリリーン…。
…チリリン……リリリリリッ!
ジリリリリッ!
「…うぐぅ……」
うるさい。朝日が目に染みる。
音の元凶を思い切り叩き、閉じそうになる目を根性で開く。温かい布団からもぞもぞと抜け出し、しばらくぼーっとして頭がハッキリしてくるのを待つ。
と、その時、
「おはよう!」
可愛らしい女の子…昨日転校してきてルームメイトになった自称幼なじみの聖花ちゃんが洗面所から顔を出した。
「…おはよ」
朝から元気だな、聖花ちゃん。
私ものそのそと身支度を整え、どうやら腕を組むのが好きらしい聖花ちゃんと食堂に向かった。
朝の食堂は戦場である。
時間はないし、みんな似たような時間に来るから席もない。食事代も高い。
というわけで私はいつも食堂のシェフ(ただのおばちゃんではないのがこの学園の凄いところ)にテイクアウトの朝食を作ってもらっている。
今日はうす塩味のフランスパンに茹でたトマトとレタス、モッツァレラチーズを挟んだものらしい。
「ほれ、ちゃんと安い食材使ってやったんだ。感謝しな」
「はい、ありがとうございます!」
密かに姉御と呼ばれているシェフから朝ごはんを受け取り、代金を払う。この学園に通う生徒が食べる一食千円の朝ごはんと違って、私の朝ごはんは二百円から三百円だ。
それを持って部屋に戻り、昼のお弁当を作るのがいつもの流れなんだけれど…。
「そらちゃん、もう行くの?」
と目を丸くする聖花ちゃんに引き止められてしまった。
「うん、お弁当作りたいから」
昼ご飯だけでも自分で作って食費抑えないと、無駄にお金が飛んでいくんだよ。
ちなみにお弁当の材料はこれまた姉御のシェフの伝手でやっすいのを仕入れて貰い、それを買い取っている。
「お弁当?そらちゃん料理できるの?」
「一応ね」
とは言っても、ものすごい手抜き料理だけれど。
「じゃああたしのも作ってくれる?」
「材料ないからまた今度ね」
ついでに人に食べさせてあげられるような美味しいものは作れないから天野さんのお願いは聞いてあげられない。重ね重ね申し訳ないね。
「むぅ…」
ぷくっとほっぺたを膨らませる天野さんに、私は苦笑を漏らした。
…しょうがないなぁ。
「じゃあ今度一緒につくる?」
「やる!」
提案してみると大喜びされた。
そんなに料理が好きなのだろうか。なら誘ってみてよかった。
「よし、なら今度の週末に材料買ってきてもらうよ。何か作りたいものある?」
「うーん…なら、カップケーキが作りたい!」
「わかった」
頷き、カップケーキの材料をざっと頭の中に思い浮かべる。
卵はまだあったはずだし、砂糖は常備している。必要なのはバターと小麦粉かな。
「楽しみにしてるね!」
天野さんはぴょんぴょんと跳ぶように歩く。まるでうさぎみたいだ。
「うん」
まるで妹ができたような気分になって、私は頬を緩めるのだった。