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流星のカケラ  作者: 青空
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転校生とクラスメイト


天野さんと男子生徒の方に振り返った瞬間。

「そらちゃん!大丈夫?」

天野さんが駆け寄ってきて私にギュッと抱きついた。

「わぁ⁈えっと、天野さん?」

その勢いを殺し切れずにその場でたたらを踏み、抱きついてきた美少女を見た。

天野さんは私の肩に顔を埋めているから表情はわからない。けれど、きっとすごく心配してくれたのだろう。

「よかったぁ」

と零した天野さんの呟きは、少し湿っぽかった。

そう言えば私、客観的に見れば相当ピンチだったよね。熊と大接近していたわけだし。

そりゃ天野さんだって、“初めて会った人”だとしても人間が目の前で噛み殺されたら嫌だろう。

「その…ごめんね?」

謝れば、天野さんは可愛らしくぷくっとほっぺたを膨らませた。

「うん。今度からはあんなに熊に近づかないでね」

心配そうな、諭すような声音。だけれど。

ごめん。それはたぶん無理。

そっと目をそらすと、天野さんは、

「そらちゃん!」

と強い眼差しを私に向けた。

う…でも、向こうから来て撫でていいって言ってるんだったら触りたいし抱きつきたい。動物は大好きなのだ。

だけれど、目の前で妙に威圧感を出している天野さんに否というのも憚られる。

結局熊との触れ合いを諦めきれない私が捻り出した答えは、

「…善処する」

だった。

いや本当にごめん、天野さん。

私の答えに不満げな顔の天野さんの背中をポンポン叩いていると、

「…そろそろええか?」

と声をかけられた。

あ、そういえば忘れてた。

「えっと…加賀美くんもありがと」

…加賀美くんで合ってるよね?

何しろクラスメイトたちと深い付き合いを持たない私は、未だに完璧に彼らの名前と顔を一致させていなくてですね。

彼も胡散臭い関西弁のおかげで印象には残っているけれど、名前を覚えているかと言われればそれとこれとは別なのだ。

「どういたしまして」

あ、普通に返してくれた。

どうやら合ってたみたいだ。よかった。

「怪我なかったか?」

「うん。大丈夫」

ただのクラスメイトの君にまで心配させちゃってすみませんね。

「そりゃよかったわ」

にっこり笑う加賀美くんに、天野さんもありがとう!と頭を下げた。

「ええって、俺は何もしとらんし」

謙遜する加賀美くんに、そんなことないよ!と天野さんが答える。

天野さんは花が咲くような笑顔で加賀美くんと喋っていて、加賀美くんも柔らかく笑っている…気がする。

何しろ普段の加賀美くんをあまり知らないから、それがいつもの笑顔なのか特別なのかまではわからないのだ。

それでも一言も話さない私を他所に目の前でふたりの世界ができあがっていて、なんとなく目の前でラブコメを繰り広げられている気分になる。

あー、いたたまれない。私、ちょっと離れてもいいかな?

あまりのいたたまれなさに身じろぎすると、天野さんがハッとしたように私の背中に回した腕を解いた。

「ごめん!苦しかった?」

「いや、大丈夫。それより人呼んできてくれてありがとう」

人を読んできてくれる、その心遣いは嬉しかったよ。

お礼とともに頭を下げると、天野さんは目をパチクリとさせた。そしてふわりと笑い、

「うん、どういたしまして」

と答えた。

うわぁ、やっぱり可愛いなぁ。性格も良いし、きっと頭も良い。まるで何かの小説や漫画のヒロインみたいだ。

こっそり天野さんを愛でていると、

「そらちゃん、これ。忘れもんやで」

と加賀美くんがカバンを差し出した。

それは私が先ほど山道に放置した、学園指定のかなりお高い皮のカバンで。しかも中には今日分けられたプリント類や参考書が入っている。

「あ!ありがとう!」

私は慌ててカバンを受け取り、中身を確認した。

…ふぅ、よかった。何もなくなっていないみたいだ。

って、それより。

「さっきから気になってたんだけど、ふたりともなんで私の名前を?」

普通に苗字呼びとかしないの?

尋ねるとふたりは不思議そうな顔をした。

「だってあたしとそらちゃんは幼なじみじゃない」

「…ごめん、君の名前知らんのや」

あ、なるほど。

とりあえず加賀美くんの方の言い分は理解できた。

いくらクラスメイトっていっても、一言も喋ったことのない女子の名前なんて覚えてないよね。

「私の名前は日高そらです」

改めて自己紹介すると、加賀美くんは目を僅かに見開いて私を見つめ、それからふっと吹き出した。クツクツと楽しそうに笑っていらっしゃる…。

「…何かおかしいことでも?」

普通に名乗っただけなのだが。

…あ、もしかして名前の方を笑われてる?

だとしたらかなり失礼な似非関西人だ。この名前、私は結構気に入ってるんだぞ。

「いや、ごめん。何でもない。…俺は加賀美陽介や、よろしくな」

手を差し出す加賀美くんの手を無視して、私は隣の天野さんににっこり笑いかけた。

「天野さん、帰ろっか」

手を差し出すと、天野さんは目をキラキラさせて笑った。

「うん!」

大きく頷く天野さんと共に、私たちは寮の方へ山道を下り始めた。

………しばらく歩いて。

あれ?加賀美くんは?

チラリと振り返ると、すでに加賀美くんはどこかに姿を消していた。

もしかして怒らせちゃったかな?助けに来てくれたのに、あれは失礼だったか…。

なんだか申し訳ない気持ちになる。

明日ちゃんと謝ろう。

そう決心して、とりあえず今日は寮へと帰るのだった。



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