質問と呆れ
神様か人間か?なんだその質問。
宗教を取るか人の命を取るかって訳せばいいの?いきなり話があるって言うから身構えていた分拍子抜けたよ。
それなら考えるまでもなく、答えは決まっているし。
「もちろん人間だよ」
私は別に信心深くないからね。私の中で宗教は結構どうでも良い部類に入る。
変な例えだけれど、もし向こう側に人が倒れていて、その人のところにいくには神様仏様の顔を踏んでいかなければならないとしたら、私は躊躇いなく神様仏様の顔を踏むだろう。
「…本当に?」
「本当本当」
「本当の本当の本当?」
「本当の本当の本当」
何度も確かめてくる聖花ちゃんにそう答えながら、私は首を傾げる。なんでそんなことをこんなに気にするんだろうか。
それに少しだけ、私を見下ろす鳴上の目が冷たい気がする…。
「…じゃあそらちゃん、敵なんだね」
告げられたのは不思議な言葉。
「ん?敵?」
何のことかと聖花ちゃんの新緑の瞳を覗き込む。しかし聖花ちゃんはサッと目逸らして、
「…ごめんね、ちょっとお手洗いに行ってくる」
とカーテンを揺らして出て行ってしまった。
残されたのは何がなんだか全くわからない私と、黙って私を見下ろす鳴上のみ。
え、気まずいんですけれど。聖花ちゃん早よカムバック!
鳴上とどう関わって良いかわからず固まっていると、鳴上が動いた。奴はドサリとベッドサイドに腰を下ろし、チラリと視線をよこした。
え、なんでこいつそこに座った?そこに椅子あるんだからそっち座れよ。表情見えずらいし話しづらいだろうが!
と、言う勇気はないので心の中で盛大に文句を叫んでいると。
「なぁ、あんたはいつから知っていた?」
ポツリと落とされた言葉。
「へ?何が?」
「しらばっくれるなよ。オレたちと加賀美の対立だ」
ほうほう、対立…。
「対立⁈え、陽介もそっち側⁈」
うげ、見えなかったなぁ。陽介も喧嘩とかするんだ…。つまり陽介も鳴上も殴り合いの喧嘩とかしちゃう人種で、二人は争っているってことだよね。
私、知らないうちにヤンキーな人種と友だちになってたんだね。
「ちげぇ!オレたちと加賀美は敵だ!」
「いやだからどっちも殴り合いの喧嘩とかしちゃう不良ってことでしょ?」
「は?今んなことは話してねー‼︎なんで話し通じねぇんだよ!」
「知らないよ!」
一人でギャーギャー喚いている鳴上を見て奴の評価を変えた。“孤高の豹”から“割と親しみやすそうなヤンキー”に。
というか、最初に会ったときのあの冷たくて刺々した感じはどこに行った。これ、中学まで一緒だった男子の悪友たちと同じくらい騒がしいんですけれど。
「で、聖花ちゃんはお互いの縄張り争いに巻き込まれてて、私もこれから引きずり込まれるわけ?」
やだー。私絶対戦闘員じゃん。純兄や玲から習った武術はこんなことに使うものじゃないのよ?
謹んでお断り申し上げよう。そのついでに聖花ちゃんの脱退も頼み込んでみようかな?もちろん聖花ちゃんが抜けたいなら、の話になるけれど。
どう断ろうか、なんて考えていると、
「ちげぇえ!こいつ何もわかってねぇ!」
と隣で叫び声があがった。
「お前、本気でそれ言ってんの?バカじゃね?いや、バカだろ!」
「うるさい、君にバカとは言われたくない」
知ってるぞ、君が歴代『神子』史上一勉強ができないこと。常に試験で赤点を取っていることも!学園の暗黙の了解だからな!
「いやマジで!お前、人間取るってことはオレも剣斗さんも天野も敵に回すってことだかんな!」
え、剣斗さんってだれ?…あ、変人の月読会長か。
「そこが意味わかんないんだけれど。もしかして『神子』たち全員ヤンキーなの?」
「だから違う!話を聞け!」
鳴上は声を荒らげ、ボフボフと布団を叩いた。埃が立つから止めて貰えませんかね?
「オレたちが神力ってのを使えんのは知ってるだろ?」
「あー、そうなんだ?」
今朝神力の存在を知ったわ。オレたちってことは、『神子』たち全員があの魔法みたいな力を使えるってことかな?
「って、それも何も聞いてねぇのかよ⁈」
「聞いてないね。『神子』全員が神力使えるってことで合ってる?」
「…合ってるよ」
遂に鳴上はグッタリと項垂れた。…なんだかすみません。
少し疲れたように目尻を下げて、鳴上はじゃあさ、とため息とともに提案した。
「話を聞いてからもう一回人間と神、どっちな味方するか決めてくれねぇ?」