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流星のカケラ  作者: 青空
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不思議な偶然


夜の校舎に四つの影が踊る。

三日月の光のスポットライトに照らされて。

悪しき者たちと刻むは激しいステップ。

流れる音楽は剣戟の音。

束の間の静寂。

「ーー」

ひとつの影が胸元を握りしめて、祈るように彼女にとってのヒーローの名前を呼んだ。

…次のダンスが始まる。

ワルツはまだまだ終わらない。


◆◇◆◇◆◇◆


「そら!ここの掃除もお願い!」

「うげ、もう無理だって!筋肉痛辛い!」

玲のお願いに私は顔を引きつらせた。

今私は宿泊料として神社を掃除している。

しかし長い廊下をひたすら雑巾掛けするという作業を数日続けたせいで筋肉が悲鳴をあげていた。

「じゃあ授与所に行く?」

「その方が楽だね」

授与所と言うのはお守りやお札などを参拝者に授与するところだ。そのお金が神社の維持費や夏祭り代、ついでに星谷家の生活費になる、大事な場所である。

とは言ってもこの神社は地域密着型の普通の神社だから、参拝者はそんなに多くはない。

つまりのんびり座っていられるのだ。

「じゃあしょうがない。ちょっと休憩ね」

「やった!」

私と玲は掃除を切り上げて、適当に巫女の袴に着替える。袴は小さい頃から着ているから着付けも慣れたものだ。

巫女の袴に着替えて、お互いに変になっている場所がないかチェックし、いざ授与所へ。

ゴールデンウィークに入ってから三日、同じ流れの繰り返しだ。

「じゃあ私は境内の掃除してくるから。授与所お願いね」

「了解しました!」

じゃ、と手を振って玲と別れ、私は授与所の中へ入った。

ひんやりとした空気とかすかに香る墨の匂いが心地良い。

授与所の中にある椅子に腰掛けて、懐から作りかけのお守りを幾つか取り出した。どうせ暇なんだから、お守りの一つや二つ作っていたって構いはしないだろう。

お守りの袋を丁寧に縫い、袋の中に何が書いてあるのかもわからないお札を入れていく。

後は袋に紐を通して外れないように留めれば出来上がりだ。

じっと作業をしていると、

「あら、そらちゃん」

という声が聞こえた。

顔を上げるとそこには向かいのおばさんがいる。

「あ、お久しぶりです」

頭を下げると、おばさんは柔らかく笑った。

「久しぶりねぇ。ちょっと見ないうちに立派な娘さんになっちゃって!」

コロコロとおばさんが笑う。

その笑い方も、親しみやすい話し方も、変わってない。

「ありがとうございます。おばさんも変わらないですね」

「あらま、あたしは歳取ったわよぉ!」

アッハッハと笑うおばさんはそのままの流れで世間話を始めた。

「そういえばね、うちのおじいちゃんが最近妙に元気でねぇ。お医者さんにも後保って数ヶ月だろうって言われてたのに、昨日いきなり歩き出したんだ」

不思議なもんだねぇ、とおばさんは笑う。そんなおばさんの表情は喜びに彩られていた。

一方私も笑いながら、ふんわりとした幸福感に包まれる。と同時に、何かが引っかかるようななんとも言えない不思議な気持ちが湧いてくる。

というのも、昨日といえば夢の中でおばさんの『助けて』という声を聞いた日だ。

夢の中の話だというのにはっきり覚えている。

あの時私は、医者じゃないから病気は治せないけれど治るように祈るって言った。

…偶然って重なるものなんだね。

よかった、向かいのおじいちゃんは面白い人で私も大好きだったのだ。元気になってくれると嬉しい。

「よかったですね!おじいちゃんがまた元気になれるよう祈ってますね」

告げるとおばさんは少し目を見開いて。

それからありがとう、と笑ったのだった。


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