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流星のカケラ  作者: 青空
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帰郷と幼なじみ


阿部さんの突然の謝罪から二週間。

阿部さんの言葉は前よりも辛辣になり、それに伴って取り巻きたちの嫌がらせも加速した。

それらに耐えて耐えて、耐えきれず森の中を走り回って野うさぎやリス、さらには始業式の時のクマだと思われる子をもふもふすることでストレス発散をして。

そしてようやく学生のつかの間のオアシス、ゴールデンウィークがやって来た!

「それじゃあそらちゃん、五日後ね!」

「うん、バイバイ」

私たちは一時寮を出て、里帰りする。…とは言っても、私の故郷は学園のある山を降りた麓の田舎なのだが。

ちなみに聖花ちゃんもご両親がいる東京に行くそうだ。う、羨ましくなんてないぞ!

学園が出してくれたバスに乗り、山の麓まで。バス停からは家まで歩きだ。

久しぶりの生まれ育った場所はやはり緑が多く、周りは山で囲まれている。キラキラ輝く小川には魚影が映り、綺麗に並んだ稲の苗は濃い緑色になり始めていた。

懐かしいなぁ。

草いきれのむわりとした甘い匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、私は知らず知らずのうちに微笑んでいた。

と、その時。ガタガタという音とともに、

「あれ?そら?」

という少し低い女性の声が聞こえてきた。

懐かしい幼なじみの声だ。

振り返ると、短い髪を青い風になびかせて自転車を漕ぐセーラー服の少女がこちらに手を見つめている。

その背中に物騒なもの…居合という武術に使う、正真正銘の刀を堂々と担いでいる彼女は、思った通り私の幼なじみだ。

「玲!久しぶり!」

大きく手をふり返すと、我が幼なじみの星谷玲は弾けるような笑みを浮かべた。

「やっぱりアンタか!久しぶり!」

その声は今まで聞いた中で五本の指には入るほど弾んでいた。

「…まったく、アンタなかなか帰ってこないから心配したのよ」

自転車を降りて、手で押しながら歩く幼なじみ殿が涼しげな目元を細めた。

玲はあの『神子』たちには敵わなくとも、十分な美人さんである。しかも同じ中学校に通っていた女子たちが言うには、王子様のような、という但し書きが入るらしい。

…私にしてみれば、刀振り回す幼なじみは王子なんて可愛らしいものには思えないんだけれど。

玲の相手を圧倒する目力も、袴を身につけている時の立ち居振る舞いも雰囲気も、すべて合わせて武将だと思う。しかもかなり手練の。

そんな子に睨まれてみろ。いくら幼なじみだからって威圧感が半端ないんだからな!

「ごめんって。ちょっと色々あってさ」

…主にここまで来るお金がないとか、外出届を出すのがめんどくさいとか。だがそれを言ったら怒られる気がして口を噤んだ。

「どうせめんどくさかったんでしょ」

「あ、バレてたか」

「そりゃ長年幼なじみやってりゃあね」

しょうがないなぁ、という顔をされて私は乾いた笑いを漏らした。

流石幼なじみ様。よくわかっていらっしゃる。そして呆れて物も言えないんですね、わかります。

が、この話題を掘り下げられてもボしか出ない気がして、

「そんなことより、純兄と葵さんは元気?」

と半ば強引に話題を変えた。

純兄とは玲のお兄ちゃんのことで、葵さんは純兄のお嫁さんだ。

純兄はできたお兄ちゃんで、実の妹である玲と一緒に私も可愛がってもらった。葵さんはお菓子作りが趣味の可愛らしい人で、学校帰りには美味しいお菓子を恵んでもらった事も多々ある。

つまり、私にとって純兄と葵さんは本当の兄姉のような夫婦なのだ。

「突然ね…。元気よ。葵姉さんは今妊娠中」

「え、本当⁈男の子?女の子?」

「女の子。兄さんが嬉々として名前考えてるわよ」

親しいふたりの吉報に胸が温かくなる。

うわぁ、女の子か。ふたりの子どもならきっと可愛い子になるんだろうなぁ…!

「それで、どんな名前にするか決まったの?」

「あー、それが兄さんネーミングセンスが皆無でね。考えたもの全部葵姉さんに却下されてるんだわ」

玲がうんざりした顔をして、葵姉さんが考える名前は可愛いんだけれど、兄さんが自分が決めるって言って聞かないしねぇ。と愚痴る。

その様子がありありと目の前に浮かぶようだ。相変わらずな星谷家の様子に私は自然と笑みが漏れた。

「あはは、良い名前に決まるといいねぇ」

「決まらないと困るわよ」

玲はそう言いながらも、口元はゆるい弧を描いている。口ではどう言っていても、やっぱり玲も姪っ子が嬉しいのだろう。

「そらも今日うちに来たら?」

「え、でもお父さんが待ってるだろうし…」

お誘いは嬉しいのだけれど、約一年ぶりに会うお父さんを無視するのも心が痛む。ここは日を改めて行ってもいい日を聞こう…と思ったのに。

「ああ、おじさんならうちにいるよ」

「え?」

何故に?

耳を疑う私に玲はまるで世間話をするように、

「アンタが鈴神学園行ってからさ、うちに住んだらどうだって父さんが誘ったんだ。それでおじさんも神社の仕事手伝うって話でうちにいるよ」

と話す。

って、いやいやいやいや。おかしいから!

「お父さん何やってんの⁈」

「破魔矢とかお守りとか作ってる」

割と器用だよ、とニヤリと笑みを添えて玲は答えた。

違う、聞きたいのはそこじゃない…!

「いやでも、家があるでしょ」

なぜ人さまの家に上がり込んでるんですかね⁈

「引き払ったってさ」

玲の言葉に私は顔を引きつらせた。

マジで!何やってるのお父さん!

そう叫び出したい気分でいっぱいになったゴールでウィーク初日でした。


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