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流星のカケラ  作者: 青空
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聞こえた声


医務室は寮のちょうど真ん中にあり、どこの部屋からでも生徒が来れるように配慮されている。

そのことを私は今日、今までで一番感謝していた。

「あ、あとちょっと…」

吐き気を気合いで押さえ込み、ガンガンする頭を押さえて医務室のドアの前までたどり着いた。

「しつれー、します…」

呂律が回らない。目の前が真っ暗になっていく。

これは本格的にヤバイ。

医務室のドアに寄りかかるようにして開ける。

「…あら、日高さん。どうしたの?」

ぼやけた視界に赤髪の人間が映る。この前もお世話になった保健医さんだ。

「めま、いが…」

…あれ?

自分でも何を言っているのかわからなくなる。地面が近づいてくる。

あれ…?

「……ら!」

保健医さんが私の名前を呼んだ気がした。

ブラックアウト。


鈴の音が響く。

何も見えない。

「可哀想に、食中毒か」

誰かの声が聞こえる。

聞いたことのある声。

「普通の人間なら死んどったわ」

またしても、聞いたことのある声。

誰だろう?

頭が鈍く痛む。

「やはり…の力を持つからか?」

「せやね。厄介なもんやけど、今回はそれのおかげで命拾いしたみたいや」

何の話だろう?

言葉が右から左へと流れていく。

頭の中がふわふわする…。

白い濁流に飲まれる。

彼らの声が遠ざかる。

鈴の音が頭の中で響く…。


………暗い。

夜?

消毒液の匂いがする。

目を開けると、自分のものではない枕が目に入った。

…どこかのベッド?

起き上がろうとすると、ズキンと頭が痛んだ。

「う…」

その痛みで思い出す。

そういえば私、体調が悪くなって医務室まで来たんだっけ。

医務室に入った時の記憶からはないから、また倒れた?

うわぁ、新学期早々体調崩しすぎではなかろうか。これは一度ちゃんとした病院に行ったほうがいいのかな?

重たい体をゆっくりと持ち上げて起き上がる。

すると、向こうで物音がしてカーテンの間から、

「あら、おはよう」

と保健医さんが顔を覗かせた。

「医務室に入ってきた途端倒れたからビックリしたのよ。この間よりも酷い顔色してたし」

保健医さんはそう言いながら、何かの紙を挟んだバインダーとマグカップを持ってベッドサイドまでやって来た。

「はい、これ。ホットミルク作ったの」

どうぞ、と渡されて私はとっさにマグカップを受け取った。マグカップに触れると、指先がジンと熱くなる。どうやら相当指先が冷えていたらしい。

一口飲むと、口の中に牛乳の優しい甘さが広がった。

吐き気はやってこない。

ほっと息を吐くと、空いた手で灯りをつけた保健医さんがふと笑った。

「さっきよりは顔色もいいわね。辛いところはない?」

「…まだ少し頭痛はしますが、大丈夫です」

「そう。じゃあ少しだけ質問していいかしら?」

保健医さんがバインダーとペンを持って問いかける。私は頷いて、保健医さんの質問を待った。

保健医さんの質問はごくごく普通のものだった。睡眠時間とか、夜食べたものとか、最近の体調とか…。

「…やっぱり、食中毒ね。日高さん、夕飯にギョウジャニンニクとかニラとか食べなかった?」

ん?え、それだけで食中毒ってわかるの?

少し疑問に思いながらも、私は正直に今夜の夕飯のメニューを答えた。

「えっと…ニラ炒めを食べました」

「それよ!」

保健医さんは叫んで、真剣な目をして私を見た。…その目に少しだけ哀れみがこもってる気がするのは、私の被害妄想か。

「スイセンやすずらんはニラなどの野菜と間違われやすいの。素人が山菜狩りをするのは危険なのよ」

…ん?山菜狩り?

そんなことをした覚えはない。

それにそこまでしなきゃ食べていけないほど貧窮もしていない。

「山菜狩りなんてしてませんよ。ニラはクラスメイトから貰ったものです」

答えると、保健医さんははぁあっと大きなため息をついた。ついでに額に手を当てて、肩を落とした。

…何か変なことでも言ったかな?

そう思っていると、

「貰い物だからってなんでも食べてはいけません。今回だって一歩間違えれば死んでいたかもしれないのよ」

と叱られてしまった。保健医さんの言葉に、私は言い訳のしようもない。

…確かに今の私の状況ではクラスメイトから普通に野菜がもらえるなんてあり得ない。そもそもクラスメイトたちは料理なんてしないお坊っちゃまお嬢さまばかりなのに。

完全に油断していた。

「…わかりました」

今度からは確実に安全そうなものだけ食べよう。

「わかればよろしい。…今日はこのままここで寝なさい」

保健医さんは灯りを消して、そう言ってくれた。

「はい、ありがとうございます」

お礼を言って、ベッドに寝転んでからふと気付く。

そういえば聖花ちゃんの分のニラ炒め、まだ冷蔵庫に入ったままだ。

聖花ちゃん、食べたりしないよね?

今すぐニラ炒めを廃棄しに行きたい。けれど寝転んだ瞬間に猛烈な眠気が襲ってきて。

抗う間もなく、私は眠りに落ちた。

「ホント、無用心やね」

という声を聞きながら…。


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