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流星のカケラ  作者: 青空
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転校生


さて、ピカピカの新学期。

始業式も終わり、一年生から継続してボッチの私は、学校から指定された席に座ってぼんやりと窓の外を眺めていた。

クラスメイトたちは友だちと春休みの思い出についておしゃべりしていたり、久しぶりの再会を喜んだりしていた。やれバリ島に行っただの、やれブランド物のバッグを買ってもらっただの…。

贅沢してるよね。私なんかお金がなくて寮で勉強か山で散歩だよ。

…あれ?春休みってなんだっけ?

どうでもいいことを考えながら、聞こえてくる会話に色々と突っ込んでみる。

悲しいことに、窓際族にはそんなことでしか暇を潰す手段がないのだ。

と、その時。

「そういえば、このクラスに転校生が来るらしいわよ」

「まあ!どちらから?」

「それが、アメリカのロサンゼルスですって」

「ここの姉妹校らしいですわ」

という、一際高めの大きな声で話す女子たちの声が聞こえた。

女の情報網は恐いなぁ。あんなことまでわかっちゃうんだ…。

ちなみに彼女たちのお嬢さま口調を気にしてはいけない。一々気にしたら負けだ。

それにしても転校生かぁ…。

鈴音学園の姉妹校に行ってたなら、ここの人と同じお金持ちの子の可能性が高いんだろうなぁ。小説や漫画に出てくる悪女みたいな子じゃなきゃいいんだけれど。

なんて思っていると、ガチャリと教室のドアが開き、

「はい、席についてください」

と担任の先生が入ってきた。

教室のドアが公立みたいに引き戸じゃないのは仕様である。観音開きの、落ち着いた赤と金で装飾されていようと、革張りであろうと、あれは教室のドアなのだ。

気にしていたら教室にも入れない。

クラスメイトたちが喋りたいないという顔をして席に戻るのを見ながら私も前を向く。先生の話はキチンと聞いておかないと、確認する相手がいないから何かと不便なのだ。

最近お孫さんが生まれたおばあちゃん先生御歳56歳は教壇に立ち、ぐるりと教室中を見回してふと表情を緩めた。

「はい、みなさん。おはようございます。新学年の最初にみなさんの元気な顔を見れて私は嬉しいです」

お決まりの挨拶が教室に響き、何人かのお行儀の良いクラスメイトたちが会釈する。それに習って私も小さく会釈した。

やっぱり礼儀って大事だよねってことで。

先生はその後も長い休み明けの常套句を述べていく。それを聞き流してほとんどのクラスメイトたちが教室のドアに視線を向ける。

やっぱりみんな、先ほど女子たちが話していた転校生が気になるのだろう。このいろんな意味で閉鎖的な学園で、転校生なんて珍しいなんてものすごく珍しい。もはや伝説のレベルだ。

かく言う人にはあまり興味がない私も、今回は少しだけ気になっている。

こんな辺鄙なところにある、編入試験も難しいって噂の学園にわざわざ転校してくる子ってどんな子なんだろ?良い子だといいなぁ。

私もチラリとドアの方に視線を向ける。あのドアの向こうに転校生がいると思うと、久しぶりにちょっとだけワクワクした。

「では、今日からこのクラスの仲間になる生徒を紹介します。天野さん、入ってください」

「はい!」

先生の呼びかけに、明るくハキハキとした声の持ち主が答える。

教室のドアが開いた。

転校生が教室に足を踏み入れる。

その時私は初めて、美しい人間って輝いて見えるんだということを知った。

ふたつにまとめられたふわふわの髪は太陽の光を溶かし込んだかのような金髪。深緑色の瞳は一等星を閉じ込めたかのようにキラキラと輝き、ほっぺたは桜色に染まっている。さくらんぼ色の唇は緩やかな弧を描き、小柄な身体は歩くたびにピョコピョコ跳ねて見える。

このクラスにやって来た転校生は、どうやら可愛らしい天使らしい、とはその子を一目見た私の感想である。

「天野聖花です、よろしくお願いします!」

転校生、天野さんがぺこりと頭を下げる。

そして顔を上げた天野さんは何を思ったのか、満面の笑みを浮かべた。

うわーぉ。笑った顔も可愛い。

きっとああいう子のことを美少女っていうんだろうね。目の保養になるわぁ。

性格も良さそうだし、私としては天野さん大歓迎だ。

…まぁ、天野さんは隅っこの方でぼーっとしているか勉強しているかの私に大歓迎されても嬉しくないかもしれないけれど。

幸いクラスの子たちのほとんどが私と同じ感想を持ったみたいで、

「よろしくお願いしますわ」

「よろしくな!」

という明るい声が飛び交っている。

よかったよかった。

私は小さく笑い、天野さんから目線をそらした。窓の外を眺めれば、さっきよりも空が明るく見える。

2年生最初の登校日はどうやら吉日のようだ。

しかし私はこの時気づかなかった。

天野さんが胸元をぎゅっと握りしめていたことを…。


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