テロ事件解決!……と?
俺は冷静に場を見極めながら思考を続ける。
人質はどうするか、他のフロアのテロリストはどうするか、ここをどう切り抜けるか。
中をどうにかできれば、後は外の警察やら異能者やらが出張ってきてくれるだろう。俺がすべきなのは、俺がここにいたということ、そして俺が問題解決に動いたという事実を残さないことだ。
もし万が一にも魔法のことがバレれば、即刻研究所でのホルマリン漬けエンドだ。そんな二度目の人生の終わりは真っ平ごめんだ。
自分が異能者である、という言い訳も通じないだろう。なんせ、異能を発言させた者はすぐにどういった異能なのか役所に登録されることになっている。
「…………動くか」
まずは誰にも気取られないように徐々に俺の存在感を薄くしていく。最終的には俺の姿が見えなくなるはずだ。
その作業と平行し、探知を使ってこのデパートと、その周りを調べる。
他フロアのテロリストの位置は先ほどからそれほど変わってない。
外には十数台のパトカーと警察官。そして、その警察官と話している数人の男女。彼らが異能者なのだろうか。
その周りにも大勢の野次馬が……お?
デパートを探知してわかったのだが、何やら壁の中を移動する男の影が見えた。これは……異能者か。
なるほど、壁なんかに潜れる異能か。偵察や奇襲なんかにはもってこいの異能だ。
だが、彼は現状を分かっているのだろうか? バレればこのテロリストたちは人質を殺すと脅していることを知らないのか。あるいはバレる心配がないという自信からなのか。
だがしかし、だ。こいつに俺のことを知られるわけにもいかないのだ。よって、君も仲良く寝ていてもらおうか
俺が使うのは眠りの魔法だ。
無色無臭の魔法の煙をまずは他フロアのテロリスト達の元へと流していく。
ガスマスクをしていようが口を抑えていようが関係ない。息をせずとも無駄だ。なんせこの煙、吸って効果が現れるわけではなく、肌に触れた時点で眠りに落ちる。
おまけに、布数枚くらいなら、繊維の隙間から侵入する。
探知と併用して、遠視の魔法、透視の魔法を使って他フロアのテロリストの様子を確認する。
無色無臭の煙は相手に気づかれることなく、バル○ンの如く他フロアを満たしていく。
そんな煙の存在に気づくことなく、テロリストたちはバッタバッタと眠りの世界に落ちていった。
次は壁の中を移動している異能者と思われる男だが……
探知、遠視、透視を使って正確な位置を把握すると、俺は男の目の前に魔法陣を出現させた。
こっちは先ほどと違い、見るだけで効果を発揮するタイプだ。
突如目の前に出てきた魔法陣を見てしまったのだろう。探知に引っ掛かっていた男の動きが止まっている。
流石に壁に埋まったまま寝るのは可哀想かな? と思ったので、遠隔操作で男が潜っていた壁ごとくり貫いてやる。
さて、これで二十名+一名の無力化に成功。残るはこの場の五人と人質だけだ。
まず初めに人質の固まっているところへ先ほど使った煙を流す。
その際、テロリストの男たちには触れないように注意する。少女を眠らせるため、少女に気持ちの悪い視線を向けるテロリストに触れないように煙を流さねばならないが、六年以上魔法、魔力のコントロールを磨いてきた俺にとっては造作のないことである。
「あ?」
突然眠りについて倒れたしまった少女を見て首を傾げたテロリスト。
おい、どうした? と声をかけるも、少女は規則正しい寝息をたてるだけで反応はない。
「おいおい、こいつ怖くて気絶……あれ?」
そこで、他の客も皆が皆眠ってしまっていることに気付いたのだろう。
その異常な光景に驚いているテロリストはそのことを仲間のテロリストに伝えようと立ち上がる。
が
「おい待てよ」
「な……ン゛ッ!?」
叫ばれると厄介なため、口が開かないように固定の魔法で口を閉ざした。
それに、俺が直接的に動いたことで先ほどまで消していた存在感が戻った。こいつには、俺がいきなり現れたように見えただろう。
すぐにこいつの体も動けないように固定してやる。
本人も自分の状況に気づいたのか、必死に体を動かそうとする。が、体力消耗するだけだ。
手っ取り早く終わらせるか、と俺は男と視線を合わせる。ちなみに、俺に男と近距離で見つめ会う趣味はない。
「『沈め』」
俺の目の表面に魔法陣が浮かび上がる。
これは先ほどの異能者と思われる男に使ったものと少し違う。
見て効果を発揮するものではあるが、効果は眠りと記憶消去。
記憶に関しては、俺の記憶だけを消さしてもらう。
漫画なんかでよくある魔眼だなこりゃ。
体を固定しているため、立ったまま眠りに落ちた男。もう必要ないため固定を解いてやると男はドサッ、と倒れた。
「ん? おい、どうし……っ! 誰だお前!!」
その音に気づいたテロリストの一人が俺の存在に気付いた。
それにつられて、他のテロリストも銃口をこちらに向けて構える。
「誰ってねぇ……答えてもどうせ忘れるから無意味だと思うんだけど」
「撃て!」
「いや話聞こうぜ」
遠慮なく発砲してくるテロリストたちに呆れながらも防御魔法を俺と後ろの眠った人質たちにかけてやる。
強度でいえば、新幹線が突っ込んできても耐えられるレベル。銃では破れる心配は皆無だ。
弾丸が撃ち尽くされる
それでもなお無傷で立つ俺を見たテロリストたちの目は、まるで化け物を見るような目であった。
まぁ、あれだけ撃って何ともないとか普通じゃねぇからな
「な……何なんだよお前は!?」
「何だかん……ゲフンゲフン。だから、別に覚えなくていいって」
ほら、人を指差しちゃいけないって習わなかったの?
「テメェら、そこ退いてろ」
「ボ、ボス!」
そんな中、テロリストたちを押し退けて一人の髭面の大男が姿を表した。
まるでゴリラみたいな奴だ。
「まさか客の中に異能者がいるとは思わなかったぜ」
いえ、普通は考えると思います。
指をポキポキと鳴らして構える男は俺と五メートル程の距離を取って仁王立ちする。
「たが、見たところテメェの異能は守りに特化したやつだろう? なら、それをぶち抜くパワーがありゃいい」
全く見当外れなことを宣っているが、そもそも、魔法なんてチートを知っているわけがないし、教えるつもりもないため無視する。
「でるぞ! ボスのあれ!」
「ボス! そんなやつやっちまってください!」
「はっ! これでテメェも終わりだ! ボスはランクBの筋力強化の能力者なんだからな!」
そもそも、ランクって何なのだろうか。
俺は異能者ではないし、最近まで地方に住んでいた田舎者だ。そこら辺の異能関係の知識は一般人以下なんだぞ? 分かるわけがないだろ
「へへ、そういうこった。んじゃ、とりあえず……」
ボンッ! という音とともに、大男の体が膨張。それと同時に大男の服が破れて弾きとんだ。
「一発ッ!!」
上昇した筋力で駆けた大男のスピードはまさに弾丸の如く。
両手をクロスして自信満々にタックルを仕掛けてくる男。まるで勝利を核心したようなそのニヤケ顔はよく見えた
「まったく、こういう脳筋って相手するとウゼェな」
“時が止まった世界”を歩き、突っ込んだ体勢のまま止まった大男の目の前に立つ。
暇だったので、その額に『肉』と書き込むと、今度は後ろで観戦していた三人を近場にあった縄で拘束。
このまま時を進めてしまうとあの大男が人質の集団に突っ込んでしまうため、大男のすぐ目の前に自身にかけた防御魔法と同程度の強度を持つ障壁を張った。
「そして時は動き出す、なんてな」
ドンッ!! と鈍い音をたてなが障壁に弾き飛ばされる大男。思いっきり頭を打ち付けたのか飛びながら白目を向いていた。正直キモい
観戦していた三人も気づけば縛られているという状況に目を白黒させていた。
あとは簡単なお仕事である。
三人に先ほどの魔眼をかけ、大男の方も魔眼をかけて縄で手足を縛っておく。
起きて縄を引きちぎられないように縄に固定の魔法も忘れない。警察や異能者が来たら魔法が切れるようにしておけば問題ないだろう。
他フロアのテロリスト達を転移の魔法でこの部屋に集めて、まとめて縄で縛っておく。
「あとは人質か」
同じ部屋には置いておけないため、どうしようかと思ったが、入り口近くのところにまとめて置いておくことにした。あとは警察の人たちが何とかしてくれるはずさ!
とにかく、これで事件は解決。魔法がバレる心配もない。
鞄と食材はまた別のところで買おうかと考えて俺はその場を『テレポート』で脱出した。
めでたしためでたしである。
「こんにちは、直井文頼さん。お礼を言いに来たわ」
数日後、あの事件のときの少女が現れたのだった。