新生活の始まりはテロの味
魔法
言葉としてよく見られるのはやはりアニメや漫画の中の話してあるし、設定として魔法の世界というのはよくあることだ。
現に、俺が前世で見ていたアニメもそういったものが多かった。勧められていたネット小説に関しても、生まれ変わった世界で魔法が発展している、なんてのはざらにあった。
もっとも、俺が転生したのは異能、つまるところ超能力の世界だったわけであるが。
「っと……とりあえず、荷物はこんなもんか」
時が過ぎて現在は春。
一週間後に大学の入学式を迎えることになっているため、俺は今日、住居となるアパートに越してきた。
業者の人に頼んで、俺の荷物を部屋まで運び込んでもらったのだが、何もすることがない、というのはそれはそれで暇であるため俺も参加。
ただ、手伝うにしても疲れる、または汗をかくなんぞ御免であるため、身体強化の魔法をかけさせてもらった。……若者としてどうなんだ、とは言わないでおくれ。
業者の人よりも作業をこなしてしまったため、うちで働かない?と冗談目かして声をかけられたが、目がマジだった。ので断った。
とまぁ、そんなこんなで後は荷ほどきを残すのみなのだが、これもとっとと終わらせよう。
「『移動開始』」
体内で魔力を練り、発現させる。
瞬間全ての段ボールのガムテープが剥がれ、中から俺が実家から持ってきたものが飛び出してくる。
それらは、一度空中を舞うよう動くと、次には俺の思うがまま。
組立式の棚も俺が手を触れずとも道具を使わずとも組み立てられるし、完成されたその棚の中に本や漫画、小物などを納めていく。
あぁ、本当に楽だわこれ
なんか、人として堕落してるんじゃないかと感じるが、人間、常に楽を求める生き物だ。仕方ない仕方ない。
ちなみに、声を出す必要はない。気分の問題だな。別に言葉はなんでもいいんだ。『JKニーソ最高』でも。
何で魔法が使えるようになったのかはまだはっきりしたことはわかっていない。そもそも、何で俺だけなのかというのもある。
もしかしたら、俺だけじゃないのかもしれないとかも思ったのだが、周りを見ている限りじゃそんな様子も皆無だった。
まぁ、可能性はゼロじゃないから注意は必要だが
いたとしても、会えるかどうかはわからんがな。
前世の記憶、そして生まれ変わったというのが重要だと考えている。いや、予想だからわからんけど
要は、俺自身分かんないことだらけだから謎ってことだ。
でも便利なら使うに越したことはないなんせ、人間、常に(ry
片付けの終わった部屋を見て、俺はよしっ、と頷いた。
都心であるため、アパートとしては少しばかり高かったが、それなりにしっかりとした造りになっているし、一人で住むには十分だし、彼女とかできて同棲することになっても問題なしだな!
「……彼女、できっかなぁ…」
前世を含めるとアラフォーという悲しき現実ではあるが、体は健全な青年であるし、心の方も大学生のつもりである。
思うんだが、精神ってのは周りの環境があってこそだと考えている。精神が育つのは、周りが互いに影響しあって育つもので、つまり、これまで自身の精神よりも下の子供といた俺の精神は前世とそれほど変わりがない。
要するに、俺は精神も大学生なのだ
まぁ、前世合わせて30歳で魔法使いってのは気になるところではあるが。
閑話休題
さて、実家から持ったきた組立式の簡易ベッドも設置し終えたし、後は食材を買い込んで入学式を待つだけか。
スーツはこっちにくる前に揃えて今はクローゼットの中。教材とかは入学式当日に配付らしいから問題はなし。
「……あ、そうだ、鞄」
通学用の鞄がないことに気づく。
大学は高校と違って指定ではないので、うっかりしていた。
「……無難にリュックでいいか」
量が入るし、両手も空くしな、とポケットに財布と家の鍵を持って外に出る。
確か、ここらへんに地下にスーパーを併設したデパートがあったはずだ。そこなら、鞄も食材も両方買えるだろう。
俺は靴を履くと、ドアを開ける前に部屋を見渡した。
今日からここが、俺の部屋、俺の城。こうしてみると、なかなか感慨深いものがある。
一人暮らしは大変かもしれないが、やるだけの意味はあるだろう。
「さようなら、昨日までの生活。こんにちは、新生活!」
さぁ、まずはスタイリッシュに買い物でもしてみようか!
「オラテメェラ!! 暴れんじゃねぇぞ!?!?」
「おいこら、大事な人質だ。勝手に手ぇ出すんじゃねぇぞ?」
「あぁ!? んなことわかってんだよ!」
「……」
何故、こんなことになったのであろうか。
確か、俺は素晴らしい大学生活のスタートダッシュを決めるべく、近場のデパートへ買い物に来ただけのはずだったんだが……
「マ゛マ゛~!! パバ~~!!」
「おい!! そこのガキ黙らせろ!!」
隅の方で一纏めにされた俺を含めた買い物客。そんな中の一人である幼い少女が泣き喚けば、それにイラついた男が怒号を飛ばす。
……なんか、テロに巻き込まれたっぽい。まさか、本当に厄介事に巻き込まれるとは…
買い物中に銃を片手にデパートに現れた集団は、瞬く間に客を集め、デパートを封鎖。
何やら電話口に叫んでいるようだが、聴覚を強化して聞いてみればどうやら金の要求をしているらしい。
外からパトカーのサイレンが聞こえているため、もう外には人だかりでもできているのだろう。
…しかしながら
チラリ、とテロリスト達に視線をやる。
人数は見た限りでは五人。先程、探知などで探ったところ、ほかのフロアに合計二十人。よくわからないが、数は揃っている。
犯行もここまでの手際を見る限りは計画的、とみていいだろう。
「いいか!! 一人でも異能者を寄越してみろ! すぐにここの人質を殺すからな!!」
えらい簡単に、物騒な言葉が吐けるな。
殺す、という言葉に場の人たちが騒然とする。
「おいおい、嬢ちゃんよぉ~。なんだぁ? その目は、あ?」
「……」
そんな中、テロリストの一人が一人の制服の少女に目をつけた。
腰まであるんじゃないかと思われる綺麗な黒髪に、整った顔立ちは美少女と呼んでも過言ではない。俺の地元でもあのレベルの女子はいなかった。
がしかし、少女はそんな顔立ちが無意味なほどの無表情だった。
「なかなかの上玉じゃねぇか! くぅ~! ヤりてぇ!」
「バカお前、ボスに人質には手を出すなって言われてるだろうが」
わぁーってるよ、と返す男はそのまま少女を舐めるように見つめ始める。
少女の方は目を瞑ったり、目を反らしたりととにかく男を視界に入れたくないようだった。
そして、目を反らした少女と目があった。
「……はぁ…」
何でそんな目を俺に向けるのかね…
少女からすれば、俺なんかごく普通の大学生だろうに。何故俺に、そんな『助けを求める』目を向けるのか
人質ではあるが、別に縛られているわけではない。
そのため、体は自由に動くし、行動に支障はない。
テロリスト計二十五人
魔法やらなんやらは、あんまり公にはできないんだけど…
「…いろいろと事後処理がめんどくさそうだ」