プロローグ
エタらないようがんばります
転生、というものをご存じだろうか?
よくネット小説なんかで転生やらなんやらというのが流行っている時期もあったし、友人やアニオタ仲間たちにもよく勧められていたため、そういったものについてはよく知っている。
あれだろ? 事故とかで死んだら神様が出て来て「実は間違いだったのじゃー」からの御詫びでなにかしらのチート能力を貰って地球とは異なる世界に生まれ変わり、そして貰ったチートで異世界ヒャッハァー! みたいな
かなりの偏見なのかもしれないが、おおよそはそんな感じではないのだろうか?
あとは大量の女の子を侍らせてハーレム万歳、みたいな? 俺自身はあんまり好かなかったが、友人が大興奮で語ってくれた思い出がある。ざっと五時間くらい。正直殺意が沸いたのはここだけの話だ。
その友人曰く、手ブラジーンズや裸エプロンを巨乳美少女がやるのが至高らしい。いや、知らんがな
それに、俺は手に収まるくらいが……いや、話がずれたな。現況の田中には制裁を下さねば
もう無理だけど
さて、話がずれてしまったが、転生についてだ。
俺が知っている限りでは死んでから神様やらなんやらが出てくると聞いていたのだが、所詮は物語の中の話であったのだろうか?
今からでも可能であるのならば、そういった系統の小説を仲間たちに勧めてほしいものだ。
もっとも、生まれてから十八年経ってしまった今ではもう遅すぎる話ではあるのだろうが。
さて、ここまで前置きの話をしておけば、勘の悪い奴でも俺の状況というのがわかるだろう。
……え?わからない? なら、そういう奴のためにこの俺自らがズバッ!と答えてやろう。今は朝だから朝ズ○だな
「卒業生代表! 佐藤 太郎! 前へ!」
「はい!」
生まれてこのかた十八年。今日この日に高校を卒業するこの俺、直井 文頼
前世の記憶を持っている転生者でございます。
あれは確か、大学受験を迎えた高三の冬だっただろうか?
アニオタ仲間と遊んだりはしていたが、真面目に勉強していたためそこそこの成績は残せていたはずだ。
だから、担任教師との面談でも志望校には十分な実力があると太鼓判も押されたし、それに自惚れずに受験勉強もしていた。
自分の時間が減る、という理由でバイトはしなかったし、勉強も自分でできたために予備校にもいかなかった。家も一般家庭の父と母と俺の三人暮らし…だったと思う。
正直、それ以外についてもあやふやな部分はある。なんせ、十八年も経っているのだ。忘れる部分があるのは仕方ないことだろう。
だが、あの時のことはしっかりと覚えている。
突然だった。
確か、センター試験当日で、試験会場へ向かうところだったか。
受験生でごった返すホーム。普段は仕事へ向かうサラリーマンばかりで学生の姿なんぞチラホラと、というのがこのホームの日常だったのだが、その日に限っては駅を埋め尽くさんばかりの学生で溢れていた。
俺の街ってこんなに学生いたのな、と考えていた気がする。
数人のグループで談笑する者、頭の中で考えているのかブツブツと独り言を漏らす者、教科書や赤本を開いて最後まで諦めない者。
そわな中で俺は確か赤本を広げてホームの一番前に立っていたはずだ。
友人もアニオタ仲間も受験会場が違ったため、俺一人で往くことになったのは覚えている。あいつらにボッチボッチと煽られたのはよく覚えている。
あいつら、許すまじ
で、だ。
俺の視線が何かしらの文字を追っていたはずだし、ホームに電車が入ってくる音も耳に届いていた。
あと、何かと背中でぶつかって体が投げ出される感覚も
そこから先の記憶がない。そこで前世の記憶は終了。次には赤ん坊だったって話だ。
まぁ状況から察するに、ホームから落ちて、あとは電車でグシャッと逝ったのだろう。
あれが故意なのか事故なのかは今更俺が知った話ではないが、できることなら受験後に見ようとためていたアニメを見たかった。
もっとも、違う世界ではあれど、こうして生きているのが奇跡みたいなものか。
「おう、直井。お前って大学はどうするんだ?」
「ん? ああ、東京の方に大学があるからな。上京して一人暮らしってとこか」
「お前頭いいもんな」
「へぇ! そりゃ羨ましいな!」
「可愛い女の子がいたら紹介してくれ!」
卒業式が終わって、自分の席だったところでゆっくりしていると、そうやって友人たちが話しかけてくる。
前世があったからか、某名探偵の如く体と精神があっていなかった俺は幼少期から中学まではボッチもボッチ。キングオブボッチであった。
やっていることが幼稚に見えて参加したくなかったのだが、やはりそれでもコミュニケーションはとるべきだったか。
高校になって漸く馴染める友人が多数できた俺は、精神年齢だけは無駄に高いためか、相談役みたいなこともしていた。
元々そこそこの大学にいけるだけの頭もあったため、成績も昔からよかった。
……もしかして、それも原因でボッチだったりしたのかね?
まぁ今更だ。
「まぁなんだ。俺にそういう縁があれば、の話だけどな」
「ダイジョブダイジョブ。お前、身嗜みさえ気を付ければそこそこだから」
「俺には及ばんがな」(キリッ)
「黙れブサメン」
「……なんか、こういうのも今日で終わりなんだな…」
この三人は高校入学時からの友人だった。確か、一番最初に俺に話しかけてきてくれたのがこいつらだったと思う。
よく考えたら、高校生活が上手くいっていたのはこいつらがいてくれたからというのもあるのだろう。
「まぁな。けど、連絡はいつでもできるし、長期休暇はお前も帰ってくるだろ? なら、その時に集まればいい」
「だな。その時には今よりかっこよくなっている俺を見て驚くなよ?」
「お前はそろそろ現実を見ろ」
変わらない友人達のやり取りに思わず笑みを浮かべてしまう。
「けど、お前も気を付けろよ? 東京には、確か異能者を養成する学園かなんかがあったはずだ。変なことに巻き込まれるなよ?」
「そんなことにはならないと思うんだが…」
「いや、なるね。俺が保証しよう。なんせ、お前はトラブルメーカーだ」
「今でも忘れない、あの修学旅行を…!!」
「まさか、あんなことになろうとは…」
「…なんもなかったよな?」
「「「うん!」」」
元気よく、親指をたててウィンクする三人に思わず呆れてしまう。
「けど、ほんと気を付けろよ? 最近はテロやなんやで物騒になってるからよ」
「俺達一般人からすれば迷惑な話だよな」
「実は、俺のこの顔、異能でこうなってるだけで素顔はイケメンなんだぜ?」
「「「それはない」」」
思わず声が出た。
俺も反応したことに一瞬ばかり驚きの表情を浮かべた三人であったが、次には笑みを浮かべてハイタッチをしだした。
なんなんだお前たちは
「何だかんだと聞かれたら!」
「まて、それは何かまずい気がするからやめろ」
「…答えてあげるのが」
「果敢にチャレンジするな!」
「…やはり、こいつにはツッコミの才能があるな…」
「然り」
「何なんだよお前ら…」
「「何だかんだと」」
「もういいよ!?」
「お前たち! 卒業式は終わってるんだ、早く帰れ!!」
「「「「へーい」」」」
少し騒がしくしすぎたのだろうか、教室の前を通りかかったのであろう先生の怒号が飛んでくる。
軽く返事だけを返し、お互いをみやって笑った。
「んじゃ、帰るか」
「だな、高校三年間、楽しかったぜ」
「こちらこそだ。ありがとうな」
「礼は俺からもだぜ。ありがとうな」
学校指定の鞄を肩から下げる。
「それじゃ、また夏期休暇でな」
「ああ。それじゃあな」
あばよ~と手を振って帰路につく三人の背中を見送り、俺も帰路につく。
今年の受験で見事東京の大学へと進学することになった俺は地元を離れて向こうで一人暮らしを始めることになっている。
東京、とあるとおり、この世界は前世と殆どかわりない。文化も経済も殆ど同じだ。
だが、ただひとつ、前世にはないものがあった。それが異能だ、
今では人類の約三割が何かしらの異能を持っているとされている。
異能とは、所謂超能力のことだ。だいたい六歳までには才能があるものは発言するとされている。
近年ではそんな異能を持った人間、異能者が犯罪を起こしたり、反異能者の者たちがテロを起こしたりで前世よりも物騒ではあるが、それに対する組織もあるためそこまで問題ではない。
生まれてこの事実を知った当初はテンションアゲアゲ。アニオタの性か、俺にもそう言ったものがあると信じきっていたのだが、いつまで経っても発言してくれない異能に、恥ずかしがりなのかな? と現実逃避をした時期もあったが、十歳になる頃には現実を見て諦めたのだ。
どうも、俺にはそういったものは無縁だったらしい。
結局は、俺は前世の記憶があり、無駄に大人びたボッチな少年というたち位置だった。
十二歳になるまでは
「…さて、帰るか」
少し人通りの少ない道から外れて、全く人の来ない場所へと移動する。
十二歳からの六年間で制御も操作も自由自在。ほぼなんでもできるため、チートとはこういうのを言うのだろう。
「『テレポート』」
瞬間、視界が歪み、次には自宅の裏の光景が目にはいる。
「…やっぱ、魔法ってすげえわ」
そう、俺は十二歳になったあの日から
魔法使いになったのだから