領地を増やそう1
「今日の成果は?」
「カニが5杯、ヒラメ3匹です。ご主人」
ウンウン、まずまずの成果だ。
この地に落とされて14日目。
はじめはどうなるかと思ったが何とか生き延びている。
あの憎らしい女神に嵌められ、このダンジョンマスターヒーローズ! オンライン、略してダン・マス!と同じ世界?………………異世界へと落とされた。
…………本当に落とされたんだぞ!あのアホ女神が!
……………………………………………………
俺の名は塚見 春生。♂で
20歳の日本人だ。
東京の外れの家賃の安いアパートで独り暮らしで3流と言われる名も知られていない大学の学生をしている。
金も無いので日々アルバイトの毎日だった。
親の仕送りもあるができるだけ頼りにはせず、そっちは貯金に回し死を感じた時に親に感謝をしつつ貯金をおろす。
こんな状況だから彼女なんていない。
唯一の楽しみはゲームだけ。
アニメとゲーム、俺は悩んだ末にゲームをとった。
両方を楽しむ余裕なんてないからな。
明るい内は大学に通い、夜はアルバイトに励む。
見てくれは普通?の俺でも、とあるバーで雇ってもらい週4日働いている。
ほぼ裏方で綺麗なお姉さまのパシりをさせて貰っています。
こんな俺でも料理と掃除は得意で格好いい男性スタッフやお姉さまに可愛がられていた。
………………いや、利用されていたかな?
そんな普通の日常を送っていた俺だが、ふと立ち寄った本屋で見かけたゲーム雑誌を手に取り中を読むとこのダン・マス!=ダンジョンマスターヒーローズ! オンラインの記事を読んだ。
たいして期待していなかったが限定100人のみ先行販売をすると書いてあるではないか、本格発売はその半年後。
この見覚えの無いマイナー感ある雑誌購入者限定で応募できるらしい。
怪しい気もするが何か惹き付けられる。
ダメ元でその雑誌を購入しネットにて雑誌パスを入力。
後は抽選で当たる事を祈る。
そんな事も忘れかけていたある日、俺のパソコンに1通のメールがきていた。
「お!………ダン・マス!からか」
さっそくメールを開き中を確認する。
記載されていたアドレスから中に入るとダンジョンマスターヒーローズ! オンラインの文字。
ワクワクしながら購入画面に行く。
「わぁ!………8万か、なんて強気な」
画面を見ながら唸る。
ちなみにここの家賃は5万2千円である。
2DKの風呂トイレ付き、最寄り駅まで徒歩30分。
凄く悩むが限定特典で様々な特典が付いているらしい。
通常販売時はこの半額以下で特典なしとの文句も書いてある。
「グッ!………ここは無理してでも買いか?」
心の中で両親に感謝をして購入ボタンをクリック。
ダウンロードされている間に飯の用意をする。
今日と明日はバイトは休み、だからコンビニで弁当を買ってある。
バイトがある日はそこで作った余り物を貰い食費を浮かしている。
電子レンジで温め、みそ汁の鍋に火をかける。
パソコンの画面を覗くとまだ半分もダウンロードが進んでいない。
「………容量、足りるか?」
ちゃんと確かめたはずなのだが意外と時間がかかる。
そんなに容量は大きくは無かったはずなのだが不安が過る。
だが、途中で止めるわけにもいかずご飯を済ますことにした。
20分後、飯を食べ終え画面を見る。
さすがにダウンロードも終わり、ダンジョンマスターヒーローズ!の文字が画面に。
【さあ、始めるとしましょう】
最初からと書いてあるのをクリックすると女の声で音声が流れる。
妙に人間ぽく楽しげに聞こえ、機械の音声とは思えないほどだ。
最初はダンジョンマスターなる人物の創造。
「これが俺の分身か………」
人族、獣人族、妖精族、魔族の4種。
これの中から操作するキャラクターを選ぶらしい。
これを1つ1つ見ていき自分の気に入った分身を作る。
人族=こちらは万能型のようで突出するものは無いが使いやすそうだ。
体力、攻撃力、防御力、敏捷性、魔力とほぼ平均値で育てがいがある。
獣人族=人の姿に獣耳と尻尾と萌え要素が満載でぜひ女性キャラでプレイしたい。
体力、攻撃力、敏捷性が高く、防御力と魔力が少し低めだ。
妖精族=エルフやドワーフなどお馴染みの姿が目立つ。
ピクシーや樹人など変わった存在も多い。
こちらは魔力、敏捷性が高くずば抜けているが体力、攻撃力、防御率がやや低い。
魔族=禍禍しい姿のキャラが多く、ゴブリンから魔王まで、人の姿をしているキャラは割りと少なめかも。
こちらは魔力、攻撃力、防御力が高く、体力、敏捷性が低い。
これらは初期設定で個々の種族で設定値に違いは有るが、成長させると進化すると書いてある。
ざっと200体以上はある。
その中で自分の分身を決めねば。
ダンジョンマスターである自分が倒されればゲーム終了となるらしいので慎重に決めたい。
アレコレと悩み結論が出ない。
仕方なく風呂へと向かい気分を変えてみようと思う。
30分ほどして風呂から上り、冷蔵庫からチューハイを出すと半分ほど飲み、更に30分ほど悩みパソコンに向かう。
椅子に座り机の上のパソコンを見ると。
「え?………限定キャラ?」
さっきまでそんな表示は無かった。
風呂に入っている間に追加されたのか?
そこをクリックして中を見る。
「竜?竜人?精霊?精霊人?神人?魔神?………………吸血鬼狼?」
能力値は前の種族とほとんど同じたが………………。
「またキャラが増えた!」
悩みが増えた。
今流行りのVRMMOじゃないくせに懲りすぎだろ!
仮想現実世界へと誘う、人気のシステムでそれこそ思い思いの姿で冒険ができる凄いゲームだが値段が高い。
心の中で悪態をつき、この中から1体を選ばなければゲームが始まらない。
画面を見つめながら20分、アレコレと悩みながら操作をする。
すると最後に呟いた吸血鬼狼に目が止まる。
「………………夜の帝王」
何か素敵なフレーズが付いている。
吸血姫と狼男のハーフらしく吸血鬼の弱点とされる太陽の光でも平気なようだ。
種族は魔族。
不死に近い体と狼男への変身モード………………これでいいかな。
何か惹かれる、このまま悩んでもはじまらないのでこれに決めた。
吸血鬼狼にカーソルをあわせ顔の形や髪の色などカスタマイズ画面に移行。
俺の身長が174㎝、だが、分身なら185㎝は欲しいのでそれで設定。
体つきは細面ての筋肉質、顔はやはり涼しげな顔立で格好いい方が吸血鬼らしいか、髪はやはり銀髪が良いので目元にややかかる位の長さに決める。
最後に名前をハルで登録して終了。
「良し、これでスタートだ!」
長い時間がかかったがこれでようやくダンジョンマスターヒーローズ!が始められる。
決定ボタンを押し、ワクワクしながら待つ。
画面が暗転してムービーが………………。
「なに!?」
【サポートキャラの設定】
それを見て固まる。
ズラッと並んだらキャラ達。
数時間前に見た光景がダブる。
「………また、アレをやれと………」
俺は涙を流し再びキャラ作りに没頭するはめになった。
「クソ、今日中に始められるのか?」
再びキャラ選びに時間がとられる。
すでに深夜を回っている。
このまま朝までやっても大学もバイトも休みだからそこまで追い込まれてはいないが、ずっと頭を使っていて正直重たい。
たが、サポートキャラだ。
当然、女性キャラにする。
そしてメイドさん。
サポートならメイドさんだろ。
グラマーで美人さんが良い。
そうなると人族では面白くない。
エルフも惹かれるが胸が残念だ。
サポートキャラの場合、名前と髪の色と服装しか選べないらしい。
性格うんぬんはランダムで俺の運しだい。
見た目だけで選ぶだけでも時間がかかるので、それはそれで有りがたい。
ふと、エルフの隣のダークエルフに目が行く。
銀髪で肌の色が黒く……………胸が大きい!
ダークエルフのメイドさん。
うん!しっくりとくるものがある。
さっそくこのキャラに決める。
髪の色はこのまま、服装は日本風にアレンジされたメイド服………名前は。
「シュシュでいいかな?」
サポートキャラのダークエルフの名前をシュシュで入力して決定。
さあ、これで良いだろ!
早く始めさせろ!
パッ!と画面が強く光る。
眩しいぐらいの閃光。
「うわ!な、なんだよ?」
手で顔を隠し目を閉じる。
フ~と意識が遠のく感覚が………………………。
【やっと来たのね!】
耳元で女の声が聞こえる。
「………………」
【さっさと起きなさいよ!】
「!」
ガバッ!と俺は起き上がる。
「は?」
おもわず目が点になる。
【やっと起きた。お前が最後よ】
何も無い空間。
白く輝き浮いている?
【ボケッとしてんじゃないわよ!】
「え?」
あまりの出来事に呆然としていると背後から女性の声が、おもわず振り向くと長いピンク色の髪をした綺麗な女性が居る。
「………貴女は?それにここは?」
白い空間に白い露出の高い服を着た女性だ。
豊満な胸元まで切り込みが入った大胆な服。
ピンク色の髪にスラッとした手足に体つき、それに日本人離れした綺麗な顔。
そしてそれが俺の目の前に居る?
もしかするとVRMMOだったのかコレ?
だが、それを装着してゲームをしていた訳じゃない。
【これは現実よ。お前を私が召還したのよ。フフフ、この美の女神がね!】
「………………フッ」
【何よ?】
「ゲームキャラの分際で大口を叩きおって、これは最新技術を導入した新しいVRMMOなんだろ?理屈はわからんがあの光がそれだろ?全く、俺に無断で実験台にしやがってクレームを入れるぞ!とりあえずゲームは終わりだ!さっさと現実に戻せアホが!」
目をパチクリさせキョトンとした表情をする自称女神。
だんだんと理解したのかその目がつり上がる。
【人間の分際で女神に悪態をつくとはゲームを始める前に殺すわよ?】
「はん!付き合いきれん。もういいわ!自分でやる」
俺はメニュー画面を開くべく右手を軽く前に振る。
「?」
何もでない。
じゃあ思考型かとメニューと思い浮かべる。
「?」
何もでない。
「メニュー画面」
次ぎは声を出す。
「?」
何もでない。
くそ!不良品だったか、説明書を読まずにプレイする癖が裏目に出た。
俺は自称女神を見てゲームを終了すると告げる。
【そう?良いけど今帰れば死ぬわよ?】
「なに?………どういう事だ?」
ゲームキャラの癖に所有者を脅かしおって。
絶対にこのゲームを作った会社にクレームを入れる事を固く誓う。
だが、今ここでそれを言っても抜けださなければ始まらない。
俺は仕方なくゲームを進行させる事にした。
【あなたは地球から異世界に召還されたの、もう向こうに体は無いし存在も消されている。帰りたければこれから始まるゲームに勝ちなさい。勝者にはどんな願いも1つだか叶えて地球に帰してあげるわ。巨万な富でも永遠の命でも何でもよ?】
ふ~ん。そう言う設定か。
俺が無感動で自称女神を見ていると。
【………信じてないわね?】
当たり前だこのアホ女神が!
さっさと先に進めろ。
ゲームが始まらないとゲームが終了できない仕組みなんだろ?
「いいえ、女神様。俺が間違っていました。俺は神に選ばれた勇者なのですね!」
ウワ!………言っていて背中が痒くなる。
だが、これもバイト先で身に付けたテクニック。
名付けて裏腹。
例え、気に食わない相手でも笑顔で接して金を落とされるテクニック。
ただのプログラムには見抜けまい。
【勇者………そう!貴方は私の勇者様よ】
一瞬、躊躇いやがった。
プログラムにしては芸が細かい。
「はい、女神様!俺を導いて下さい」
どうだ!ここまで言えば先に進むだろう。
【ふ~ん。まあ、いいわ】
ギクッ!
何故かプログラムのはずの女神の言葉に悪寒が走った。
だが、ここで止めるわけにはいかない。
「女神様、貴女の名前をお教え下さいませんか?」
【そうね………まだ早いわ】
「ハア?」
【もしお前が生き残ってまた会う時が来たら教えて…あ・げ・る】
ピクッ!
自称女神が優越感まるだしに俺にウィンクをしやがる。
フツフツと沸く怒りの炎を懸命に抑える。
「わ、わかりました。どうぞ先に進んで下さい」
自称女神に頭を下げ顔を隠す。
今の俺の怒りの表情を見られる訳にはいかない。
10秒ほど頭を下げてから顔を上げる。
【じゃあ説明するわ。お前はダンジョンマスターという種族に生まれ変わるの、そこで私達が用意したステージと敵を倒し、私達が考えた課題を全てクリアした者のみ望みを叶えてあげるわ。どう、わかりやすいでしょ?】
ふむふむ。
それが本筋でダンジョンマスターとなって敵を倒す。
分岐で課題とやらをクリアしていくと特典有りってところかな?
分かりやすいし、難しい事も無そうだ。
【最初の課題は領地拡大よ】
「領地?」
【そうよ。お前の拠点となるダンジョン。これを見れば分かると思うけど、最初はこの1マスのみがお前の領地よ】
自称女神が僕の目の前にオセロの盤のような映像を見せその1マスが点滅する。
【10×10の100マス。白い駒がプレイヤーね。黒い駒が敵よ、この黒い駒に進攻して自分の領地とするの】
この映像を見ると白い駒が4つ、バラバラに配置されている。
俺以外に3人ゲームに参加するようだ。
確かオンラインのゲームだったはずだが参加者が少なくないか?
「プレイヤーが少ないのは何故だ?」
【フフフ、いきなりバトル・ロイヤルは面白くないでしょ?…だから各エリアに別れてもらっているわ】
ふむ。
参加人数が少ないのはわかった。
俺の配置が不明だが他のプレイヤーと接触できれば会話もできるか。
皆、不満に思っているはずだ。
このクソゲーを作った会社に文句を言いたいはず。
俺1人では弱いかもしれん。
ゲーム進めて仲間を増やす方が得策かもしれな。
先ずはおとなしくゲームを始めさせて離脱。
後日、ゲームを進めて不満のある仲間を集めてクレーム攻撃をしてやる。
【じゃあ、次ぎはダンジョンマスターになってね】
「はあ?って何をする?」
自称女神がニッコリと頬笑み俺の頭を片手で掴み締め上げる。
「痛ッ!イタタタタ!」
【フフフフ~ン。直ぐに終わるわよ。男の子でしょう?痛いのくらい我慢しなさいよ。それにまさかあの条件をクリアしてレアキャラを出すなんて神さえも越える強運ね】
「イタタ………レア?」
【ええ、お前だけよ。ゲームを1時間放置で出現するレアキャラを選んだのは、誰もだせないと思って自信満々で皆に承諾させたのに………これぐらい我慢しなさい】
もう痛みで意識が朦朧としはじめる。
それに幻覚も見えだしたようだ。
俺の頭を締め上げている自称女神の手が光を放っているように見える。
それが俺の体を覆い体内に入ると。
「グア~!!!!」
光が入った全身に焼けるような激痛が。
肉が裂け、骨が砕け、皮膚が焼ける。
光の炎に包まれ俺は意識を失った。
【あれ?死んだ?………まあ、いいわ。ここでは死なないはずだし、煩くなくて仕事も捗るわ。さて、さっさと身体改造を終わらせましょう。それにして吸血鬼狼を選らぶなんて面倒くさくて大変なんだから。あ~あ、私の一部を移植しなくちゃならないなんて………これぐらいの痛みは当然よ】
気が付くと俺は横なり寝ていた。
身体中の痛みも消え、清々しさも感じる。
「あれは何処だ?」
人を痛めつけたあの自称女神の姿を探す。
さんざん人を嬲り殺しにしやがって………………なぜ痛みを感じた?
ここで疑問が沸いた。ここはゲームの中のはず、それが痛みを感じる?
ドクン!
心臓が大きな音をたてる。
初めからそういう設定なのか?
それにしては痛みがリアルすぎる。
まさかと思い自分の手をつねってみようと両手を見ると…………目に入るのは赤い服と白い肌?
「…………誰?」
日焼けなど進んでしようとは思わないが、それでもほんのりとは黒く焼けた肌だったはず、だが自分の両手を見ると病的なほど肌が白い。
手の指を動かし自分の手かを確認したが俺の意思通りに動く。
「…………俺の手だ」
ハッ!として俺は自分の体を見る。
赤のタキシードに赤のマント。
自分の家で着ていた物が消えている。
それに……………………。
「なんで髪の毛が銀色なんだ?」
そう、俺の前髪が銀色をしている。
この状態、見覚えがある。
【どう、お前の希望通りだろ?】
呆然としているとあの自称女神の声が聞こえた。
「ど、どんな手品を使った!それにこの服はなんだ!」
プログラムの女神が答えられるはずもないが、そう叫ばずにはいられなかった。
【フン!手品なわけがないじゃない。それが神の力よ!それにその服は自動洗浄、自動修復、お前のレベルが上がる度に防御力が増す優れ物なのよ!私の好きな色にしてやったんだから感謝すべきよ】
イヤイヤ、落ち着け。
姿が変わるのがこのゲームでは普通なんだ。
痛みはプログラムの不備、この自称女神の言うことなんて信じる事はない。
「…………わかった。それで次は?」
とにかく今は先に進むこと。
服もゲームが始まったら着替えればいい。
【拠点の創造ね。お前に与えられる領地は…………東⚪ドーム1個分の面積。それを三階層ね。最下層はお前の住居兼最終決戦場となるからよく考えて作りなさい。1階、2階は敵を殲滅するためのダンジョンね。ただ、最初から最強戦力で殲滅してもポイントは少なく貯まらないから、出来るだけ奥深くまで誘い込むことをお奨めするわ】
「ポイント?」
【そうよ、私達が用意した物をダンジョンで得たポイントで交換できるわ。ゲームが始まったら確認しておきなさい】
「…………それはどうやったら貯まる?」
ダンジョンの中に入れるだけで貯まるのか、生物を殺して得るのかでダンジョンの造りが変わる。
【基本1日1ポイントよ。人でも獣でも魔物でも虫でもダンジョンに入ると1ポイント貰えるわ。ただ、自分の配下に加えた者からはポイントは取れない。ダンジョンに入った者は24時間後にはまた1ポイントを同じ人から貰えるわ】
「…………つまり、24時間後に1度リセットされてポイントを得られる」
【そうよ。でも、流石に微生物からはポイントはとれないわよ。それにダンジョン内では虫は生息しにくいから魔物を捕まえて放し飼いにすることね】
「はあ?魔物を捕まえる?」
【ええ、この黒の駒は私達が用意したダンジョンマスターなのよ、だからこのマスには魔物を配置しているわ。ダンジョンの上には地上が存在するからね】
「………………」
と、言うことは俺の領地の上にも地上が存在するということ。
だが、なぜ領地なのか?
それが顔に出てたのか自称女神が追加の言葉を話す。
【お前のダンジョンの上には人が住めるのよ。それを上手く使ってポイントを貯めるのよ。悪政をすれば人心は離れるし、善政をすれば人が増える。当たり前の事ね】
成る程、SRPGだったか。
レベルを上げ自分の領土を拡大し、領地を繁栄させ神の課題に挑む。
俺は理解したと頷く。
【そう、なら自分のダンジョンを作りなさいな】
「!」
俺の目の前にダンジョン創造画面が映し出された。
【お前の思考から動かせるから好きに作りなさいな。ダメな時はエラーが表示されるから思う通りやりなさい】
「う~ん…………悩む」
先ずは居住区兼決戦場、いわゆる俺が待ち構える謁見の間だ。
東⚪ドーム1個分の敷地面積、それが地下に沈みダンジョンとなっている。
それを考えると第1ステージ呼べる世界は広くはない。
「ちなみに1マスの大きさは?」
【300×300mよ。その中央にダンジョンが配備されるわ】
縦300、横300の正方形。
縦10マス、横10マスしかない世界だ。
東⚪ドームの面積となると確か一辺が約216m、高さ約56mぐらいだったかな?
さすがにその高さのダンジョンではないと思う。
それを考えると隣のマスのダンジョンとの距離が非常に近い。
「質問があるのだが」
【何よ?】
「俺のダンジョンと敵のダンジョンの距離が近い。もしかして地上以外にダンジョンから直接横穴を掘って攻められないか?」
【できるわよ】
さも当然のように言いやがった。
「それなら地上に人を住まわせても余りメリットが無い?」
【そうとも言えないわね。ダンジョンから直接仕掛けるには横穴を掘らないといけないから、可能だけど1メートルにつき最初は五万ポイント、2回目は10万ポイント、3回目は20万ポイントと倍になって増えていくから序盤では使えないし、受け継がれて次に進むから最後には京を越えるポイントが必要よ。やるなら最後の奥の手ね】
なるほど、序盤で使うには勿体ないということか。
ポイントを貯め、自分のレベルを上げる。
聞けば答えてくれるが全質問に答えてくれるのか?
「レベルはどう上げる?」
【それぐらい自分で考えなさい。それよりさっさと終わらせてよ】
…………教えてくれのか!
親切なのかわからん自称女神だな。
だが、こちらを見る女神の目がキツイので最下層の居住区から作るか。
最終決戦の謁見の間は端の真ん中辺りでいい。
それらしき部屋を画面にあてはめる。
謁見の間、壁を作って扉をはさみ階段と謁見の間を通る通路。
装飾に柱や仕掛け………は無い?
「おい、トラップとかの仕掛けは無いのか?」
【あるわよ。ただポイントが無いから表示されないだけよ】
「なに?………じゃあ、最初はトラップ無し、配下無しで始めるのか?」
【そうよ。初めから何でも有りじゃ面白くないでしょう?】
イヤイヤ、違うだろう運営!
初期配置用として有るだろう普通は!
それをさも当然の様に言わせやがって…………。
「…………わかった」
納得はできんがゲームが始まるまでと割り切り進める。
次ぎは自分の住む場所だ。
先ずは水の確保として泉を作る。
飲み水と畑の水などに利用する。
泉の水を貯める池を作り水が流れるように水路を通す。
これで居住区には水が回り台所、風呂、トイレまで水が使えるようにした。
下水とか何やら考える必要はなく、それに沿って部屋を割り当てると自然とそういう設備付きになっていた。
「天候とかはどうなっている?」
【最下層に限り地上と同じ効果を反映させているわ。地上が昼なら同じく最下層も昼よ。太陽の光も同じ効果をしているから人間でも影響なく住めるわね】
「最下層より上は?」
【そこはポイントしだいよ。無駄に凝りたいならポイントしだいで雨でも雪でも思いのままよ】
なるほど、全てはポイント次第か。
どれくらいここに人を住まわすかわからないが部屋の数は多く作っておく。
空いた場所に畑、牧場、鍛場など必要そうな物を配置して最下層の構築は終了だ。
状況によって変化するのでゲームが始まってからでも初期配置以外は増設可能だとか。
ここから1階、2階部分を作る。
やはり洞窟系のダンジョンにするか…………自分の領地となる地上部分がわからないので作るのに困る。
「えっと…………俺の領地となる地上部分はどんな感じかな?」
退屈そうにしている女神に聞いてみた。
【…………プッ】
なぜか吹き出す女神。
その目元が悪戯ッ子のように笑う。
【…………お前が遅いから海の下にダンジョンが設置されるわね。て、言うかそこしか空いてない…のよ、アーハハハ…笑わせないでよ!!!!】
「…………海の底、だと」
謀ったな運営。
そんな場所でどう行動すると?
人も来なければ進軍さえも難しいじゃないか!
ましてや人を住まわせるなど不可能だ。
その事実に頭を抱える。
「…………すまん、そんな場所でダンジョンなんて考えもつかない。ゲームが始まってからでもいいか?」
【別に好きにすれば。その分、他のプレイヤーから出遅れるだけだから。それと階層の増設もポイント購入だからね】
さらりとした表情で重要な事を口にする女神。
やはり増設可能か、だが今はこの現状をどうするかで頭が一杯だ。
「ん?」
俺はダンジョン創造画面に映る俺を見た。
黒くなっている箇所に俺の顔がうっすら映っている。
「…………ああ、俺か…………って何でだよ!」
そう、そこには日本に居た俺の顔が映っている。
平凡な表情のいつもの俺の顔が。
「おい!何だよこの顔は?」
俺が時間をかけて作った格好いい男の顔は!
なんで顔は変わってないんだ!
その思いを自称女神にぶつける。
【ああ、それ?まさかそのキャラを出すとは思わなかったから身体を改造するだけで一杯で顔まで手が回らなかったのよね。ごめんね?】
少しも申し訳なさそうじゃない表情で謝る自称女神。
これでゲームに入り込めと?
吸血鬼狼の二枚目キャラに日本人顔の平凡な顔を晒すのか……………………。
もうダメだ。
さっさと先に進んでこんなゲームは辞めてやる!
父よ、母よ、ごめんなさい。
大切な金を無駄にしてしまいました。
もはや俺にはゲームは始めて離脱するしか道は無い!
「もうこれでいい!さっさとゲームを始めてくれ!」
【そう?じゃあこれで最後よ。どんな質問でも1つだけ答えてあげるわ】
どんな質問でもだと?
真剣な表情でそれを言う自称女神、それにどんな思惑があるのか知らんが即離脱を決意している俺にはどうでもいい!
「なら、ここに送られた他のプレイヤーの状態を教えてくれ」
さっさと終わらせるべく俺は思い付いた事を言った。
【…………へえ、そんな事を聞いたのお前が初めてよ。他の奴等ときたら裏技を教えろとか、女神を奴隷にできるのかとか、しょうもない奴等だったから】
なぬ!
こいつを奴隷に出来るのか?
…………それは思い付かなかった!!!
【…………邪な事を考えているようね。まあ、いいわ。ここに来た人間は100人。お前を含めて20人は前向きにゲームを楽しむみたいよ。残りの80人は日本に帰せと暴れた者、泣くだけ泣いて無気力になった者、不気味に笑う精神が壊れた者、そして…………自殺をした者、自分を殺す事なんて許可してないから死ねないのに馬鹿な奴等よ。でも、ゲームが始まったら死ねるから死にたい奴はさっさと特攻してるじゃないかしら?】
「…………そいつらは?」
【問答無用でゲームを始めさせたわよ?自分では死ねないから、私達が用意した敵ダンジョンマスターに殺られているんじゃない?】
もう…………いい。
これを作った奴はクズだ。
ゲームは楽しむ為の物。
嫌々ながらやる物じゃない。
【さて、もういいわね?じゃあ…………始めましょうか!】
自称女神が声高らかに宣言するとさっき作ったダンジョン最下層がなにも無い空間からせり上がると自分の部屋として作った自室の中に入れられ天井が出来上りダンジョンが組上がる。
それを最後まで見ることはなかったが、自称女神が言ったように俺が半端のまま作ったダンジョンができているのだろう。
【もしわからない事があったらお前が作ったサポートキャラに聞きなさい。万能じゃないけどゲームに関わりのある事なら教えてあるから、それと名前だけは希望通りにハルにしてあるわ…………ご免なさいね。フフフ~♪】
何故か最後に謝るが、それが楽しそうに聞こえる。
「?…………グッ!」
それに首を傾げ疑問に思っていると自室の天井に張り付けにされた。
「グッ、ガアアアア~!!」
天井に押し付けられる。
このダンジョンが下に落ちているせいだ。
もの凄いスピードで落ちている感覚がある。
「グッ……クッ、あの、アホ女神……こんな、原始的…………な方法で」
ドーン!!!!
もの凄い衝撃が俺を襲った。
俺の体が自室を上下左右に跳ね飛ばされる。
どのくらい時間がたったのか、気付いたら俺は床で伸びていた。
「グッ…………ここは?…………ああ!思い出した!あのアホ女神に…………クソ!…………だが、これで帰れるはず………」
俺は立ち上り室内を見渡す。
自分を写す鏡を発見。
「…………やっぱり似合わねぇ、この顔にこの赤のタキシードは…………」
予想通りと言おうか、この身体に俺の日本人顔がミスマッチに感じる。
部屋の中をいいように跳ばされた割りにはこの服に皺や汚れなど無く新品同様にツヤがある。
「…………ふん。まあ、いい。それより帰るぞ」
俺は自分の姿に興味を無くしメニュー画面を開くべく頭に思い浮かべる。
すると俺の目の前、空中に投影され現れる光の画面、ふと横の鏡を見ると俺の姿は写っているが光の画面は写っていない。
「良し!それではセーブして…………終了…………って、ねぇじゃねぇか!どこだよゲームを終えるコマンドは!」
俺は必死で探す。
ダンジョン制作…………違う!
自身のステータス確認…………違う!
持ち物…………違う!
敵の位置確認…………違う!
ポイント交換所…………違う!
………………………………
………………………………
………………………………無い。
どこにもゲームを終える為のコマンドが無い。
もしや…………あの自称女神が言っていた事は本当の事だったのか?
俺は床に膝を着いて呆然とした。
「…………どうすれば?」
アレは何て言っていただろうか?
この名前も知らない世界で敵と戦って領地を増やせ?…………だったか。
「…………全体マップ」
呆然と呟くと画面に10×10のこの世界のマップが開く。
それを見つめると白いオセロのような駒が4つ。
その1つだけ4番、ハルと名前が出ている。
どうやら1番左下角が俺の領地のようだ。
薄く青い膜が覆っている。
「…………そうか、海の中って言ってたっけ…………」
よく見ると緑、茶、青、と駒の上に薄く色が見える。
たぶんそれが地上の様子なのだと思った。
緑だと草原か森、茶色だと土か山か、青は川か湖とか海もそうか、自分が確認していないのでハッキリとでていないのだろうと思う。
それを見ていくと俺の領地の周りは海に囲まれている。
2マス上から白色が見えるから砂浜なのだろう。
海の部分は俺の領地と隣接している3マス。
右に5マスほど離れて青色が見えるからそこも海なのかも知れない。
「…………どうしろって言うんだよ」
力無く項垂れる。
マップを見てもまだ誰も領地を広げていない。
黒いオセロの駒には1番から96まで番号が書いてあるので誰もまだ侵略していない…………と思う。
他の白プレイヤーは俺から離れた位置にあった。
1を右上角として縦に10と数えていくと俺が100マス目の4番。
他のプレイヤーは2マス目の1番、26マス目の2番、31マス目の3番と白い駒の表面に書かれ名前は無し、俺とかなり離れた位置にいる。
皆、陸地にダンジョンが有るので出会うにしても割りと簡単そうに合流が出来そうだ。
「…………本当に、どうしょうか…………」
あの自称女神の話が本当なら周りは敵だらけ、他のプレイヤーもそうだが俺のように身動きがとれない事はない。
ここで何も出来ずに終わるのかと画面を見ていると。
「…………配下の呼出し?」
俺は誘われるままそれを押す。
「…………ハア~、居るわけ無いか」
「…………ご主人、お呼びですか?」
声が返ってきた!
「あ、ああ!君は?」
「私はご主人が作ったサポートキャラです。お部屋に行けばよいですか?」
「えっ…………うん!」
「では…………」
コンコンコン。
俺の部屋をノックする音。
本当に存在していたのか俺のサポートメイドさん。
「は、はい!……入って下さい」
ドキドキしながら部屋に入ってくるダークエルフメイドさんを待つ。
「ご主人、お待たせしました」
「!」
その姿に目を見開く。
「…………何ですか?ご主人」
ジーと見つめられて居心地が悪いのかモゾモゾと体を揺らす。
「…………君は?」
「…………シュシュですよ?ご主人。お忘れですか?」
……………………謀ったなあの自称女神が!
おずおずと俺に近づき目の前に来るシュシュ。
背中まで有る長い銀髪、エルフ特有の長い耳、肌も黒く日本風メイド服、黒を基調とし所々に白と金の色が見える。
仕事着ではない、可愛らしさを追求したメイド服がシュシュの可愛さを倍増している。
ああ~、こんな娘が欲しい…………って違う!
そう!
この部屋に現れたのは見た目10歳ぐらいの幼い子供だった。
勿論、胸もまだペッタンコなのは言うまでもない。
「…………そうか、だから面白そうに謝ったのか」
「?」
可愛く首を傾げ俺を見つめるシュシュ。
何の事かわからないのだろう。
「…………シュシュ、これからどうすればいい?」
聞いてもしょうがないが、それでも会話をしたい気分なのだ。
この子に聞いても状況は変わらないだろう。
それでも1人じゃないと思うと元気が出るみたいだ。
「ダンジョンポイントを貯めて生活をよくするのでは?」
「…………え?」
「ですから、ご主人。ダンジョンに生物を入れてポイントを貯めて良い生活をしましょうよ」
「……………………」
そう、だった。
ポイント、ダンジョンに招き入れポイントを貯めて…………ってここは海の真下じゃん。
「…………でも、ここは海の真下だし」
「それを考えるのがご主人の仕事です」
「君の仕事は?」
「君ではありません。シュシュですよ、ご主人。シュシュはご主人のサポートメイドです。わからない事が有れば聞いてください。掃除、洗濯、料理とシュシュにお任せ!」
「…………そう、宜しくねシュシュ」
「はい!頑張ります。ご主人」
ニッコリと笑顔を見せるシュシュに僕も頬笑む。
ようやく笑う事ぐらいはできるようになった。
後はこのダンジョンをどうするか考えよう。
グゥ~
腹の虫が鳴った。
「フフ、ご主人。ゴハンの用意をします。ここに配備された食糧は10日分ですので早くポイントを貯めて食糧を用意してくださいね。それと10日間でダンジョンを地上と繋げないと自動的にダンジョンが形成されますので注意してください」
はあ?…………あと10日間で俺のダンジョンを完成させなければ強制的に海にダンジョンが繋がるだと?……………だがまだ時間はある。今はそれよりも飯だ!
その日、シュシュが作った料理は…………可哀想なぐらい…………涙の味がした。
口に残る苦味、コリコリとした歯ごたえの米。
シュシュは料理が出来ない子だった。
見た目はメイド、中身は子供。
自分の作った料理に困惑顔のシュシュ。
しきりに俺に謝る。
俺は泣きそうなシュシュの頭を撫で料理、洗濯、掃除と一般家事を教えるとシュシュに約束した。
自分を鍛える、それは未知の自分と出会う事。
俺は右手に包丁、左手をまな板の上の魚に添える。
「良し、シュシュ。先ずは魚の鱗を包丁を使い取る。こうだ!」
同じく、包丁とまな板の上に魚を用意して料理を教えている。
俺の手元をジーと見つめるシュシュ。
魚の鱗を包丁でシュシュッと撫でるとパラパラと魚の鱗が剥がれる。
それを水で洗い流し魚の頭を落とす。
こぶりな魚だが1人分には丁度いい。
俺はシュシュの手元を見ながらそのおぼつかない包丁捌きを見守る。
料理とは慣れである。
毎日の積み重ねで手際も良くなる。
シュシュに家事を教え始めてまだ3日。
簡単に出来る物から教え、今日から包丁を使う事にした。
それまでは食パンを焼き、目玉焼きを作る。
野菜をちぎりサラダにしたりスープにしたりと簡単な物から教えていった。
最初に火を使うには抵抗があったが、最初が肝心と心を鬼にして教えた。
多少、火傷などしたが直ぐに治るぐらいの火傷で直ぐに処置をしたから料理を嫌うまでは至らない。
逆に一緒に料理を作るのが楽しいのか笑顔で接してくれる。
そして今日、包丁の使い方だ。
手の指を切って血がでたら直ぐに教えること言い含める事を忘れない。
それにより人間には食中毒となり命の危険があるとシュシュに真顔で教えると真面目な顔で頷いた。
魚の骨に当たり、ぎこちない手つきで包丁を使うシュシュに注意をしたくなるが耐える。
やはり魚は食べたいのでシュシュには頑張ってもらいたい。
クドイようだが料理というのは日頃の積み重ねである。
直ぐに上手になるわけでなく毎日料理をする事で腕が上がる。
幸い調味料の基本、《さしすせそ》も揃っている。
この辺は至れり尽くせりであった。
シュシュの手捌きを見守りながらこの3日間を振り返る。
初日はサポートメイドとしての自分の力の無さに落ち込んだシュシュだったが、1つ1つ覚えればいいと俺が言うと。
「頑張ります、ご主人!」と、気合いのこもった声を上げて俺に宣言をした。
先ずは食べ終えた食器の片付けと洗い物。
シュシュに聞けば洗剤等の日用品も揃っているとのことで不馴れなシュシュを相手に一緒に洗い物から部屋の掃除、お風呂の入れ方など基本を教えていく。
お風呂はガスなど通って無いので薪で火を焚き水を沸騰させる方式であった。
これは改良の余地があると感じた。
2日目からは料理も教える。
朝、昼、晩と簡単な物から作りシュシュを鍛える。
洗濯に関しては俺のは必要無かった。
シュシュの服、メイド服だが予備も有り下着も含めて洗濯をするが、俺の場合は赤のタキシード、赤のマント、それに下着まで自動洗浄、自動修復の着替え要らずで風呂に入り体を洗えば服や下着は綺麗な状態になりまるで新品同様だ。
なのでシュシュの服の洗濯の仕方を教える。
ここでも大きいタライに洗濯板と大昔の日本の風景を垣間見た。
これも改良の余地があると感じた。
この家は石造りの建物でどこぞのお屋敷か!と思うほどの広さを作ってしまったが、使っている部屋は俺とシュシュの部屋と台所にお風呂とトイレぐらいなので掃除も俺達が使う場所を重点的にやってもらっている。
いつかポイントが貯まったら日本の木の家に変えたいと思っている。
石造りはやはり冷たく感じがするので木材を使用した家が懐かしい。
これを聞けば大層な時間をかけていると思うかも知れないが実際はたいした時間はかかっていない。
空いた時間はシュシュにこのゲームの基本を教えてもらっている。
概ね、あの女神が言っていた通りだった。
黒い駒の隣接している敵ダンジョンマスターを倒し自分の領地として支配地域を広げる。
要は敵ダンジョンマスターを倒せば黒が白に変わるということ。
本拠地であるここは動かせず、ここを落とされると他の領地が健在でも負ける=俺が死亡となるらしい。
俺の領地となった場所のダンジョンは継続して俺の物になる。
言わば別荘のような状態で移動も簡単に出来るし、ポイントも合わせて貰え、そのダンジョンの改造も思いのまま。だから早めに領地を拡大してポイントを貯めないといけませんとシュシュが力説する。
じゃあ、人は何処から?とシュシュに聞くと何処からともなく現れるとのこと。
この辺はゲームのように要点が掴めなかった。
次にレベルの上げ方だ。
俺のレベルは1、シュシュも1。
俺は魔族で、シュシュは妖精族になる。
この世界では魔法が使え戦闘では力となる。
俺の魔法適性は闇、シュシュは風だった。
レベルが低い内は火、風、水、土、光、闇のどれか1つだけ習得しており、レベルが上がると複数の魔法適性が現れ使用できるらしい。
もちろん、魔法使える適性がなければならない。
そして肝心のレベルの上げ方だが、同レベルの魔物や人を10体倒すと1レベル上がる。
レベル2になれば敵のレベルも2が必要。
ただ、レベル50を越えると倒すべき相手の数も倍に増えるらしいからここからが本番らしい。
自分より低いレベルの敵を倒しても経験値には加算されない仕組みだとか
だが、自分よりレベルの上の敵を倒せばレベルを上げるための数を減らせるが危険も伴う。
レベル1の俺がレベル2の敵を5体倒せば通常の半分の数でレベルが上がる。
じゃあポイントを使いレベルの高い配下の魔物を呼んで倒せばいいかと言うとそれは出来ないとシュシュは言う。
「ポイントで呼べる魔物はご主人と同レベルまでの魔物です」
そう言う訳でレベルは上げる事はできるが、短縮してレベルを上げるのは無理なので俺も地道に鍛えてレベルを上げなければならず平和な日本で過ごした俺は毎日戦闘訓練をしなければならなくなった。
そこで気づいたのだが、この吸血鬼狼。太陽が出ている間は身体能力が下がっている事が判明した。
人族とほぼ同じぐらいの力だ。
太陽が沈むと体も軽くなり力も出る。
だから戦闘訓練は夜にすることにしている。
吸血鬼狼の能力だが闇でも見通せる夜目もあり気配も消せる。
吸血衝動も無いようだ。
…………完全に暗殺者の能力だが、これを選んだのは俺なので慣れるしかない。
レベルが上がれば昼間でも動けるようにはしたいと思っている。
だが、ポイントが増えない状況ではやれることも少なく、戦闘技能も持ち合わせているシュシュを相手に逆に教えを乞う。
この状況をどうしようかと考えてこの3日間が経った。
「ご主人、これからどうすれば?」
なんとか魚の頭を落しこちらの指示を待つシュシュ。
俺は見本を見せつつ魚の内臓を取り除き、魚の骨にそって切り開くところまでシュシュに見せた。
この様に平和に暮らせるのもゲームの序盤戦だけ。
他のプレイヤーや敵ダンジョンマスターは色々と策を練っているはず。
開いた魚を焼いて自分で食べる。
ご飯、みそ汁、焼き魚と美味しく頂く、上手に出来たのかシュシュも満足した表情をしている。
さて、これからどうするか本気で考えねば……………………。
自室で横になりベッドで寝る。
訓練もして、風呂にも入り後はのんびりと寝るだけだ。
季節は不明だが寒くもなく暑くもない。
リラックスした状態で今後の事を考える。
この上は海、手つかずのダンジョン作りを再開しても海水が入りダンジョンとして使えない。
「はあ~、海の中。居るのは魚ばかりなりか~」
俺の領地である地上部分…………今は海の中だがどうなっているのか確認できた。
上の様子が見たいとシュシュに言ってみると監視カメラのような映像が目の前に現れ映し出される。
これは敵の姿や行動を監視できるように3台配備されているらしい。
増設はやはりポイント購入。
この世界では何でもポイントだ。
早くどうにかしなければ…………。
夜の海の中の映像を見ながらもう1つ全体マップを表示させる。
サブなのでメインより画面が小さい。
まだ3日目が終わったばかり、他の白や黒の駒に変化はない。
俺の隣のマス、99と90が攻略するべき敵だ。
同じ海の中、敵も何もできてはいないだろう。
…………このままでは不味い。
「…………夜でも魚は泳いでるもんだな」
こんな暗い海の中で俺の目はよく見えている。
「こんな狭い海でも色々な魚が集まっているのは不思議だな、さすがは異世界か…………」
この世界は狭い。
何せ縦3㎞、横3㎞しかない世界だ。
この海だって俺の居る100マス目と99マス目。
横の90マス目と89マス目しかない。
この4マスが海でその隣が陸地らしいし再び海らしき物はその先にある。
なんて狭い世界かと思う。
こんな狭い海に入れられて可哀想な魚達。
「……………………何?」
ベッドに横になりボーと海の映像を見ていると段々と眠くなってきた。
瞼も落ちてきてこのまま寝てしまおうと思い映像を消そうと意識した時にそれは映った。
初めは大きな魚だなと思った。
遠くに見える尾ビレは間違いなく魚のソレだ。
しかし次に見た姿は魚ではなかった。
人族の女性の姿をした上半身に下半身に魚の尾ビレが…………思わず身構える。
姿が確認できるのは1体だけ、敵のダンジョンマスターが送り込んだ偵察役なんだと思った。
日本の絵本でよく見た綺麗な顔をした人魚だ。
夜の海のせいで髪の色や肌の色などよくわからない。
さすがに吸血鬼狼の目でもそこまで高性能ではないらしい。
幸い俺はまだダンジョンを完成させてない。
ダンジョンの入り口が見つからなければ敵は手を引くだろうか?
「…………いや、無いな」
あのアホ女神が言った、最初の課題は領地を増やせと。
このまま1つの領地で課題がクリアのわけがない。
最低限の領地は確保しなければ俺は死ぬだろう。
あの女神は日本人の事など考えてはいない。
課題がクリアできなければ俺を見捨てるはず。
だから未完成のダンジョンを完成させゲームの参戦しなければならない。
俺は映像に映る人魚にマーカー付ける。
これは監視対象の居場所がマップに表示される優れものだ。
これで人魚がどこのマスに移動するかを見守る。
それによりそのマスのダンジョンマスターはそれだけのポイントを獲得している事を意味する。
つまり進軍可能だと言うことだ。
まさか人魚が居るとは…………海のマスならではだな。
ダンジョンの入り口は無いのでこちらに侵略される心配は無いが早急にダンジョンを作る必要性がでてきた。
これ以上できる事は無いので寝る。
朝には人魚も帰っているだろうから確認せねば。
俺は海の映像を消すと睡魔に襲われ眠りについた。
「…………う、う~ん」
眠りから目覚め大きく伸びをする。
昨日は思いのほか夜更かしをしてしまった。
この身体は夜型だからしょうがないが、出来るだけ普通の人と同じ時間に活動しておかないと対処が後手に回る。
俺のように夜型のダンジョンマスターなんて少ないだろうしな。
昼間に進軍されても『寝てました』では話にならない。
シュシュが言うには早く配下を雇えば問題は無くなるとのこと。
昼間は配下に任せ、俺は夜だけ行動する。
そうなるまでの辛抱なのだとか、頭はまだ眠気が残っているが深夜に見つけた人魚の位置だけでも確認せねば。
シュシュが俺を呼びに来るまでもう少し時間がある。
「さて、奴は何処の手の者かな?」
俺は全体マップを開き、昨日マーカーを付けた人魚の位置を確認する。
「…………は?」
驚いた。
あの人魚は5マス横に離れた位置にある別の海に居るらしい。
俺が付けたマーカーが点滅している。
もしダンジョン内に戻っていたらマーカーの反応さえ無い状況だったので有りがたいが。
「…………しかしあの陸地を歩いて別の海へと行ったのか?俺の居る海と分断するように陸地が有るがわざわざそんな所からだと?」
まあ、ここから1・5㎞離れた距離だ。
歩いて移動するのに苦はないが、人魚をわざわざ陸地を歩かせてこっちに偵察に寄越すとは変わった奴だ。
それを考えると黒同士はやはり味方なのか。
あの周辺には白プレイヤーはいない。
間違えなく敵ダンジョンマスターからの偵察だが…………。
何か違和感を感じる。
全体マップを見たところ、いまだに領地を増やせた者は敵味方にもいない。
そんな状態でここまで離れた場所に偵察役を送るだろうか?
「ご主人、朝御飯を作りましょう」
少しずつ家事を覚えている最中のシュシュだが、まだ1人で家事をやらせてはいない。
せめて7日は一緒に行動して基本を叩き込む。
それに平行して俺の戦闘技術も向上させたい。
台所へと向かう途中でシュシュに人魚を見たことを話した。
「人魚ですか、珍しいですね。まだ始まったばかりなのに」
おや?
シュシュが驚いてない。
いつもと同じ表情で余裕が伺える。
「シュシュ?」
「はい、なんですかご主人?」
「どうして落ち着いているんだ?敵、なんだろ?」
「え?…………ああ!違いますよご主人。人魚はこの世界の住人です。前も話しましたがふらっと現れるのですよこの世界の住人は。その人達がご主人の領地に定住すればご主人が王様ですよ?」
「この世界の住人?…………定住?…………あの人魚は敵じゃない?」
いろいろと混乱してきた。
シュシュの説明だとあの人魚は敵ではなく中立の立場のこの世界の住人だと言う。
どこからともなく現れてこの土地が気に入ったと思ったら交渉して住んでもらう。
何せ大事なポイントさんだ。
安全に暮らせるように気を配り生活をしてもらう。
条件としてダンジョンに足を少し踏み入れてもらうだけでいい。
その住人が増えればポイントも増える。
だが、どこから連れてくるのかは不明だと言う。
まあ、その辺はあの女神が色々と悪さをしているのだろう。
何せ神だし。
だとすると疑問がある。
敵の配下じゃない人魚がわざわざ陸地に上り歩いて別の海に足を運ぶだろうか?
「ふむ…………もう少し観察が必要か」
与えられている情報が少ない。
人魚に関してはもう少し様子見をさせてもらう。
それより先に俺のダンジョンを作る方が先だ。
まだ初期配備の食糧があるとはいえ後6日分しかない。
「なあ、シュシュ。敵のダンジョンマスター同士は協力関係にあるのか?」
「は?…………ご主人、先ずは隣の領地が敵か味方かを探らなければなりません。全体マップにも敵味方の情報は偵察した結果が反映されるので4日ぐらいでは敵も協力体制をとるのに時間がもっとかかるでしょう」
「え?…………でも全体マップに映る白と黒駒の話を聞いたような?」
「それはご主人が分かりやすいようにと見本として言っただけで、ご主人達が使う全体マップにはここの領地以外は空欄のはずですよ?探索に人を割いて調べ始めてマップに情報が表示されるのです」
「…………そうなの?」
「はい!」
シュシュは俺のサポートメイド。
その表情を見ても嘘は言っていないと思う。
じゃあ、コレは何だ?
俺の全体マップには全ての駒が表示され情報を教えてくれる。
…………バグか?
これがチートか?
それを確かめる為にも早く俺のダンジョン作り確認しなければ…………。
シュシュと話をして気づいたことがある。
やはり俺と同じ白い駒プレイヤーは味方のようだ。
…………いや、味方にもなる可能性があるといったところか…………。
まあ、まだ当分は先の話だ。
今は目の前の事に集中!
朝食も食べ終わりシュシュも家事に慣れてきているので見守りながらダンジョンをどう作るか考えるとしますか。
色々と考えては消えていく。
海の底にダンジョンなんてどうすればいいんだよ!
……………………そんな俺の心の叫びに応えてくる者などいるはずもなくダンジョン創造画面とに睨めっこする。
「…………ハア、人魚の行動でも確認しようか」
メインをダンジョン創造画面、サブに全体マップを開き人魚の位置を確認する。
「さて、何処にいるかな?」
取り付けたマーカーで人魚の位置を確認……………………反応が無い?
全体マップのどこにも点滅する光が無い。
「ついに敵ダンジョンの中に取り込まれたかな?」
地上部分に反応が無いということは地下に行ったのだろうと推測する。
俺の支配地域ではない場所では敵ダンジョン内部までは把握でない。
さすがにそこまで甘くはないようだ。
「…………ダンジョンを考えるか」
サブをそのままにダンジョン作りに戻る。
そもそも上は海、生物といえば魚だ。
それをダンジョン内部に入れる。
だが魚は泳ぐ、いくら東⚪ドーム1個分の敷地面積だとしても作ったダンジョンに魚が来なければポイントにはならない。
「…………試しに海水を入れてダンジョンにしようか?」
思い付いたのは水族館のような感じだ。
あんな感じで魚を捕獲できればポイントになるのだが。
先ずは最下層の俺の居住区兼謁見の間を海水が入らないように補強。
厚い岩盤を配置して居住区に海水が入らないようにする。
分厚い扉を三重に作り居住区と謁見の間の間に排水口付で作る。
もしもの時は謁見の間は海水で埋まっても居住区まで浸水しないようにしておく。
地下1階は魚が泳ぎやすいように障害物は少なくし、地下2階部分は海水が入らないように工夫しなければならない。
階層を重ねていけば最下層までに浸水可能性を低くできるだろう。
その為にも出入り口は特に厳重に作っていかないと。
地下1は長さ200メートルの円筒に作り高さは限界の30メートルに設定。
最下層である俺が住む場所は約60メートルまで高さがあるらしいが、最下層以外はダンジョンの階層はその半分で限界。
まあ、それはそれでいいんだが問題は階層を繋ぐ場所の設置だ。
海の中にポンと階段でも扉ても作っても海水が簡単に入ってくるようではダメだ。
なので15メートル程の高さの岩山を作り洞窟のような感じで穴を作る。
本当は祠のような神殿のような建物を作り海水が浸水しないように魔法的結界でも張って安全策を講じたいのだが今の俺では無理だ。
なにせポイント0なのだから。
そこでここでも複数の扉を作り密閉して排水する方式を採用。
海の底で排水した海水がどこに捨てられるのか不明だが排水口さえあれば不思議と水が無くなる。
このようにダンジョンの階層を繋ぐ場所にはこのような仕掛けを作る。
地下1階は天井無しの円筒状のダンジョンにし地下2階へと下りる岩山だけのダンジョン?…………となった。
そして地下2階。
とりあえずトラップ無し、部屋なしの迷路にする。
これはもし海水が流れ込み作った部屋が浸水したらその海水を抜かねばならず、部屋を作ればその全てに排水口を作るのが面倒臭いからだ!
「…………あれ?」
俺がダンジョンを考えているとサブの全体マップに光点が。
「…………人魚だ」
90マスに突如あらわれた光点。
あの人魚に間違えない。
どこから現れた?
俺はその光点を凝視していると何故か人魚の動きがフラフラとぎこちなく動いている。
「…………なんだ、怪我でもしたのか?」
だんだんとこっちに近づいてくる光点。
こっちに近づいたと思ったら急に反転して遠ざかる。
「…………何がしたいんだ?」
俺は人魚の意図がわからず部屋で1人唸る。
そして1つの結論へと至る。
「…………まさか、襲われているのか?」
この人魚がいる場所は俺からすると敵地だ。
奴等もポイントを得ねば何もできないはずだがこっちと違い配下の魔物がいるのかもしれない。
数は多くないだろう、俺達のルールはポイントが必要。
まだこのゲームは始まったばかりだ。
配下召喚にどのぐらいポイントが要るか知らないがこの海の中でポイントを貯めるには苦労するはず。
「…………何とか助けてあげたいがどうする?」
人魚は敵領地に居る。
こちらからは手助けできない。
せめて俺の領地に来てくれれば…………。
だが運よく人魚がこちらに来たとする、それでどうする?
俺のダンジョンは無いし、配下もいない。
いや、シュシュがいるが泳いで人魚と会話をしてくれと頼んでも無理だろう。
「…………強引でもいいからダンジョンに引き込むか」
サブ画面の全体マップに映る人魚の光点が俺の領地に入ろうと動いている。
こっちが安全地帯だと知っているようだ。
「…………それなら」
俺はダンジョン創造画面を操作して地下2階に配置した迷路を削除し、地下1階と繋げ岩山だけを残し幅200メートル、高さ60メートルの円筒状にした。
「…………これで人魚がダンジョンの真上に来たら」
俺は注意深く人魚が移動する光点を見つめる。
まだ俺のダンジョンは海とは繋げない。
人魚がダンジョンの真上に来たら落とし穴のように無理矢理ダンジョン内に引っ張り込むつもりだ。
「…………それから先は出たとこ勝負だな」
ウンウンと頷き人魚の光点を見守る。
そこでふと気づいた。
「…………人魚って言葉が通じるのか?」
俺はもう寝ているかもしれないシュシュに話を聞くべく自室を飛び出しシュシュの部屋へと向かった。