5章 燃えよ!ダイヤの有志たち9
「はぁ・・・つまんないっすねぇ。」
闘技場でランザスはネガティブを吐き出した。
終業後、練習に参加しなくても誰も何も言ってこない。
それが『やりたいやつだけでやればいい』といっているように感じたランザスは疎外感を感じていた。
もちろんやる気がなかったわけではない。
しかし、今思えば本当にそうだったのか思い出せない。
それくらい遠い昔の話のようだった。
「あれ?」
ランザスが賭け剣闘のはずれ券を握って座り込んでいるとにこにこと人懐っこい笑みを浮かべて話しかけてくるおっちゃんがいた。
「ランザス君じゃないか。ご無沙汰だな~。」
どっかで見たことあるような気はするが思い出せない。
「はぁあのー・・・その節はどうも。」
人の顔を覚えるのが苦手で実は人見知りな面もある。
こういった場合はなんとなく覚えているような感じを醸し出して交わしつつ相手から情報を出させて思い出すようにしている。
「いや~、練習試合では凄かったっすけど本戦では残念だったねぇ。」
なんとなく商店街のチームにいたような・・・にわかには思い出せるのだが。
「あ、足まだ治ってないん?よかったらうち捻挫に効く塗り薬とかも置いてあるんで一度寄ってみなよ!」
「え?なんで知ってんっすか?」
実は試合中足を痛めていたため、なるべく練習には参加せず安静にしていたが誰にも言わなかった。
「ああ、ヴィルドラさんに聞いたんだよ。よく商店街に来てくれてね、うちにも寄ってくれてるんだ。」
そっからおっちゃんはヴィルドラは気さくにサインしてくれるだの後期のチャレンジ戦には期待してるだのまくしたててきた。
聞いてもいないのにチームの思いを思わぬところから聞いてしまった。
このまま辞めてしまおうか・・・なんて思っていたこともあったが。
練習に誘ってこなかったりさぼりを注意しなかったことに距離を感じていたランザスだが実際は全く逆だった。
怪我のことも気付いていたし信頼しているからこそ自由にしていてくれたのだと。
そしてチームはもちろんビアンコの商店街のみんなが心配してくれていること。
素直じゃないランザスは「そっすか。」とそっけない風を装っていたが胸中はざわついていた。
足は使えないが上半身のトレーニングはできる。
その日以来賭け事からも遠ざかりお酒も控えている。
もしかしたらもう公式戦にでないかとも思っていた時もあったが今は当たり前のように次の大会に備えている。
一度辞めようと思った自分をチームは何も言わず受け入れてくれたのだ。
いつも人任せで今一つ大人になり切れないランザスであったが、いつしか街の代表として戦う覚悟を決めていた。




