5章 燃えよ!ダイヤの有志たち4
ルチアは質の高い投手である。
しかし、対ソリスは一番相性の悪い打者と言えるだろう。
ソリスの長所は動体視力の高さによる『引き付けるバッティング』で変化球打ちが得意なこと。
さらにリスト(手首)が強いので内角ストレートなら引っ張って強い打球を飛ばせる。
加えて右打者のソリスに対しルチアの変化球は入ってくるカーブとスライダー、そして落ちる縦スラ。
完璧に制球しなければ変化球は絶好球になってしまう。
基本はアウトローの直球中心に組み立てるべきである。
しかし、その条件でもおじいさんは変化球中心で来るだろう。
果たして初級、甘いコースに絞ってボール球以外の変化球を狙えばかなりの確率で安打にする自信があった。
ソリスの予想は低めに縦スラで1球外してくるかとりあえず直球で来るか。
意表をついてカーブという手段もあるが明らかに変化球を狙っているこの場面ではそれも使えない。
何度も受けてきたルチアが対戦相手として振りかぶる。
球種はわからないがこの雰囲気は・・・変化球な気がする。
何度も受けてきてフォームや癖なんかは無いと思う。
が、判る。雰囲気で。
その左腕から放たれた初級はアウトコースの変化球。
(ボールだな。)
自信を持って見逃したその球は・・・
「なっ!?・・・ストライクですね。」
完全に頭に無かったボールだった。
外に縦スラで一球外すかと思われたその軌道は縦スラではなく横に滑ってくるスライター。
ボールゾーンからギリギリストライクゾーンへ入ってくる変化球だった。
「ふぉふぉ、どっかで見たことはあるじゃろ?『バックドア』といわれる変化球じゃ。」
『バックドア』とはボールゾーンから入れてくることで見逃しを狙う球である。
しかし、少しでも中に入るとど真ん中に緩い球が行ってしまうため非常に危険で精度の高いコントロールと投げ込む度胸が必要とされる。
どうしても三振が欲しい場面ならともかく初球から使ってくるとは思わなかった。
「なるほど、確かに僕には無かった配球です。」
「ふぉふぉ、まだまだ勝負はこれからじゃがな。」
しかしソリスは完全に手玉に取られていた。
二球目はインハイにストレート。
これは見せ球でしっかり見切ってボール。
三球目にアウトコースかなり外から曲げてくるカーブ。
ボール球ではあったが初級の印象があったソリスはどうしても手が出てしまう。
なんとかファールにしたが変化球打ちが得意な打者だからこそ、その心理を利用した一球であった。
これでカウントは1ボール2ストライクと投手有利な状況を作られた。
「ここじゃな、決め球が欲しい場面じゃ。」
そう、問題はここから・・・である。
ソリスとしては甘く入った変化球が来ればありがたい。
恐らくストライクゾーンに来るのは直球だろう。
表情を変えずにルチアが投じた一球は・・・
縦スラ、ベース上でワンバウンドする球で振らせにきたがこれを見送って2-2の平行カウントとなる。
振れば終わりの打者が不利であるが投手としてもじわじわと追い詰められていく。
「さすがのバッティングじゃの。」
「いや、運よくいいところに落ちただけですね、打ち取られました。」
最後はアウトローの直球をうまく流し打ちでライト前にポテンヒットを放った。
「あの最後の場面、やはりストレートなら対応できる・・・かといって今ある変化球ではカウントを不利にするのぅ。」
「そうですね、確かに平均球速が5キロ速ければヒットにするにはかなり難しいです。でも一つ球種が増えればそれ以上にストレートが活きますね。」
「右打者ならシュートがいいんですかね?」
ルチア的には逃げる球があれば安心できるだろう。
「うん、僕もそれは考えたんだけどね。」
しかしソリスには確信があった。
「最後の場面で見逃しが狙えて当てられても詰まらせる球種が・・・ありますね?」
「ふぉふぉ、わしもその球がおすすめじゃな。」
どうやら変化球じいさんとソリスの意見はまた一致したようだった。




