5章 燃えよ!ダイヤの有志たち2
「先輩、僕のストレートってやっぱりルイスさんや他のピッチャーと比べても見劣りしますよね。」
「うーん、確かに球速は無いけどルチアのストレートも悪くないと思うんだけどなぁ・・・。」
一方の若いルチアは強気の姿勢でガンガンストライクを先行できるピッチャーである。
メンタル面は申し分ないが如何せん勝負所で決め球になるボールがないのも事実。
2ストライクと追い込んでから苦しくなる展開で粘られ、最終的に四球やヒットで出塁を許して崩された。
「おやおやそこのバッテリーさん、お困りのようじゃな。」
そこへいきなり見知らぬおじいさんが話しかけてきた。
白髪に白い髭、小柄なうえに猫背なのでさらに小さく見える。
痩せた足を支えるように杖をついているわりには機敏な動きで近づいてくる。
「うわっ、どなたですか?」
「わし?わしは怪しい者ではないぞぃ。・・・変化球じいさんじゃ!」
「怪しすぎぃ!」
「ふぉふぉ、まぁよいではないか。それよりそこの投手の君、決め球がなくて困っておるんじゃろう?」
「えっ?どうしてそれを?」
あからさまに怪しいのにルチアは興味津々の様子。
「ふぉふぉ、ブルペンでの投球を見ておっての。球筋は悪くないの、コントロールもしっかりできておるのに悩んでおるようじゃったからのぅ。」
怪しいが詳しい。
話を聞いてみる価値は・・・あるかもしれない。
「お主の持ち味は一体なんじゃろ?」
「僕の持ち味・・・ですか。やっぱり直球で勝負したいですね。変化球でカウントを稼いで直球で打ち取れることでしょうか。あと球速を5キロ上げれば勝負になるかと思います。」
「ふーむ、なるほど。捕手のお主はどう思うかね?」
「ルチアは直球も変化球も悪くないと思います。でもその精度を上げているのは『低めへのコントロール』だと思います。」
「ほほぉ、さすがじゃの。ルチア君・・・といったかね?お主は直球にこだわりがあるようじゃがそのコントロールがあれば変化球とのコンビネーションはより活きるじゃろう。」
変化球じいさんと名乗るだけあって変化球推しのようだ。
しかし、それにはソリスも同意見であった。
「僕もあと一つ決め球になる球種が増えれば投球に幅が広がって楽に投げれると思いますね。」
その答えに満足気な変化球じいさん。
「その通り!変化球はいいぞぉ~。打者の裏を書いて見逃し三振を狙えるし小さな変化でゴロを打たせることもできる。変化球最高じゃ!」
御歳の割には随分と元気なおじいさんだった。
「そもそも今から球速5キロ上げるのにどれだけかかることやら・・・体への負担も半端ではないぞぃ。」
「それは・・・確かにそうですね。」
「おじいさんなら新しい球種を習得するなら何がおすすめですか?」
「ふーむ、他にどんな球種があるんじゃ?ちょっと投げて見せてくれんかのぅ。」
そういって落ちていた木の枝で即席のバッターボックスを作ると左打席に立って杖をバットのように構える。
デットボールを当ててしまったらポックリいってしまうんじゃないかと一瞬躊躇したが「わしは避けるのもうまいんじゃー。」と豪語するのでソリスは仕方なくアウトコースに構える。
「まずはスライダーですね。一番得意な変化球です。」
ルチアの左腕から放たれた球は外のストライクゾーンからボール球へ逃げる見事な『外スラ』であった。
「ほぅほぅ、いいじゃんいいじゃん。」
さらにカーブ、縦スライダーを投じ最後に直球で締めた。
その全ての球種がアウトコース低めに制球されていた。
「この投球術なら強打者でもそうそう長打は打てまいて。さて、ではそろそろ本題に入ろうかのぅ。」
そういって変化球じいさんは右打席に立った。
「もう一度全ての球種を投げてみるんじゃ。」
ソリスは今度はインコースにスライダーを要求する。
しかし、先ほどのようにコースギリギリではなく少し真ん中よりのストライクゾーンに決まる。
「これじゃよ。お主の弱点でもあり、捕手の君の弱点でもある。左投手の対右打者への投球術じゃ。」
確かによく打たれたのは右打者だった。
特に大事な場面で甘く入り長打を許したことが失点に繋がっていた。
「僕ももっとうまくリードできていれば・・・確かにルチアの力を引き出せてなかったです。」
「そんな、先輩のせいじゃないですよ、僕の力不足です!」
「いや、これはどっちも・・・じゃな。」
同じコースでも打者が左か右かで内容は全く異なってくる。
左打者なら外に大きく外れても見せ球にはなるが右打者ならデッドボールになってしまう。
「ちょっとキャッチャーかわってみぃ。」
そういってソリスからキャッチャーミットを奪い取ると背中に隠し持っていたバットを握らせた。
なぜバットを持っていたのに杖で構えたのか。
仕方なくソリスは右打席に立つ。
「本気で打ってみぃ。わしなら・・・初級はここじゃ。」
そういって変化球じいさんはミットを構えた。




