4章 anotherstory② アストラの過去
村と言うには都会的、街というにはやや田舎。
そんな微妙な街のごくごく一般的な中流家庭の商人の一人息子としてアストラは産まれた。
勉強もそれなり、スポーツもそれなり。
絵がうまいわけでもなく歌が下手なわけでもなかったが他の人間と同じようになんとなく大人になって働くことが嫌だった。
特に才能があったわけでもないが剣術を習い始めたが2年程度で飽きてやめ、16になる頃には他の人間と同じように学校へ通っていた。
イシュタール人の平均寿命は約100歳程度。
これからの長い道のりにアストラはやや焦っていた。
20歳になる頃、周りが就職やら進学やらとそれぞれの道に進んでもアストラは目的もなくなんとなく生きていた。
地元でアルバイトをして日銭を稼いでいたが当時付き合っていた女性と別れたことをきっかけに何かを始めようと決意する。
しかしこれといった特技もなく、なんとなくやっていた剣術を活かして冒険者になろうと志し、ダンジョンの多いビアンコに引っ越した。
持前のコミュニケーション能力の高さで色んなパーティに入ってみたものの、実力不足で脱退を繰り返し一年がたったころには同じような境遇の仲間4人と他のパーティが倒した魔物のドロップアイテムを拾ったり逃げ足の早いレアな魔物だけを狙ったりとこそ泥のようなことをしていた。
それなりに成果が出ていて自己評価が高くなりすぎたのだろう、ある時実力以上のレベルのダンジョンに挑んだ時だった。
4人とも逃げ足は速かったので強力な魔物に遭遇することなく奥地までやってきたのだがとうとう危険な魔物に遭遇してしまった。
それぞれちりぢりになって逃げ出し、3人は難を逃れたものの、狙われたアストラは攻撃を受け重症、行き止まりに追い込まれとうとう万事休すといったところで颯爽と現れたのが若き日の『赤き灼熱の魔女』ことフローラ・フランシスだった。
「あ、その話って社長が昔連載してた『赤き魔女のダンジョン探検記』にあったよね、確か8話くらい。」
「お前よく覚えてんな~。そうだよ、あそこで出てきた『坊や』ってのは俺がモデルなんだぜ。」
ソリスは野球ファンであるとともに社長のコラムのファンでもあった。
当然この話は読んでいたがアストラが入社前から社長と知り合いだったのは初耳だった。
「それもあってハピスポに入社したんだぜ。」
「そうだったんだ。」
興味ないとは言っていたがソリスはもともと聞き上手な一面もある。
アストラはアルコールも入りノッてきている。
それからは『赤き魔女のダンジョン探検記』にあった通りフローラは一瞬で魔物を丸焼きにして負傷したアストラを無視して奥に進もうとした。
「ちょ、待てよ!」
アストラが声をかけるとフローラは不快そうに振りむき、ミイラからはぎ取った黄ばんだ包帯をアストラに投げつけた。
異臭が漂っていたがミイラの包帯には回復魔力が込められていてよく治療に使われる。
アストラは包帯で応急処置をしたものの、一人で帰る力がなかったので勝手にフローラについていった。
しばらく探索していた二人だがどうやらフローラはお目当てのお宝がなかったようでほどなく帰還した。
「社長からすればついでだったかもしれないが俺からしたら命の恩人さ。」
「冷たいようで優しいところもあるからね。」
・・・。
アストラは一気にしゃべって疲れたのか、少し沈黙する。
静かな時間が流れたが二人にとって不快や気まずさはなかった。
「今日の試合でさ、終わったんだなー・・・って思ったんだけどさ、やっぱ俺にできることで貢献したいんだ。復讐の道具とかどうでもいい。もしそうだったとしてもそうなるのもアリだと思うし。」
「そもそも社長はガチの野球好きだからね。自分のチームを道具だと思うわけないよ。」
「はは、間違いないね。むしろそんなすげー父親がいたら幼き頃からの筋金入りだろうよ。」
「幼き頃とかいうなよ。漫才見すぎぃ!」
落ち込んでいたソリスを励ます意味もあったのか。
アストラの明るさは人に、チームに元気を与えている。
あの時、ストレートではなく変化球を選択していれば・・・
もし、最初の打席で出塁出来ていれば・・・
そんな後悔ばかりが支配していたソリスの脳内はもう前を向き始めている。
そしてアストラも。
『走り役』を任された男に止まっている時間はなかった。




