4章 未来へ17
バルドランド唯一のプロ球団であるデュアーロ・レッドクラーケンズが前半戦最下位ということもあり街全体も心なしか暗い雰囲気に包まれていた。
宿に戻って各自それぞれの部屋に戻ったがシャワーを浴びて少し経った頃、ソリスの部屋のドアがノックされた。
「おーい、入るぜ。」
返事も待たずに入ってきたのはアストラだった。
「ちょっと今からさ、飲みにいかね?久しぶりに・・・さ。」
口元は笑っているが目は困ったような不思議な表情である。
この表情のアストラをソリスはたびたび見かけることがあった。
普段明るくてムードメーカーのアストラだがやはり人間、悩むこともある。
部署が変わり疎遠になっていた時期はドミニクなどの上司に相談していたが、入社当時や最近は野球のことでソリスに打ち明けてることもあった。
「もちろんさ。僕も誰かと話したかったんだ。できればアストラがいいなって思ってたんだよ。」
「相変わらず変なところで調子いいやつだな。」
笑いながらソリスの胸をとんと叩いておすすめの店があるんだと言ってソリスを先導して歩きだした。
ソリスもよく行く王都デュアーロだが、やはりビアンコとは人の数が違う。
特に夕刻過ぎた飲み屋街では千鳥足の酔っ払いや客引きの若い女などが多く非常に歩きにくい。
だがアストラはすいすいと人の波間を縫って歩き、ソリスはなんとかついてゆく。
「ここだぜ、マスターに顔が利くからさ、ゆっくり飲める。」
路地の奥にあるやや寂れた場所にある古びたその酒場は以外にも多くの客で賑わっていた。
「おぅ、アストラじゃねぇか。」
「たまには来てやったぜ。なんかおごれよな!」
アストラの友人の店らしくマスターに軽口を叩いて奥の席につく。
「アストラの同僚かい?こいつちゃんと仕事してるかい?」
ソリスに話しかけながら「サービスだ。」と言ってつまみを出してくれた。
「ありがとうございます。アストラとは同期なんですよ。部署が違うのでちゃんと働いてるかはわかりませんが。」
「なんだよ、ちゃんとやってるぜ!もう昔の俺じゃないんだぜぇ?」
流行りの旅芸人の口調を真似てアストラが反論する。
「ははは、そういうところは相変わらずじゃないか。」
それからソリスとアストラはある程度強めの酒を注文した。
「・・・今日はさ、負けちまったのはある程度仕方ねぇかなって最初思ってたんだ。だって俺みたいな初心者もいるチームだぜ?」
「うん。」
「だけどさ、ヴィルドラさんとか本当に野球にマジな人の足を俺が引っ張ってたんだなって思うとなんだかなぁ・・・」
「うん。」
「っておいおい、そこは否定してくれよ!」
「ああ、ごめんごめん。本当にそう思ったからね。」
「お前の正直なところ、嫌いじゃないけどな。」
アストラが笑いながら言った後、少し沈黙が訪れる。
「ちょっと昔話していいか?」
「むかーしむかしおじいさんとおばあさんが・・・って感じのやつ?ちょっと興味あるかな。」
「いや、俺が社長に初めてあった時の話なんだけど。」
「あんま興味ないけど聞いてあげるよ。」
「そうか、助かる。」
アストラは強めの酒をグッと飲みほした後、一拍おいてぽつりぽつりと語り始めた。




