4章 未来へ16
黄金の軽鎧に赤いマント、薄くなった頭髪とは裏腹に自信たっぷりにニヤニヤと笑みを浮かべてその男はやってきた。
近くで見るとやはり間違いない、マカイベースボール評議会議長のショーンキー・カッサーノ氏とその付き人達だった。
「いやぁー、残念でしたなぁ~。」
「・・・ふん、しらじらしいな。何の用だ?」
「いやね、実はお宅のチームのメンバーが違反行為をしてるんじゃないかという噂を聞いたものでねぇ。」
「また難癖をつける気か。」
「私もそんなことたぁないと思いたいんだけどねぇ、規定ですから。おい、調べろ。」
カッサーノが命令すると付き2人はヴィルドラを挟むんでなにやら魔道具を準備する。
「いいさ、存分に調べてくれ。何も出やしないさ。」
ヴィルドラにかけられた疑いは魔力による肉体強化が行われていないかといった内容だった。
結局ヴィルドラから違法魔力は検出されなかった。
「ほぅ、今回は大丈夫のようですなぁ、ぬひゃひゃ。」
「今回って、俺ら初出場だぜ?」
アストラがぽつりと漏らしたその言葉を待ってましたとばかりにカッサーノはニヤニヤしながら喋りだす。
「このチームはそうかもしれんけどなぁ、この女の身内が前科者なんでなぁ。」
「貴様っ!」
「なんだぁ?まるでワシのせいとでも言いたげですなぁ。違法魔力が検出されたのはこの女の父親、フレデリック・フランシスのバットからであろう?」
「ちょっと待ってください、フレデリック・フランシス氏は違法強化、野球賭博の疑いがかけられているものの証拠不十分で現在も処分保留中なはずです。」
「ほぉ、そこの坊やはマリーグ事情にも詳しいようですなぁ。」
まるでこちらの発言は全て待ってましたとばかりにカッサーノのペースで話が進む。
完全に空間を支配されてしまっている。
「証拠不十分と言いましても証人がいるわけですからなぁ、処分が解けることもないでしょうなぁ。」
そして・・・と間髪入れず口撃を続ける。
「リスチール・ヴィルドラ選手にお伺いしたいのですが、去年のリハビリはどこで誰と行っておられましたかな?」
「ああ、貴方のご想像通りフレディの力を借りて黎明の洞窟で行ったさ。どうせ調べはついているんだう?」
「ぬひゃひゃ、話が早くて良いですなぁ。」
「それがどうかしたのか?黎明の洞窟でとレーニングなんて誰でもやってるぜ?」
「それは問題じゃぁないのだよ。フレデリック氏と接触があったことが問題!大問題!!」
語気を強めて続ける。
「規定ではあの男と野球的関わりを持った者はマカイリーグ内においてプレーするこを禁止されているんだよなぁ。」
「わかっているさ。だがチャレンジトーナメントはイシュタール大陸主催の大会だ。MPBの管轄ではない。」
「ほほぅ、ルールの穴というわけですな。しかし入れ替え戦に勝ったとしても3rdリーグに参戦した時点で強制引退になるぞぉ?」
「覚悟の上だ。それにまだ処分は保留だろ?フレディの潔白が証明されれば処分は解ける。・・・どの道俺の年齢では復帰は難しいがな。」
「ぬひゃひゃ。まぁ、夢を見るのも悪くないわな。せいぜい余生を楽しんでくれたまえ。ぬっひゃひゃ。」
でっぷりとした肢体を揺らしてカッサーノは笑いながら去りかけて・・・振り返る。
「ハッピーズの諸君もこの女の復讐の道具にされて可哀そうですなぁ。まぁ、フローラ次第では希望はあるかもしれんがね。」
そういって嫌らしい笑みを社長に向ける。
社長は一瞬カッサーノを睨み付けたがすぐに目を逸らしてしまった。
「社長、さっきの話マジなんっすか?」
「社長・・・」
「あんなもん、作り話だろ?なぁ、そうだろ?」
一斉に質問が飛び交う中、社長は否定も肯定もしなかった。
無表情を作ってはいたがその手が震えていたことをソリスは知っていた。
そのまま宿に向かう帰路で誰一人口を開くことはなかった。




