4章 未来へ13
ソリスが敬遠を選んだ理由は二つあった。
一つは単純に4番のグリフィートとの勝負を避けたかったこと。
左投げのルチアに対して右の強打者が相手ではさらに不利になる。
相手投手がビグバレーであることも考えると1点が重くなるこも予想された。
そしてもう一つは『守りやすさ』である。
ノーアウト二塁だと長打なら間違いなく一点、ライトフライやボテボテのゴロでも進塁されてしまい次に犠牲フライを狙われてしまう。
しかし一二塁となるとダブルプレーの可能性が出てくるので一気に抑えることもできる。
しかもこの5番打者は初戦の成績を見ても二ゴロ、遊ゴロが多く足も遅いのでダブルプレーを取りやすい打者でもあった。
しかし万が一長打を打たれれば一気に二失点、ホームランなら三失点とリスクも大きい。
慎重な配球が要求される場面である。
空振りよりも打たせて詰まらせる、そのため打者の手前で変化する球がいい。
初球、真ん中から外角に逃げるスライダーを要求。
クイックモーションからルチアが放った球はソリスの構えたミットに磁石のように吸い寄せられる。
ガコッ、と鈍い音がして打球はショート前に転がる。
ロビンは軽快なフットワークで前進して捌いて二塁へ・・・しかしランザスのベースカバーがやや遅れている!
が、ランナーの足が遅いため間に合いそうだと判断し握りなおして二塁に送球。
しかし、わずかに逸れた球はランザスのグラブを弾いて二塁後方へ転々とする。
三塁ランナーはストップしたものの一塁にも投げられずオールセーフでノーアウト満塁となってしまった。
「あの送球はとれないっすね。」
マウンドに集まって開口一番、ランザスはロビンを気遣うでもなく自分の無罪を主張する。
「・・・すみません。」
ランザスのベースカバーが遅れたことなど言いたいことは色々あっただが後輩だったため何も言えないロビン。
「まだ点が入ったわけじゃない、ここからしっかり抑えていこう。」
ソリスはランザスに注意するべきかとも思ったが空気を悪くすることを嫌って何も言わなかった。
「自分は大丈夫です。ソリス先輩の要求通り投げるだけですから。」
ルチアは平然としている。
エラーから広がったピンチで同様するピッチャーは多いがルチアのメンタルは崩れていない。
「大丈夫、まだ行ける。」この時はまだナインの誰もが戦意を失ってはいなかった。




