4章 未来へ11
「ストラック!バターアゥゥ!」
ビグバレーに負けず劣らずルチアも絶好調のピッチングだった。
17歳にしてこの舞台度胸、こちらもプロ注目株である。
二回の裏を終えて両チームまだヒットがなく、ビグバレーに関しては無四球と完璧な内容であった。
「よし、この調子できっちり抑えていこう。」
三回の表は7番のソリスからだ。
アカダモのバットを握り打席に入るとまた捕手が話しかけてくる。
「自分、あれやろ?先住民族のハーフとかやろ?」
それはハッピーズベンチまではっきり聞こえるくらいの大きな声だった。
「ええ時代になったもんやで。ドワーフ族が野球なんて昔じゃ考えられんもんなぁ。」
「・・・。」
ソリスは特に表情を変えず落ち着いていた。
しかし、ベンチ内、特にランザスやルチアは明らかに動揺、いやはっきりと苛立ちを隠せない。
「ワイらは遊びやけど貧困層の人らからしたら人生かかってんねやろなぁ。」
そこまでいってまた球審から注意を受ける。
「はいはい、すまんのすまんのぉ~。」
が、全く意に介していないようだった。
アレックス・ソリスティアの産まれはバルドランドの王都デュアーロから少し西になるダンロモボという港街だった。
父親はドワーフ、母親はイシュタール人のハーフで当時、ドワーフは身分が低く結婚の際には色々な反対もあった。
ドワーフは美形が多く力も強いので紅魔戦争時代は奴隷として一番人気だった種族で不自由な生活を強いられる者が多かった。
ソリスの父親であるロディ・ソリスティアは武器鍛冶職人だった。
鍛冶職人や鉱山労働者の中でロディは極めて優秀な鍛冶職人でありドワーフとしては裕福であった。
それから時代も徐々に変わっていきソリスが産まれる頃には種族による差別も薄らいでいた。
それに伴ってロディの鍛冶職人としての評価もさらに上がり『世界魔剣コンテスト』でグランプリを受賞するなどバルドランド王からも表彰されるほどである。
それでも一部の貴族の間では今もなお差別的扱いは続いており、その風習はドワーフ本人たち以上にイシュタール人の市民のほうが敏感に反応するようになっていた。
現在ドワーフはアイドルや女優など芸能活動をする者も多く、また低い身分からでも夢を叶えた者たちが多いことから『栄光の使者』と呼ばれることもある。
ソリスを異常に慕っているルチアは勿論、普段は生意気なランザスも完全に挑発に乗ってしまっている。
ここはなんとしてでも結果を出して落ち着かせなければいけない。
そんな焦りが産まれてしまっていた。
ビグバレーの主な球種は二種類。
ノビのあるストレートと落差の大きいフォークボール。
たった二種類だがそもそもストレートの威力が強すぎて並の打者では太刀打ちできない。
そこにストライクゾーンからバットの届かない低めに落ちるフォークが加わればヴィルドラであってもそうそう打てるものではない。
だからこそ球種を絞る。
このキャッチャーはここまで全て三振狙いの配球をしている。
圧倒的な投球で戦意を奪おうとしているのだろう。
しかしこれを続けていけば投手には相当な負担がかかるはず。
ソリスは四球続けて見逃し、カウントは2-2になっていた。
「なんや、手が出ぇへんのかいな。せっかく打たしたろ思たけど次で終いにするわ。」
恐らくブラフだ。
次はフォークで落としてくるだろう。
ビグライトは大きく振りかぶり鞭のようにしなる右腕から剛速球を投げ込んでくる。
ど真ん中にズバっときて・・・落ちる!
圧倒的フォークボールをしかしソリスは読み切って見逃す。
「・・・ットラーイっ!バターアウゥ!」
しかしコールはストライク。
ソリス的には低めに外れたように思えたが・・・ストライク!
結局3回も三者凡退で一巡して一人もランナーを出すことができなかった。




