4章 未来へ9
試合が終わると皆で銭湯へ行って汗を流した後、名物B級グルメの定食屋で夕食をとった。
話題の中心は3打点を挙げたロビン、そして7回無失点のルイスだった。
「えーお集りの皆さん、お待たせしました。本日のヒーローは・・・」
ざわざわ
「投打のヒーローネスディリオ・ロビンソン選手とスティーラ・ルイス選手です!」
アストラがエアマイクをロビンとルイスにあてヒーローインタビューごっこを始める。
「初回の場面でのタイムリーは見事でしたね。」
「えー、やはり初戦ということもありルイスさんになんとか楽に投げてもらいたいと思って。いいところに落ちてくれてよかったです。」
普段無口なロビンも今日ばかりはよくしゃべっていた。
それくらいに興奮していたのだろう。
一つ結果が出たことで緊張もほぐれたようだ。
二打席目以降も自分のスタイルを貫けたところを見てソリスは明日の試合にも不安はなかった。
それから酔っぱらったルイスが流行りの旅芸人のギャグを披露するなど多いに盛り上がり店員に三度も注意された。
「あれ社長、どこか行かれるんですか?」
「ああ、ちょっとトイレだ。ついてくるなよ?」
「いやいや、行きませんよ!」
席を外した社長はトイレではなく外へ出ていく。
違和感は感じたがプライベートまで詮索するわけにはいかなだろう。
(あれ?あの人は・・・)
しかし社長が扉を開けたときに一瞬見えたのはこんなところにいるのない人物だった。
(見間違いかな?)
そう思ったがなんだか胸騒ぎがする。
それからしばらく社長は帰ってこなかった。
次の日、昨日の興奮も冷めやらぬまま連戦となる。
昨日とは様子が違い、観客席は満席になるほど埋まっている。
中にはスカウトやメディアなど関係者の姿も多数見られた。
対戦相手はデュアーロから東バルドランドあたりの貴族や富豪の商人といったいわゆる上流階級達のチームであった。
「一人ガチな人がいますねぇ・・・」
そのチームの圧倒的主力となるのはエースで3番のビグバレー選手だ。
彼だけは貴族でも富豪の息子でもなく、貧しい農村出身であった。
まだ18歳だが特待生で野球学校に入学しイシュタール大陸学生野球大会でもチームをけん引して上位に勝ち進むなど今年1stランク球団のドラフト1位指名確実と言われている逸材である。
「いいか、相手がどんな強敵でも絶対に負けるわけにはいかない。勝てよ。」
社長もいつも以上にピリピリしている。
いや、正しくはいつもと違う雰囲気の、苛立ちのような怒気を孕んだ空気をまとっていた。
社長がちらりと遠くに視線をやった瞬間をソリスは見逃さなかった。
その先にはマカイベースボールリーグ評議会の議長を務める、ショーンキー・カッサーノ氏の姿があった。
昨日定食屋の前で見た社長と会っていたと思われる人物である。
普段はマルゲニアにあるマカイベースボールリーグ協会本部にいるはずだがなぜイシュタールリーグのたかがチャレンジトーナメントを観戦しているのか。
おそらく社長の知り合いだろう、昨日はなんの話を
「おいソリス。聞いているのか?集中力が足りんぞ!」
「あ、はい。すみません。」
しかし今は試合に集中するべきだ。
ソリスは意識を切り替え先発のルチアとサインの確認を入念に行った。




