4章 未来へ4
そんなやり取りがあった日から3日後、驚くべき新入社員がやってきた。
借りオフィスの狭い天井に届かんばかりの上背に見合った筋肉のついた四肢は存在しているだけで圧倒的迫力だ。
それに加えサラリと流れる金髪に整った顔立ちは年齢を感じさせないほど力強い。
会ったことはないが誰もが一度は見たことある彼の名はリスチール・ヴィルドラ。
イシュタール出身の元マルゲリアリーガー、それもマルゲリアベースボールリーグ(MBL)だった。
イシュタールリーグでいうところの1stランクだがマリーグに関してはレベルが違う。
まさに世界中から最高の才能が集まった究極の野球リーグである。
しかも彼はここビアンコで生まれ育った、まさに地元のレジェンドである。
「今日から一緒にやらせてもらう、ヴィルドラだ。野球は長くずっとやってるから伝えられることもあると思う。なんでも聞いてくれ。」
「ヴィルドラには選手兼総合コーチとして野球全般の指導も行ってもらう。」
あまりの出来事に誰もが一言も発せないでいる。
「こういった機会に地元で野球ができてとてもハッピーさ。楽しく、そして強くなっていこう。」
その笑顔はとてもさわやかで悔しさとは無縁だった。
ヴィルドラがマリーグのギガントラビッツでプレーしていたのは約3年前。
キャリアハイの年には打率2割6分ホームラン12本と少々物足りないものの打点は101と5番打者で勝負強さを発揮した。
惜しくも打点王は逃したもののイシュタールリーグ出身の野手がマリーグで通用することを証明した。
マリーグ以前に所属していたクラーケンズを退団する際には横断幕が掲げられ国中が活躍を祈るほどの人気選手でもあった。
しかし3年前に大きな怪我をして集中回復魔法陣にてトップクラスの魔導士たちの治療を受けたもののマリーグ復帰とはならなかった。
だがヴィルドラはマリーグ退団後も諦めることなく自費で治療を続けリハビリのエキスパートの元で苦しい時間を過ごし、今ここにいる。
決して華やかな舞台ではない。
イシュタールリーグですらないこれからチャレンジトーナメントに初出場しようというアマチュアチームだ。
しかし確固たる目的をもった彼の決意は不動のものであった。




