4章 未来へ1
「皆がご存知の通りうちが力を入れてきた野球部だが」
社長は疲れを感じさせない生命力にあふれた瞳をぎらつかせながら続ける。
「今度行われる公式戦『イシュタールチャレンジトーナメント』に出場する予定だ。」
ざわめきたつ社内。
有名な大会ではあるがチャレンジトーナメントを知らない人もいるだろう。
「そこで私の出番です。」
いつの間にか社員に紛れて小太りスーツの男がぬっと出てくる。
「うわ、メイガスキーさん!?どうやって侵入したんですか?」
「まぁ、いいじゃないか。」
「え?結構というかかなり重要だと思うんですけど・・・」
「なんですか?早く説明を始めたいんですけど?」
なぜかイライラしているメイガスキー。
(あれ?僕がおかしいのか?)
他の社員からも異議はない。
何事もなかったかのようにメイガスキーは続ける。
「このイシュタールリーグではみなさんご存知の通り1stランク、2ndランク、3rdランクがありそれぞれ優勝チームと最下位のチームが入れ替え戦を行うわけですが」
一度呼吸を整えて続ける。
「3rdランクにも降格の可能性があるのです。それがこのチャレンジトーナメントです。」
それからメイガスキーは長々と説明を続けたが要約すると大まかなルールは以下の通りだ。
・チャレンジトーナメント優勝者と3rdランク最下位のチームが試合をして入れ替えの有無を決める。
・1st、2ndは一年に一度だが3rdランクのみ前期、後期で一年に二度行われる。(入れ替え戦はリーグ戦より集客が見込めるため)
・3rdランクのチームは1勝分のアドバンテージがあり、先に3勝したほうが勝ちとなる。(引き分けは3rdランクのチームの勝ち)
・ここ5年入れ替えに成功したチームは出ていない。
・チャレンジトーナメントは地区予選と本戦の二部構成で行われる。
「そのチャレンジトーナメント本戦が今年はデュアーロで行われるのだ。」
本戦はイリーグに参加する7か国で順番に行われており、今年の前期はここバルドランドの王都デュアーロで行われる。
つまり遠征費を削減しつつ地の利を生かした戦いが出来る3、4年に一度のチャンスであった。
「ここビアンコでイリーグに参戦した球団はまだない。我々が記念すべき最初のチームになろうではないか!」
うぉーー!わーわーわー!
朝礼がまるで名演説のように盛り上がっている。
野球部に所属していない者も近くで練習を見たり手伝ってきて部員と同じくらいの熱量がある。
まさに今、野球部は社内の中心であり、ビアンコ自体の話題のトレンドになりつつあった。




