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マカイリーガー!!  作者: ななかみ
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0章 プロローグ1

「ほな、行ってくるで。」

田中健太の朝は早い。

まだ電車も走っていない早朝から家を出るのが日課になっている。

バットとボール、それに部活で必要な諸々の道具を詰め込んだ大きめのバッグを肩にかけている。

秋の始まりを感じる涼しい風が心地よく、今日も高いモチベーションで始まりそうだ。

「あ、ケンちゃん。今出るとこ?」

健太が学校に向かって踏み出したぐらいの時、二つ隣の家からセーラー服の少女が出てきた。

「お、祥子やんけ。お互い朝練は大変やなぁ。」

「でも好きでやってることだからね。ケンちゃんだってそうでしょ?」

祥子はキュッと縛った髪を揺らして微笑む。

「・・・まぁ、せやな。」

それから自然と二人は並んで歩き出す。

健太はこの時間が人生で一番重要なんじゃないかと思うくらい大事にしていた。


学校まではそんなに遠くないので自転車を使わず歩いていく。

祥子いわく『健康の秘訣』だそうだ。

祥子は日常のなんでもないこともプラスに考える。

健太はそれが羨ましくて、なんでも積極的にやるよう意識するようになった。

この朝練もそんな意識の表れである。

とくにこの秋、野球部は三年生が引退して二年が主導となっていた。

マネージャーの祥子も直接プレイするわけではないがチームの一員として張り切っていた。

「でもケンちゃんだけしょ?こんな時間から朝練してるの。」

「まぁ、本来必要ないんやで。放課後にやればええんやからなぁ。」

「じゃあなんであえて朝やってるの?」

「それは・・・まぁ、その・・・」

ごにょごにょと濁す。ここで一気に行けないのがまだ積極的になりきれていない部分だ。

「あっ、あれなんやろ?ブラックホールみたいなんあるで!」

話をそらそうと目の前にあったものを指さす。

アスファルトから生えた電信柱の根元に黒い霧の集合体のようなものが蠢いている。

とりえあず指さしたものの本当になんだかよくわからいものだった。

「なんだろう?『異世界への扉』みたいね。」

「なんやわからんけど近づくと引き込まれそうやな。」

「もし引きずり込まれたら『魔王と戦う』みたいな展開になりそうだから離れましょう。」

「なんや、魔王って。そんなん出会ってしもたら瞬殺されてまうわ。」

二人はそのブラックホール状の物体を避けるように迂回して歩いた。

しかし丁度向かいから肌をこんがり焼いたギャルっぽい女子高生二人組が歩いてくる。

「チョベリバって感じ~?」

「マジパネェ!パネェっしょ!マジで!」

二人は早朝だというのに大声で会話しながら道の真ん中を歩いてくる。

もうちょいそっち寄れや!とは言えず、健太はギリギリでかわして歩く。

しかしその後ろを歩いていた祥子の肩がギャルの一人にぶつかる。

「あっ」

という間にブラックホールに吸い込まれていく。

健太は咄嗟に手を伸ばしたが荷物が重くよろけてしまう。

ギリギリ伸ばした手は祥子の左手をつかんだがひっぱることはできなかった。

なぜ一言注意できなかったのか。

自分が積極的に言っていれば祥子を巻き込むことはなかったのに。

健太は激しく後悔したが後の祭りだ。

二人を飲み込んだブラックホールは満足したのか徐々に小さくなり、次の瞬間には消えていた。



「うーん・・・」

「あ、気付いた?」

健太が目を覚ました時、真っ先に祥子と目があって安心した。

「ここは・・・どこや?」

「わかんないけど、私たちの知ってる世界じゃなさそうだよ。」

そう言われて辺りを見回してみるとだだっ広い土の上に無造作に岩が転がっていて

時々高い草が生えているような、要するに荒地の真ん中にいた。

「やっぱりあのブラックホールみたいなやつのせいで変なとこ飛ばされてしもたんか。」

近くにブラックホールも見当たらず、帰る方法もわからない。

「とりあえず、人を探してみましょう。」

こんな時でも祥子は前向きで行動的だった。

「せやな、帰れやんと決まったわけでもないし、帰れやんにしても情報を集めんとな。」

最悪ここで暮らすことになるかもしれない。

でも健太は祥子と一緒ならそれもアリかと思っていた。

「せやけど大抵違う世界来たら能力が飛躍的に上がるみたいな設定ちゃう?」

健太は楽観的に『お約束』を期待している。

こういう部分はプディシブなのだ。

「ケンちゃん、それは主人公補正ってやつじゃない?ケンちゃんは主人公タイプじゃないと思うけど・・・」

「え、そんなわけないやろー。」

二人は危機的状況でもすっかり明るさを取り戻していた。

「あ、せやせや。荷物はどないなっとるやろ。」

バッグをごそごそと漁ってみると朝用意したバットやボールに教科書やお弁当など

丸々残っている。

「携帯もあるけどやっぱり圏外やなぁ。」

「しょうがないよ、こんな時こそ自分達の力でなんとかしなきゃ。」

「そうか、せやな。おっ、あそこに城みたいなんあるで!人おるかもしれんな、ちょっと入ったろ。」

二人は一番近くにあった城のような建物を目指して駆け出した。


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