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Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第二章 向き合うべき過去
9/16

09 ガイの過去 巻之一




 俺は、山奥の”忍びの里”と呼ばれる地方で生まれた。

 俗に言う、”忍者”ってやつだ。







「違うっ! もっと腰を入れて振らんか!!」



「はい、父上!」



「今度は足が止まっておる! 腰だけではなく足もだ!!」



「はい、父上!」



「凱っ、腕の振りが遅いぞっ!!……今日はもう止めだ。全く、要領の悪い………………。」



「はい、ありがとうございました!」




 そう。俺は小さい頃からこうやって、糞親父に鍛えられてたんだよな。刀の振り方一つだけで、こんなにも繰り返しやってたっけな。

 何度やっても怒られた。んで、その度にため息つかれてブツクサ言われたもんだ。

 唯認められたくて、必死にやっても、結局一喝された。





「お疲れ様でございます、若。」



「ゴエモン……僕、ダメだよ。何回やっても、父上に叱られちゃう…………僕、才能ないのかなぁ?」



「そんなことはございませんよ。……こっそりお教え致しますが、この間の会同で……。」





『次世代の子供たちは、次々と力をつけて来ております。特に成長著しいのは、御屋形様の一人息子のガイ様。日一日とその力を上達させてございまする。』


『当たり前だ。儂の息子だぞ。』





「……と申しておりまして。その時の御屋形様の顔が、ほころんでおりましたよ。」



「本当~? 嬉しいな!!」



「はい。ですから、若はちゃぁんと、才がお有りなんですよ?」




 俺が小さい頃からずっと面倒見てきてくれたゴエモン。いつも俺に優しくしてくれて、年の離れた兄貴みたいだった。

 いつでも俺には笑顔で、親父が教えてくれないことも全部教えてくれた。




「よぉーし、元気出てきた! 母上のところ行って来るねー!」



「あ、そんなに走ると転びますよ!?」




 そして、何よりも幼かった当時の俺の何よりの支えであり、楽しみ。

 それが、お袋と会話する時間だった。




「母上~、母上~!!」



「あら、凱! 今日もお稽古頑張ってたのね。母はしっかり見ていましたよ。」



「うん! あのね、ゴエモンからさっき聞いたんだ。僕の事、父上がかいどーで褒めてくれたんだって!!」



「そう、良かったわね凱。……今日は体の調子が良いから、手鞠をして遊びましょうか?」



「本当? 良いの? やったぁ! 母上と手鞠だぁ~!!」



 お袋は生まれつき体が弱かった。月に何度か寝込んだりしてな。

 それでも調子の良い日は、俺と遊んでくれて、俺が遊びつかれたら一緒に昼寝してくれて………………。


 あの頃は、多分一番幸せだったな。

 今みたいに自由があるわけじゃないけど、大切なものは全部揃ってた。




 俺の故郷は、学校って制度がなかった。だから、基本的な読み書きは全部ゴエモンが教えてくれてたんだ。




「若、次は算術の時間ですよ。若は苦手かもしれませんが、頑張って下さいね?」



「zzz~………zzz………ふぇ?」



「…………わ~か~………………起きなさい!!」



 座学で寝っぱなしの時だけは、ゴエモンが本気で怒るんだよなぁ。

 んで、そっから説教タイムが始まるんだ。




「……良いですか若! そもそも、算術とはとても大事なものなのですよ!? 数が数えられなければ、世の中で生きていけません!! それに、若。これからあなたはお友達がたくさんできます。何人できたか知りたくないですか?」



「うん、知りたい。」



「そうでしょう。そして何人できたか奥様に教えてあげたら、きっとお喜びになりますよ?」



「本当!? 僕、頑張ってみる!!」



「ええ、その意気です。では、この問題を解いてみて下さい?」



「えぇ~………………。」




 ゴエモンの話は、最終的には俺にうまく結びつけて話を結論に持っていってた。頭が良いんだろうな、やっぱ。

 俺もついつい乗せられてたとこあったもんな。




「はい、正解です。よくできましたね若。……はい、頑張った人にはご褒美ですよ。ゴエモン特製、水羊羹です。」



「わ~、ゴエモンのおやつ美味しいから僕大好き!!」



「柔らかくても、ちゃんとよく噛んで、ゆっくり食べて下さいね?」




 ゴエモンは、料理とか家事は全部こなしてた。途中から俺も手伝うようになってな、お陰で俺も結構、主夫力高くなっちまったよ。











----------------------------------





「若、今日は晴れ舞台ですね。」



「母も応援していますからね、頑張るのですよ。」




 その日は、忍びの技量を同年代で競い合う披露会だった。

 俺は、お袋とゴエモンに良いとこ見せたくて、何より親父に褒めてもらいたくて、それは必死に演目をこなした。


 その甲斐あってか、俺は同年代の部で優勝した。

 嬉しかった。ただ純粋に嬉しかったよ。



 お袋も満面の笑みだったし、ゴエモンに至っては泣き出してな。当時は面食らったもんだったよ。

 周りからもすごく褒められた。

 同年代からも持て囃されてな。





 でも、親父は表情一つ変えることなく、俺が優勝を決めた瞬間には、どこかへいなくなっていた。





「きっと、御屋形様もお喜びですよ!」



「ええ、お仕事が忙しいだけよ。お父上はちゃんと最後まで見ていたわ。」




 二人は必死に俺をフォローしてくれてたけど、俺はどこか空しかった。









----------------------------------





「凱、脇をもっと締めろ。隙だらけだぞ!!」



「はい、父上っ!!」



「違うっ!! 何だそれは? バタバタと足音を立てて、みっともない!! 足の運びが悪いからだ、凱っ!!」



「はい、父上っ!!」



「あの程度の披露会で優勝して気が抜けたか? いつまでも図に乗りおって、だからお前は何時まで経っても成長せんのだ!!」



「すみません、父上……。」



「馬鹿者!! 謝る暇があるならもっと修練を積めぃ!!」




 俺が少しずつ成長するにつれて、親父は益々厳しさを増していった。


 それでも俺は諦めなかった。

 その頃くらいから俺は、親父に褒められたいんじゃなくて、親父を見返してやりたいって気持ちに変わり始めていた。






「うおおっ!!」



「む……やるな凱。儂の負けだ…………強くなったな。」




 やった。やっと一本取れた。

 あの時の俺は、もの凄い達成感だった気がする。


 でもそれも束の間で、そこから今度は忍術の修行が始まった。











----------------------------------





「父上、ここは……?」



「良いか、この湖を、服を一切濡らさず走って渡り切るのだ!!」



「そ、そんな事できません!」



「馬鹿者、やる前から怖気づいてどうする!?」



 親父は、俺の目の前ですばやく、水しぶき一つ立てずに湖を走り回って見せた。



「さぁ、やってみせい!!」



「うおおおっ!!」



 俺は見よう見まねで走り始めたが、直ぐに落ちて溺れる。



「馬鹿者がぁ!! お前は修行で何を学んでおったのだ!? そこでしばらく頭を冷やしておれぃ!!」



 あろうことか親父は、水で溺れかかっている息子を置き去りにして帰っちまいやがった。


 その後、心配で見に来たゴエモンに助けられるまで、俺は溺れっぱなしだった。





 その後も、燃え盛る火の中で黙って耐え続ける修行や、避雷針をつけて落雷に絶える訓練、森で一番高い木の上に登って風の流れを読む修行とかしたが、どれをやっても上手くいかないし死にかける日々が続いた。


 あまりの惨状に溜まりかねたゴエモンが一度直訴したことがある。




「御屋形様、些か厳しすぎます!! このままでは、若が死んでしまわれる!!」



「五右衛門よ、貴様何時から儂に意見するようになった!?」



「無礼は百も承知。しかしながら、何卒御一考をば!!」



「我が子と云えど容赦はせぬ。奴の為ならば、よ。」



「しかし!!」



「くどいぞ!!………………時に五右衛門よ、お主最近、座学の時間を減らしていると耳にしたが、真か?」



「く………………仰る通りに御座いますれば。」



「甘い。まずはお主の甘さを改めよ。さすれば先の話、聞かぬことも無い。良いな!?」





 こうやってゴエモンは事ある毎にかばってくれたが、親父は決して譲らなかった。

 それどころか、座学の時間にこっそり監視役まで付けてくる始末だ。

 だからこそ、あんなことがあった。






「五右衛門!! 五右衛門はおるか!!」



「は、ここに。」



「この、大馬鹿者が!!!」




 この時ゴエモンは、自分の座学の時間を利用して俺を休ませていたことがバレて、親父にボコボコに殴られていた。


 唯の一度も反撃せず、防ぐことも、避けることもしないで。


 ずっと、親父の拳と罵声を一身に浴びていた。




 今でも忘れない。

 俺はこの日、何故か昼からずっと自習をしていろと言われ、夕方になっても戻らないゴエモンを探しに、屋敷中を駆け回った。



「!?……ゴエモン!!」



「あ、若。見られへひまいまひたか……。」




 どうやらゴエモンは、文字通り面の形が変わるまで殴り続けられたらしく、俺が見つけたときは顔中たんこぶだらけで、まともに発音できる状態じゃなかった。




「ゴエモンっ、ごめんね! ごめんね、ごめんね!!」




 俺は泣きながら謝り倒したよ。

 だってそうだろ? 

 幾らガキでも、自分のせいでそうなったって、わかっちまうよ。


 でも、それでもゴエモンは、決して親父の悪口は言わないどころか、頭を撫でながらこう言ってくれたんだ。




「若、こんにゃわらひに涙を流して……泣かにゃいでくらひゃい。奥様に似て、お優しく育ってくれて、わらひはうれひいですよ。……でも今日はゆっくり休めましたでひょ?」




 次の日から俺は、決して弱音を吐かなかった。


 親父にぶん殴られ、罵倒されて、馬鹿だの阿呆だのと言われても、俺は決して諦めなかった。


 その日に言われてできなかった修行は、晩飯を食った後にこっそり修行場へ行って、できるまで繰り返した。


 もうゴエモンは殴らせねぇ。その一心でな。



 そんな事を繰り返してたからだろうな。

 同年代の友達は、次第に俺から離れていった。

 遊びに行こうと誘われても、俺は修行があると言って断り続け、何時しか俺は同年代の誰からも相手にされなくなっちまった。


 寂しい気持ちは確かにあった。でも構わなかった。だってよ、実質ゴエモンが俺の兄貴でもあり、親にも似た感情があったからな。











----------------------------------





 そんな日々を送っていた時、俺と親父にとっての決定的な出来事が起こった。


 それは、俺が一人で修行をしていた時だった。




「若、大変です!!」



「ゴエモン? どうしたの?」



「奥様の容態が急変しました!!」









 俺はゴエモンと共に急いでお袋の元に駆けつけた。



「母上っ!!」



「ああ、凱。………………こっちに来て、よく顔を見せて頂戴?」



「はい、僕はここにいます! だから母上、元気になって!!」



「凱、母はもう長くありません………………だから、よく聞いて?」



「嫌だ! 母上は死なない!! 絶対死なない!!」



「黙りなさい!!」



 それが、俺がお袋に怒鳴られた、最初で最後だ。




「凱。お父上は、あなたが寝た後、いつもあなたの話をしに来るの。あなたの様子を全部私に教えに来てくれるのよ。………………決して笑ったりしないけど、一言話すたびに頷いて、真剣に私に教えてくれたわ。………………だから凱。決してお父上を、嫌いに、ならないで、……ね………………凱、愛しているわ……。」




「!?………………母上?……………………うわあああああ!!」




 その後、俺は泣きながらお袋と決別した。

 あの糞親父は、全部終わった後でひょっこり現れやがった。





「父上、一体何をしておられたのですか!?」



「何を、だと? お役目に決まっておろうが!!」



「………………父上は、母上よりもお役目の方が大事なのですか?」



「何だと……? もう一度申してみよ!?」



「あなたは、母上よりお役目が大事なのかと聞いたんです!!」



「よくぞ抜かした………………そこに直れぃ!! この無礼者が、今すぐ斬り捨てて、お前を母の元に送ってくれる!!!」



「おやめ下さい御屋形様!!」

「まずいぞ、止めろ!!」

「御屋形様がご乱心召されたぞ!!」




 俺は、親父にぶった切られる覚悟で言った。

 だってよ、お袋が可哀相じゃねぇか。最期の最期まで親父を信じきって死んでいったんだぞ!?




「ええい、離せ! 離さぬかぁ!!」




 取り巻きが総出で押さえに掛かっている。

 そのまま押さえを離れた親父に切り殺されても構わない。


 だがそこで、みんながみんな親父を止めにいく中、俺に向かって一歩進み出てきた奴がいた。

 ゴエモンだった。




「若、あなたは今、仰ってはならないことを仰いました。訂正してください。そうすれば、御屋形様も若を殺しはなさらないでしょう。」



 正直ショックだったね。ああ、俺には誰も味方はいねぇんだって思ったよ。

 だからだろうな。元々嫌気差してたのもあったし、あんな言葉が出てきたんだろうな。




「父上……僕はこの家を出て行きます。」



「何!? どういうつもりだ!?」



「母上は最期まであなたを信じきっていました。それなのに、あなたは、僕の言葉に対して簡単に”母の元に送ってくれる”とまで言ってのけた。……それに、この家には僕の味方は、誰もいませんから。」



「………………いいだろう、出て行け。さっさと出て行けぇ!! 二度とこの家の敷居を跨ぐなぁ!!!」




 こうして、俺は家を飛び出したのさ。

 この時まだ、たったの9歳だったよ。






To be continued……


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