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Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第一章 その名はガイ=オシタリ
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07 眠りの村・後編





 古城に入ると直ぐに次郎四郎がいた。あちこちに散らばってんのは、多分魔物だった・・・物だろう


 かなりの数になる。マジで?

 マジで一人っつーか一匹でやっちゃったの、コレ?




「グルルル…………ゴアアーッ!!」




 また次郎四郎が灼熱の炎を吐きだした。

 どうやら、次郎四郎………………ええい、言いにくいわ!!

 これから俺の中ではコイツをジローと呼ぶことにする。


 で、そのジローを以てしても、どうやら苦戦する奴がいるらしい。多分、そいつが親玉ってところだろう。




「次郎四郎っ、手伝うよっ!!…………………………。」




 キャロアが小瓶を取り出し、中の液体を飲み干した。

 へ? そんな使い方なのアレ?

 それで魔法陣書くとか、何かしら召喚しちゃうとかじゃないのかよ………。



 と、心の中でツッコミに徹している場合ではない!

 キャロアは魔術の詠唱を開始している。

 俺も加勢せんとな。




「俺も手伝うぜ次郎四郎!………………あいつが親玉か。」




 実はさっきからジローは前方の何かに攻撃を仕掛けているのは分かっていたのだが、肝心の前方が霧だらけで何一つ見えていなかった。

 だが、霧を炎で吹き飛ばしてくれたお陰で、ようやく面が拝めた。









「ほう………………中々やりますねェ。」








 そこにいたのは、黒ずくめの貴族風の夜会服とでもいうやつか。それを着た、黒髪オールバックで、真っ赤な目をした異常なほど肌の白い男だった。


 ふん、ここまで分かり易い特徴なんだから誰でもわかるよな?




「テメェ、吸精魔王ヴァンパイアか!!」




「随分と品のない言葉遣いですねェ? さては、お猿から進化しきれていないのですか?」




「ハ、敬語でイヤミ言う方が品が無ぇって知ってっか、オッサンよ?」




 オッサン、とは俺の只の予想………………口から出任せに過ぎない。

 だぁってよぉ、俺より背が高くて、化物の分際でイケメンなんて許せるかよ。



 ヴァンパイアは人の生き血を啜る、なんて言われちゃいるが、そんな事は無ぇ。こいつらはもっぱら吸引術式ドレインで生命体のエネルギーを枯渇するまで吸いまくってエネルギーにする。




「どいて、ガイ、次郎四郎!!!」




 キャロアが魔術を放つらしい。

 俺は急いで後ろに下がり、ジローもキャロアの傍に寄る。




「むおっ! これは!?」




 吸血鬼が驚くのも無理はない。キャロアは自身の頭上に小さいが物凄い熱量を帯びた火球を作り出した。

 間違いない。

あれは小さくても、太陽そのもの・・・・・・だ。


 その小さな太陽は、ヴァンパイアを飲み込まんと高速で向かっていく。




「くっ、おのれ!!」




 吸血鬼は、またもや霧を発生させる。が、太陽は次から次へとその熱量で霧を蒸発させていく。

 スゲェ、これが本場の魔術ってやつかよ……。




 太陽はそのまま進んでいき、激しい光と熱を発し、吸血鬼が立っていた石段を蒸発させ消し飛ばした。




「キャロア、やったな!!………………キャロア?」



 キャロアがフラフラとよろめき、そのまま倒れていく。

 俺はその体が床に強かに打ち付けられる前に体を支えた。




「キャロア、大丈夫か!?」



「えへへ………………張り切りすぎちゃった。………少し………寝るね………。」




 キャロアはそのまま気を失う。

 恐らく、大魔術の行使による魔力切れで気絶したんだろう。無茶しやがって。




「次郎四郎、キャロアを頼むぞ。」




 ジローは伏せて、その体をキャロアのクッション替わりにする。

 よくできた忠犬だよ、お前は。




「さて………………出てきやがれ!! いつまで死んだふりこいてんだよ!!」




 さっきよりは弱まったが、まだ辺りに気配がする。

 まだ生きてるはずだ。








『ククク、中々に鋭いですねェ………………。』







 すぅっと、まるで立体映像でも投影されたかのように現れた。




「流石に驚きましたよ、まさかその小娘、『禁魔術』を使えるとはね。そのお陰で、ワタクシも実体を保つために大分力を割いてしまいましたよ………………。」



「ふーん。その割には随分余裕そうだな?」



「それはそうでしょう。肝心の大魔術師は夢の中、残るは私に一撃も加えられなかった魔犬とお猿さんしかいないのですから。」



 舐めやがって。まぁ、事実だけどな。





「それに………………そぉれ!!」



「うっ………………あああ………………ううっ………………!」




 吸血鬼が手をキャロアに向けると、キャロアは突然苦しみだした。




「手前、何しやがった!?」



「私の前で気を失うということは、心身の防壁を無くすことに等しい。目の前に出てきたお料理を、お腹が空いている状態で我慢などできますか? この小娘に大分力を使ってしまいましたのでね、使った分は取り戻さないと。」



「ううっ………………ぁああっ………………ううぅぅ…………………………。」




 うめき声をあげながら体を震わせていたキャロアが、ピクリとも動かなくなる。




「キャロア!! しっかりしろ!!」



「ん~、魔術師のエネルギーは絶品ですねェ! 間もなく彼女は死に絶えましょうが…………最後の一滴までいただきましょうか。勿体無いですし。」





「……………………………………………………。」




 俺の中で、何かが切れた。




「…………………………死ね。」










----------------------------------





「グルルル………………。」



 主の身に起きた非常事態に、彼……次郎四郎と呼ばれる魔犬……は、怒りを覚えた。

 彼は主人をそっと横たえると、吸血鬼に飛びかかろうとした。



 が、飛びかからなかった。

 否、飛びかからないのではない。飛びかかれないのだ。



 本能で、今飛びかかる事が危険であると察知したためである。

 渦巻く濃密な殺気は、それを感じさせるのに十分すぎるものであった。


 その殺気は、吸血鬼から放たれたものではない。




 主人や自分に対して、まだ出会って間もないにも関らず、朗らかに接してくれた、あの少年からだ。


 今飛び込めば、自分も巻き添えを喰らうだろう。

 彼はそう判断し、主人の傍から動くのをやめた。








「ん? どうしました?」



 吸血鬼が少年に話かける。少年に反応はない。





「おやおや、可愛らしい彼女が動かなくなって、茫然自失してしまい………へ?」





 吸血鬼が、自身に起きた出来事が理解できず、間抜けな声をあげる。


 少女に向かって翳していた手が、その肘から先が、ゴトリと床に落ちたのだから。





「な………………何が起きているのだ!?………………どこだ!?」





 吸血鬼の周囲に風切り音が鳴るが、その音を発している筈の者の姿形が全く見えない。




 風切り音が耳元で唸る……………。



「グッ!」



 右の耳が消えた。

 また風切り音が近くで鳴り響く。



「うああ!!」



 左腕が地面に落下した。

 またも風切り音。



「ひぃっ!!」



 右側の頬が削ぎれ飛ぶ。






「ぐっ!! ゴァ!! アガガガガガガアッ!!!」






 次々と全身を切り刻まれ、いつの間にかその身には幾つもの手裏剣が突き刺さり、無残に切り刻まれたその躯体は、徐々に面積を減らしていく。




 辺りは既に夜。夜はヴァンパイアの力が増す時間帯。

 もしもこれで今宵が満月であるならば、ヴァンパイアはこうまで一方的にやられることはなかったのだろうが、残念ながら夜空に浮かぶは三日月。


 恐怖のあまり、再生するという選択肢すら思考の果てに追いやられたヴァンパイアにとって、もはや夜や月の満ち欠けなど意味はないのかもしれないが。




「(滅ぼされる………………只の人間に。こんな、小僧に!)」




 月明かりに照らされて、ヴァンパイアの周囲にキラキラと光る糸のようなものが巻きつけられている。

 そしてその随所に、ありったけの爆薬が仕掛けられていた。




 疾風と共に再び姿を現したガイは、右手から伸びた糸を軽く引っ張ると、





「ひいいっ!!」





 吸血鬼は断末魔と共に、塵と化した。











----------------------------------





「………………イ……………て。」



 うーん? 何だ?

 ルームサービスは頼んでねぇぞ~?




「……………ガイ、……………てよ!」



 あん? 女の声~?

 そっかそっか、とうとう俺はライカと結婚した夢でも見てんのか………ふへへ………どーせなら、寝起きのチューしちまおっかな。




「ガイ! ふざけないでよっ!!」




 痛って~………………ビンタ貼られちった………………あれ?

 何で俺ここにいるんだ…………………………あっ!?




「キャロア!? 体は大丈夫なのか!? 何ともないのか!?」



「ほぇ? あ、うん。大丈夫よ、ありがと。それよりも何よりも、あのヴァンパイアはどうなったの? 次郎四郎は答えてくれないし……。」



 ん? そういやヴァンパイアがいたはずだが、姿を見かけねぇな?




「キャロアが倒したんだろ? 太陽みたいな魔術でさ?」



「ううん、あれじゃ倒せないよ。直ぐに霧になっちゃったじゃない? 霧をちょっとだけ蒸発させたから本体に影響はあったかもしれないけど、倒すまでは無理だよ。………………ねぇ、本当に何もしてないの?」



「う~ん………………覚えてねぇんだよな。」



 そう。俺は、キャロアがドレインを掛けられて苦しんでるところを見て、それでカッとなって………………そっからの記憶がスッポリ抜け落ちてる。

 戦ったんだろうけど………やっぱ思い出せねぇな。




「何もしてないのね?………………おかしいなぁ。さっきから次郎四郎、ガイを怖がっちゃってるみたいなのよね。」



 そう言われて見ると、次郎四郎は、心なしか俺から距離を取っている。

 俺が怖がるならわかるんだが、何であいつが俺を怖がるんだ??




「………………おいで、次郎四郎? 怖くないから。」



 キャロアの声に、ゆっくりと、しかし警戒しながら近づくジロー。

 キャロアに頭を撫でられ、頭を垂れる。



「ガイも撫でてあげて? 私たちが気を失ってる間、ずっと一人で私たちを守ってくれてたんだよ?」



 そっか。考えてみりゃ、キャロアは気絶してたし、俺もブッ倒れてたらしいからな。

 良いとこあるじゃねぇか、ジロー!



「よしよし、サンキューな、次郎四郎!!」



 俺が頭に手を乗せると、最初はびくついたが、次第に慣れて俺のされるがままになった。




「………………え?」



「ん? どうしたん?」



「今ね、次郎四郎が『いつものガイだ』って………………。」



「は? 俺はいつもの通りだぞ??」



 俺が何したって言うんだ?

 気になるな………………いや、やっぱヤメだ。





「………………取り敢えずよ、村に戻ってみねぇか? 村人が元に戻ってるかもしれない。」



「うん………………ガイ、本当に大丈夫なんだよね?」



「………………疑り深いのな? どうすりゃ信じてくれるんだよ?」



「ガイっぽいこと、やってみてよ?」




 またこれも無理難題を仕掛けてきましたね、お嬢さんよ?

 俺っぽいだ? どう証明すりゃあ………………あっ、そうだ。

 

 ビンタ覚悟でやってみっか。




「キャロア、お前………………。」



「なぁに?」



「………………ピンクだろ?」



「!………………な、何で知ってるの!?」



 おぉっ? 顔が赤くなりましたよ~。

 ふっ、我ながら変態臭い気がするが、これぞ俺の証だろ!



「何でってお前、俺はお前が落下したのを上を向いて助けたんだぞ?」



「こぉの………………へんったーいっ!!!」




 パチーンという乾いた音が、古城に響き渡った。

 ふ、自己証明ってのは、簡単じゃねぇのさ。











----------------------------------





 迷宮化した林は元通りになっており、俺たちは直ぐに村に辿り着いた。




「おっ?………………村に明かりが点いてるぜ。ヴァンパイアは追い払えたらしいな。」



「そうみたいね! 良かったぁ、みんなだるそうだけど、元気みたい。」




 おお、ここまで一言も口をきいてくれなかったキャロアが話してくれたぜ。ガイ感激~!

 ちなみに、ジローは俺の提案で、目立つので村の入口付近で待機してもらってる。



 さてと、後は………………。




「おっさん、ふらついてねぇか? 大丈夫か?」



 俺は手近な村人に話かける。




「おお、旅人か。何だか体が異常に疲れててな、村中の人がそうらしいんだが、一体何があったのか………………。」



 やっぱりそうか。みんな自覚症状がないからまだ動けるみてぇだが、自覚しだしたらブッ倒れるだろうな。

 さて、疲れてるとこ悪いがおっさん。俺の質問に答えてもらうぜ?




「ところでさ、この村に“フルール”って家、無いかな? 探してるんだ。」



「ああ、フルールさん家ならすぐそこだよ。赤い屋根で灯りが点いてるだろう?」



「悪い、ありがと。体大事にな、おっさん。」




 成程ね、そこの家か。訪ねてみるか。




「ガイ、さっきから何しようとしてるの?」




「ああ、この村に知り合いの家があってね。様子見てきてくれって頼まれてんだ。この調子なら大丈夫だろうがな?」




 俺はキャロアと会話しながら、その家の前に辿り着いた。

 3回ノックをする。




『はーい!』



「夜分遅くすみません。トロアの町のトレジャーギルドの者ですが!」




 こう言えば、娘の職場の人間だと判断するだろうから変な警戒はされないだろ。


 程なくして扉が開いた。



「あら、いらっしゃいませ。いつも娘がお世話になっております。………………今日は、どのようなご用件で?」




 どうやらお義母………………じゃなくて、ライカのお母さんらしい。健康的そうな体つきをしてる。

 だるいのだろうが、懸命に俺に応対してくれている。

 キツそうだし、要件だけ手短に済ませてお暇するとしますかね。



「初めまして、トレジャーギルドから派遣されてきたハンターのガイ=オシタリと申します。この度は、こちらの村に来るにあたって、様子を見てきてほしいと頼まれまして。ご家族共々、元気にお過ごしでしょうか?」



「ええ、お陰さまで。只、今日は少しだるくて………………いつもは元気なんですよ。……お父さん、娘の職場の方よ。」



 そう言って、出てきたのは口元に髭をたくわえ、白髪交じりの髪を端正に切りそろえた老紳士が出てきた。

 この人が、俺の将来のお義父さんなのか………紳士って感じがするな。




「これはこれは、娘がいつもお世話になっております!………………失礼ですが、まだお若いようだが?」




「今年で15歳になります。トレジャーハンターは10歳からやらせていただいております。」



 どうだい? 俺だってな、こういう喋り方もできるんだぜ?

 普段はめんどいからやんねーけどな?




「おお、礼儀正しいのだね。………………ところで、そちらのお嬢さんは?」



 あんまりそこ突っ込まないで欲しかったなぁ~………………。



「彼女は、仕事の都合で一緒になりまして。今は町へ送り届ける最中です。」



 チラッとキャロアを見る。軽く会釈してくれた。特に俺に対して変な視線も雰囲気も出してない。

 ふぅ、ここで色々騒がれたら、俺の積み上げていく予定の立場がマイナスからのスタートになっちまうからな。




「そうか………………君は若いのにしっかりしてるな。うちの娘の事、宜しく頼むよ。」



 ええ、喜んで!!

 言われなくても、がっつり親しくさせてもらいますから!!



「こちらこそ、普段からお嬢さんにはお世話になっていますので。………………では、ご主人と奥様の事は僕から責任を持ってお伝えしておきます。今日は遅くにすみませんでした。」




「ええ、またいらしてくださいね。」



「暗いから、気を付けて帰り給えよ。」




 ええ、ええ気をつけますとも!

 また来るときは、呼び方が変わるかもしれませんがねぇ!!




 俺はフルール家の扉が締まり切るまで頭を下げ続けた。





「………………よし、トロアの町に行くか。キャロア、さっきは咄嗟な紹介の仕方で悪かったな?」



「………………別に~。怒ってないし~?」




 あの、キャロアさん?

 それは、どう見ても、わかりやすく怒っていらっしゃると思いますが?




「悪かったよ~、機嫌直してくれよ~。」



「別に、紹介の仕方で怒ってる訳じゃないし~。」



「じゃあ、何で?」



「………………ガイさ、フルールさんてとこの娘さん、彼女なの?」




 おおおっ!? 何て事だ………そこに気がつくのかよ!?

 これが俗に言う、“女の勘”ってやつか?




「いや、まぁ………正式に付き合ってるってワケじゃねぇんだけどさ………………。」



「デートとか、したの?」



「………………無礼を働いたお詫びに、俺が支払い全部出すみたいな感じで、一回だけ。」



「ふ~ん………………それだけ?」



「へ? ああ、それだけだけど。」



「………………じゃあ許す!」




 ? どういう訳か知らんが許されたらしい。

 何故に浮気などしてない俺が、二股を問い詰められるような状況になっているのだ!?











----------------------------------





 それから直ぐに、表に止めてあるフライヤーに乗ってトロアの町に向かった。


 乗る寸前に驚いたのは、



『キャロア、その子犬は何だ? 拾ったのか?』


『違うよ。これは次郎四郎だよ?』


『はぁ!? これのどこが次郎四郎なんだよ!?』


『この子、子犬になれるのよ。』



 流石魔物と言うべきか。

それならそうと、先に言ってくれれば村の外で待機なんかさせねぇのに。








 街道をひたすらフライヤーで走る。

 隣のキャロアはすやすや寝息を立てている。ジローもキャロアの膝の上で丸くなっている。




「(ヴァンパイア………………あれはきっと、俺がやったんだ。)」



 昔も何度かあった。

 俺は、俗に言う“プッツン”しちまうと、ああやって虐殺するらしい。

 しかもその時は、普段の俺じゃ使えねぇ力をバンバン使ってな。



「(違う自分、か………………気色悪いったらねぇな。)」



 あの時俺は、覚えてないんじゃない。

 覚えていたくなかったんだ。

 思い出したく、なかったんだ。



 チッ、とんだ弱虫野郎だな、俺も………………。










----------------------------------





 トロアの町に着いた。

 取り敢えずフライヤーをギルドの入口近くに止めておいて置く。こいつらは寝こけてるから、先に報告済ませちまうか。




「今帰ったぜ!」




「おぉ、ガイ!! どうだった!?」



 夜の時間だっていうのに、珍しくおっちゃんがまだいる。

 自分の権限で出した勅命無視して帰る真似は流石にしなかったか。



「取り敢えずな、ティラの村は、無事だ。………………古城にヴァンパイアが巣食ってやがったがな。結局、そいつが村全体を吸引術式ドレインしてやがったのが原因さ。……色々あって、何とか倒したがな。」



 俺の言葉を聞き、他にその場にいた何人かのハンター達もざわめき出す。

 もう駄目だと思ってた村の無事に驚いた声もそうだろうが、ヴァンパイア出現の方に驚いた奴が大半だろう。今までこの辺りにそんな上級クラスの魔物、現れた試しが無ぇ。




「何だと!?………………よく生きて帰ってきたな。それも村の無事まで確認して。ご苦労だったな、ガイ!…………………それでだな…………………。」



「おっちゃん、報告申請宜しく頼むわ。ライカのとこ行ってくる!!」




 おっちゃんの話は長ぇ。さっさとライカのとこ行って安心させねぇと!!








「ライカっ!!」



「ガイさん?………………ありがとうございます!!」



 ライカが俺を見るなり飛び込んで来た。

 嬉しいぜ、ああ嬉しいさ。でも理由が分からねぇよ。




「グス………………さっき、実家から電話が来たんです。元気だって………………無事だって…………本当に、良かった…………………………。」




 ああ、そういう事か。何だ、じゃあ安心だな。

 


 俺の胸元が湿っぽいのは、多分気のせいじゃないな。

 俺は、ライカの頭を優しく抱きしめた。









----------------------------------





「落ち着いたか、ライカ?」



「はい………………あの、ごめんなさい。取り乱してしまいました。」



 モジモジしながら済まなそうに謝るライカ。可愛いわ、やっぱコイツは。



「良いよ良いよ。ライカのご両親にも、仲良くしてやってくれって言われてるしさ!」



 俺はおどけた感じでウインクして見せた。

 ああ、やっと笑ったな。うんうん、その方が良いぜ?



「ふふふ………………あっ、そうだ。忘れてました! ガイさん、実は、ガイさんが使ったフライヤーなんですけどね?」



「んっ? ああ、あの最新式のやつだろ?乗り心地抜群だったぜ?」



「………………あれ、マスターのなんです。」




 へ?

 何? ギルドの持ち物じゃねぇの?




「そうだったんだ。俺、後でお礼言っとくよ。」



「ああ、違うんです。そうじゃなくて………………ハイ、これ。」



 俺はライカに手渡された紙を見る。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『支援に関する新たな制定』

 昨今、凶悪なハンター、所謂“はぐれ”

と呼ばれる者たちによる支援物品の破損後

の無届け破棄が相次ぎ、ギルドとしても見

過ごすことはできなくなった。よってここ

に新たな制定を設ける。以下はそれらに関

する内容である。


1 物品の破損は、必ず賠償を伴う。これ

 を破った場合、ライセンスを剥奪し、

1000プライズの罰金を支払うこと。


2 無許可で個人の物品を使用した場合も、

1に同じである。


3 勅命に関しては例外であるが、他の

ハンターもしくはマスターの私物を借用

する場合は必ず借用書を作成するものとし、

 これらが守られない場合はギルドに対し、

 懲罰金500000ゴルドを支払うものとする。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 ちょっと待てや。




「ライカ………………コレはナニ?」



「その………………そういう事です。」




 何?

 俺は、罰金支払わなきゃなんねぇのかよ!?

 しかも50万だぁ!?

 ルプスじゃなくて、ゴルドで!?




「だから止めようとしたんだがな。」



 おっちゃんがひょっこり現れた。



「ああ? もしかして、事あるごとに『それに』とか『それと』みたいな事言ってたのって!?」



「だから、お前が話を聞かないのが悪いんだろが。………………それにしてもお前、相変わずあっちこっちの女に手を出してんのなぁ~?」




 ………………おっ、おっ、おっ、おっ、おっちゃんよぉ~?

 相変わらず空気読めねぇなぁ~?


 あ………………ライカの目が笑わなくなったお。やばいお。




「マスター、今の言葉はどう言う意味ですか?」



「ライカ、そうカッカすんなよ! コイツの場合は、浮気とかじゃなくて、呼吸みてぇなもんさ!!」




 どぉおおおお!? フォローになってねぇんだよ、フォローによぉ!?

 それじゃまるで俺が………………。




「呼吸をするように浮気をする、って事ですか?」




「違う違う。………………コイツぁさ、女の子に声かけたり優しくすることは挨拶だと思ってる。でもな、それは浮気したいとかじゃなくてな、こいつなりの紳士行為なんだよ。本当に好きな女の子にしかしつこくしねぇから………………な、ガイ?」




 おっちゃん………………いや、マスター。

 さっきの言葉を撤回するぜ。

 あんたはいいフォローしてくれたよ!!




「………………分かりました。でも、さっきマスターが言っていたのは何だったんですか?」



「ああ。俺のフライヤーだからさ、裏に回そうと思ってさっき取りに行ったんだよ。マーノフと交代したからな。で、運転しようと思ってドアを開けたらよ………………。」





 待て、オヤジ。

 それ以上は言うんじゃねぇ。





「助手席で女の子と子犬がおねんねしてたからな、そういう話をしたわけだ。」




「………………ガイさん?」



「はい、なんでございましょう?」



「あなたまさか、寝ている女の子に手出ししてませんよね?」



 ライカの大人びたソプラノボイスが、俺の精神を削り取っていく。

 普段は天使のようだと思っていたが、今は高圧的な女王か何かに跪いてる気分だぜ……。




「滅相もございません。手を出すなどと私には。」



「………………本当に?」



「本当です。私のハンターランクに誓って!!」



「………………分かりました。ところで、あの子はどこかに泊まる予定があるんですか?」




 ホッ。普通に戻った。




「いや、一応同じホテルの別の部屋をあてがおうと思ってたんだけどさ。」



「今日は、私が家につれて帰ります。あのホテル、男の人ばかりでしょう?」




 確かに。んじゃ、お願いしようかな。




「じゃあ、あの子の事、宜しく頼むよ。」






 今回は正直、得るものが殆どなかった気がするなぁ………………。

 骨折り損のくたびれ儲けってな、まさにこの事か。






<ミッション成果>

 ミッション達成度:95%(規約違反有り<過失>の為、-5%)

 貢献度:ギルド+30、信用+10

 報酬:300000クレジット+ランクボーナス150000クレジット

 獲得品:なし

 ペナルティ:500000クレジット






To be continued……


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