02 湖底で待つお宝・前編
昨日は、何か納得いかない仕事だったぜー?
だってよぉ、折角助けた美女が人妻で?オマケに旦那は結構いい年こいたジジイ寸前のオヤジ?
何でそんなオヤジがあんな美人ゲット出来て、俺には寄って来ないんだ!?
まぁ、助けたお陰でかなりいい額の金を貰ったがな~。
今月は何もしなくても暮らす分にはもう困らんだろ。
「う~~~………………頭痛ぇ………………。」
まっ、昨日酒場でパァ~っと使っちまったけどな? ハハッ。
あぁ?未成年?
何言ってんだよ、酒は15歳からOKなんだよ。
ちなみに、この世界の金の単位は4種類ある。
ルプス、ゴルド、プライズ、そしてクレジットだ。
ルプスってのは、一番安い通貨だ。銀貨っていうとこれになるな。このルプスが1000枚で1ゴルド。俗に金貨って言うとこいつだ。金貨をポンポン出すやつがいたら、そいつは相当な金持ちだな、うん。俺も結構金がある方だとは思うけど、流石にそんな勿体無い事ぁできねぇわ。
で、その金貨が1000枚で1プライズってもので、これは札になる。札で金を払ってる奴がいたら、どんなに貧乏臭い格好してても、そいつは100%金持ちだね。まぁ、元々金貨を大量に持つには不便だって言うんでできたものらしいが、今はもっと便利な時代になってるんだよなぁ。
それが、クレジットさ。
1クレジットは1ゴルドと同じ。銀行やネットが普及してるから、よっぽどの田舎じゃなければクレジットはどこでも使える。所謂電子マネーってやつさ。高額の報酬になればなるほど、クレジットで支払われる傾向がある。
そうじゃなきゃ無用心だからな。
で、使いたいときはライセンスを自動読み取り機にかざすか、ライセンス発行番号を言えば良い。それだけで何でも支払いは済んじまうんだ、便利な世の中だよなぁ~。
さて、今日もギルドに向かうぜ。何てったって、そこ行かなきゃ生活ままならないからな。
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俺はギルドの扉を開く。
「よぉガイ。今のところお前にこっちから頼みたい仕事はねぇな。」
おっちゃんは俺の顔を見るなりそう言うが、そもそも名指しやギルドから頼まれるパターンの方が珍しいんだよ。毎度頼まれるなんて思ってねぇよ。
「今ある依頼の一覧を見せてくれよ?」
「ああ………………ほらよ、こんなもんだ。」
俺はおっちゃんのくれた紙を見た。
ランク別に依頼内容が分けられてる。
んーと、俺のランクはAだから………………5番の掲示板か。
移動すっか………………っと、その前に。
「おっちゃん、魔鉱石の洞窟だけどな。あそこ、暫く立入制限区域に指定したほうが良いぜ。」
「あぁ?昨日はんな事言ってなかったろうが?」
「美人に振られてしょげてたんだよ、大目に見てくれ……んで、結論から言うと、あそこの奥に全盲蜘蛛がいやがった。」
「はぁ!? あそこはランクEのヒヨッコ共でも入れるくらいの場所だぞ!? 全盲蜘蛛ってお前、戦闘力の低いハンターじゃ殺られちまうだろ!」
「だぁから~、サッサと立入制限区域のお触れ出してくれよ。」
「わかってる、なるべく早めに出すよ! ったく、お前が早めに報告しねぇからこんな事に……。」
「おっちゃん、『新たな危険区域発見の報告は24時間以内に行う事』って義務は果たしてるぜ~?」
トレジャーハンターは、人類全体の開拓者であり人類の歴史の奉仕者だ。だから、基本的には人類に対しての“貢献”ってやつが常に求められる。この報告義務も、そういう事だ。
さて、義務は果たした!
俺は自分のランク向けの依頼内容を見に、掲示板のあるホールへ行くことにする。
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「ふんふん………………どれもこれも探索じゃねぇなぁ~………………。」
依頼ってのは、幾つか種類がある。
大まかに、探索、討伐、救出、輸送、支援の5つがある。
一番楽なのが支援で、この仕事は本当にお手伝いをするって事が多いっつーかほぼ全部。お使いなんかもこれに含まれるな。
あ、一個例外があるんだった。カッコ付きで“護衛”って書かれてるやつは、場合によっちゃあ一番難しい。要人警護で相手が大統領とかだったら報酬弾んでくれるけど、滅茶苦茶働かされるぜ。まぁ、何も無いときはやっぱ楽だけどな。
その次が輸送かな? あ、でも期限付きの配達は結構面倒なんだよな……。普通の郵便とかじゃ運べない物とか、迅速に運ばなけりゃならない時は結構きつい。
救出は、まぁ場所による。昨日の時みてーに危険な魔物がいたりしたら途端に難易度が跳ね上がる。後救出対象が実は犬でした、ということもあるから事前に救出対象をギルドから聞いとかないと準備不足になっちまうな。
へ?お前は大丈夫かって?
良いんだよ、俺、苦手なものないから。
準備っつったのは、心の準備だよ、こ・こ・ろ。
討伐は、結構厳しい。トレジャーギルドに依頼が来た段階で、そりゃもう自警団とかがサジ投げてるって意味か、強すぎて倒せねぇって意味だからな。結構強さに自信がねぇと死ぬ危険もある。
頼んでる方も必死だから、結構良い額の報酬が設定されるし貢献度も高いんだが、その変わり敵前逃亡なんてした日には信頼度ガタ落ちだわな。貢献度も落ちるし、ハイリスクハイリターンってやつだな。
極々たまぁ~に、“討伐”のミッションで野犬退治とかもあるが、稀だな。んなのあったとしても、討伐ミッション数稼ぎたい奴が我先に持ってっちまう依頼だ。
ランクアップに討伐ミッション数は途中から必須になるからな……。
探索が一番当たり外れがある。俺の得意分野がコレだ。
おとぎ話でしか聞かねぇ代物を探せって言われることもあるし、まだ入ったことのない遺跡とか未開拓地の踏破も探索に含まれる。そういうのばっかりなら良いんだが、落とした財布を探せとかいう依頼もある。
聞いた話だが、ジジイの入れ歯探しってやつが過去にあったらしい。頼むやつも頼むやつだが、それを斡旋しちまうギルドもどうかと思うわ。流石に。
「おっ、何だこりゃ?………………こいつにしとこうかね?」
俺は手頃な依頼を見つけた。まぁ、これで今夜の飢えも宿も凌げるだろ。
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『受付:A005629
募集ランク:A以上
ミッションタイプ:探索
場所:青の湖
報酬:8000クレジット
内容:
湖に沈んでいる難破船にある
宝を引き上げて欲しい。』
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「(ダイビングセット借りなきゃな。一応水中銃も持っとくか。)」
久々に宝探し………………うーん、ワクワクしてきたぁ!!
俺は、近くの端末を操作し、受付の欄に書いてある文字番号を入力する………よし、決定っと。
ウィーンという音がして、依頼受理証明が出てきた。この紙をおっちゃんに提出して、次に支援受付に行く。
「おはようございます!ご用件は……あっ、ガイさ~ん。お久しぶりです~!」
「元気そうだね、ライカ♪」
実は受付嬢のライカとは浅からぬ仲なのだァ~、フフフ………………。
「また私のスカートめくりに来たんですか~? それともデートのお誘い?」
「うっ……違うわ!仕事だよ!!」
そう。俺は以前にこの子のスカートをめくった……いや、正確に言うと、事故だったんだけどな。………………嘘じゃねぇぞ!?
だから、お礼にデートしようって言ったら、何故か笑って許してもらっちゃったんだよ。本当にデートしたけど、期待したような展開は一切訪れなかったさ。普通に飯食って、買い物に付き合って、話して終わり。
だがな、たかが一回、されど一回だ。
俺とライカは、既に一歩目を踏み出したのだァァァァーはっはっは!!
と、浮かれている場合ではない。
仕事道具を借りなきゃな。
「ダイビングセットと、水中銃を借りたいんだ。」
「潜るタイプのミッションですね。水中用のパワーピッケルとか要りません?」
「要らねぇ。確かそれ、レンタル料かかるだろ?」
今回のように局地的な装備なんかは、ランクA以上のハンターは無償で借りられる。ただし一部のものは有料だ。それも結構高ぇんだよな………………。
あればミッションがラクになるのはわかるんだけど、赤字になっちまう。集団割引なんて制度もあるが、基本的に俺はピンで行動してっからな~。
もっとランクの高いハンターなら全品無償で借りられるんだけどなぁ。
「サイズは、以前に計測してるので大丈夫ですね。ライセンスの提示をお願いします。」
「ほい。」
「はい、確認致しました。少々お待ちください。」
ライカはそう言うと、奥へと引っ込んでいった。
今は制服姿だが、あの娘の私服可愛いんだよなぁ。オレンジ色のセミロングの髪が素敵だった………………身長も、俺よりホンのちょびっと高いくらいだし。
何よりも……あの娘は着やせするタイプなのさ。
は?確認? してねぇよ。
お宝の匂いがすんだよ、あの娘からな?
「お待たせしましたー!こちらがダイビングセットと、水中銃になりますね。」
妄想しているうちに、本物が商売道具持ってきてた。
「サンキュ!………んっしょ、っと!んじゃ、行ってくるわ!」
「はい、お気を付けて!」
行ってらっしゃい、は流石にまだ言われねぇか………………。
俺は目的地の青の湖へ向かうことにした。目的地までは歩いて大体1時間ってとこか。
魔鉱石の洞窟よりか全っ然近ぇわ。
うっし、出発!
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「ふ~、着いたぁ……しょうがねぇけど、やっぱ荷物重てぇな。」
俺は目的地、『青の湖』に着いた。
早速ドライスーツを着て、近くの小屋の戸を叩く。依頼人がいるはずだからな。
「すいませーん、ギルドから来たハンターですけどー?」
暫くすると、如何にもって感じの体格の髭面男が出てきた。
「ああ………っておい、ガキじゃねぇか!?遊ぶんなら溺れないようにして……。」
「俺は歴としたハンターだ。………ほら!」
もうこの反応は何度も体験してる。だから俺はすかさずライセンスを見せる。
「お、本物!?………………失礼しました!!」
うむ、わかれば良いのだ。
取り敢えず話を聞くために、俺は家に上がらせてもらう事にした。
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家に上がらせてもらうと、外見ははっきり言ってボロ屋だったが、中身は結構立派な作りだった。
金はそこそこあるんだろう。報酬を踏み倒される心配はなさそうだな。
ただ、奥の方でずっと目をつぶって横たわってる爺さんが気になるが……。
「もしかしてあんた、あの有名な『女ったらしのガイ』か?」
「違うっ! ガイ=オシタリ。ナイスガイのガイだ!」
どこに行っても変な通り名が付けられてるんだよな~、俺?
「へぇ、それにしてもこんな童顔だったとはなぁ。髪も後ろ髪だけ長く縛ってるし、女に間違えられないか?」
「返事した瞬間ドン引きされたこともあるよ。……じゃなくてよ、仕事の話をさせてくんねぇかな?」
「ああ、そうだな。実はさ………………。」
依頼人の話によると、この湖の底に、でかい船が沈んでるらしい。湖にでかい船、ってのもおかしな話だがな。
んで、その船は実は依頼人の親父、あの横たわってた爺さんのものらしくて、空飛ぶ船なんだってよ。もし本当ならすっげぇお宝だよな!
で、その中に死んじまった婆さんの形見があるんだそうだ。中心部にでかい宝箱があるらしいから、直ぐにわかるんだとよ。
色々眉唾な感じはするが、見てみないことには分からねぇ。
あまりにも情報が少ないが、まずはつべこべ言わねぇで、潜ってみますか!
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「(スッゲェ………………本当に湖の中かよ!?)」
潜ってみたら、最初のうちは木っ端とか藻とかがあって汚ぇ感じだったが、深く潜れば潜るほど、透き通った海の底かと思うくらい綺麗な光景だった。
何だか本当に、お宝眠ってんじゃねぇかって気がしてきたぜ?
綺麗な魚とかが多くて、特に襲いかかってきそうな魔物もいねぇしな。
「(んっ? ありゃ何だ?)」
暫く潜ると、黒い固まりみたいなものが見えてきた。
最初はただの岩かと思ってたが、近づけば近づくほど、それが結構なデカさの物だってのがわかる。
「(こいつぁ、本当に船か?)」
その船とやらは、周りが真っ黒いもので綺麗に覆われてやがった。叩いてみると、ゴンゴンという音がする。多分金属だろう。
中々のサイズだが、頑張ってぐるっと一周してみたが、恐ろしい事実に気がついた。
「(どこにも出入り口がねぇ!? 何なんだよ、こいつぁ?)」
これじゃ只の箱と変わらん。だが、これは只の船じゃない。絶対に何かある。
俺はこいつの周りをくまなく探し回った。幸いボンベはまだ余裕があるからな。
帰りの分を考えても、まだ入口探しに時間を割いても良いだろう。
「(何だ?あんなところに隙間が………………。)」
しつこく探し回った甲斐があり、底の方に、人一人分が入れるような隙間があった。
普通のハンターなら、ボンベとオサラバして入らにゃならんところだが、俺ならまんまで行けるぜ!
俺は迷わず、隙間に潜り込んだ。
この先には絶対、お宝があるに決まってらぁ!
To be continued……