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Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第三章 里帰り
16/16

16 父の本心





 俺たちは跳び足で山奥へどんどん進んでいく。

 別にそれ自体には特におかしな点はない。


 おかしいとするなら、やっぱ親父だ。




 移動の技術で上級とされる跳び足を、息も切らさず既に30分以上。こんな事は病人には絶対にできない。

 まさか法螺吹いてやがったのかとも思ったが、あの様子はそんなことはないと言い切れる程酷いもんだった。




「そろそろ着くぞ、凱!!」



「………………。」



「返事はどうした、凱!?」



「うるせぇ!! 聞こえてんだよ!!」



「貴様ぁ……ふん、着いたぞ。」





 俺たちは相当な高さから飛び降りる。着地時に完全に衝撃を殺し、無音で着地する俺と親父。


 そこは山奥の更に奥。岩壁を何年かけて掘ったのか馬鹿でかい大仏が見下ろし、そこに石を丹念に削って作ったと思しき武舞台があった。所謂リングってやつだな。






「さて、早速始めるか。………………凱、参れ。」



 展開早いな。ま、そんな気はしてたけどよ?




「フン……その前に親父、背中の忍刀しのびがたなを抜きな?」




 親父はまだ自分の得物を、一番得意な忍刀を構えていない。

 流石にフェアじゃねぇだろ。




「ほう? 儂の心配をする程余裕か?」



「巫山戯んなよ。丸腰のテメェとやっても公平じゃねぇだろ。」



「青二才相手にはこれで十分だ。参れ。」




 舐めやがって。頭にきたぜ。




「後悔すんなよ!」




 俺は瞬時に距離を詰め、左手の逆手に構えた短刀を右上がりに薙ぐ。目標は、糞親父の首だ。

 俺が短刀を振り出してからまだ構えてすらいねぇ。貰ったぜ?




「ふん、甘いわ!」



「がぁっ!?」




 あと寸でのところまで短刀の刃が届いていたのに、俺が振り切るより先に無挙動からいきなり鳩尾に掌底を食らわされた。


 瞬時に俺の体は呼吸困難になり、そのまま連撃を加えられる前に射程内から急いで離脱する。




「(くそっ……あんな瞬発力があるなんて……昔より動きにキレがある気がするぜ。)」



「どうした凱? 来ぬのならこちらから……行くぞッ!!」




 今度は親父の方が一瞬で距離を詰める。

 速すぎる。回避は間に合わねぇ。




「ぬあ! そらそらそらそらそらそらそらぁっ!!」



「……ぐ………………が………………うああっ!!」




 ボコボコに殴られてすっ飛ぶ俺。

 畜生、奴の拳は千手観音かよ!? 防御も全部弾かれちまって何発も食らっちまった。




「ふん、そんなものか。何やら『はんたぁ』なる者でそこそこ名うてらしいが、その程度ではたかが知れているな?」



「げほっ……んだとコラ?」



「貴様に手ほどきをした人間の戦い方が色濃く現れているようだが、その程度で儂に勝とうなどとは笑止千万。片腹痛し。」



「………………どう言う意味だ、テメェ……?」



「儂が何も知らぬとでも思うてか? 確か『さむ』とか言ったな。その程度の戦い等、所詮は猿知恵よ。儂はそう言っておるのだ!!」



「サムを悪く言う奴ぁ………………許さねェぞ。」











----------------------------------






「(……雰囲気が変わったな。ようやく本領発揮か。)」



 凱の父、元凱げんがいは心でそう呟くと、背中の忍刀を抜いた。




「……お前がそうなってしまったのも、全ては儂の責任だ。ならばせめて、精神分裂を引き起こしておるお前を、力づくでも元に戻す。それがお前にできる儂からの贖罪、そして最後の………………。」




 元凱が話終わる前に、凱の姿が掻き消える。




「手向けだ!!」




 元凱は背後に振り向きざまに刀を振るう。



 そこには短刀と苦無を交差させながら元凱の刀を受け止めている凱がいた。

 その目つきは冷え冷えとし、瞬き一つせず、元凱をにらみ続けている。



 元凱の刀との鍔鳴りが響く。ガチガチと、普通の鍔鳴り以上に武器が震えて音が鳴り響いているのは、凱も持つ短刀と苦無に風の刃が上乗せされている為だ。




「ふんっ!!」




 元凱は渾身の力を込めて凱を吹き飛ばす。浅く鮮血が飛び散る。




「ちっ……流石は我が息子、といったところか。」




 飛び散ったのは元凱の血。凱は吹き飛ばされた瞬間に風の刃を飛ばし、元凱の腕を切りつけていた。

 吹き飛ばされた当の凱は、空中で後方に一回転した後、何事もなく着地し、その瞬間には既に姿を消していた。



 元凱の周囲に風切り音が鳴り響く。




「……その身に風を纏い、己を刃と化したか。そんな技、儂は教えた事もない。才とは恐ろしいものよ……な!!」



 元凱が正面に突如現れた凱の苦無を弾く。凱は再び姿を消し、辺りは風切り音に包まれる。



「お前ほど風の元素に愛された者は、歴代でもおらんだろうな……凱よ。そのままでも聞こえておろう。よく聞け!!」



 風切り音から返事はない。だがそれでもと、元凱は言葉を続ける。




「お前は既にあらゆる術法を使いこなすことができる!! それをお前自身が受け入れぬだけだ!!」




 風切り音が突如止み、元凱の左後方から凱が襲いかかる。

 完全に奇襲だったらしく、元凱はようやっとで受け止める。その額に冷や汗を滲ませながら。




「ぐぅ……受け入れるのだ!! 使いこなすのだ!! そして、己に打ち克て!!!」




 元凱は回し蹴りを放ち、凱を吹き飛ばす。

 その際にまたもや数箇所の切り傷が増える。




「ぬぅ………切り付けた上に儂の蹴りの衝撃を逃すとはな。ならば!!」



 元凱は刀を正面垂直に構え、精神を集中する。



「『練雲雀』!!」




 元凱がそう言うと同時に、元凱の刀から四方八方に紫電が飛び散り、疾風の如き速さで雷の檻を形成する。


 風切り音が止み、凱が姿を現した。

 片膝を付き、体には紫電がまとわりついている。




「凱、動きたくとも動けまい。雷遁の一種、練雲雀ねりひばり。この紫電の飛び交う空間に入り込んだものは、紫電に捉えられ身動き一つ取ることはできぬ。」




 元凱は身動きの取れない凱に近づき、凱の頭を覆うように手を載せる。



「お前の心に作られし“風の悪魔”を消し去ってくれる。吐ァ!!」




 元凱の掌から、黄金の光が溢れ出す。




 少年は激しい痙攣と共に、気絶した。






「……ハァ、ハァ……やはり、結魂の法は、ちと厳しい………ごほッ!!」



 元凱の口から夥しい血が噴出し、体中からも激しい出血が始まる。




「刹那の秘薬の効果が……切れた、か………………。」




 そのまま、元凱も倒れ付した。











----------------------------------






「若、お早う御座います……。」



 何か、誰かに呼ばれてんな。聞き覚えがあるぜ、この声……確か、五右衛門か?




「………………んだよ……もう朝餉の時間かぁ~?」



 俺が気怠い感じで目を覚ますと、五右衛門が飛びついてきた。




「若!! お目覚めになったんですね!!」



「……や、やめろ………………苦しい……。」



 急いで離れる五右衛門。

 巫山戯やがって。抱きついてくるならライカかそれ相応の美女限定だっての。




「ふぁ~ぁ……何か腹ぁ減ったな。食い物くれ!!」



「は、少々お待ちください!!」




 五右衛門はそそくさと出て行った。半ば小躍りしながら。

 気持ち悪ぃ。意味がわからんな。




「さて、よっ……あら?」




 俺は布団から立ち上がろうとするが、全く体に力が入らない。手足に力が入らない。

 寝すぎちまったからかな?




「若、動いてはいけません!! 貴方はもう2ヶ月も眠っていたのですから!!」




 なぬ?

 俺が何故に2ヶ月も??




「ちょ、お前……俺が何でそんなに長い間眠って……あれ? そういや親父は?」



「………………御屋形様は……。」



 親父の話題を振った瞬間に顔色が暗くなる五右衛門。

 何だ、また病気が悪化したのか? あんだけ元気よく急に動き回ってたらそうなるわな。




「親父はアレか? また床の間か?」



「……いえ、床の間にはいらっしゃいません。」



「んじゃ何処だよ?」



「………………御屋形様は………………。」



「うん?」






「御屋形様は、先月にお亡くなりになりました。若に継承と贖罪を済ませたと、最期におっしゃられて、そのまま………………。」






 じゃあ何か?

 俺は自分の親がおっ死んでると時にのうのうとバカみてえに眠っちまってたってか?






「五右衛門。俺は全然起きなかったのか!?」



「はい。意識だけが全く戻らず……申し訳御座いません!」



「いや、いい。五右衛門が悪いわけじゃねぇよ。」





 何だろうな。悲しいとか、何にも感じねぇのな。

 突然すぎて、まだ実感沸かねぇのかもな。


 俺は暫く、布団に突っ伏していた。











----------------------------------





 俺は取り敢えず、五右衛門が持ってきた粥を平らげ、着替えた。

 すると、あることに気づく。




「……あれっ?」




 五右衛門が洗濯しといてくれた俺の服を着るが、何というか、つんつるてんだ。

 何だこりゃ?




「おーい、五右衛門!!」



「は、ここに!」



 床から出てきやがった。

 おおぅ、相変わらず神出鬼没だな。



「服、ちっせぇんだけど? 洗濯して縮んだか?」



「はて? ……若、私のそばにお立ちください。」



 俺は言われるがまま五右衛門の傍に立つ。


 五右衛門の頭が、俺のすぐ隣にあった。




「若。やはり若は眠っている間に成長したようですね。」



 成長期ってやつか?

 でも急激にこんな伸びるもんなんか?




「では若。その服をお貸しください。仕立てて参りましょう。その間は申し訳御座いませんが、忍装束でお願い致します。」



 ま、しゃーねぇやな。



「それと、御屋形様から若にお手紙を預かっております。……お読みください。」




 やれやれ、どいつもこいつも俺に手紙を渡したい奴だらけだな。

 ま、この親父の場合は遺書だからな。仕方ねぇわな。

 どれどれ……。




『凱へ

 この手紙を読んでいるという事は、儂はこの世にはもはやおらなんだ。

 お前に頭目の座を継承したい。それと、忍法の継承も済ませたい。

 両方共、五右衛門に聞け。


 時に、お前は外に出てから時折感情が昂ると記憶がなくなる事があったな。

 あれは儂がお前に厳しくしたばかりに、お前の抑圧された感情が行き場を無くし、

 結果としてお前の精神が分裂したのだ。通常時のお前と、厳しい忍としてのお前。


 辛い思いをさせて済まなかった。実は儂がお前に稽古をしている最中にも幾度かその兆候があったのだ。

 その段階で本来は止められれば良かったのだが、儂はお前が飛ぶ鳥を落とす勢いで成長するのをもっと見たいと願ってしまった。

 全ては儂の責。恨んでも良い。咎めても良い。本当に済まなかった。


 最後に、母の件だ。

 あれは儂が里に出た怪物を討伐するために遅れたものだ。

 言い訳はせぬ。もっと早く儂が片付ければ済んだ話なのだ。


 父としてお前には何もしてやれなかったが、これだけは信じて欲しい。

 儂は、お前と母を、何よりも愛していた。


 お前はお前の道を進め。-----------------------------元凱』






 結局、生きてる間に仲直りはできなかったな………………父さん。

 今度墓参りにくらいは行ってやるよ。


 さて、と……。




「五右衛門っ!!」



「……なんで御座いましょう? 今から服の仕立てに……。」



「そんなのは他の使用人に任せろ。」




 五右衛門。コイツは、全部知ってやがるな。

 多分、俺の読みが正しければな。




「御意に……若。もしやそのお手紙の内容ですか?」



「そうだ。お前、親父に何を託された?」




 この手紙の内容で言えば、親父は五右衛門に全てを託そうとしていた筈だ。

 それこそ、俺が戻って来ないことも計算に入ってるだろうしな。




「……若。私は、御屋形様から全てを受け継ぎました。術法も、何もかも。」



「何もかも、だと……?」



 純系の血族じゃなきゃ使えない術法もあったはずだがな。

 どういう意味だ?






「言葉通りです。私には、忍足の血が流れています。」






「な!? なら、五右衛門。お前は………………。」



 異母兄、ってことになるのかよ!?



「……若。恐らく若のお考えは間違っておられます。」



「訳の分からねぇ事抜かすんじゃねぇぞ! ならお前は何だってんだ!?」




 五右衛門は沈黙している。

 その表情からは何も読み取ることができない。


 だが、少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開き、とんでもないことを口にした。






「私は、禁術によって生み出された忍足の人造生命体です。」






 五右衛門が、人造生命体だと……?

 何でそんな事をする必要があったんだ?




「……私が生み出された当時、御屋形様は何時まで経っても子宝に恵まれなかったのですよ。だから私が後継の為に生み出された。ですが、貴方が生まれた。だから私は、忍足の傍付そばづきの忍として一生を終えるつもりでした。御屋形様もそれをお望みだった。……ですが、貴方は出て行ってしまわれた。だから、私に全てを継承したのです。技と地位だけは、ですが。」



「技と地位だけ、だと?」



「ええ。あなたという可能性が健在な以上、頭目の継承を完了するわけにはいかなかった。だから、まだ頭目の証を……宝剣マンジを受け取ってはいません。」




 聞いたことがある。代々の総頭目は皆それを受け継ぐと。




「私が託されたのは、若……いえ、もうこの呼び方はふさわしくないですね……凱殿。貴方がマンジを持つに相応しいかどうか見定める事。」



「……本当か? 俺がいるって事は、お前の存在意義が危ぶまれるんだぞ?」



「私は感謝こそすれ、恨むなどありえませんよ、凱殿。禁術は、成功率が低く術の失敗の代償が大きいからこそ禁術。私は成功してこの世に生まれて来れたのですから。」



 ………………嘘は言ってなさそうだが。

 どうもコイツの真意が読めねぇ。


 まあいいか。取り敢えず、また一戦ありそうな感じだが……。




「……五右衛門。試すってのは、どうやるんだ?」



「恐らく、凱殿のお考えの通りかと。……ですがその前に。」



「? 何だよ?」



「凱殿。まずはその伸び放題の御髪を整え、本格的に腹ごしらえをした方が良いかと。」




 ぐっ……折角真面目モードだったのによ。


 ま、言う通りにすっか。










----------------------------------






 俺は食事を済ませ、長く伸びた髪を頭の真後ろで一本縛りにして止める。

 服装は忍装束だ。




「では若……失礼致しました。癖で……。」



「別に良いよ若で。俺もそのほうが慣れてるし。」



「では失礼して……若、決闘場へ向かいます。そこの大仏の奥に隠し洞窟があります。その奥にマンジが奉納されている。……マンジは持ち主を選ぶと言われています。真の持ち主が持たねば、その力は発揮されない。………………では、行きましょう。」




 こうして俺は、五右衛門と共に再びあの闘技場もどきに向かう。

 


 何だろうな。もうあの日常には、戻れないんじゃないか。

 そんな気がしてきちまったよ。






To be continued……



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