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Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第三章 里帰り
15/16

15 休息と試練





「環……なのか?」



「だからそうだって言ってるのに? 修行の旅、お疲れ様!」




 は? 俺が修行の度だって?

 俺は家出して、勘当されたんだぞ?




「ちょ………………俺が修行ってどういう……。」




 どういう意味なんだ。そう言いかけた時、後ろから声が聞こえた。




「やぁ、環ー!……ん? その人は誰だい?」



 まだ変声期が終わりきっていないような声だ。俺よりも声高ぇな。



「あ、みっちゃん!」




 ほう、みっちゃんさんと言うのか?……いやいや、そんな訳無ぇわな。

 ん~、コイツも見たことあるようなないような。

 何せ途中から一切交流断絶しちまったからな、よく分からんな。




「環……もしかして、それ、凱かい?」



「そうそう! 懐かしいよねっ!」



「フン………………。」




 あ? 何か急に態度変わったなコイツ。

 チッ、ここに来てからイラつくことだらけだぜ。




「…………オイ、人をいきなり”それ”扱いたぁどういうつもりだ? 大体テメェ誰だよ?」



「僕を忘れたのかい? 頓阿弥光秀とあみみつひでを?」



 ………………光秀だと?

 あの、いっつもいーっつも俺を何かと目の敵にしてた、あのお坊ちゃんかい?

 ムカつくから腹の立つエピソードを出してやろう。



「思い出したぜ。披露会で2位になってボロ泣きしてたあの光秀だな?」



「……君、修行から帰ってきて大分変わったね。忍足の御曹司って感じじゃなくなったね?」



「お前は変わんねぇのな。………………心配すんなよ。別に環に何もしちゃいねぇよ。」



「フン……環、行こう。」



 俺たちの雰囲気にオロオロしながら、小声で「またね。」と言い、そのまま光秀に駆け寄る。

 光秀は環の手を引き、いそいそとその場を去っていった。




「んだあの野郎。今度スカシた態度取りやがったら只じゃおかねぇぜ………………にしても、だな。」



 環もそうだし光秀もそうだ。

 どうやら俺はこの里の中では里の外に・・・・修行に・・・行っていた事・・・・・・になってる・・・・・らしいな。



 アレか? やっぱ表向き里の首領の息子が勘当されたのは拙かったって事か?

何か予想以上にややこしい事になってやがるな。

 帰りたくなってきたぜ……。




「夕餉にはまだ時間もあるか………………お? あれは……。」




 さっき立ち去ったと思ってた光秀と環が何か話し合ってる。

 痴話喧嘩か?


 ……暇つぶしに聞き耳立ててみっか。





「環、君はまだあの男の事が忘れられないのかい?」



「そんなんじゃないってば!! この間正式に婚約したじゃない?」




 ほほう、婚約ね。ここは結婚が早いからなぁ。

 里を出て良かったぜ。外には色んな女がいるんだから、色々経験してからじゃねぇと結婚なんざ軽々しくできるかってんだ。


 それを知らないってのは、何とも可哀想な気もするな。




「今は僕が当代一の忍だ。御屋形様も認めてくださった。…………僕じゃ不満かい?」



「違うよ? 私は只、懐かしくって……。」




 お~お、男の嫉妬はみっともねぇぜ、スカし野郎?

 それに、俺の知ってる環の性格なら結構真面目な筈だから、添い遂げる相手を裏切る真似はしねぇと思うんだがな……?




「なら、何であんなに嬉しそうに話していたんだ!?」



「えっ……私、そんなに嬉しそうだった?」



「ああ、僕が見る限りそう見えたよ。……もう凱には近づくな。いいね?」



「……何かみっちゃん、横暴だよ……?」




 環が袖で顔を覆い始めた。ガキの頃もよくやってた、嘘泣きだな?

 そんなもんで騙せるワケが……おや? 慌て始めたぞ?




「あぁあ、ご、ごめんよ環? 僕も言いすぎたよ……そ、そうだ! 環の好きなあんみつ屋に行こう! お詫びに僕がご馳走するからさ? ね?」



「……本当?」



「本当さ。さ、行こう!」




 おっ、歩き始めた。

 ………………環が死角で舌をペロッと出してやがる。フン、やっぱお芝居かよ。


 でも、案外お似合いかもな、アイツ等。




「………………ふぅ、人様の痴話喧嘩は見る分には面白ぇな。」




 ガキの頃の友達も、ああやって変わっていくんだな。




「さて、今からのんびり帰りゃ屋敷に着く頃には夕方だろ。」



 俺は屋敷に戻ることにした。

 普段はミッションこなしてたりライカナンパしてたり、酒飲んでたり女ナンパしてたり忙しいからな。

 何もしねぇと、時間が経つのが遅いわ。











----------------------------------





 俺は屋敷の引き戸をガラガラと開ける。

 直ぐに使用人の女が出てきた。


 ガキの頃は何とも思わなかったが、中々美人じゃねぇか?

 今夜話しかけてみっか。




「若様、お帰りなさいまし。履物をお預かり致します。」



「いーよ、ガキじゃねぇんだ。それぐらい自分でできる。」




 俺はブーツを脱ぎ、土間の正面ではなく側面に靴を並べる。




「若、正面に並べて下さいまし。若は下人でも使用人でもございませぬ。」



「俺は勘当された身だぞ。正面に堂々と並べられるかよ。」



「若………………。」



 女中は、何とも居た堪れないような表情で俺を見つめてくる。

 よく見るとそこそこ若いな。

 ……んな顔すんなよ。全くよ。




「……悪いと思わないでくれ。俺と親父の問題なんだからな。」



「ですが、使用人にあるまじき言葉でございました。私が下知であるが故、申し訳ございません。」



「そんなに悪いと思うなら、今晩酌を頼みたいんだが?」



「は、はい! 私で宜しければ!」




 いつもの調子なら。「いや、お前でなければ駄目だ。」ぐらいは言ってたんだが、流石に実家でそこまではしちゃ拙いわな。

 女中の生真面目さに付け込んで権力を駆使した気がしないでもないが、これで俺はこの女中と喋るお膳立てが出来た訳だ……いかん。俺はおっさんかっての。



 俺はそのまま女中に連れられ、広間に向かった。











----------------------------------





 あっという間に申三つ刻。ここに来てから時間経つのが早ぇ早ぇ。

 広間にはデカい卓袱台ちゃぶだいが置かれ、その上には大量の料理が所狭しと並べられている。




「では、若の帰還を祝して、乾杯!」




 五右衛門の音頭で、豪華な夕餉が始まった。

 当たり前だが、親父はここにはいない。重病人に食えるようなものも無ぇしな。




「若、ささ、まずは一献。」


「おぉ、済まねぇな?」


「若、こちらもどうぞ!」


「悪ぃな、頂くよ。」


「若、こちらも……。」

「若、この料理は絶品ですぞ。」

「若、こちらは採れたての……。」

「若……。」



「そんな一辺に相手できるか!! 一人ずつにしろ!!」



 やかましいぜ、んっとによ。

 それにしてもコイツ等、よくもまぁゾロゾロと集まったもんだな。他の流派の頭目も混じってるし。





 シノビの里には、幾つかの忍術体系が存在する。

 まず、俺たちの忍足流闘法おしたりりゅうとうほう

主に風を司り、一応この里の忍術本家らしい。風以外の術法も扱えるし。俺は習ってないけど。

 

 次に、不知火流柔術しらぬいりゅうじゅうじゅつ

火を司ってるらしい。柔術と言ってるが、これは本来の意味の柔術とは違う。くノ一排出率が高いせいか、そういった流派に落ち着いたっていう歴史がある。ホラ、女の体の方が柔らかいだろ? そういう意味らしいぜ。よく知らんけど。


 次は、秋雨流殺法あきさめりゅうさっぽう

コイツは水だな。殺法って名前を聞くと物騒だが、まぁどれもこれも似たようなもんだわな。ここはあまり交流した事ないからよく分からんわ。


 最後に、頓阿弥流戦術とあみりゅういくさじゅつ

 突然大地を隆起させたり、土砂崩れを起こしたりって事が得意だ。忍者の一派なんだが、コイツ等の使う術は目立ちすぎて全然忍んで無ぇ。

 ああ、“みっちゃん”はコレだな。スカシ野郎には似合わない流派だがな。






「凱様、お久しぶりで御座います。」



「兄者! お久しぶりです。……畏まらんで下さい。昔みたいに呼び捨てでお願いします。」



 俺が酒を嗜んでいると、綺麗な橙色の短髪の精悍そうな、間もなく初老に差し掛かろうという男が近づいて来た。

 俺が兄者と呼んだその男は、不知火焔しらぬいほむら。滅多に生まれない男だっていうことで生まれた瞬間に不知火流の頭目が確定したという何とも言えない境遇の持ち主だ。俺の年の頃には既に結婚してたらしい。

 他の頭目よりも若いせいか、ガキの頃からよく世話になっていた。




「そうですか? では……凱、すっかり逞しくなったな。五右衛門殿から『不良になった』と聞いていたものだから、どうしたものかと思っていたが。」



「はは、五右衛門らしいな。…………桜美おうみ姉さんは元気かい?」




 桜美姉さんとは、兄者の奥さんだ。




「ああ、元気にやっている。この間息子が生まれたばかりでね、その世話でここには来てないけどね。………………凱、話したい事があるんだが。」



「何だい? アレなら場所を移そうか?」



「そうだな…………凱、月見酒と行くか?」



「良いねぇ、風流だねぇ!」




 俺たちは表に移動した。











----------------------------------






 俺たちは庭先に出た。

 夜空には煌々と満月が輝いている。




「で、話って何だい?」



「ああ。……俺は五右衛門殿から話を聞いているから知っている。お前が実は家出をしていた事をな。」



「おぉ、やっと知ってる人に当たったよ。誰も彼もが知らないんじゃないかと思ってたからな。」



「それで、そのお前が戻ってきたという事は……御屋形様は、もう長くないのか?」



「ああ。だから俺は五右衛門に手紙で呼び出されたのさ。…………正直、俺はまだ頭目を、忍の筆頭を継ぐべきなのかそうじゃないのか、よく分からねぇんだ。」



「………………そうか。お前の事情は聞いている。だからこの件に関して俺は口を挟む気は一切無いが、後悔だけはするなよ?」



「兄者がそう言う人で、助かるよ。五右衛門みてぇに継げ継げ言われちゃ、正直堪んねぇからな。」



「五右衛門殿は真面目なだけだ。俺も小さい頃から嫌々ながら色々背負ってきたからな、お前の気持ちは分かる。……お?」



「ん?」




 兄者が屋敷の門の方向を見て目を凝らし始める。

 俺もそれに習い、目を凝らして見つめる。人影がこっちに向かってきてるな。

 殺気はないようだが……。




「桜美!? 紅丸は大丈夫なのか?」



「えぇ、もうぐっすり眠ったわ。……凱、お久しぶり。大きくなったわね?」



「あ、ああ……久しぶり、姉さん………………。」



「? そんなに驚いてどうしたのよ?」




 それは兄者の奥さんの桜美姉さんだった。

 俺はその出で立ちに驚きを隠せなかった。




 何でだ? 桜美さんが一瞬、ライカに見えたぞ?

 今まで違う女とダブって見えるなんて事なかったのによ?



 アレだな。帰ったらライカ口説いて、夜這うか。




「凱? 具合でも悪いのか?」



「違うよ。俺が町で目を付けてる女の子にそっくりだったのさ。随分美人でね?」



「あら凱ったら! 煽てても何も出ないわよ~?」



「そうだぞ凱。気持ちは分かるが、桜美は俺の妻なんだからな!」




 へいへい、この万年新婚夫婦が。

 夫婦漫才なら他所でやれっての。











----------------------------------






 結局あの後桜美さんも加えて飲み直し、そのまま広間で皆眠り始めた。


 慣れっこなのか、使用人たちは器用に隙間を縫って、寝ている人間を起こさずに手早く片付けを済ませていく。




 結局、あの女中にお酌してもらっても殆ど喋るタイミング無かったな。

 そんな事を考えていると、五右衛門が来た。




「若、今宵はもうお休みください。明日はお早いのでしょう? 湯浴みと床の間の準備は出来ております故。」



「……わかったよ。何か俺が居ても邪魔そうだしな。お言葉に甘えるわ。」






 さて、とっとと休むか。

 朝っぱらから糞親父の顔なんざ見たくねぇが、ヨボヨボの老人だ。いたわってやるか。











----------------------------------





 翌朝。

 まだ日が登り始めて間もない時間に俺は目が覚めた。


 チッ、やっぱ寝慣れたホテルのベッドの方が寝やすいぜ。どうも布団って奴は好きになれねぇ。




「さて、と……五右衛門め、余計な真似を。」




 起きて枕元を見ると、一着の忍装束と手紙が一枚。



『若、誠に勝手ながらお召し物を洗濯させて頂きますので、今日一日こちらの服でお過ごしください。尚、そこに用意してある服は念のため全てきちんと着こなしていただきたい。』



 しかも黒に袖口が紫になってるやつ。それも鎖帷子くさりかたびら付でか。

 マスタークラスの忍者の戦闘服じゃねぇか。生活するのに着る服じゃねぇぞ?


 だが、この最後の一文に従って一応着ておくか。五右衛門がこうやって用意するものは、何かしら意味があるはずだからな。



 俺は手早く着替えると、親父の部屋に向かう。






 親父の部屋の前に来た時、違和感を感じた。


 親父の部屋から、殺気を感じる。

 俺は念のため、左手に短刀を構え、右手で装束に備え付けてあった苦無を握る。

 そして恐る恐る警戒しながら、親父の部屋の麩を開けた。




 すると、そこには……。





「遅いぞ馬鹿息子が。」





 布団は綺麗に畳まれ、俺と同じような戦闘服に身を包んだ親父が静かに鎮座していた。

 昨日までの死ぬ寸前の病人みてぇな雰囲気はまるでない。

 目にはギラギラと炎のような眼差しを宿し、心なしか体中の筋肉も全盛期のものになっている気がする。


 たった一晩で一体何があった?

 確かに肉体活性の忍術は存在するが、元々弱っている人間にはここまでの効き目は無いはずだ。





「親父、アンタ一体……?」



「御託は無用。これから“決闘場”に向かう。付いて参れ。」




 よく分からねぇが、どうやら俺にとっては良くない展開臭えな。



 まぁ良いさ。ここまで来て、逃げるって選択肢は無ぇ。






To be continued……



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