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Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第三章 里帰り
14/16

14 めくるめく再会




「懐かしいな……。」



 街道から外れたところにある、北に広がる大森林。ここは、地元の人間でも滅多に近づかない場所。

 それもそのはずで、この森は人を惑わす為にワザと同じ風景が続くように作られてる。

 これ考えた奴は相当意地が悪いに違いねぇな。




「フン、昔と“目印”がちっとも変わってねぇのな?」




 普通の人間はわからないが、特別な人間……特殊な訓練を受けてるか、シノビの里出身の人間なら一発でわかる目印がある。

 それは草の向きが一箇所だけ反対だったり、枝の数が一本少なかったり、まぁ色々だ。


 ガキの頃はよく見ねぇと間違えちまうが、今なら全然わかるぜ。

 世の中にはこの森よりも複雑な仕掛けが施された遺跡があるからな。



 ガサガサと草むらから音がし、ギャアギャアと鳥が泣き喚く。

 ここは本当に迷っちまったら、忍でも抜け出すのは難しい。何せ人の手が入っていない部分が大量にあるからな。きっと未開の新生物とかいるに決まってるぜ。


 このゴタゴタが片付いたら、この森を探索してみるのも悪くないかもな。





「………………どうやら“入り込んだ”みてぇだな?」



 周囲に気配を感じる。僅かだが、木々を飛び交う風切り音と、木の葉の擦れ合う音がする。



「(ふ~ん、よく訓練されてるじゃねぇか?)」



 この森は奥地へ進むと、里へ進ませまいとする番人が潜むエリアがある。万が一に偶然迷い込んだ人間を森の入口まで追い返したり、たまに現れる金品目的の“はぐれ”ハンターどもを撃退したりするために里が用意した連中だ。


 恐らく俺を敵だと思い警戒しながら偵察してるってところだろ。

 さて、どうしたもんかね?




「んっ!?」




 木の葉の隙間を縫って手裏剣が3枚飛んできやがった。しかも全部急所コースかよ!?



「フッ、ハッ、あらよっと!!」



 俺は短刀で全て叩き落とす。

 良いぜ、久々に忍術合戦といきますか!




「(……右に二人…………左は一人か…………。)」




 俺は神経を研ぎ澄まし、風の流れを呼んで敵の動きを察知する。


 と、左の奴が仕掛けてきやがった。背後からかよ……タイミング図り辛ぇな。




「(…………来たッ!!)」




 後ろから忍刀が来るのがわかる。

 俺は相手が俺を仕留めようと意識を俺に向けた隙に、周囲の木の葉を、その場で素早く横に回転することで巻き上げる。


 俺はそれに紛れて、すぐ近くの木の上に飛び移った。




「………………!?」




 おぉ? 俺よりチビだな。まだガキか?

 ふふん、刀で確かに俺を斬り付けた筈なのに、消えたと思ってキョロキョロしてやがる。


 当然だぁな。俺の姿は、目の前で消えた・・・・・・・ようにしか・・・・・見えなかった・・・・・・ろうよ。



 森の中での木ノ葉隠れは基本中の基本だろうが。




「こっちだぜ!!」



「……!?」



「遅ぇよ?」



 俺はチビ忍者の頭上から飛び降り、そのまま頚椎に手刀を一発入れて気絶させた。

 やっぱガキだったらしいな。

 フン、里の奴らは相変わらず趣味悪ぃのな。ガキんちょに実践訓練兼ねて番人やらすなんてよ?

 命を落とす危険もあるってのにな。




「(んっ!? ほ~う、こっちの動き見て動きを変えやがったか。)」




 右側にいた二人は陣形を変えたらしい。

 もうこっちにバレてると思ってるらしい。音を隠すこともなくガッサガサ動き回ってやがる……いや、こりゃワザとだな?

 聴覚に訴えて感覚を惑わそうってのか。中々考えてやがんな。



 しっかし、待てど暮らせど掛かってこねぇ。よっぽど警戒されてんのかねぇ。

 一丁、こっちから仕掛けてみっかな?




「おいテメェら!! そっちが来ねぇなら、こっちから行くぜ!?」




 俺は、軽くトントンとその場跳躍をする。

 そして無音で縦横無尽に走り始めた。走り初めは、しっかり木ノ葉隠れで姿をくらませてな。




「(おお、おお。慌てちゃってんなぁ~?)」




 どうやら俺を見失ったらしい。明らかに陣形が乱れ始めた。

 そこそこ腕は立つが経験不足と見た。やっぱこいつらもガキだろうな。


 おっと、前方に人影発見~。




「よぉ?」



「!? うわ!!」




 俺はさっきと同じく手刀で気絶させる。




「っと、危ねぇっ!」




 俺はガキんちょをギリギリで落ちそうな体を受け止める。

 この高さから気絶して落ちたらシャレにならんからな。




「(………………気配が遠ざかっていく?)」




 気絶させた二人目を木陰に横たえると同時に、残った最後の一人が撤退を始めたらしい。

 ま、討伐ミッションじゃあるまいし、追っかけて戦う必要は無ぇな。




「それに…………もうすぐそこだったりしてな。」




 木々に隠れて、古めかしい木の観音開きの扉が見える。

 あの扉の先は洞窟で、そこを抜ければゴールだな。


 移動すっか。

 ガキ共は……おいてくか。この辺は危険な野生動物もいねぇし、襲われる心配も無さそうだしな。





 俺は扉の前に立ち、そのまま扉を引いて開ける。

 

 ギギィという音と共に、中から洞窟が顔を出した。




「本っ当懐かしいな…………昔よりは整備されてんのな?」




 俺が家出した頃は本当に真っ暗闇だったが、今は点々と松明が点けられている。

 ガキとか年寄りとか、よく躓いて転んでたもんなぁ。



 俺はぼんやりと明るい洞窟内を歩く。ひたすら一本道だ。分岐点も何もない。

 ……特に追手も番人も居ねぇのか。罠も無さそうだな。




 やがて、少しずつ光が見え始める。




「(っ……やっと外かよ。)」






 そこは、小高い丘の上にある洞窟の入口。

 その丘から見下ろす景色は、古びた家々が立ち並び、昼餉の支度のものと思しき煙があちこちから立ち上っている。

 山の中にも関らず、そこは開けた場所で、畑や桜の木が立ち並ぶ。



 紛れもない、俺の故郷。シノビの里。




「……懐かしいな。この匂い、間違いなく里の匂いだ。」




 とうとう帰ってきちまったのか。

 小さい頃の事を思い出しながらそんな事を考えていたが、いつまでもここで思い出に浸ってる場合じゃねぇな。





「さってと………………さっきからじっとしてっけどよ、襲う気無ぇなら出てこいよ?」





 俺は洞窟を抜け出してからずっと感じている気配に向かって話しかけた。




「お見通しでございましたか。流石は若君。」




 そう言って出てきたのは、黒い忍装束に身を包み、頭巾は被らず黒い艶やかな髪を三つ編み一本縛りにした、細身の若い男。

 その表情からは真面目さや賢さが感じられ、尚且つ細長い目をしているにも関らず優しげな印象を受ける。

 その顔立ちや背丈から、化粧を施せば女と間違われること必至だろうな。




「…………久しぶりだな、ゴエモン?」



「お久しゅう御座います、若。すっかりたくましく成られて…………。」




 俺が幼少期に世話になった男、五右衛門だ。

 コイツが、俺に態々時代錯誤な手紙をババアを使って寄越し、俺をここまで呼び寄せた張本人だ。





「で? 親父が死ぬって?」



「……親父、ですか…………若は随分と変わられたのですね。荒々しくなられた。」



「説教聞きに戻ったわけじゃねぇんだ。本題に入れ。」




 俺は少しイラつきながら返した。

 そういやコイツは行儀とかにもうるせぇ奴だったっけな。




「失礼致しました。その件につきましては、お屋敷に戻りながらお話することに致しましょう。若、“跳び足”で移動致しますが宜しいですか?」



「誰に言ってんだ。それくらいできるっての。」




 こうして俺たちは、跳び足と呼ばれる移動法で屋敷までの移動を開始した。



 忍者は木から木へ、建物から建物へ跳び移る。あれは普通の走り方では出来ない。

 体を前傾姿勢にし、足を小刻みに動かしながらバランスを取り腕は大きくは振らない。腕を振ることは重心がブレる原因になるからだ。

 足の動きは一定で、力の込め方だけを変え、高く跳び上がる時などには上半身をバネのようにたわませたりして移動する。要は全身のバネをうまく使って体全体で走るって事だ。




「……いつからだ? 親父が病気んなったのは?」



「2年ほど前からです。最初のうちは只の過労によるものかと思っていましたが、徐々に状態が酷くなり、遂にはとこから出ることも稀になってしまいました。」




 正直想像出来ない。

 俺を自ら積極的に指導したあの親父が、俺の前で様々な術を息ひとつ乱さず行使してみせたあの親父が……。




「そっか………………。」



「ですが、これで安心できます!」




 五右衛門が急に声も表情も明るくし始める。

 何となく予想がつくがな。



「何が安心なんだ?」



「若君が戻ってこられたのならば、忍足の家も存続されます。御屋形様もご安心でしょう!」



「おい、俺がいつ家を継ぐなんて言ったんだ?」



「えっ……?」



 五右衛門は俺の答えに鳩が豆鉄砲食らったみてぇな顔してやがるな。

 ま、当然か。コイツが書いた手紙を見る限りじゃ、俺が戻るイコール家を継ぐみたいな感じだったもんな。




「若は、忍足を継いでいただくために来られたんですよね!?」



「直ぐには決めねぇよ。まずは親父のツラ拝んでからだな。」



「…………分かりました。」




 その返事を最後に俺たちは一言も発せず、黙って屋敷に向かった。











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「よっと!…………到着だな?」



「ハッ!…………流石で御座います、若。鍛錬は怠っていないようですね。」



「今は日常が鍛錬みてぇなもんだからな。」




 跳び足を止め着いた先は、刑務所みてぇに高ぇ塀に囲まれた馬鹿でけぇ屋敷。

 忍足家。俺の実家だ。


 考えてみりゃあ、俺はお坊っちゃまだったんだな。裕福に育てられたもんだよ。



 五右衛門が塀の扉を開ける。



「さ、若。お入りください。」




 俺は、6年前に二度と跨ぐなと言われた敷居を跨ぎ、中に一歩足を踏み入れた。

 同時に妙な緊張感が湧いてきやがる。どうやら俺はまだ、親父が怖ぇらしい。


 でもよ、来たからには用事足さねぇで帰るわけにはいかねぇよな?











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 中に入ると、真っ白い敷石と松の木と獅子脅しが俺を迎える。昔よりも真新しい感じがするから、ここ2、3年以内に新調したのかもな。


 池にはでっけぇ錦鯉。これは変わってねぇのな。

 ……チッ、ハンターの癖だな。自分ん家なのに、あちこち見ては分析しちまう。




 俺は五右衛門が開けた玄関の扉を潜り、靴を脱いで上がる。

 人の家に入るときに靴を脱ぐなんざ久しぶりだな。

 そういや、ここでの履物は草履だったか。俺の履いてる編み上げブーツが浮いて見えるぜ。





「皆、若君が帰って来られたぞ!!」



 五右衛門め、余計な事を言いやがる。

……ほら見ろ、そこかしこから使用人が集まって来やがった。




「若様! いやはやすっかり逞しくおなりになって!!」

「もしや凱様!? すっかり大人びてしまいましたな……。」

「若が帰って来られたぞ!! 今宵は宴じゃ!!」

「きっと御屋形様も元気になられるぞ!」




 懐かしい連中だな。みんなそこそこ年食ってきてんな。

 つーかガキの頃気付かなかったが、うちってこんなに使用人いたっけか?




「皆、気持ちはわかるが若はお疲れだ。それに、まず第一に御屋形様に顔見せせねばならぬ。続きは今宵に。」




 五右衛門の一言で、さぁーっと何事もなかったかのように持ち場に戻り出す使用人たち。

 ここの使用人たちは、普段は家事や屋敷の管理をしているが、有事の際はそこそこ戦える戦闘要員だ。


 この忍足の屋敷は、それ自体が要塞と言える程守りが厳重だ。上は3階建てで、地下は5階まであるトンデモ屋敷だ。そして屋敷の地下には、里中の家々の地下と繋がる通路があり、里の人間全員を収容できる。ここ自体が高台で地盤は岩石だから災害にも強ぇし。

 この使用人兼戦闘員の存在も合わせると、ここの守りは世界屈指だろうな。




「……さ、こちらです。」




 五右衛門が指し示すそこは、屋敷の最奥。親父の寝室だ。

 何も言わず、五右衛門が麩を開ける。






「………………マジかよ?」






 そこには、顔色にはすっかり生気がなくなり、髪は真っ白で痩せこけた、俺の知らない親父の姿があった。

 どうやら意識はないらしいが、こりゃパッと見死んでるように見えちまう。



「…………ゴエモン、親父は、もう本気で長くないんだな……。」



「ええ、ふみでお伝えした通りで御座います。……最近では、目を覚ますことも滅多になくなってしまいました。」




 親父には、正直言って良い思い出なんざ一つたりとも無ぇ。

だがそれでも、何とも言えない喪失感みたいなものを感じる。肉親ってのは、こういうもんなんだろうな。




「…………いつ……敷居を跨いで良いと、言ったか…………。」



「!、御屋形様!? お体は大丈夫ですか!?」



「……フン、直ぐに出て行ってやるさ。」




 糞親父め。目ぇ覚ましたと思ったら起き抜けに憎まれ口かよ。

 俺は部屋を出ようとしたが、




「待て、凱…………明朝、卯の刻、儂の元に、来い………………。」




 それだけ言って親父は再び眠りに落ちた。



「若………………。」



「………………ゴエモン、俺ぁちょっくら外の空気吸ってくるわ。夕餉までには戻る。」




 俺はそのまま屋敷の外に向かった。

 やっぱり親父の傍にはずっと居たく無ぇわ。











----------------------------------





 ガイが去った後、残された五右衛門は静かに床に就いている老いた主人を見やる。

 すると、眠っていると思っていた主人が静かに目を開く。そして、その体を静かに起こし始めた。




「御屋形様!?…………ご無理をなさっては…………。」



「五右衛門、“刹那の秘薬”を用意しておけ………………。」



「な!? 御屋形様、そのお体では!?」



「良いから言う通りにせよ……今あれを使わずして、いつ、使おうというのだ……。」



「………………御意に。」



「ふ……すっかり男の顔になりおったわ。……このまま行けば、お前に忍足を全て譲ろうかと考えていたのだがな、馬鹿息子が、帰って来おった……ならば彼奴に……施さねば、なるまいて……。」



「御屋形様………………。」



「……苦労を掛けたな、五右衛門よ。」



「勿体無きお言葉で御座います……。」




 青年はそのまま引き出しから小さな小瓶を取り出し、主人の枕元に置く。




「今宵は、息子を、頼むぞ…………。」



 一言そう言うなり、再び床に就いた。




「御屋形様…………もし、継承の義が成されぬ場合、その時は、私は……。」




 五右衛門の独白は、誰の耳にも届くことは無かった。










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 親父が死ぬ。

 あの様を目の当たりにした時は流石に驚いたが、どうにも今一実感が沸かねぇ。

 嫌いなせいか? それとも長く離れてたせいか?


 あ~、考えてもわかんねぇや。




「サム、婆さん。俺はどうすりゃいいんだろーな……。」



 俺はガキの頃歩き慣れた道を歩きながら、ぼんやりと考えていた。



 道の途中に生っている桃をもぎ取り、一噛じりする。まだ少し渋い。




「ふぅ………………。」




 俺は土手に座り込む。

 何だろうな……親父に会ったら言いてぇ事もあったし、ぶん殴ってやろうとも思ってたんだが……毒気を抜かれるとはこの事かねぇ?




「隣、良い?」



「ああ。俺の場所ってワケじゃねぇから勝手に座んな?」




 俺は考え事をしてる最中だったから何も考えずに返事をしたが、掛けられた声が女の声だと気付き、その方向を向く。




「(うっわ……何か美人くね?)」




 黒髪を塗り箸と呼ばれるカンザシの一種で留め、朝顔の模様が綺麗な浴衣姿の女がそこにはいた。

 その顔立ちは明るくて、絵に描いたような美しさで、満開の桜も霞んじまう気がするぜ。

 ライカと良い勝負出来そうだな。




「洋服なんて珍しいわね? 外から来たのかしら?」



「……ああ。他に着てる奴なんか、ここには居ねぇだろ?」



 確かに美人だったが、流石に今は口説きながら喋る気にはなれねぇ。

 ま、気晴らし程度にはなるがな。




「………ねぇ、もしかしてさ、凱ちゃんじゃない?」



「へ?……確かに、俺はガイってんだけど…………。」



 凱ちゃん? 随分慣れ慣れしいが、ひょっとしてガキの頃の俺の知り合いか?

 でもこんな美人に育つような娘いたかなぁ……?




「覚えてない?? あたしだよ。春日環かすがたまき!」



「タマキ………………って、まさか!?」



 俺は驚き体を急いで起こす。

 思い出したぜ。コイツは確か…………。




「そのまさかだよ。お帰り、凱ちゃん♪」




 ニコッと笑うタマキ。

 そうだ、コイツは……。




 タマキ=カスガ。……いや、こっちの発音だと春日 環、か。




 俺の、許嫁だった娘だ………………。






To be continued……


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