13 傷心のナイスガイ
「ん……もう朝かよ。ふあ~あ…………だりぃなー……。」
俺はどうやら、酒を飲んだまま寝てしまったらしい。
とんでもない夢見だった。
「………………………………里帰り、か。」
久しぶりに帰っても良い気もするが、正直喧嘩別れみてぇな状態だ。どのツラ下げて帰ったら良いのかわかんねぇ。
でもよ、コレは流れ的に帰ったほうが良いパターンなんだよな、多分。
「行ったら、暫く帰って来れねぇだろうしなぁ~…………うーん、どうすっかな?」
もどかしいな。
俺はどうしたら良いんだ?
と、携帯が鳴ってる。
この着信音は、ライカだ!!
いかん、悩んでいる場合ではない。急いで出ねば!!
「はい、もしもし~?」
『あ、ガイさんですか? ライカです。』
おぉぅ、いい声~♪
できればこの電話で起きたかったが、贅沢は言えん。
直電貰っただけで儲けもんだぁな。
「どしたの、突然電話って? 珍しいな。」
『……ちょっとここだと。外でお会いできませんか?』
ん? デートの誘いとは違うみたいだな。
ま、良いか。俺としても顔がみたいと思っていたところだし。
「良いよ! じゃあ、中央広場の時計塔の真下で待ち合わせしようか?」
『お願いします。』
取り敢えず、ライカと待ち合わせしに行くか。
流石にデートって感じはしないな。いつもの服装で良いか。
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俺が指定した場所に着くと、そこには既にライカがいた。
制服であるところを見ると、どうやら仕事を抜け出してきたらしい。
余程の急用なんだろうな。
「悪い、待たせた!!」
「良いんです! 待ってませんし、そもそも呼び出したのは私ですから……。」
嗚呼、どこまでもこの娘は謙虚なんだな……う~ん、好きだ!
と、本題に入らないとな。
「で、話ってのは何だい?」
「あの、今うちにキャロアちゃんがいるじゃないですか? あ、今は私に付いてきてトレジャーギルドにいますけど。………………あの、ガイさん。あの娘に何かしました?」
キャロアがいることはわかってるし、今ライカに付いて行ってギルドにいるのも分かったよ。
で、何でその質問が出るんだ?
「いや、何かって言われてもな……全然心当たりが………………。」
ある。あることはある。あるさ。ああ、ありますとも!
どうせ俺はあの娘のスカートの中身見ましたとも!!
……それをここで言ってしまって良いものか?
「心当たり、あるんですか?」
「ああ……その、君と同じで、事故で…………スカートの、中身を……その…………。」
「それは聞きました。それ以外です!」
へぁ!? 違うのか!?
っつーか聞いたってのも何だかな……。
というか、全然話が読めん。どういう事だ?
「ゴメン、何でその質問が出たかを聞きたいんだけど?」
「……キャロアちゃん、ガイさんの話をしたら、泣いちゃったんですよ。絶対にガイさんが何かしたんだろうなって思うんですけど、聞いても答えてくれなくて。」
は? 俺の話で泣く??
ちょっと待て。俺は女を怒らせることはした事は幾度となくあるが、泣かせる事はした事ねぇぞ!?
「一体どんな話したのさ?」
「取り留めもない話です。女の子同士の………………あ。」
どんな話をしたかで、ライカは何かに気がついたらしい。口元に手を当てて、虚空を見ている。
『私、やらかした……?』とか何とか言っているが、サッパリだ。何なんだ、この蚊帳の外感は。
「あのさ、お悩みの所申し訳ないんだけど、俺にもわかるように話してくれると助かるんだが?」
「ガイさんの、節操なし!!!」
パチーンという、あの音が俺の頬から発せられた。
意味分かんねんだけど??
「………………は! ごめんなさい!! 私ったらつい……。」
「ハハハ、良いよ良いよ………………何かは知らないが、俺が悪いって事で解決かな?」
「……今のは私が悪いですけど、ガイさんも悪いんです。あんな真っ直ぐな娘を……。」
そう言うなり、走って帰ってしまった。
「………………これは……ひょっとして、俺、フラレた?」
ショックだぜ……マジであの娘一本に絞ろうかと真剣に考えてたのに。
んだよ、本格的に実家行きしか選択肢ねぇじゃねぇか。
「はぁ~あ、辛いわ……。」
取り敢えずギルドに向かう事にする。
今さっきで顔合わせしづらいが、ケジメはしとかねぇと。
暫く、ギルドには戻れそうにねぇしな。
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「うーす……。」
「おぉガイ…………どうした? 何か元気無ぇな?」
鈍感KYオヤジも、この時ばかりは気が付くらしい。まぁ、誰が見ても今の俺はきっとしょげてるに違いねぇ。
好きな女の子にフラれて、しかも俺の知らないところで女の子泣かしてんだ。これでしょげんなって方が無理ってもんだぜ。
「おっちゃん、勝手で済まねぇが、暫くギルドには来れねぇよ。ちょっと野暮用でな、長くかかりそうだ。勅命とか出たら、悪ぃが別の奴に回してくれるか?」
「お、おい待てよガイ!!」
待てるかよ。もう用事は済んだんだからな。
……じゃーな、ライカ、キャロア。
「ガイさん、今の話本当何ですか!?」
「ガイ! どうしたのよ!? 何で来なくなるの!?」
「………………二人とも。何で出てきた?」
チッ、顔見せんなよ。
バツ悪ぃし、後ろ髪引かれっちまうだろ……。
「ねぇ何で!? 私、ガイが来るの待ってたのに!!」
何で俺を待つ必要あんだよ。お前、俺の事で泣いてたんじゃねぇのかよ?
「私が……私があんな事言ったからですよね!?」
それが直接の原因じゃねぇけど、俺がどうすっか迷ってるタイミングを後押ししてくれたのは間違いねぇやな。
「止めねぇでくれよ。……俺は、行くって決めたんだからよ………………?」
俺の一言に二人とも押し黙ってしまった。
ま、良い。このまま行かせてもらうぜ?
帰って来ねぇわけじゃねーし。
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「ガイさん………………。」
「ガイ…………折角、知り合えたのに…………。」
二人の少女は、各々が落胆の表情をしていた。否、ライカに至ってはうっすらと涙さえ浮かべている。
そんな二人を見るに見かねてか、ギルドの主人が話かける。
「なぁ二人とも。一体何があったんだ?」
「実は、今朝方キャロアちゃんが起きてから、ガイさんの話になったんです。」
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時は少し遡る。
ここはギルドの支援受付。
彼女たちはギルドの女子寮の310号室……ライカの部屋でお互いの自己紹介を済ませ、すっかり意気投合していた。
お互いの軽い身の上話も済ませ、いよいよ持って出てくる話は、
「ねぇ、ライカさん。誰か好きな人います?」
「うーん、どうだろう…………キャロアちゃんはいないの?」
こんな話である。
「え!? 私ですかぁ?……いないですけど、最近気になる人はいますよ。」
「へぇ~? どんな人♪」
「内緒です! ライカさん先に教えてくださいよ? そしたら教えますから!」
「私はね……何だろう。凄く軽いんだけど、ここぞって時に格好良い所見せてくれる人で、優しくて……小柄な人だけど、結構頼りがいがある人なんだ。」
「えぇ~、凄い良い人じゃないですか! 背が高かったらもっと良いけど。その人って、イケメンですか?」
「そうねぇ……良い方じゃないかな。結構女顔だし? 確かに背が高い人も良いけど、私はそこまで気にしないかな。」
「うわぁ女顔って、それで背が高かったら私ヤられちゃうな~♪ で、で、どんなお仕事してる人ですか?」
「トレジャーハンターの人よ。」
ここまでは良かった。
次の会話で、キャロアに変化が起きる。
「そうなんですか! ライカさん綺麗だから、きっとその人もライカさん目当てで来てくれるんじゃないですか~??」
「そう、かな?」
「そうですよ~! 羨ましいなぁ。…………あれ?」
「ん? どうしたの、キャロアちゃん?」
キャロアが突然呆然とし始める。
「キャロアちゃん? 聞こえてる?」
ライカの問いには答えずに、ポロポロと涙をこぼして泣き始めてしまった。
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「……という訳なんです。」
「ふーん……ライカ、お前、ライバルができちまったな?」
「ええっ!?」
「……な、嬢ちゃん?」
「えっ!?………………知らないわよっ!」
主人はニヤニヤしながら二人を見比べる。
「どうなるかはわからんけどな、後悔しねぇようにな? 後、喧嘩はすんなよな~。」
そう言い残し、主人はその場を去る。
「(ガイ、早めに帰ってこいよ。二人もお前を待ってるお姫様がいるんだからよ、幸せ者め。)」
取り残された二人には、何とも言えない気まずい空気が流れる。
「……ねぇ、キャロアちゃん?」
沈黙を破ったのは、ライカだった。
「キャロアちゃん、ガイさんの事、好きなんでしょ?」
「………………嫌いじゃ、ないですけど…………。」
「私はね、正直分からないわ。だって、何だかガイさんて、フラッといなくなりそうなんだもの。だから怖くて、まだ好きになれない………………。」
ライカとしては、自分の正直な気持ちを伝えたつもりだったし、何よりキャロアを安心させたかった。
自分がした話だけで、泣いてしまう程ガイを好きになってしまっている彼女を安心させるつもりで。
だが、それは間違いだったと気付かされる。
「ライカさん、嘘つき。」
「えっ?」
「いなくなるのが怖くなってるんなら、もう好きになってるって事でしょ?」
「(そっか……私、いつの間にか………………。)」
ライカはキャロアの指摘を受け始めて自覚に至ったが、その心の内に広がるものは戸惑いではなく、体の芯がぼんやり光るような、どこか安心できる温かさのようなものだった。
そんな彼女の心情を知ってか知らずか、キャロアは尚も畳み掛けるように話す。
「ライカさん。私、ライカさんの事は好きだけど、これだけは譲れない。絶っ対負けないから!!」
少女の宣戦布告に対してライカがした回答は、意外なものだった。
「キャロアちゃん。私は、戦うつもりはないわ。仲良くしていきたいから。」
「でも、結局どっちかしか選んでもらえないのよ!?」
「どっちも選ばせれば良いのよ。……あの人に、責任取ってもらいましょ?」
「へ?………………それ良い! そうしましょ!!」
こうして二人はガイのいないところで結託し、今後について語り合った。
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「へぇっくし!!………………うぅぅ、何か寒ぃぞ!?」
何だろな。何かくしゃみは出るし寒気がすらぁ。
アレか? ひょっとしてあの二人が俺がいなくなって噂話でもしてるか?
いやー、モテる男は辛いねぇ!!…………んなワケねぇよな。
「大丈夫ですか、お客様?」
「へーきへーき。」
俺は今、民間の高速移動車で移動している。高速移動専門のタクシーみてぇなもんだな。
高速移動車ってだけ有って、あっという間にトロアの町が豆粒みてぇになっちまった。
値段は結構張るが、ライセンス見せりゃ半額だし何とかなんだろ。
何より、ガキの頃歩いた荒野を今更トボトボ歩く気無ぇし。
「(………………実家、か。もう6年経つのかよ……早ぇもんだよな。)」
次々と景色が流れていく。
6年も経つってのに、この辺りは全然変わらねぇのな。
「ここでいい。降ろしてくれ。」
俺は、一見すると獣道のような細道が奥へ続いている森の入口で降りた。
「………………ここも、久しぶりだな。」
色んな木が生い茂る天然の森林。この奥に、俺の故郷…シノビの里がある。
「……やっぱ帰ろっかな…………いや、駄目だ! ここまで来たんなら、キチンとケジメ付けねぇとな。」
俺は心の奥底に眠る苦手意識を拭うように頭を振り、森の中に入った。
To be continued……