表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第二章 向き合うべき過去
11/16

11 ガイの過去 巻之三




「(何だよ、この男女は!? 本当に人間かよ!?)」



「何だいガキンチョ? あんた初対面の年上のレディに対して、挨拶一つできないってのか?」




 カトリーヌがイラつきながら俺に言う。

 確かによ、初対面の人間に対してとる態度じゃねぇのは認めるぜ。だがよ、当時の俺にとっちゃ、今まで見た中で最大級のデカさで、しかもそれで女だってんだぜ?

 驚きのあまり声も反応もできねぇのは、結構普通だと思うがな。




「おいおい、あんまりビビらすなよカトリーヌ? これでもコイツはまだ10歳になったばっかなんだぜ? お前みてぇな規格外に免疫なんぞできてるワケねーだろ?」



「フン、認めたくないがアンタの言う事も一理あるね。………………おい。アタイはカトリーヌ=フランソワだ。宜しくな?」



「………………あ、ああ。ガイ=オシタリ。ナイスガイのガイだ。宜しく。」




 俺は遥か高みから差し伸べられた巨大な手を握り返した………というより、包まれた。




「ほう、ナイスガイのガイ、ねぇ?」




 カトリーヌがニヤリと笑いながら俺とサムを交互に見て、そして一言。




「サム、こりゃあんたの息子だね?」



「はぁ!? 巫山戯んなよ筋肉ダルマが!! 俺ァまだ結婚もしてねぇんだぞ!?」

「はぁ!? 巫山戯んなよ筋肉ババア!! 俺とサムのどこが似てんだよ!?」




 俺たちは口々に言い返したが、そのタイミングといい言い回しといい、まぁ見事にハモったさ。




「ホラ見な。アンタ達が血が繋がってないことは聞いてるよ。それでもアンタらは、傍から見ても親子みたいにアタイには思えるがな?」



「ケッ、俺ァ大体まだ32になったばっかだぜ!? コイツの親父にゃ早すぎる!」




 俺はそこで初めてサムの年齢を知った。

 意外と若かったんで、結構驚いたもんだったよ。




「………………それよりか、ガイ!? 今アタイでも聞き流せない事言わなかったかい!?」



「あ? 何がだよ?」



「コイツはまだいいさ、筋肉“ダルマ”っつったからな。でもアンタ、筋肉“ババア”っつったろ!?」



「………………ケッ。」



「おいガイ、せめて謝れ!………………悪ぃなカトリーヌ。コイツ、何でか俺と、ナンパする女以外はこうなんだよ。言っても治らねぇんだよな………………。」




 あの当時、俺はサムだけはようやく信じられたが、まだ他の人間は信じられなかった。

 たまに夢で見てたんだよな、家出した日からフレスコの街での事。

 だから、何となく他の人間が信じられなかった。本当は、頭下げたりしてまで仲良くなっても、結局は裏切られたり捨てられたりするんじゃねぇかって、怖かったんだろうな。



「フン、アンタの教育不足だろう。まぁ良いさ、このミッション限りだろうからね。気に入らないのはお互い様。だがビジネスパートナーなんだ、余計な感情は入れない。取り敢えず宜しくな、ガイ?」




 こうして、俺とサムとカトリーヌで、討伐ミッションに赴く事になった。

 あの頃は、今みたいにあちこちに魔物が出没するって事も無かったしな。魔物は出る場所が決まってて、人里で目撃されること自体少なかったんだ。だから、安心していた。

 俺は余所者が来たことで変に緊張していたが、いつものように何事もなく順調に終わり、またサムと酒場に洒落込むもんだとばっかり思ってた。


 だから、その時は、これがサムと一緒に行く最後のミッションになるなんて、思わなかったんだ。











----------------------------------





 俺たちは、『誘いの樹海』と呼ばれる場所に来ていた。

 そこは、古くから神話でしか聞いたことないような動物とかの目撃例が多い場所で、人は物珍しさからその樹海に入り込む。だから付いた名前らしい。


 そのせいか、その当時からでも、そこは中々に危険な場所らしくてな。だが、俺は当時非合法とはいえ実戦経験を豊富に積んでたし、サムもババアもB+ランクのハンターで、討伐ミッション数が結構多かったから、戦う事に関しては俺たちは手馴れていた。特に問題なしと全員が思ってた。


 

 ミッション内容は、最近樹海の入口付近で殺される人が相次ぎ、その殺され方の特徴から、犯人は魔物…“グリズリー”だということなので、それの討伐が目的。

 グリズリー自体の討伐依頼は、さして珍しいことじゃない。俺も何度か経験してるし、この当時だって、一回だけだが経験してた。

 グリズリーが討伐対象になってる時ってのは、大抵腹を空かせてんのさ。だから、罠に誘き寄せて弱らせて止めを刺すってのが基本セオリーだった。





「んじゃ、この辺からグリズリー探し、始めっか!」



 樹海を少し進んだところにある開けた部分。そこで俺たちの打ち合わせが始まった。




「まずガイ。オメェは片っ端から罠を仕掛けて回れ。んで、いつも通り……。」



「わかってるぜ。罠を仕掛けた場所には蛍光塗料を塗った手裏剣、だよな?」




 俺はこの頃には既にサムと分かれて単独行動する事も結構多くなってな、特に討伐ミッションの時には俺はサムと別行動して、罠を作っておびき寄せたり雑魚を倒したりしていた。




「ちょっと待ちなサム? アンタ、このガキに一人で行動させようってのかい?」



「は? ああ、カトリーヌは知らねぇんだもんな。コイツは、もうそんじょそこらの魔物や動物、果ては山賊なんぞにも負けねぇくれぇ強ぇんだよ。戦い方によっちゃ、俺は多分勝てねぇ。」



「ほう、アンタがそこまで言うのかい? こりゃ、期待させてもらうとしようかねぇ?」




 俺が言うと身内の色眼鏡みてぇだが、サムはかなり強かった。

“蛮刀の鬼”なんて呼ばれててな。サムが使うのは、刃の広い曲刀で、サムはそれはまぁ上手くそいつを使うんだよ。重さで叩き切ったり、刃を横にして面の部分でシールドみてぇに使ったりな。

 あの化物ハリケーン程じゃねぇが、サムも結構良いガタイしてたからな、力任せに振り回すだけでも、魔物どもをバターみてぇに切っちまってた。



 そんなサムが評価をするってことで、カトリーヌも安心したらしい。

 確かに、薄らちっせぇガキが強いったって、信用ならねぇよな?




「んでカトリーヌ。オメェは特に指示はしねぇぞ。自由にやってくれ。但し……。」



「ああ、目標見つけたら信号弾、だよな。アタイ、機械は苦手なんだが大丈夫か?」



「さっきも言ったろうが!? その筒の先端を空に向けて、ボタンを押すだけだよ!……コラァ、筒の中身を覗くんじゃねェ!!」



 俺はこの時思ったぜ。

 このハリケーンは間違いなく、脳みそまで筋肉だってな。




「ったく……んじゃ、各自死なねぇ程度にやってくれ!!」











----------------------------------





「さぁって、今回はどんな罠を仕掛けてやろうかね~っと。」



 俺は結構色んな罠を作れる。紐に引っかかったら爆弾が爆発したり、手裏剣が飛んできたりな。後は、あらかじめロープで編み込んでおかなきゃならねぇが、とっ捕まえる罠ってのも作れる。

 基本的には、鋼線を使って仕掛ける。目立たないし、自然に切れる事がまずないからな。




「っし、こんなもんだな!」



 俺は、捕獲する網が作動する罠と、よく鳴る鈴が反応する罠を作った。

 グリズリーって事は、ヘタに中途半端な攻撃を仕掛けても刺激するだけで、対して効果はないからな。


 後は、蛍光塗料を塗った手裏剣を目印に罠の付近に刺しておく。

 今回は樹海だ。木の土手っ腹に刺しとけば、まず気づくだろ。そう思ってな。


 万が一に備え、幾つか爆弾の罠も作っておく。



「うっし、後はこれと同じやつをあちこち作って、探索だ!」






 その調子で、十分な数の罠をこさえ終わり、俺は自由に森を飛び回っていた。

 木から木へ飛び移るなんざ、小せぇ頃から当たり前にこなしてきたからな、寧ろ自分の庭みてぇな感覚で走り回ってたんだ。



 そうしてると、かなり前の方に、真っ黒いものが動いてるのが見えたんだ。




「(!…………何だありゃ!?)」




 そこにいたのは、確かにグリズリーだった。カトリーヌより少しデカい体格だし、動きもまさにって感じだった。

 でもよ、体の色がおかしかった。



 黒いんだよ。真っ黒なんだ。

 熊系統の体毛の、あの色合いじゃねぇんだ。何か、暗闇をありったけ詰め込んだみてぇな、そんな色合いでな。その上、目ん玉がな、真っ赤でギラギラしてやがんだ。


 で、ちょうどそいつが魔物を……あろうことか“グリズリー”を喰ってんだ。

 グリズリーは他の動物を捕食するが、絶対に共食いはしない。

 その不文律を、あの真っ黒いグリズリーは破ってやがる。




「(クソっ、あいつはマジでヤバい! 信号弾を撃って、とにかく逃げるか。)」




 だがその時だった。

 俺がいる位置からグリズリーまで、軽く見積もっても100mくらいは離れてた筈だ。俺は物音一つ立てず、あいつを見つけたその瞬間から完全に気配を消してた。

 オマケに、視界を遮る木が沢山あったんだ。まず気付くはずなんかない。だって言うのに、





 あいつは、こっちを・・・・見やがったんだ・・・・・・・





「(は? あいつ今、こっち見て…………こっち来やがった!?)」



 何となく分かったよ。

 アレはグリズリーの格好をしてるが、魔物じゃない。だが、動物でも、況してや人間でも魔族でもない。



 アレは、全く別の生き物なんだってな。




 そいつは俺を見つけるなり、走って来た。しかも4足歩行の動物の格好してるのに、2足歩行でな。




「ヤバい! アイツは化け物だ!………………行けっ!!」




 俺は信号弾を打ち上げた。到底俺ひとりじゃ敵わないからな。

 いや、結論から言うと俺ひとりでも良かったのかもしれない。だけどその時の俺にはそんな選択肢なんか無かった。

 いつもみたいに帰って、その話を酒の肴にしながら夜通し喋って、昼まで寝て、そんで起きたらガツガツ飯を食う。

 そんな風に、ガサツだけど楽しい日常に、俺は何としても戻りたかったんだ。




 その化け物の足は異常に速く、10分もしないうちに、俺のすぐ後ろまで迫っていた。




「(ハァ、ハァッ………………このままじゃ追いつかれて殺られちまう! 畜生ッ!!)」



 俺は覚悟を決めると、爆弾のピンを引き抜き、ギリギリまで手に持ち、爆発する直前に足元に落とし、それと同時に跳び上がる。

 爆風に煽られ、俺はより一層高く跳び上がり、化け物に爆風を食らわせると同時に距離を取ることに成功した。


 前方に3回程回ってから着地し、同時に直ぐに背中側に…あの化け物のいる方向へ向き、短刀を抜き構える。




「殺られねぇぞ…………あの二人が来るまで持たせて見せるぜ!!」




 爆風の砂煙が風によって晴れる。

 当然のように、奴は無傷だった。


 だが警戒はしたらしく、俺に直ぐに飛びかかってくる気配は無かった。




「(おっ?……このままいきゃあ、あの二人が来るまで持ちそうだぞ?)」



 だが、その考えは甘く、




「グォアアア!!」



「うおおっ!?」



 その巨体からは考えられない速度で突進してきたので、俺は咄嗟に横っ飛びで避けた。

 俺のすぐ後ろは木だ。幾ら何でも、すげぇスピードで突っ込んでいったら、自分でダメージを喰らう筈だと、俺は一瞬でそう判断して回避したが、




「へっ、ザマぁ………………ええっ!? う、嘘だろ!?」




 そいつがぶつかった木は結構な大きさだったんだが、その太い幹をバッキリ折って、デカい木を倒しちまった。

 だって言うのに、そいつは何事もなかったようにまた俺の方に向き直ったんだ。


 その時、その化け物は、薄ら笑いを浮かべた気がした。


 今にして思えば気のせいだったかもな。でもその時の俺にとっちゃ、ものスゲェ恐怖だったんだ。




「うわああああっ!!」




 俺は恐怖のあまり叫んでな、そのままトンズラした。

 でもよ、さっきも言ったが、その化け物はとんでもなく素早いんだ。まともに追いかけっこしてたら絶対に捕まっちまう。


 だから俺は、罠のあるルートに誘い込んで、攻撃を仕掛けながらひたすら逃げ回った。

 あの化け物のしつこさったら無かったぜ。何度も殺されそうになるたびに何とか持ち直してな、攻撃しては逃げを繰り返した。




 でもよ、それも限界があった。

 野郎、学習してるらしくてな。罠を避け始めたんだ。

 だから、捨て身で攻撃して罠の地帯に押し込む必要があった。かなりおっかねぇが、やるしかねぇ。そう思って攻撃を繰り返してたら、奴がバランスを崩してな。そのまま連撃を加えて、爆弾地帯に押し込んだんだ。

 そしたらな、運良く作動した爆弾がモロに命中した。




「(っしゃ!! 今度こそ貰ったぜ!!)」




 俺はチャンスだと思い、短刀を構えながら近くの木の上に登った。

 そして爆煙が晴れた頃を見計らって、奴の頭上に飛び降りたのさ。

 短刀の刃を真下に向けてな。




「(そのまんま脳天貫いてやらぁ!!)」



 奴は気がついて上を向いたがもう遅い。




「遅ぇよ!!」




 そのまま俺の短刀は、奴の眉間に深々と刺さった。




「おっしゃあ!!…………グッ、抜けねぇ!?」




 眉間に深々と刺さったまま、奴は頭を振り回し、俺は短刀を手放して吹き飛ばされてしまう。




「うわぁっ!?……が!?」




 そのまま木の幹に強かに背中を打ち付けられる。

 痛みのあまり声も出ず、立つこともできなかった。


 同時に、額から冷たい液体が流れ落ちた。俺はその時、背中の他にも頭を強く打ってたらしくてな、それは俺の血だった。




「(マジで死んじまう……畜生っ、動けねぇ…………。)」




 グリズリーもどきの化け物は、俺に近づいてきて、その鋭く長い爪を振りかざし、俺に向かって振りおろしてきた。




「(クソ……死んじまうのかよ…………サム、済まねぇ。ゴエモン、も一回会いたかったな……母上、今行きます…………。)」




 俺はそこで、諦めて目を閉じた。






To be continued……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ