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Treasure's ~お宝を探せ!~  作者: 海蔵樹法
第二章 向き合うべき過去
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10 ガイの過去 巻之二




 俺は里を出て、南に進んでいった。

 本気で家出する気満々だったからな、愛用の短刀とかも含めて、急ぎながら色んな荷物を持てるだけ持って家を出たんだ。



 丁度、土砂降りの雨でな。

 きっと、天国のお袋が、俺たちの事を見て号泣してたのかもな。そんな気がするよ。





「ハァ、ハァ………………母上……母上ーっ!!」





 俺はお袋に先立たれ、生家とも別れを告げ、只々お袋の名を叫びまくって、ずぶ濡れになりながら走った。




 途中、色んな事があった。


 手持ちの食料が底をついて、ゴエモンの座学で習った野草や植物を食べながら飢えを凌いでいたが、うっかり間違えて毒草を食ってな、3日間位倒れっぱなしだった。

 あの時は、助けてゴエモンって言ってたっけな。

 俺はやっぱりゴエモンの事は嫌いになれなかった。お袋が死んだ今、俺の中で家族はゴエモンだけだからな。



 またある時は、腹が減りすぎて幻覚が見え始めてな。美味そうな肉だと思って噛み付いたら、それは猪の魔物ワイルドボアでな、命からがら逃げ回った。




 で、フラつきながら辿り着いた町……フレスコってデカい街で、俺は食べ物をもらおうとあちこち駆け回った。だが誰も相手にしてくれねぇ。

 今考えれば最もな話さ。薄汚ぇ格好で、しかも珍しい格好してて、それでガキんちょが食べ物くれったって、どっかの落ちぶれた浮浪者の孤児みたいに思われたんだろう。

 ましてや、フレスコは結構金持ちが多い。敬遠も尚更だろうしな。




 しょうがないから、俺は腹を金持ちどもの残飯で満たした。

 山ん中より全っ然マシだぜ? ちゃんと人が食う物なんだからな。



 でも、俺はその街で、人の冷たさを痛感することになったんだ。






「おい、貧民がいるぜ?」


「本当だ! やい貧民、臭いからこっち寄んなよー!!」


「ギャハハ、アイツ泣いてやんの!!」




 貴族のガキ共が俺を嘲笑いに来てやがったのさ。

 何せ風呂には入ってねぇし、髪もボサボサで体中泥まみれだからな。

 野良犬すら俺に近寄らなかった。


 そして何より、俺には耐え難い事が、そこにはあった。




 ある日、街の片隅でボーっと街の光景を眺めていた時だ。




「あれ?……母上?」




 来ている服は洋服だったが、確かにお袋そっくりだったんだ。当然死んでしまったものは生き返る筈なんか無いから、只の他人の空似だったんだろうがな。


 でも俺は、久しぶりにお袋に会えたと思って嬉しかった。

 だからさ、すっげぇ勢いで走っていったんだ。





「母上~! 母上~!………………母、う……え……?」





 俺が呼びかけたその女の人は、笑顔でこっちを振り返ったが、俺を見た瞬間、まるでゴミでも見るかのような目つきに変わってな。

 オマケに、





「ママ~、あの子がこっちを見てるよ~?」



「しぃっ! 目を合わせちゃいけません!」





 何だろうな。あの瞬間は、本当に絶望したよ。

 俺は家族を失った上に、人間でいることすら許されないのかってな。



 その日を境に、俺は街の連中から盗みを働くようになった。

 幸いというか何というか、修行のお陰で人を蒔いて逃げるとかは得意中の得意だったからな。

 只、絶対に傷つけるようなことはしなかったさ。それをやっちまったら、本当に人としてオシマイだからな。





 でもな、被害者はそんな事気にしねぇんだ。





「いたぞ! 捕まえろー!!」


「このクソガキが! 今まで散々舐めた事してくれたな!!」


「覚悟はできてるんだろうな!?」




 俺は盗みを失敗し、俺を捕まえようとしている街の自警団の連中にとっ捕まってな。ボッコボコにされたよ。

 棒っ切れでぶっ叩かれて、散々蹴り食らってよ。謝る間も与えてもらえねぇ。  

 ま、悪いのは俺だがな。それにしたって、相手がガキだってことをもう少し考慮して欲しかったもんだぜ。





「(僕……死ぬのかな……。)」





 口ん中が血の味がしてよ、体中が痛すぎて感覚がワケ分からん状態になってな。

 流石に死を覚悟したよ。


 でもな、捨てる神あれば拾う神有り、って言うだろ?

 俺にとっての神が、そこに現れたのさ。






「おいおい、寄って集ってガキ一人に何してやがんだ!?」




「ああ?……サムさんか。幾らあんたと言えど、こればっかりは譲れないな!」


「そうだ! このガキは散々盗みを働いたんだ!!」


「これくらいしても、まだ足りないくらいさ!!」




「ほう~? なら一つ聞くがよ………………この街の人間の中で……。」



 その男は、俺を見ていてくれたんだ。

 だから、あんな事を言えたんだ。




「一人でもこのガキに棒切れでぶん殴られたり、血反吐が出るまで蹴られた奴ぁ、いんのかよ……?」





 男の問いに、答えられる奴は誰一人居なかった。





「………………へっ、そら見ろ?………………もう気が済んだろ? そのガキは俺が預かる。そろそろこの街から出ようと思ってたとこだしな。」




「そんな、サムさんが居なくなったら誰が魔物を討伐してくれるんだよ!?」

「そうだ!! あんただってこの街を気に入ってくれてたじゃないか!!」

「考え直してくれよ、な?」




「黙りやがれ!!………………ガキ一人に寄って集ってボコってよ、それを周りで見ながら誰も止めもしねぇ奴らなんざ、守るに値しねぇんだよ!! 悪ぃが他を当たってくれ?」





 男はそう言って、ズタボロの俺を担ぎ上げた。


 それが俺と、俺のもう一人の父親みてぇな人……サム=グロウとの出逢いだった。










----------------------------------





「(…………………………あれ? 僕、死んだのかな?)」




 俺は目が覚めると、ベッドに寝かされていた。

 ご丁寧に、怪我とか全部治療してな。




「よぉ、目が覚めたかクソガキ?」



「(!?………………誰だ、この人!?)」



「そう警戒すんな。寧ろ、フレスコの街の連中にぶっ殺されそうになってたオメェを助けたんだぜ、俺ぁよ。睨みつけるんじゃなくてよ、何か言う事あんだろ?」



 最初はビビったぜ?

 短い薄緑色の髪してんのに、後ろで一房だけ伸ばして束ねた髪を肩から下げてよ。その奇抜な髪型だけで目立つってのに、顔も体も傷だらけでな。

 結構おっかねぇ風貌なんだよ。



「………………。」



「あ? オメェ口利けねぇのか? 何とか言ってみろー、んー?」



「………………僕は、頼んでません。お金も、持ってない。」



「チッ、んだよ。相当重症だなコイツぁよ。………………お前、行くとこあんのか?」



「あったらあんな事してないです。」



「ふーん。坊主、年は幾つだ?」



「………………それを聞いてどうするんですか?」



「いーから答えやがれ!」



「………………9歳。」



「ほぉ~、9歳であんな事してやがったのか。よっぽど根性あるか、どっかネジがブッ飛んでるかのどっちかだな………………坊主よ、トレジャーハンターって知ってっか?」



「…………………………。」



「ふん、その顔は知らねぇって顔だな。良いぜ、教えてやるよ。トレジャーハンターってのはな、世界中の秘宝や遺跡を巡ってお宝探したり、魔物ぶっ倒したりお使いこなして金貰うっつー職業だ。ここまでは良いな?」



「…………………………。」



「返事ぐらいしやがれ、クソガキが。………………んで続きだ。この職業、実は10歳から就ける。身分証明も要らねぇ。承諾証がありゃあな。」



「えっ……じゃ、じゃあ!?」



「ふん、飲み込み早ぇじゃねぇか。………………で、だ。坊主、これも何かの縁だ。俺がハンターになるまでの間だけ面倒見てやる。」



「何でそんなに、優しくしてくれるんですか。」



「あぁ!? ガキが細けぇ事ぁ気にすんなよ! 大人の義務ってやつだ。………………俺の名はサム=グロウ。ハンサムのサムだ。………………ホラ、名乗った相手には名乗り返すのが礼儀だろが?」



「………………ガイ。ガイ=オシタリです。」



「んじゃ、宜しくな、ガイ?」




 その日から、俺とサムの生活が始まった。











----------------------------------





 俺は、最初はサムとあんまり話をしなかったし、サムも細々と絡んでくる事は無かった。

 だが、押さえるところは押さえてた気がするな。

 全然、疎遠な感じはせず、寧ろ楽しかったかもな。





「ガイ、もっと飯食え! だからいつまでもひょろっちぃんだよ!!」



「ええっ………………僕、もう食べられないよ。」



「チッ、どこのお嬢さんだよオメェは!? いいから食いやがれ!!」



「むごぉぉ!?」





 サムとの食事はいっつもそんな感じだった。俺はそれが、結構楽しくってな。


 後、よくトレジャーハンターのミッションにも連れてってくれた。





「ガイ、良いか。宝箱ってのはな、大抵は罠が仕掛けられてるもんなんだ。だからよ、こうやってな………………っし、完了! ちょろいもんだぜ~!」



「今の、どうやってやるの!?」



「お? やってみっか?」





 俺がトレジャーハンターとして最初に覚えた技術が、宝箱のピッキングだったな。

 結局、俺の方が器用だったらしい。後からはずっと俺が宝箱開けてたっけな。





「ガイ、討伐ミッションってのはな、直接戦うだけが能じゃねぇ。事前に地形を確認しておいて、魔物の特徴を掴んどくんだ。んで、可能な限り罠を仕掛けるんだよ。まともに戦っちゃバカ見ちまうからな?」



「え? でも、サムは凄く強いよ?」



「確かに俺は強え。だがな、強けりゃ常に勝てるってのは間違いだぜ。戦ってりゃ疲れもするし、飽きもする。そうなったらよ、集中力が切れて魔物にやられちまう。………………ガイ、オメェは賢い。ひょんな技持ってやがるが、それだけじゃ戦いきれねぇからな、頭使って戦えよ?」





 俺は討伐ミッションに連れてってもらって、ハンターとしての戦い方のイロハを教わった。ここで、罠とか道具を使って、知恵を絞って戦う事を学んだんだ。

 この戦い方の方が好きだった。サムが好きだったからかな。


 何より、もう忍術まがいの技は使いたく無かった。あの当時は、サムに拾われるまでの事を思い出すと夜も眠れなかったからな。






 俺はサムと次第に打ち解けていった。

 始めはおっかなびっくりだったが、その内それにも慣れてきた。


 そんな感じであっという間に時間が経って、俺は10歳になった。




「ガイ、オメェも今日で10歳になっちまったな。よっし、俺からのバースデーをしてやるぜ? 付いて来な!」



 俺は言われるがままついていくと、そこは酒場だった。



 夜な夜なサムが通っていることは知っていたが、実際に来たのはその時が初めてだった。





「ハァ~イ、サム!……あらぁ、可愛いお客様ね? こんばんは♪」



「こ、こんばんは!」



「オイオイ、ガイ? そんなんじゃ男になれねぇぜ?………………ジュディ、いつものやつと、コイツにタムルルのジュースをくれ!」



「OK~!」




 俺は、初めて見るその場所に、驚きの連続だった。

 夜なのにキラキラ明るくて、皆が楽しそうに騒いでいる。

 時折喧嘩みたいなのもしてるが、基本的にみんな楽しそうだ。


 俺はあっという間に酒場の虜になった。


 俺はここで酒も覚えたし、何より女の子との話し方を……要はナンパを、サムから学んだ。

 今考えると、何ちゅー教育に悪いとこに連れてったんだ?






「おっ? 初めましてお嬢さん。俺の名はサム=グロウ。ハンサムのサムって、有名なんだぜ?」



「えぇ~? お兄さん自分で言っちゃうのぉー?」



「ハハ、良いじゃねぇか。美人の前でぐれぇ去勢張らしてくれよ? それにな、顔立ちって意味じゃなくてよ、“良い男”って捉えてくれよ!」



「あらぁ、お上手~♪」



「ハハハ………………おう、そうだガイ? 俺がオメェの誕生祝いに、素敵な自己紹介のフレーズを考えたぜ?」



「素敵なフレーズ?」



「ああ。………………オメェはこれから、『ナイスガイのガイ』って名乗れ。どうだ? 格好良いだろ!?」



「ナイスガイか………………うん!」



「それとなガイ、前々から思ってたんだけどよぉ、オメェ結構女顔なんだよな。だからよ、そのままの言葉遣いだと、オメェ舐められっぞ?」



「………………どうすれば良いの?」



「はぁ~? 決まってんだろ。俺の真似しろ、マネ!!」



「うん………………嫌だけど、やってみるよ!」



「嫌だけどだぁ~? ナマ言うようになったじゃねぇか、ガキが!……っと、ホラ! 言葉遣いは!?」



「………………ああ。嫌だけど、やってみるぜ??」



「ハハ、その意気だ!………………っしゃあ、景気づけに一杯やっとくか!! オヤジぃ! 酒持って来い、大ジョッキでな!!」




 サムの言葉で、俺の目の前にデカいジョッキに並々と注がれた酒が置かれる。

 言っておくが、この時はまだ俺は未成年だ。飲酒は15歳からだから、バレたらこの酒場全体がしょっぴかれるんだが、この時の俺はそれどころではなかった。


 只でさえ、初めての酒。しかも、それがジュースだとしても量が多いジョッキで。



「そぉれ、イッキ!! イッキ!!………………。」





 言うまでもないが、俺はそこから、一気に記憶を失った。


 次の日、目が覚めると、そこはサムのホテルではなく、ジュディの家だった。




 激しい頭痛と共に目が覚めた俺は、何となく状況を察した。

 そこについては、敢えて触れないでおきたい。




 多分ここで、俺の女好きが確定したんだろうな。











----------------------------------




 俺がトレジャーハンターの就職開始まで、残り一週間を切った時だった。


 その時は、いつものようにこなれた感じでサムと一緒に討伐ミッションを受注した。

 今回は、魔物が手ごわいらしい。だから、助っ人を呼んだとサムが言っていた。


 いつもは一人で、一緒なのは俺くらいしかいないくせに、その時に限って助っ人を呼ぶってのは、きっと相当危険なミッションだったんだろう。





「サム。一体助っ人って誰だよ?」




 この頃には俺は今みたいな口調に落ち着き、髪型もサムみてぇに後ろ髪一房だけ伸ばして結んでた。ま、今と同じ髪型だ。

 後、ちょっとだけ背が伸びて、服装も今みたいな感じになったんだよな。

 それまでは、ボロっちいブルーの忍び装束を修繕しながら使ってたからな。




「ガイ、見て驚けよ。この世のものとは思えねぇ女が現れるからな?」



「へ!? んだよそれ、スッゲェ美人か!?」



「それは見てのお楽しみってやつだ………………おっ、来たぜ?」






 その助っ人は、防刃シャツに胸と背中を覆うプレート、スパッツに革の手袋をはめ、肌は日焼けサロンに行ったみてぇに真っ黒で、金髪を団子状にしたところに、バーベキューに使うみてぇな串をブッ刺した、筋肉隆々の奴が現れた。




「よぉカトリーヌ! 久しぶりだな!!」



「久しぶりだねェサム?………………このガキんちょが、あんたが言ってたガイか?」




 野太い声の、カトリーヌ=フランソワ。

 あのババアとの、最初の出会いだった。






To be continued……


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