6.イベントへ向けて(前編)~会いたくない奴に限って会いたがる法則~
『とりあえず、私と組んでほしい。』
メールで会いたいって言うからなにかと思えばイベントのお誘いだった。
『別に構わないけど。誘うつもりもあったし』
『そう。ならよかった。押し付けにならずにすんで。』
ホッとしたような動作をするカホに一応聞いておく。
『で、他のメンバーの目星はついてるのか?』
『一人だけ。変則砂を勧誘しておいた。流石私。後少しで来る。』
ロビーにてカホと会話をしているけど、まわりも結構その話題で持ちきりだ。
【チームアドベンチャー】
今のところ、五人一組のチームをつくるということしか判明していない公式イベント。
公式イベントの景品は高性能なものが多いために結構みんな気になるようだ。俺も気になるし。
「運営のアナウンスを見る限り、全員突撃型Aとかはやめた方が良いかもな。」
待つこと数分で、待ち人は来た。
ざるそばさんといってSなのに突撃して零距離で銃を放つ変態プレイをしているらしい。でかくて黒くて岩みたいな人だ。
独自で今回のイベントの情報を調べていたらしく、少し遅れたとのこと。
そんなざるそばさんが言うにはS、A、D、支援系×2の編成が人気らしい。大抵の状況に対処できるらしい。
「私達、ざるそば、含んで、特殊。パイルバカ、攻めれる、タンク、零距離、スナイパー。あほみたい。」
「俺は支援よりだとして、ざるそばさんが突撃役と考えたら、真っ当なSとTあたりかな、欲しいのは。」
「ユートも、ざるそばも、大尉以下、つまり、制限、関係、なく、勧誘、できる。」
制限無しってことで考えられるのは…。
……………………………………。
……あれ。クランとか未所属で俺らの仲間になってくれそうな人なんていないぞ?
「…君らの表情を見る限り、めぼしい知り合いはいない感じかな?」
「…、Aなら、結構
いるけど、Sだと、レヴィ、だけど、聞いてみる?」
レヴィ。〔狙撃姫〕Leviathanのことだ。カホはLeviathanと仲が良いらしく、話しているとたまに名前を聞く。
…なお、この間ムーンコアでカホに止めをさしたのもLeviathanだ。仲が良くても戦場では躊躇なくやり合う事が前提なこのゲームでも、やはり躊躇してしまう人や根に持つ人は少なくはない。
まぁカホとLeviathanは既に何度もやり合った仲とのことだし今更な心配ではあるが。
「しかしそんな大物が我々のところに来てくれるものかね?正直我々程度では彼女に失礼に値するかと思うが。」
「ユートも、ざるそばも、大尉、未満、として、考えて、普通に、上位。だから、レヴィ、誘っても、平気な、レベル。
そもそも、私を、舐めた、発言。気をつけて?」
「あ、ああ。すまなかったね…。」
威圧感ましましでざるそばさんを睨むカホ。
とはいえ、実際にLeviathanが入るとしたら戦力的には有り難いことではある。
「IN、してる、みたい、だから、連絡、してくる。」と言い残し少し離れてフレンドチャットをしに行った。
ざるそばさんと二人ボッチになってしまった。
「ざるそばさんは誰かいないんですか?チーム組んでくれそうな人。」
「む、有名ならともかく、そこまで有名じゃない突撃Sなんてフレンドが限られてるものだ。」
俺と同じか。
いや、俺の場合フレンドはそこそこいるけど、クラン所属の奴とか真っ向なAとかばっかなんだよな。
だから誘えないというわけで…。
「あら、そこにいるのはユートさんではない?」
後ろから声がかかる。嫌な汗が流れてくる。振り向くまでもなくしゃべり方で大体わかるが一応振り向いてみる
想像通り映える銀髪な見た目お嬢様がそこには立っていた。
「今から格闘部屋に行こうかと思ってたのですが、どうですか?一緒にでも。」
「断る。チンゲン菜と一緒に格闘部屋入るなんて疾風に殺されちまう。」
「それはそれは。っとそちらの方は恐らく初めましてですね。わたくしアブラナと申します。戦場であってましたらごめんなさいね。」
笑顔で謝って見せるチンゲン菜。実際美少女なアバターで笑って見せるもんだからそれはかなり可愛い。MWOのアバターはいくつかのパターンのうち一つをランダムで選択し、そこにリアルの姿を元に自動アレンジを加えた物となる。元々機体を身に纏ってしまう為リアルのままの姿だったらしいが、βテストの時に身バレの危険性がある事件が発生したらしく身バレを防ぐための処置のために今の仕様になった。
その為、リアルでも美少女っぷりをうまく利用してるんだろう。そう思わずにはいられないほど似合う笑顔だった。
「こちらこそ丁寧にありがとうございます。戦場であったことはありませんので、初めまして。ざるそばと申します。」
会釈で返すざるそばさん。
ほんのり顔が紅いのは切っときのせいであろう。黒くてでかい岩みたいな奴が紅いのは正直いって、キモい。
「ところで何のはなしをしていらしたの?」
ふと、私、気になります!って感じの顔になり訪ねてくるチンゲン菜。
こいつのペースに合わせると良いことがないんだよなぁ。出来れば答えたくないが、
「いや、次のイベントのチームメンバーを探してる最中なものでして。誰かいないかなって話をしていたのですよ。」
まぁ、答えちゃうよなぁ…。ざるそばさんはじめてあったんじゃあペース捕まれるか。しょうがないね。
「ふぅん…。じゃあ、私が入ってあげようか?」
予想してない答えがきたー!?
確かにチンゲン菜は俺と相性悪いとはいえ、カホと同じ黄道十二星座の機体を持つだけの実力はある。それが入ってくれれば戦力としては申し訳ない。
ないのだが。
「い、良いんで「自分のクランや疾風はどうしたよ?」…。」
ざるそばさんの言葉を遮り尋ねる。
…悪かったよ。そんな睨むなって。
「んふふ。野菜軍団は近接クラン。正直今回のイベント向けではないのですよ。それとくーちゃんとは今回別行動。」
顎に指をあてて悪そうな顔をしているチンゲン菜も様にはなる。が、好きにはなれそうにない顔だ。内面知ってるとどうしても無理。
「まぁ、冗談ですよ。わたくしとあなたではタイプが似てますし。そもそも残念ながら先約があるのでして。」
「じゃあ言うなよな!まじ、言うなよな!ざるそばさん本気にしちゃったじゃん。」
「あらま、それは御免遊ばせ。またの機会をお待ちしておりますわ。」
ドレスをつまみ上げてお辞儀をする姿にどぎまぎしているざるそばさん。「お、おう。」とか言ってるし。
「良ければ、参加、したいと。用すんだ、なら帰れ。すんで、なくても、帰れ。」
戻ってきたカホが仏頂面でチンゲン菜へと言い放つ。
同感だ。さっさとどっかにいってくれ。姫とかと同じで人を骨抜きにする力があるから本当にこいつは怖い。
「あらあらこわいこわい。それではもし格闘部屋で会いましたらよろしくお願いしますね。」
苦笑を浮かべて去っていくチンゲン菜を尻目にカホが仏頂面のまま喋りだす。
「レヴィ、も良いと、後は、強い、T、レヴィの、方でも、探して、みてくれ、るって。」
〔狙撃姫〕Leviathan。参戦決定。
※※※
【現在のチームメンバー】
・Yuto/少尉
・KAHO/大尉
・ざるそば/中尉
・Leviathan/中佐