3.始まりと共に消えゆく者達~隣の彼女が戦犯候補~
《――PiPi PiPi 限時刻をもって作戦を遂行する。生き残れよ!》
もはやお馴染みとなったおっさん声のアナウンスを聞きながら視界が開けるのを待つ。
~stage 月の上に建つ巨大都市ムーンコア~
視界が開けた。
自分達は今月面にたっており、眼前に広がるのは巨大都市ムーンコア。なお、都市の中央におかれた装置によって重力が発生しており普段と変わらない動きが出来る。
「ユート、私に、打撃、早く。」
『上に、角度は任せる。殴ったら全力で後ろにブースター移動!』
開戦と同時にカホから肉声、フレンドチャットの二つで指示が飛んでくる。
さっきmoriさんたちと喋ってたときに突如フレンドチャットで『バンカーを殴り装備に。』と言われていた為装着済みだ。戦争中に装備を変えることは出来ないから待機時間に言ってきたのであろう。
パイルバンカーに四角く硬いカバーを被せる。すると威力は半分ほどに下がる代わりに、殴った方向へと吹き飛ばし効果を得ることが出来る。これか通称[殴り装備]である。
…上級者はこれでぶっ飛ばす→ブースターで追い付く→ぶっ飛ばす→追い付くの永久コンボを叩き込んでくる。
まぁ、それは兎も角。
言われた通りに隣に居たカホを背中の位置のブースター辺りを狙って、突き上げるようにぶん殴る。
殴られて上へと飛ぶカホの水色の機体。角度は75度位、緩やかに前へと進んでいく感じだ。
俺は殴ったと同時に後ろへと下がる。ちゃんとブースターを吹かせて全速力でだ。
―ウィィィィィィィィィィィィー!!!!!
広がる宇宙に星、それらをバックに彼女は、きっと嗤いながら、両手でその太く重たい筒をすでに構えていた。その筒から聞こえる駆動音は即ち蹂躙へのカウントダウン。
[ガトリング砲]。MWOにおいてロマン武器と言われる武器のひとつ。撃つまでに時間が掛かり、撃っていてもオーバヒートの確率を常に抽選していて、いつ止まるかわからないというとんでもない武器。
それでも弾数の圧倒的多さ、制圧力と威力の高さと決して使えない武器ではなく、むしろデメリットを気にしなければ最強と言われてもおかしくない武器である。
さらにカホのガトリング砲は武器ガチャの大当たり品で、制圧力が異常な程に広い。
「―――――――――――――ッ!!!」
ズドドドドドド!!!と音をたてて空中のガトリング砲から放たれた弾が地面を抉っていく。
地面だけではなく勿論プレイヤー達もだ。
まるで一瞬の様で、長い時間の様で、その実20秒程度の時間が過ぎる。
ズドドという耳障りな音が消える。
既に地面に落ちてきていたカホの手元からシュウウウン…とガトリング砲内部の回転が止まる音が聞こえた。どうやらオーバヒートを起こさずに撃ち終えたらしい。
『見覚えある傭兵隊の連中とアルカディアのやつらは潰しといた。あと知らない有象無象』
『なにやってんの!?有象無象て味方の可能性もあるだろ?後、傭兵隊とかアルカディアのやつらももしかしたらソース派かもだろ!?』
『ダグラスはとりあえずHSして沈めといた。隊長は間違ってないけどソース派とか舐めすぎ。』
『そんな理由かよ…。』
フレンドチャットでカホが報告をしてきた。目の前にいたプレイヤー達の数は目に見えて減っている。
ガトリング砲でHSを狙えるなんてMWOでも正直カホくらいであろう。
HSは頭に弾を撃つことで起こる、どんな相手も一発で倒せる一撃必殺である。
なお、ダグラスさんは黄道十二星座がひとつ〔Leothe〕の持ち主であるのだが、それすらも一撃で倒せるHSとカホスゲーということで。
それはまぁ置いておくとして、FFに関してはなにも言わない。国士無双さんなんかそもそも第三勢力塩のみ派なの確定みたいだし。それに、後ろできっと苦笑しているmoriさんみたいにハーデスを筆頭に間違って入っちゃった勢やQS勢を保護する目的の人、ぶっちゃけ中立もいるし。
ちなみにmoriさんなどの迷子保護中立組は、迷子の初心者達が撃破ポイントを稼ぐ手伝いを目的としている。これがただのTBやTSとかなら最後まで護衛でも問題はなかったが、これはFFありのTSである。
敵味方関係なしに近いこの状況で護衛なんてしていたら自分が真っ先にやられるというのが わかりきってるが故の判断だ。
まぁ経験値よりも、このクラス、規模の戦争の経験は貴重なものではあると思うけど。
「ユートくん。僕らはもう少ししてから動くけど君らはどうするんだい?」
粗方の人が都市内にはいるか、リタイアするかでこの場所から去っていったのを確認してかmoriさんが聞いてきた。隣にはハーデスもいる。
初心者がいる以上、序盤は全体の人数の多さからしてもこの場所に引きこもっておくのが最上だろう。
カホが怪しいのを一掃したこともあり、もうほとんどこの場にはプレイヤーは残っていない。その上この位置と月面都市を繋ぐ道は一ヶ所のみだ。moriさんがいるなら最速で突撃してきた敵も捌けるだろうし。
「カホも居ますし内部に進入しようかと。そもそもここでは俺が戦いにくいので。」
『カホ、LIFEは残りいくつ?』
『449。なお、被弾は1。弾残量は75%』
カホの状態も理想的だ。というか俺に殴られる+被弾ありで俺の倍以上のLIFEあるとかどんな耐久値してるんだよ…。
都市内部の狭い通路を選んで通っていけばガトリング砲と殴り装備なら大抵なんとかなる。グレネードや狙撃は怖いけど、カホの耐久なら多少は耐えられるだろうし、それによりSも怖くない。寧ろ耐久値の低さから良いカモだ。
そもそも機動力を犠牲にして高い耐久値を得たのがDな筈なのに、カホのAquariusはDより耐久値が高く、Aの初期値レベルの機動力を備えているというぶっ壊れ仕様だし。
女の子を盾にするなんて屑のすること?そんな価値観とっくに無くなったわ!じゃなきゃこのゲームはやってられないです。
「そうか、じゃあまた後で会えたら会おう。とは言っても多分終盤まで動かないと思うけど。」
黒に青い横ラインの入った機体のA、moriさんが器用に銃を握ったまま手をふっている。
「またッス。後から俺らもいきますんで!」
黒一色のA、ハーデスは敬礼してくれたので、こっちも敬礼して返しておく。黒一色なのはたぶんパーツがまだ足りないのだろう。
それと後から行くとは言ってもmoriさん曰く終盤らしいけどね。
「moriさん、ハーデス、気をつけて、終わったら、また会おう。」
「じゃあそういうことで!」
俺はカホと連れ立って都市内へと続く道を進むのであった。
ダグラスさん本当は醤油派。間違えてソース派って書いちゃったからそのままソース派のβチームへ入った。
ちなみに階級大佐で普通に強いお方なんだけど、カホちゃんの視界に居たのが運の尽き。