Turn-7 転生生活 -タッカーの場合-
side:Tucker=Alchemist
転生から約四年、僕は望み通りこの異世界で銃を作って――いなかった。
「タッカー!今日は魔法の練習だろう!?」
「タッカー!今日は錬成術の練習でしょ!?」
まさか両親が魔法使いと錬成術師だとは思わなかったッス。
日々どっちを教えるかで揉めて、結局夜まで続いた挙げ句に「じゃあまた明日」………やるんなら早くやるッス!これじゃあ生殺し状態ッスよ!!
運良くどちらかが居らず教えてもらったとしても、帰ってきた途端に大喧嘩。
それでどちらも中途半端なままに終わってしまうという………
その癖一人でやるのは許してくれないッスし………前回こっそりやろうとしたら速攻でバレたでござる。泣きたい。
「さあ!」
「どっち!?」
(三十六計逃げるに如かず!)
こうなったら答えは簡単、逃げるが勝ちなのだ。
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四年も――いや、正確には自由に動ける様になった二年前から――過ごしているノエビア自由国家の一都市ジューアは、種族・服装・武装以外はほぼ西部劇みたいな町ッス。
調べた結果、どうやらこの世界では酒や香水くらいしか嗜好品はなく、楽器も原始的な打楽器・弦楽器・吹奏楽器しかない。
これは、完璧に金儲けのチャンスッスよ。
おまけに僕が作ろうとしている銃についてもマスケット銃と大砲からほとんど進歩もしていないッス。そんな世に自動小銃や軽機関銃なんかを持ち込めば………
思わず口角が釣り上がる。
「世界の支配も簡単に………ッスね」
そう呟きながら、僕は逃走先の森にてステータス画面を開いた。
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名前:タッカー=アルケミスト
性別/年齢:男(女)/4
守護星座:蜘蛛の巣座(優:敏,感/劣:筋)
Lv:4
HP:25/25
MP:37/37
筋力:04/体力:06/敏捷:08
感覚:13/知識:10/精神:07
スキル:21/21
スキルP:0p
<運搬Lv2>
<忍耐Lv3>
<生活Lv2>
<隠密Lv3>
<早業Lv3>
<疾走Lv3>
<銃撃Lv3>
<観察Lv4>
<作業Lv3>
<製作Lv3>
<算術Lv3>
<識字Lv2>Get!
<文化Lv3>
<調合Lv2>→3:Lv.UP!
<錬成Lv5>Max
<洞察Lv4>
<詐術Lv4>
<火炎Lv1>Get!
<疾風Lv2>Get!
<生命Lv3>
<精神Lv4>
加護:1
<全視双眸>
アーツ:1/11
<S.B.ショット>
魔法:8/8
<軽傷治癒>
<範囲軽傷治癒>
<重傷治癒>
<困惑眼>
<恐怖眼>
<組成理解>
<物質解体>
<物質創造>
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転生した時振りに(べ、別に忘れてた訳じゃないんだからね!)ステータス画面を開くと、ポイントを割り振る前にスキルが伸びていた。
どうやら自分で修練する事によっても能力は伸びる、という事らしいッスね。
それにしても、前世で特訓の末に習得したスポットバーストショット(シングルアクションのリボルバーで素早く三連射する高等技術)がアーツとして習得済みとは………技術も受け継いでいるんスか?
『はい、その通りでございますよマスター』
(あ、君にも筒抜けになってるんスしたね。フィム)
僕の脳内の相手――別に妄想とかそういうのではなく――のフィム、正確にはF-01は僕の転生生活の補佐に就いているという模擬人格ッス。しかし………
『だからフィムではなくF-01と何度言えば………』
(それを言えば君もマスターではなくタッカーって………)
そう。
この模擬人格は普通のそれとは違う特別な思考回路を持っている(本人?談)らしい。
こちらの要求した以外の関連情報を教えてくれたり自発的に話し相手になってくれたりもするのだ。
その代わり必要な情報をすぐに取得できない、話したくない時も勝手に喋り掛けて来るなど面倒な点もあるが、それはまあいいッスよ。
『オ、オホン。とにかく、マスターは私の一番大事なお人です。故にマスターの呼び方を変えるつもりはありません』
(そうッスか)
このまま話していても目的は果たせない。
地面に手を付き、<組成理解>を発動すると、脳裏に文章が形成され始める。
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<解析開始………解析完了。含有元素量を表示します>
[魔素]
14%
[燃素]
3%
[結素]
27%
[動素]
3%
[量素]
48%
[電素]
4%
[光素]
1%
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さて、錬成術――前世の中世で錬金術と呼ばれたこの技術はその後に続く科学への先駆けとなった。
ある物質に化学反応を起こさせ別の物質にする事が本質なのだが、この世界での錬成術とはまず素材の面から根本的に違ってくる。
世界にあるありとあらゆる物質は細かくしていくと元素に行き着き、それらは陽子・電子・中性子で構成される。
元の世界では酸素、炭素、窒素と150種を越える元素が存在したが、この世界ではそれらを[魔力]で構成しているのだ。
魔力には様々な種類があり、構成する比率が少しでも違えば完成する物質は全く違う。
全ての魔力の元である[魔素]。
熱エネルギーの源、[燃素]。
結合エネルギーの源、[結素]。
運動エネルギーの源、[動素]。
質量エネルギーの源、[量素]。
電気エネルギーの源、[電素]。
光エネルギーの源、[光素]。
以上の七つがこの世界を構成する魔力。
そして錬成術師とは魔術師の様に魔力から攻撃や回復などのエネルギーを作り出すのではなく、魔力から武具や道具などの物質を作り出す職業だ――と母親のミミルさんは言ってるッス。
地面を構成する魔力が分かったので、次に<物質解体>を発動する。
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<対象:土(500cm3)を解体………解体終了。以下の魔力をエーテル体として抽出します>
[魔素]69mg
[燃素]17mg
[結素]131mg
[動素]16mg
[量素]243mg
[電素]21mg
[光素]3mg
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文章を視ながら15秒ほどで解体完了すると共に周囲の地面がへこみ、湧く様に色とりどりの触れない液体が溢れてくる。
普通、ファンタジー物の魔力といえば光の様な見た目だと思うッスよね。
この世界での魔力はエーテル体という、気体の密度に液体の運動を併せ持つ状態の物質となって現れるのだ。
それらを瓶で掬い取り、最後に<物質創造>を発動。
先程までの様な文章は脳裏に浮かばず、ただ<現在保有する魔力から物質を創造します。創造したい物質をイメージ下さい>とだけ言われた………フィムに。
とりあえず銃の中でも機構が簡単なシングルショットピストルから始めようと思う。
銃身はステンレス削り出しの300mm、口径は解りやすく0.357インチ、薬室は強装弾にも耐えられる頑丈な物に。
撃鉄や引き金は軽いスケルトンタイプ、撃芯は折れないくらいしっかりした物を、各種スプリングも忘れてはいけない。
銃把も滑らず、かといって手を傷付けない様な湾曲する木製ダイヤモンド・チェッカー。
最後にそれらを組み込むフレームをイメージして完成ッス。
数分後、掌に握られたのは一丁の単発式拳銃だった。
某聖杯戦争の話で、魔術師の天敵みたいな弾を撃ち出していたあの銃。
トンプソン・コンテンダーだ。
そういえば、と<全視双眸>で武器の能力を確認。
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[トンプソン コンテンダー(7.62mm)]
種別/階級:単発式拳銃/特異級
属性:実体
攻撃力:80+26~34~40(7.62*39mm)
概要:異世界の銃器。
ライフル用の弾を使い、競技用に精度を高く作られている。
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………単刀直入に言うと、結果はやはり4歳の手にこの銃は大き過ぎた。
その為、今の状態でもちゃんと撃てる様に拳銃弾仕様にスケールダウンした銃――Contenderから考えてGiantkillingとでも名付けておいた――も作っておいたッス。
使用する弾薬は前世の日本警察が使っている.38口径スペシャル弾とその火薬量を増やした.357マグナム弾。
<全視双眸>で見た結果がこちら。
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[トンプソン ジャイアントキリング(9mm)]
種別/階級:単発式拳銃/特異級
属性:実体
攻撃力:15+15~23~31(.38spl)
48+ 〃 (.357mag)
概要:異世界の銃器の小型版。
ピストル用の弾を使い、競技用に精度を高く作られている。
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名前も僕が付けた物に変わってるッスね。
魔力も余った物があるし、実際に両方作って試し撃ちしてみよう。
まずは開閉レバーを操作し、薬室を露呈させる。
次に先程作った.38スペシャル弾を装填。
銃身を戻して、撃鉄を起こす。
後は目標に向かい引き金を引くだけ。
この時、僕は失念していた。
僕の種族、ホビット(正確にはその亜種、カーバンクルだが………)の特徴は兎。
砂上の足音すら聞き取れるほどにとても耳が良いと言う事を………