Turn-12 冒険者の試験
side:Yoshua
「ギャギャッ!」
「うおッ!」
場所は前回狩りに来ていた森の更に奥。
俺はショートソードとバックラーを両手にゴブリンと対峙していた。
何故こんな事になっているかというと、事のあらましは昨日の夜まで遡る。
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「………なあ親父、冒険者ってなるのに条件とかあるモンなの?」
「何だ藪から棒に?冒険者になりたいのか?」
なら説明してやるぞ、と親父。
実を言えばウチの親父は前回みたく狩猟のみで生活してる訳じゃなく、本来は冒険者として家計を支えている。
冒険者というのは冒険者組合に参加して斡旋された仕事をやる、所謂便利屋って奴だ。
親父はその中でも武闘派の中堅上位と有名人だ。勿論、この国ではやはり亜人だからと蔑まれてはいるものの。
ううむ、そういえば俺ってこの世界の職業とか知らないんだよな………そもそも何になれるのかとか分からんし。
「まず冒険者になるには冒険者ギルドに登録をしなければいかん。年齢に制限はないが、入る為の試験として単独でゴブリンを倒す事が課せられる。冒険者ギルドは基本的に魔物の討伐や護衛、危険地域での採集が依頼されるからな。それに合格して初めて登録資格を得る事が出来るんだ」
やっぱ創作物と比べるとそこら辺は割と厳しいんだな、試験もあるのか。
「へー、ところでゴブリンってどんな魔物なの?」
ゴブリンなら判るが一応俺の想像と違うかも知れんし聞いておこう。
「緑色の肌をしている大体お前くらいの大きさの魔物だ。大抵襤褸や革鎧を纏って手製の槍や棍棒、稀に冒険者や村人から奪った武器を手に襲ってくるが………そんなに強い訳でもない。それなりに鍛えておけば一般人でも絶対に負けないが、集団で来た時は要注意といったところだな」
あー、典型的だな。聞くまでもなかったか。
他になれる職業も聞いてはみたが、そもそも高Lvのスキルでもない限りスラム街出身というだけでスラム街以外では冒険者と日雇いの肉体労働くらいしかほとんど働く事が出来ないのが現状だ。
やはり他の六人に会うためにも冒険者として活動した方が会いやすいか。
「まあ、お前のステータスなら大丈夫だろうがな」
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名前:ヨシュア
守護星座:白狼座(優:敏,精/劣:体)
Lv:5
HP:46/46
MP:28/28
筋力:08+2/体力:08+3/敏捷:11+2
感覚:07/知識:05/精神:11+2
スキル:18/21
スキルP:0p
<練体Lv2>New!
<格闘Lv1>→2:Lv.UP!
<切断Lv2>
<打撃Lv1>New!
<気合Lv2>→3:Lv.UP!
<気功Lv1>
<防御Lv2>New!
<体幹Lv2>
<瞬発Lv3>
<早業Lv4>
<疾走Lv2>
<言語Lv3>New!
<算術Lv3>
<洞察Lv3>
<詐術Lv2>
<根性Lv1>→2:Lv.UP!
<剣術Lv2>
特殊スキル:
<本能Lv2>New!
アーツ:4/6
<袈裟斬り>
<回転斬り>
<二段突き>
<一閃>
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確かにこの2年間で随分ハードな特訓をしていたからな、元々あったスキルも含めて能力値上なら初級冒険者としては十分期待できるとの事だ。
ん?この“特殊スキル”は何か、って?
これは通常のスキルポイントじゃ取得できないスキルの枠だ。
例えば種族固有のスキルや特殊な条件を満たさないと獲得できないんだとさ(全部M-07の説明)。
「冒険者組合には登録しておくだけでも身元の証明に仕事の紹介や金の預け口、差別もされないから俺達亜人にはかなりお得だ。イシュカだって一応は登録してあるしな」
「じゃあ、受けようかな………」
差別階級からのスタートはキツい、貰えるものは病気以外なら何でも貰っとかなきゃな。
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翌日。
俺はこの世界で“冒険者になる”というファンタジー世界憧れの一瞬を胸に冒険者組合前に立った。
………そう、立っているだけ。
一瞬だけ中を覗いて見たが、身体中傷だらけの奴や両手とも右手の奴、果てにはそのままヘビメタ演奏しても違和感のない様な格好の奴までいた。
そして何より全員が殺気立っている。
とてもじゃないが子供一人で入っていける雰囲気ではない。
………今日は、もう帰ろうか………
「おっ、そこの坊主!」
「う!」
後ろを向いて帰ろうとした時、背後から呼び止められてしまった。クソッ、何てタイミングの悪さなんだ!
渋々振り向くとそこには………
大量の剣を腰や背中に差した全身板金鎧の奴が立っていた。
滅茶苦茶強いのが気配で分かる。
思わず全身の毛が逆立つくらいだ。
「オイ坊主、お前………」
男の言葉に思わず警戒する。
「もしかしておやっさんとこのヨシュアか!?」
「………は?」
どうやら、親父の知り合いだった様で………
目の前の奴は親父の知り合いらしく同じガルムの俺が息子だと思い、話し掛けてみたらしい。
フルフェイスの下は金髪の優男ルックス、180cm以上ある身長と相まって中々のイケメンだ。
彼に誘われるがまま、ギルドのテーブルに腰掛けてしまった。
「俺はリジェモンド、ヒューマンだが亜人差別なんかしない優しいお兄さんだ。おやっさんの息子なんだし気軽にリジーと呼んでくれてもいいぜ」
「は、はい、リジェ…リジーさん」
「ガハハハ!ウン、子供は素直が一番で宜しい!」
鎧男、リジェモンドさんは一度咳払いしてからやや真剣な顔つきになって詰め寄る。
「で、ヨシュアは何でここに来たんだ?ギルド組員であるおやっさんがお前をここに一人で寄越すからには何か意味がありそうだが」
ここまでの一通りの流れを説明する。
親父に冒険者のなり方を聞いていたら『なっておいた方が便利』と武器防具を一式渡されて登録に行ってこいと言われ、来てみたら来てみたらで中の人が怖すぎて右往左往していた、と。
どうやら親父の息子である俺がビビっているのがツボに嵌まったのか、
「ギャハハハッ、イヤッ、ちょっ、面白過ぎんだろソリャ!!」
なんて大爆笑している。俺だってビビる時はビビるんだよ!
「ブフッww………まあ、無謀な奴よりはよっぽどマシさ。じゃあ、登録行こうかヨシュア君よ!」
「はい………つーか、もう笑わないで下さいよホント………」
特に周りの目線が突き刺さる様で痛い。“何でリジェモンドさんと一緒にガキが…”とか“リジーがガキと一緒なんて珍しいな”なんて声がちらほらと聞こえてくる。
「おう、リジーか。朝から仕事とは珍しいじゃねーか」
「あ?違うっつーの。今日はこの坊主が登録に来たから先輩としてちょっと教えるだけだって」
「冒険者登録をお願いしに来ました」
「ああ、カインとこのヨシュア君か。話には聞いてるよ、俺はザマだ。ちょっと待っててくれよ………」
暫くカウンターの下を漁った受付のオッサン――ザマさんと言うらしい――が出したのは一枚のA4くらいの羊皮紙。
「ほい、これが登録用紙だ。名前に性別・年齢、種族を書いてくれればいい。代筆も必要か?」
「あ、いや、自分で書けます」
一応読み書きは教えてもらえたからある程度は自分でも書ける。
と思ったんだが………インクがはねたり字を間違ったりしちまった。
「中々上手いじゃないか。こりゃあオッチャン代筆の仕事が無くなっちまうわ、ガハハハ」
その事についてはザマさんが笑って誤魔化してくれた。いい人そうでよかった………
「つー訳だ。お父さんから聞いてると思うが、登録に値する能力を持っているか調べる為にゴブリンを倒すのは知ってるな?」
「はい。一応必要な道具はもう持ってきているので今すぐにでも行けますよ」
「日没までが制限時間だ、それまでに倒してこれたゴブリンの数で最初のランクが決まる。ゴブリン以外の魔物も稀にいるが、そいつを倒してきた時は多少ボーナスもつけてやるぞ」
最後に一つ、とザマさんが走り去ろうとする俺を呼び止めた。
「俺達は身体が一番の資本だ、ヤバいと思ったら武具も手柄も捨てて逃げてこい。誰もお前を責めはしないからな」
「………ハイッ!!」
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ここで冒頭まで戻ってくる。
「よっ!はっ!ほっ!」
ゴブリンが魔物とはいえ、相手は一体だけだし攻撃と言ってもお粗末な突撃と振り回しだけだから避けるのは割と簡単だ。
キンッ!
おまけに力もそこまで強くはない。剣で受けたが余裕をもって跳ね返せる程だ。
「セイセイッ、ソリャッ」
「グギャッ!?」
それにこちらの太刀筋を読もうともしないから、軽くフェイントを混ぜてやれば一発で急所も突ける。
胴を裂かれ額に刀身を食い込ませたゴブリンは暫く暴れていたが、止めに首をはねた事で活動を完全に停止した。
つーわけで、ものの数十秒で初めての討伐は終了だ。
普段からやっていた訓練と比べても、はっきり言って物足りない。
心の中で慢心は禁物だ、と理性は叫んでいるが今の俺にそんな言葉が聞こえる筈もなく、更なる成果への欲求に誘われるがまま、森の奥へ奥へと歩いていった………
【武具】
[木のバックラー]
種別/階級:小盾/粗悪級
属性:実体
攻撃力:4+0~6~12
概要:木材を適当に削って作られた小盾。最低限の防御は出来る。
【魔物】
[ゴブリン]亜人科ゴブリン目
筋力:F/体力:E/敏捷:F
感覚:F/知識:G/精神:G
[保有スキル]
<持久Lv1><耐性Lv2><再生Lv2>
<隠密Lv2><察知Lv1><瞬発Lv2>
<軽業Lv2><回避Lv1>
[保有魔法]
なし
[保有アーツ]
なし
小人の姿をした魔物。
単体では弱いが、群れを成して人里を襲い農作物や家畜を奪っていく。