粟太郎
どうも、林羽夢と申します。ツイッターにて連載していた三題噺がとうとう完成したので、そのままこちらへ持ってきました。ツイッターでは、昨日の自分から今日の自分へ、今日の自分から明日の自分へバトンを渡すという意味の、一人リレー小説という形で小さく区切って書いていきました。
ツッコミどころは満載にしたつもりなので、息抜き程度に読んでくださいな。
昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。二人の家はとても貧しく、一日一回の米も満足に得られませんが、それでも一生懸命、幸せに生きておりました。
そんなある日、おじいさんはおばあさんにこんなことを言いました。
「ばあさんや、確かにワシらは幸せじゃ。じゃが、もう少し、楽に暮らしていきたいとは思わないのかね」
おじいさんの言葉に、おばあさんは小さなため息をつきました。
「もちろん、私だって、楽に暮らせるものならそうしたいさ。でも出来っこないのよ」
おじいさんはおばあさんの返事に肩を落とし、腐って穴の空いた壁を見やりました。穴の向こうには、ボロボロになった無人の家が立ち並んでいます。
その中の一つ、屋根が腐り落ちた家で、何やら光っているのが見えました。気になったおじいさんは、おばあさんと共に、その家を覗きに行きました。
中には、いとも不思議な輝きを纏う男の子が一人、裸でうずくまっていました。その体はとても小さく、二寸ほどしかありません。おまけに背中には、これまた小さな、透き通った羽が付いているのです。
「あらまあ、あなた、可愛い子じゃないこと。こんな寒い時に裸でいて、風邪でも引かないか心配だわ。家に連れて帰ってあげましょう」
おばあさんの提案に、優しいおじいさんは快く了解し、その小さな男の子を家に連れて帰り、養ってあげることにしました。
家に着くと、まず小さな着物を作って男の子に着せ、少しの粟を食べさせました。この男の子は粟を嬉しそうに食べるため、名前を粟太郎と付けました。
おじいさんとおばあさんは、粟太郎を本当の子供のように大事に育てていきました。二人とも、粟太郎がぐんぐん育って立派な青年になることを期待していましたが、粟太郎は一年経っても一向に成長する気配を見せません。
ある時、おじいさんは男の子に言いました。
「粟太郎や。お前は羽をつけて輝いていて、とてもこの世の者とは思えない。あなたは一体どこからいらしたのですじゃ」
粟太郎は小さなお椀を片手に答えました。
「僕は天界から来たのです」
粟太郎はおじいさんとおばあさんに、自分があの家の中に倒れていた理由を語って聞かせました。
「今世界は危機に瀕しています。天界の一番偉い神様のメガネが、何者かによって破壊されてしまったからです。神様は酷い老眼なので、メガネがないと人々を幸せにしてやれません。そこで私は代わりのメガネを探すべく、この地に降りてきたのです。どうか、もしも持っていたら、メガネを恵んでください」
おじいさんは驚いて、すぐにでもメガネをあげようと家中を探しましたが、どこにもありません。おばあさんもあちこちの引き出しを開けて探しましたが、全く見当たりません。
「おかしいのう、ちゃんと持っているはずなのに」
おじいさんは腕組みをして、考え込んでしまいました。
すると粟太郎はお椀と箸をちゃぶ台へ置き、立ち上がって丁寧にお辞儀をして言いました。
「ここにないのなら、僕は世界を回ってメガネを探します。今まで養ってくださり、どうもありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
家を出て行こうとする粟太郎を、おばあさんは引き止めました。
「粟太郎や、それならこの粟団子を持ってお行き。これを食べればお腹がいっぱいになるよ」
「ありがとうございます。おばあさん。メガネを手に入れた暁には、神様に頼んで、あなた達を幸せにしてあげましょう」
粟太郎はもう一度深々とお辞儀をすると、メガネ探しの旅に出かけて行きました。
粟太郎が空を飛んでいると、雲の噂話が聞こえてきました。
「なあ、知ってるか。メガネが消えたんだって」
「ああ、知っている。人間たちのメガネが、昨夜、一夜にして無くなってしまったんだってな」
「きっとこれも、神様のメガネを壊したやつの仕業じゃないか」
雲たちの会話を聞いて、粟太郎はおじいさんとおばあさんの家にメガネが無かった意味を理解すると共に、もう探しても見つからないのではないかと思い、メガネ探しを諦めかけてしまいました。
その時です。急にビュッと強い風が吹いたかと思うと、粟太郎の身体は富士山の方向へ飛ばされてしまいました。
富士山の天辺に転がり込んだ粟太郎の前に、粟太郎の何十倍もありそうな大きな鬼が座っていました。
鬼は粟太郎を見下して言いました。
「お前がメガネを探しているという天使だな? 私の邪魔はしないでもらいたい」
粟太郎は立ち上がると、鬼に向かって真っ直ぐに胸を張って聞きました。
「あなたは確か、前に天界で大暴れして地上に追放された、鬼ですね。あなたがメガネを破壊したのですか?」
「ああ、そうとも。世界中のメガネを盗んだのもこの私だ」
「あなたのせいで、神様は人間たちに幸せを与えることができません。メガネを返してください」
鬼のおぞましい声に、粟太郎は少しも動じません。
鬼は粟太郎の態度に、たいそう腹を立てました。
「なんと生意気な小僧だ。こうしてやる!」
鬼が背負った太鼓を叩くと、空がだんだん黒い雲に覆われていき、しまいには雨と雷が降ってきました。
これにはさすがの粟太郎もびっくりして、岩陰に隠れてしまいました。
鬼は粟太郎の様子にすっかり気を良くして、ドンドンと太鼓を打ち鳴らします。すると大きな雷が落ちてきて、粟太郎の隠れていた岩を豪快に割ってしまいました。
もうだめだと思い、目を閉じた時のことです。粟太郎の瞼の裏に、あのおじいさんとおばあさんがひもじそうに暮らしている姿が現れました。
そして、おばあさんから、大好物の粟で作った団子をもらったのを思い出したのです。
粟太郎は目をぱっちり開くと、粟団子を一つ食べました。するとたちまちお腹がいっぱいになって、全身に力がみなぎってきました。
それに気がつかない鬼は、いい気になって粟太郎へ雷を落とします。粟太郎はそれをひらりとかわし、鬼の太鼓へ掴みかかりました。
「うわあ、何をする! 離れろー!」
鬼が叫びます。粟太郎が力いっぱい太鼓を叩くと、気の抜けた音がして、太鼓は破れてしまいました。
「ああ、太鼓が壊れてしまった。これではもう悪さができない」
鬼は泣きながら、盗んだメガネを全て返してくれました。粟太郎はそれを受け取ると、持ち主にメガネを返してもらえるよう、雲に頼みました。雲たちも、さっきの風で富士山の上まで飛んできていたのです。
雲にメガネを全て渡した粟太郎は、鬼の方へ振り返りました。鬼は太鼓の破れた面を必死に直そうとしている最中でした。
「鬼さん。神様の元へメガネを届けたら、太鼓を直してもらうように伝えますよ」
粟太郎の同情の言葉に、鬼は涙を流しました。
「こんな悪さをしたのに、許すというのか。うう、私が悪かった。ごめんなさい。もう悪さなんてしません」
粟太郎は、すっかり反省した鬼に別れを告げると、もう一度、おじいさんとおばあさんの家へ帰ることにしました。
もう雲がメガネを届けてくれたようで、二人とも、老眼鏡をかけています。
粟太郎が二人の前に降り立つと、おばあさんは粟太郎を抱きしめ、おじいさんはメガネを渡してくれました。
「お二人には本当に感謝しています。絶対に、神様に頼んで、あなたたちを幸せにして差し上げます」
粟太郎はそう言い残すと、空へ飛び立っていきました。
それからというもの、おじいさんとおばあさんは畑で粟を作ることにしました。粟は畑いっぱいに実り、二人はお金に困ることがなくなったそうです。
鬼もすっかり反省して、もう二度と悪さをしなくなりました。
こうして、また平和な日々が始まったのです。
おしまい。
最後まで読んでくださりありがとうございました。ジャンルは童話で書けとの指令だったので、初の童話に挑戦したのですが、いかがだったでしょうか。
これからも、林羽夢を応援してくださると嬉しいです。




